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第四百九十九話 勇者様に憧れて

 ゴン爺から差し出された巨大魚が消えてドロップ品に変わっていった。

 驚いて鑑定するの忘れてたわ。

 まぁ、いいけど。

 ドロップ品はというと……。

「巨大な白身と、魔石、それと宝箱が出たか。あっさりとゴン爺に仕留められちゃったけど、意外と高ランクの魔物だったのか?」

 そんなことをひとりつぶやいた後に鑑定。

 まずは巨大白身を。



【 エンペラードラードの白身 】

   あっさりしつつ旨みもあり、熱を加えると身が引き締まりホクホクの食感になり非常に美味。



「この白身、熱を加えるとホクホクして非常に美味いってさ」

『ほう。して、どのようにして食うのだ?』

「鍋とかに良さそうだな」

『鍋か。いいな』

 そう言いながらジュルリと涎をすするフェル。

『鍋いいな。あれ、美味いんだよなぁ~』

『スイ、お鍋好きー!』

 ドラちゃんもスイも、鍋モードになっている。

『鍋、とな?』

 あ、ゴン爺はまだ鍋は食ったことなかったっけ。

「鍋料理はな、いろんな具材を煮ながら食う料理だぞ」

『煮ながらのう……』

 鍋料理の想像がつかない様子のゴン爺。

『最後の〆がまた美味いんだぜ~』

『美味しいんだよね~』

 最後の〆が美味いと力説するドラちゃんとスイだが、ゴン爺は『最後の〆とはなんじゃ?』とこれまたわからない様子。

 こればっかりは食ってみないとね。

 ま、そのうち鍋は食わせてやるよ。

 俺としてはそう思っていたのだが、そこで黙っていないのがうちの食いしん坊たちだった。

『よし、次の飯は鍋だな』

『賛成!』

『さんせ~い』

「いやいや、昼飯は作り置きでパパッと済ませる予定だったんだけど」

『なにがパパッとだ。美味い食材があるのだから、当然食うべきだろうが』

 いや、なにが当然なんだよ。

 別にすぐじゃなくてもいいじゃん。

『そこまで言われると、儂もその鍋というの食ってみたいのう。主殿よ』

 ほらぁ、フェルもドラちゃんもスイも鍋のこと言うから、ゴン爺も鍋モードになっちゃったじゃんか。

「私も、それ、食べたい!」

 俺の後ろからそう主張したのは……。

「フェオドラさん……」

 キラキラした目で自分も食いたいって主張しまくってるフェオドラさん。

 フェルとゴン爺はバッチリ声出していたから伝わっちゃってるよ。

「おい、フェオドラっ、図々しいだろうが!」

 ガウディーノさんがそう言うが、当の本人は聞いちゃいない。

「ていうか、ムコーダさんは鑑定スキル持ち? 話の内容からすると、それっぽいよな」

 ギクッ……。

 唐突にそう言ったギディオンさんに、俺は引き攣った顔を向ける。

「アイテムボックス、しかも相当デカいの持ってるし……。もしかして、ムコーダさんって勇者様?」

 核心を突かれて、冷や汗がじんわりと額に滲む。

 勇者ではないけど、あっちの世界から来たことは事実だから焦ってしまう。

「これ、ギディオン! 人様のスキルを詮索するでない!」

「そうだぞ。それは仁義に反する」

 シーグヴァルドさんとガウディーノさんが渋い顔でギディオンさんに注意した。

「分かってるよ。だけどよ、勇者様かもしれないと思ったら気になるんだよ。…………俺の憧れだしよ」

 ギディオンさんが、最後にボソッと言った一言に反応するシーグヴァルドさんとガウディーノさん。

「ブフォッ、なんじゃ、お主、勇者に憧れておったのか?」

「笑うことねーだろ。小さいころに読んでもらった絵本の物語がずっと頭に残ってんだよ! それがあったから俺は冒険者になったんだし。冒険者なんて職業になるヤローには多かれ少なかれ、そういうとこあるだろうが」

