第四百九十七話 合同ダンジョン探索開始!
「この“味噌汁”ってスープはいいなぁ……」
キャベツとタマネギと油揚げの味噌汁をズズッとすすって、そう言ったガウディーノさん。
「ああ。なんかホッとする味だよな」
ガウディーノさんの言葉に同意しながらそう言うギディオンさん。
「儂はこの“だし巻き卵”っちゅうのが気に入った。ふうわりした食感に噛んだ瞬間になんとも言えん旨味がジュワッとあふれ出してきよる」
だし巻き卵をパクつきながら、しみじみとそう言うシーグヴァルドさん。
「確かにこれも美味い」
先ほど味噌汁をすすっていたガウディーノさんが、シーグヴァルドさんにつられてだし巻き卵にかぶりつく。
「てかよ、ムコーダさんの飯はなんでも美味いわ」
ネットスーパーで買った市販の混ぜ込みごはんの素で作ったおにぎり(今回は高菜だ)を頬張りながらそう言うギディオンさん。
それに対して「確かに」と深く頷くガウディーノさんとシーグヴァルドさん。
あっさりとした豪華でもなんでもない普通の朝飯だけど、そう言ってもらえると悪い気はしない。
フェルたちと同じメニューで朝から肉というのは、“アーク”の面々でもキツイだろうと思い、俺と同じあっさり朝食メニューを出している。
みんな体格が良くてよく食うから、量だけは俺の倍を出したけど。
あ、フェオドラさんは細身だけど、よく食うというか、“アーク”の中でも一番食うと言ってもいいくらいなので他の3人と同量にしてある。
にもかかわらず、ペロリと平らげてしまったので、追加でおにぎりを3個出してあげたところだったんだけど……。
瞬く間に無くなったぞ。
そして、今度はコカトリスの照り焼き丼を食っているフェルたちを羨ましそうに眺めている。
フェオドラさん、あっさりメニューとは言え朝からちょっと食い過ぎなんじゃないですかねぇ。
しかも、フェルたちのガッツリ肉飯まで羨ましそうに見てるってどんだけだよ。
てか、もしかして、冒険者っていう肉体派な職業柄、朝から肉の方が良かったか?
一応自分も冒険者なのを棚に上げて、そんなことを考えてしまう。
「あの、朝から肉っていうのもあれだと思って俺と同じあっさりめの食事にしたんですが、がっつり肉の方が良かったですか?」
ガウディーノさんたちに聞いてみる。
「いやいや、俺は朝はこういうあっさりめの方が好みだ」
「俺もだな」
「若いときならいざ知らず、最近は儂も朝はあっさりめがいいのう」
やっぱりそうだよなぁ。
だけど、若干一名そうじゃない方がいらっしゃるようで。
「フェオドラさんは、肉の方が良かったみたいですけど……」
フェルたちを凝視するフェオドラさんを見ながら俺がそう言うと、三人とも呆れたような顔になる。
「アイツと一緒にしたらダメだぜ。何せ朝からステーキ二人前平気で頼むような奴だからな」
「あんなに細いのに俺らよか食うしなー」
「彼奴の胃袋はきっと魔鉄でできているんじゃ」
いやいやシーグヴァルドさん、胃袋が魔鉄でってひどいからね。
まぁ、付き合いの長い三人がここまで言うってことは相当なんだろうってのは察するよ。
『おい、このエルフをどうにかしろ』
『儂らの飯をうらやましそうに見てるのう』
『ジーッとこっち見てきて鬱陶しいぞ』
『スイたちのご飯見て涎垂らしてるのー』
食いしん坊カルテットから苦情の念話が入ってくる。
フェオドラさん、食いしん坊カルテットにこんな苦情を申し立てられるってかなりのもんだからね。
「フェオドラさん」
フェオドラさんにコカトリスの照り焼き丼を見せた。
目の前に現れた照り焼き丼をロックオンするフェオドラさん。
照り焼き丼を動かすと、それとともにフェオドラさんの視線も移動する。
プププ、なんか面白いな。
思わずあっちこっちへ照り焼き丼を移動させる俺。
照り焼き丼を追ってフェオドラさんの視線も上下左右に動き回る。
って、こんなことをしてる場合じゃないや。
