第五百話 大満足の昼飯
とうとう500話(閑話を抜かしてですが)です。
ここまで続けてこられたのも読者の皆様のおかげです。
「とんでもスキルで異世界放浪メシ」まだまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします!
“アーク”の面々にいらぬ誤解を受け、いつもこんなことはしていないと、今回はたまたまゴン爺が土産として持ち帰ってきたものだと懇々と説明してなんとか誤解は解けた。
よな? 大丈夫だよね?
信じてますからね、アークのみなさん。
気を取り直して、昼飯の準備だ。
ぬかるみのない比較的乾いている広めの草地を見つけて、俺たちはそこで昼飯にすることにした。
もちろんフェルとゴン爺に結界を張ってもらって安全性もバッチリとなっている。
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテットに加えて、食いしん坊エルフなフェオドラさんから期待のこもった眼差しを受ける。
ハイハイ、分かってますよ。
エンペラードラードを使った鍋ね。
ったく、作り置きで昼は楽できると思ったのにー。
しかし、鍋か。
エンペラードラードが白身だから、どんな鍋でも合うだろうけど、“アーク”の面々もいるし、変わり鍋というよりはオーソドックスな鍋がいいよな。
となると、やっぱり寄せ鍋かなぁ。
でも、それだと捻りがないんだよな。
うーむ……。
とりあえず、ネットスーパーを見てみるか。
“アーク”の面々には見られないよう注意しながら、取り出した魔道コンロの陰に隠れてネットスーパーを開いた。
そして、ちょくちょくお世話になっている鍋の素があるメニューを見ていく。
「お、これならいいかも」
俺が見つけたのは野菜だしの鍋の素だ。
あっさりだが野菜のうま味が利いていて、肉にも魚にも合うとのこと。
「よし、これに決めた。今日は、野菜だし鍋だ」
そうと決めたら、早速野菜だし鍋の素をポチリ。
具の野菜類は手持ちがあるから大丈夫だけど、キノコ類がないな。
キノコのうま味は鍋には必須だよね。
ということで、シイタケとシメジも購入。
届いたところで、段ボールを開封して手早く材料を出していく。
もちろん、これも魔道コンロの陰に隠れてな。
あとは鍋をサクッと作っていきますか。
手持ちの野菜の中から、ハクサイとネギとニンジンを取り出す。
これは全部アルバンが作ったものだ。
元が農家のアルバンは畑仕事が楽しいらしく、今じゃいろんなものを作っている。
俺もお裾分けにたくさんもらって助かってるよ。
何よりアルバンの作る野菜はめっちゃ美味いしな。
その極旨アルバン印のハクサイとネギとニンジンを切っていく。
ハクサイは葉と芯に分けて、葉の部分はざく切りにして芯の部分は細切りにして、ネギは斜め切りに。
ニンジンは皮をむいて半月切りだ。
普通のニンジンなら輪切りでいいんだけど、アルバンのニンジンはデカいからな。
ま、アルバンの作る野菜はどれもデカいんだけどさ。
次はシイタケとシメジだ。
シイタケは石づきを切り半分に切って、シメジは石づきを切ったらほぐしておく。
「よし、こんなもんかな。あとは土鍋を用意して……」
土鍋に水と固形になっている野菜だし鍋の素をポチャンと投入。
野菜だし鍋の素が溶けて煮だってきたら、あとは材料を入れて火が通ったら出来上がりだ。
グツグツと煮える鍋は見るからに美味そうだ。
鍋のスープをちょっと味見。
ズズッ。
「おお~、すっごい美味い。これ、俺好みかも。あっさりした中にもコクもあって、いいなこれ」
アルバン印の極旨野菜の旨味とキノコの旨味、エンペラードラードの旨味も加わり、実に美味いスープになっている。
その美味いスープをじっくりと味わっていると……。
ジ―――。
食いしん坊カルテット+食いしん坊エルフがこちらをジーッと凝視していた。
「そんな顔しなくても今出すから。行った行った」
そう言うと渋々散っていく面々。
しかし、フェオドラさんて飯のこととなるとナチュラルにフェルたちと合流して催促してくるよね。
恐るべし食い気だわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『この魚、なかなか美味いではないか!』