「フハハ。否定はしないが、お前も案外かわいいところがあったんだな」

「うるせー!」

 シーグヴァルドさんとガウディーノさんにいじられて、顔を真っ赤にしているギディオンさん。

 フゥゥ、俺が勇者云々っていうのはなんとか曖昧になったのか。

 しかし、そうじゃないかって思いはどっかで燻ぶってるんだろうなぁ。

『おい、昼飯までにはまだ時間がある。狩りを続けるぞ』

 そのフェルの一声で、俺たちは再び巨大になったスイに乗って湿地帯を進んだのだった。 

 ちなみにエンペラードラードの宝箱の中身だが、俺の手のひら大の黄金の鱗が5枚と小粒のエメラルドとルビーが入っていたよ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「フェオドラ!」

 ガウディーノさんからの指示に、フェオドラさんは流れるように矢を射る。

 “アーク(箱舟)”の面々が今相手にしているのは、ブルーヘッドオッターという頭頂部に青い毛が生えているのが特徴のCランクのカワウソっぽい魔物だ。

 俺が知っているカワウソよりも、だいぶデカくて凶暴そうな風貌をしているけどね。

「ギャオォォォッ」

 ブルーヘッドオッターはフェオドラさんの矢が目に命中して叫び声をあげた。

「シーグヴァルド!」

「ほいきた! どりゃあっ!」

 ガゴンッ―――。

 ブルーヘッドオッターの頭にシーグヴァルドさん自慢のウォーハンマーの一撃が入る。

「ギディオン、行くぞ!」

「あいよ!」

 最後は、首にガウディーノさんのバスタードソードの斬撃が、腹にギディオンさんの槍の突きが入り、ブルーヘッドオッターは絶命し、毛皮をドロップした。

「おお~」

 思わず拍手する俺。

 これだよ、これ!