「ダンジョンに入る前ですし、食い過ぎも良くないと思いますんでこれだけですよ」
そう言うと、コクコクと何度も頷くフェオドラさん。
フェオドラさんに照り焼き丼を渡すと、幸せそうに頬張り始める。
「ムコーダさん、うちのフェオドラが迷惑かけてすまんな」
「ホント、申し訳ない」
「此奴、美味そうなものを目の前にすると梃でも動かんからのう」
ガウディーノさんもギディオンさんもシーグヴァルドさんも苦笑い。
フェオドラさんは、照り焼き丼もペロリと平らげてしまい残念そうにしていたけど、そこはさすがにおかわりはなしで。
そんな感じでいつもより賑やかな朝飯の時間が過ぎていった。
そして、朝食を食べ終え少しの食休みを挟んだ後……。
『それでは、行くぞ』
『美味い肉が獲れればいいのう』
『それが一番だよな!』
『スイ、いーっぱいビュッビュッてしてやっつけるんだー!』
いつものように緩い感じの俺たち一行の後に、真剣な面持ちの“アーク”の面々という布陣でダンジョンへと突入したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こ、これはまた……」
『なっ、水があるなんて聞いてないぞ!』
『ほうほう。こう来たか。面白いのう』
『スッゲー! これなら魚も狙えるな!』
『お魚ー! お肉もあるかなぁ?』
俺たちがそんな感想を言い合う中、“アーク”の面々は驚きの顔で絶句していた。
いつもは緩いフェオドラさんでさえも厳しい表情。
これを見たら、その気持ちも分からないでもない。
ダンジョンに入り、最初は洞窟のような感じでしばらく進むと突き当りに階段が。
そこを下りた途端にこの光景なのだから。
辺り一面の緑と水。
前にテレビで見たことのある、世界最大の湿地帯と同じような光景が広がっていたのだから。
「湿地帯か。とてつもなく広そうだな……」
『グルルルルル、草木が生えていると聞いていたのにっ。彼奴、我に嘘をついたのか?!』
水嫌いのフェルがご立腹だ。
でもさ……。
「いや、草木あるじゃん」
『ぐぬっ。しかしなっ』
「しかしもなにも、そもそもさ、このダンジョンの話をしてくれた戦神様の教会の人だってさ、確か実際にダンジョンに入ったとは言ってなかったよな。ということはだ、伝聞なんだから嘘ってことはないだろうが」
『むぅ』
「じゃあ止めるか? 俺はそれでも一向にかまわないぞ」
というか、俺的にはこれでダンジョン探索が中止になれば万々歳だ。
『止めるわけなかろう!』
「なら我慢しろよ」
そんな感じで俺とフェルが言い合っていると……。
「ムコーダさん、話し中に悪いが、マズイぞ! ファングボアがこっちに気付いた」
そう言ったガウディーノさんの視線の先には、デカい猪が歯をむき出しにしていた。
俺は思わずその猪を二度見する。
いやいやいや、猪ってあんな鋭い歯してたっけ?
「フェオドラ! ギディオン! シーグヴァルド!」
“アーク”のリーダーであるガウディーノさんが声をかける。
フェオドラさんが弓を引き、ファングボアを狙う。
ガウディーノさん、ギディオンさん、シーグヴァルドさんもそれぞれの武器を手に準備万端だ。
「プギィィィィッ」
雄叫びをあげたファングボアがこちらに突進してくる。
念のためにとフェルとゴン爺の間の安全圏からだが、“アーク”の戦いぶりが見られると期待していると……。
『スイがやるー!』
飛び出したスイが酸弾を放った。
ビュッ―――。
スイの酸弾がファングボアの頭、それも眉間にキレイに命中した。
そして、慣性で動いていたファングボアの巨体が、ガウディーノさんたちの前でドサリと横に倒れ込んだ。
「…………」
目が点の“アーク”ご一行。
『わーい! 倒したー!』
ファングボアを倒してご機嫌のスイ。
……すまぬ、本当にすまぬ。
スイは空気読むの苦手なんですぅぅぅ。
こうして俺たち一行と“アーク”のいろんな意味で前途多難な合同ダンジョン探索が開始されたのだった。