『これが鍋というものか。これも美味いのう』
『やっぱ鍋はいいな~。この魚も美味いな!』
『お魚さん美味しいね~』
「野菜も食えよー。アルバンが丹精込めて作った野菜だからめちゃくちゃ美味いんだから。って、言ってる傍から魚ばっかり食うなって、フェル」
『お主は毎回毎回「野菜を食え」とうるさいぞ。我は嫌いだと何度言えば分かるのだ』
苦虫を噛み潰したような顔をしてそう文句を言うフェル。
「そうだけどさ、肉ばっかりだとやっぱり体に悪いでしょ。野菜は健康にいいんだから食わなきゃダメだよ」
『それこそ加護がある我が体調を崩すことなどないと言っておろうが』
フェルは呆れたようにそう言う。
けど、俺は思うんだよね。
「加護があっても暴飲暴食はダメでしょ。やっぱりバランスよく食うのがいいと思うぞ」
『フェルおじちゃん、このお野菜美味しいよー』
「なぁ、美味しいよな。誰かさんと違って、スイは好き嫌いなくて偉いなぁ」
『えへへ~。スイ、お肉もお魚も大好きー! お野菜も嫌いじゃないよー』
「そうかそうか」
スライムに体調が悪いときがあるのかは疑問だけど、好き嫌いなく何でも食うことはいろんな栄養が取れているってことだからきっといいことなんだろう。
『俺も野菜は得意な方じゃないけど、これは美味いと思うぞ。この葉っぱなんて味が染みてていくらでも食えそうだ』
そう言いながらハクサイをバクバク食うドラちゃん。
「だよな。鍋といえばハクサイ。鍋に入ったハクサイって超美味いよな」
『儂も食うのは専ら肉ばかりだったが、主殿の料理なら何が入っていても美味いのう』
くー、嬉しいことを言ってくれるじゃないの。
「ありがとよ、ゴン爺」
『なんのなんの、本当のことじゃからな』
そして、ゴン爺とドラちゃんとスイと俺の視線がフェルに集まる。
『ぐっ……。な、何なのだ』
「全部食わないとおかわりはなしね」
サラリとそう宣言すると『ぐぬぬぬぬぬ』と顔を顰めて唸り声をあげたフェル。
怖い顔したってダメ。
最初はビビッてたけど、最近は俺も慣れたものなんだからな。
そして……。
俺に根負けしたのか、嫌そうな顔をしながらも野菜も完食させていたよ。
『おかわりだ! 野菜はなしっ、いや少なめだぞ!』
おかわりのリクエストに「野菜はなし」ってのが俺には認められないと分かっているからか、「少なめだ」と言いなおすフェル。
「はいはい」
出来上がってる鍋はどれも野菜同じ量入れてるけどね~。
おかわりの鍋を見て、フェルがブーブーと文句を垂れていたがどこ吹く風で華麗にスルー。
俺は、隣で鍋を囲む“アーク”のみなさんのところへお邪魔した。
「どうですか?」
「おお、ムコーダさん。この“鍋”っていう料理、めちゃくちゃ美味いな!」
「ああ。それに野菜をたくさん食えるのがいい。俺たちみたいに冒険者稼業をやってると、食う物がどうしても偏りがちになるからな」
「肉ばかり食ってきたが、魚も悪くないもんじゃな」
ギディオンさん、ガウディーノさん、シーグヴァルドさんが鍋を頬張りながら次々とそう言う。
その3人を他所に、何度も鍋をよそい黙々と頬張っているのが食いしん坊エルフことフェオドラさんだ。
「おいっ、フェオドラは食い過ぎだぞ!」
「そうだ。少しは遠慮しろよ」
「これっ、魚は儂も食うんじゃから残しておけ」
3人にそう言われるも、顔を上げて一言。
「早い者勝ち」
そして再び鍋を頬張るフェオドラさん。
そんな様子のフェオドラさんにすべて食われてはたまらないと、急いで鍋をつつきだすギディオンさん、ガウディーノさん、シーグヴァルドさんだった。
フェオドラさんは相変わらずのすごい食欲だな。
あの細身のどこにあんなに入っていくんだろうね。
少々呆れつつも、これだけは伝えねば。
「鍋には最後のお楽しみがあるので、スープはとっておいてくださいね~」
しかし、うちのみんなといい“アーク”の面々といいこれじゃあ飯もおちおち食っていられないね。
念のためにと、あらかじめ自分用に取り分けておいて良かった。
ガツガツと勢いよく鍋をかっ食らう面子を横に、俺は取り分けておいた鍋を一人楽しんだ。
もちろん最後の〆の溶き卵を入れた雑炊も大好評。
作ってみれば、極旨で大満足の昼飯だった。