 これぞ冒険者。

『なにを喜んでおる。あんな雑魚を倒してどうなるというのだ?』

 不満そうな顔でそう言うフェル。

「そう言うなって。あの魔物の毛皮は撥水性があってけっこういい値がつくらしいんだから」

 巨大スイに乗り進む途中、ブルーヘッドオッターを発見したガウディーノさんに是非にと請われて停まった。

 ブルーヘッドオッターの毛皮は撥水性が高く需要は高いのだが、それほど出回らないのもあってけっこういい値で買い取りしてもらえるのだそうだ。

 しかも、Aランクパーティーの“アーク”の面々にとっては危なげなく狩れるいい獲物で、できれば多く狩りたいとのことだった。

 ということで、“アーク”の面々は巨大スイから降りて、ブルーヘッドオッター狩りに勤しんでいるというわけだ。

 一応フェルとスイにも「狩るか?」って聞いたんだけど、フェルが『あんな雑魚いらぬ。肉も不味いしな』と言うと、スイも『美味しくないならいいやー』となってしまった。

 うちの狩りの基準は、美味いか美味くないかだもんねぇ。

 そういうわけで、俺とフェルは巨大スイの上に留まっている。

 スイはうたた寝しているし、フェルも興味なさげに目を瞑っているけど、俺だけは興味津々で“アーク”の面々の戦い方を見せてもらっていたよ。

 連携して戦う様は、まるで映画を観ているようで興奮したね~。

 ああいう戦い方も憧れはするものの、実際に俺がああいうことができるかというと……。

「まぁ、無理だわなぁ」

 自分がヘタレだって自覚あるしな。

 やっぱ俺は、強い仲間と一緒くらいがちょうど良いな。

 安心安全が一番だよ。

 そう思いながら、脇にいたフェルを見ていると……。

『何だ?』

「いや、俺はフェルたちが仲間で良かったなって思ってさ」

『な、なんだ唐突に』

「いやさ、なんだかんだ言いつつも、お前たちみんなが強いから、こういうとこにいてもある程度余裕でいられるのかなって思ってさ」

 まぁ、フェルたちと出会ってなかったらそもそもダンジョンになんて来てないけどね。

『ふむ、よく分かっているではないか。感謝するがいい』

「ハハハ。はいはい、感謝してますよ」

『む』

「ん?」

『ゴン爺とドラが帰ってきたようだ』

 フェルが見ている方を見ると、黒い点が。

 偵察と称してドラゴン組のゴン爺とドラちゃんは別行動をとっていたのだが、戻ってきたようだ。

「おい、あれ、ゴン爺なんか持ってないか?」

 近付いてくるゴン爺だが、前脚で何か細長いものを掴んでいるようなんだけど。

『もうそろそろ昼飯だろうから帰ってきたぜ~』

 一足先に俺たちの元に到着したドラちゃん。

「なぁ、ゴン爺何を持ってるんだ?」

『ああ、あれな。お前への土産だってよ』

「土産?」

 そう思いながら首を傾げていると……。

「ゲッ」

 降り立ったゴン爺の足元には、丸太並みの太さの緑色のヘビがウネウネと動いていた。

『まぁまぁの獲物がいたのでな、主殿への土産にと思い持って帰ってきたのじゃ』

 …………。

 持って帰ってきたって、これ、どうすりゃいいってのよ。

 顔を引き攣らせながら緑色のヘビを鑑定してみる。



【 ハンターグリーンアナコンダ 】

   Aランクの魔物。その体の色を生かし、草木に紛れ獲物に忍び寄り獰猛に食らいつく。皮はその美しい色合いから好事家の間で珍重されている。肉はあっさりした味わいで美味。



「に、肉は美味いみたいだな」

『ほう、そうなのか。なら、早く仕留めろ』

 美味い肉と聞いて、フェルが仕留めろと言ってくる。

「仕留めろって、俺がか?」

『ゴン爺もそのために生かして持って帰ってきたのだろう』

『うむ。主殿のレベル上げにもいいかと思ってのう』

 いらぬ世話だけど、せっかく持って来てくれたのにそうも言えないし……。

「お、お土産なら、ドロップ品で良かったんだけどなぁ。ドラちゃんにマジックバッグも渡してあったんだし」

『ん? こっちにもけっこう入ってるぞ』

 ドラちゃんが首にかけていたマジックバッグを持ちながらそう言った。

 ぐぬっ、それならこのヘビもドロップ品として持って帰ってくればよかったのに。

『ほれ、早くしろ』

「分かったから、急かすなって」

 仕方なしにアイテムボックスからミスリルの槍を取り出した。

 そして……。

『主殿、そんなに怖がらずとも頭は押さえておるから大丈夫じゃ。ほれ、脳天から一息にブスッと』

「あ、ああ」

 ええい、俺も男だっ、やるぞ!

 そう思いつつも腰が引けたまま「ていやっ!」と脳天に一突き。

 ハンターグリーンアナコンダが動きを止めた。

 そして、ハンターグリーンアナコンダが消えた後には、肉と緑色の皮が残されていた。

 無事に仕留めることができて、ホッとしていると……。

「ムコーダさん…………」

 いつの間にかブルーヘッドオッター狩りから戻って来ていた“アーク”の面々が、微妙な顔をして俺を見ていた。

「ムコーダさん、それじゃあ強くなれんぞい……」

 シーグヴァルドさんの言葉にウンウンと頷くガウディーノさんとギディオンさん。

 そしていつもは飄々としているフェオドラさんまで頷いていた。

 え? え? どっから見ていたんですか?

 というか、いつもこんなことしてるわけじゃないですからねー!






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― 新着の感想 ―
安全の為にレベル上げしてるからまぁこれでもいいんよw ただここら辺でダンジョンモードに切り替えないとまたオーガの時みたいになっちゃうからね
[良い点] 『何だ?』 「いや、俺はフェルたちが仲間で良かったなって思ってさ」 『な、なんだ唐突に』 「いやさ、なんだかんだ言いつつも、お前たちみんなが強いから、こういうとこにいてもある程度余裕でいら…
[一言] そう、いつもこんなことしてるわけじゃないんです。 いつもは戦ってませんから(笑)
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