閑話 魔道冷蔵庫の出番
更新再開です。
大変な時期ですが、ステイホームで家で楽しめることをしましょう。
ちなみに私は、なろうをはじめとしたネット小説を読みまくってすごしていますw
「うーむ……」
カレーリナにある家のリビングで、うたた寝しているフェルとゴン爺とドラちゃんとスイの傍ら、俺は、最近ちょっと気になっていることについて考えていた。
『どうした?』
薄く片目だけを開いたフェルが何事かとそう聞いてきた。
「いやなぁ……」
ちょっと気になっていることをフェルに話して聞かせた。
少し前に、盗賊王の宝の中の一つとして手に入れた魔道冷蔵庫。
手に入れたときは良い物を手に入れたと、これからはバンバン使っていこうと思ったけど、実際はあまり出番がないのが実情だ。
俺にはネットスーパーがあるから、使う分をその時に買えば済むし、ぶっちゃけ保存はアイテムボックスに入れれば万全だし。
正直なところ、肉類に味をしみ込ませるために漬け置きするときとか、浅漬けを作るときくらいしか使ってないんだよね。
それも、十分に味が染みたらアイテムボックスに移し替えちゃったりするし。
せっかくの魔道具だし、もうちょっと使っていければいいんだけどな……。
「冷蔵庫ってそもそもが食い物を低温で保存するっていうのが主な目的だからさ、よくよく考えると時間停止のアイテムボックスがある俺にとって便利かって言われると、微妙っていうかなぁ……」
それこそ飲み物を冷やすのだって、ネットスーパーで買うと、箱買いする以外はだいたい冷えたのが届くしな。
「前に作ったヨーグルトゼリーみたいな冷えたデザートなんかをバンバン手作りするんなら、あって良かったって思うんだろうけど、デザートに関しちゃ門外漢だしさ」
ゼリーくらいなら簡単だから、俺にも作れるけど、だからといってゼリーばっかり作るっていうのもねぇ。
『別に使わないなら使わないでいいだろうが。そんなに悩むことか?』
「そうは言うけどさ、せっかく手に入れたものだし、もったいないじゃん。しかし、冷えたデザートか。うーむ……」
ゼリー以外で俺でも作れそうなものがあるかと考えていると……。
『デザートー? 甘いのー!』
甘いもの大好きなスイが、デザートという言葉に反応した。
『デザート、あるじが作るのー? ねぇねぇ、どんなのー?』
俺の膝の上に乗っかってきて、食い気味に俺を質問攻めにするスイ。
そして、スイの念話が響いたのかゴン爺とドラちゃんも起き出してきた。
『ふぁ~あ。なんだ、デザートだって? 甘いのは嫌いじゃねぇぞ』
『主殿の作るものなら美味そうだのう』
ドラちゃんとゴン爺もそんなことを言ってくる。
『ねぇねぇあるじー、どんなの作るのー?』
「あ、いや、あのな、スイ」
言えない……。
今更作れないなんて言えないよ。
なにか、なにか俺でも作れる冷えたデザート。
…………あ、俺でも作れる冷えたデザートがあった!
学生時代に喫茶店のバイトで作ったレアチーズケーキだ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、始めるか」
俺は、キッチンで気合を入れた。
今晩の夕飯は、作り置きしておいたダンジョン豚とダンジョン牛の肉で作ったメンチカツサンドにして(ちなみにだが、テレーザ特製の素朴な田舎パンを少しトーストしてバターを塗り、キャベツとジューシーなメンチカツにソースをかけて挟んだだけの簡単だけど超絶美味い自信作のメンチカツサンドだ。もちろんチーズINバージョンもあるぞ)、メインはデザートのレアチーズケーキ作りだ。
まずは、ネットスーパーで材料の調達からだ。
クリームチーズに無糖のプレーンヨーグルト、生クリームに…………。
材料を思い出しながら次々とカートに入れていく。
精算をして、手元に材料がそろったところで調理開始だ。
「まずは、土台からだな」
コーヒー・紅茶用にアイテムボックスに保存してあるお湯を取り出して、無塩バターを湯せんにかけて溶かしておく。
そうしたら、ビスケットをビニール袋に入れて、麺棒で叩いて細かく砕いていく。
ゴン、ゴン、ゴン―――。
「……ええと、スイ、どうした?」
キッチンの出入口から、スイがこちらを覗いていた。
『うんとね、どんな風に作るのかなーって思ったの』
スイは甘いものが大好きだから興味あるか。
「スイも一緒に作るか?」
『うんっ』
ということで、レアチーズケーキ作りにスイも参戦。
「じゃあ、この袋の中のビスケットをこの棒で叩いて細かくしてね。あ、強く叩き過ぎないでね」
スイが本気で叩いたらビニール袋が破けちゃいそうだし。
『分かった~』
ゴン、ゴン、ゴン、ゴン―――。
『あるじー、これくらいでどうかなぁ?』
「上出来上出来」
スイに細かく砕いてもらったビスケットが入ったビニール袋に、湯せんで溶かしたバターを加えてモミモミ。
ビスケットにバターが馴染んだら、クッキングシートを敷いた型の底に敷き詰めて平らにならして魔道冷蔵庫で冷やしておく。
次に、購入してから放置して室温に戻しておいたクリームチーズをボウルに入れてなめらかになるまで泡だて器で混ぜていく。
「スイちゃん、この泡だて器でこれを混ぜてくれるかな」
『ハーイ』
グルグルとクリームチーズを力強く混ぜていくスイ。
「はい、ストーップ。うん、十分なめらかになっているね。そうしたら、ここに砂糖を入れて……。ハイ、また混ぜてください」
『ハーイ』
「砂糖のザラザラがなくなるまで混ぜてね」
『分かったー』
グルグルグル―――。
『あるじー、ザラザラなくなったよー』
「それじゃあヨーグルトとレモン汁を加えて……。はい、また混ぜて」
『ハーイ』
全てを混ぜてなめらかになったら、次は生クリームだ。
別のボウルに生クリームを入れて、七分立てくらいに泡立てる。
「スイ、今度はこっちを混ぜて」
『分かったー』
泡だて器で生クリームを混ぜ始めるスイ。
スイのおかげですぐに七分立てくらいになる。
「はい、いいよ」
そこで、お湯で溶かした粉ゼラチンにクリームチーズの生地を合わせたものを用意したら、全てを混ぜていく。
最初のクリームチーズのボウルに溶かした粉ゼラチンを少しずつ入れて混ぜたら、さらに七分立ての生クリームを入れてざっくりと混ぜ合わせれば生地の出来上がり。
あとは、魔道冷蔵庫で冷やしていた型を取り出して、生地を流し入れて表面を平らにならして……。
「スイ、これで冷蔵庫に入れて冷やし固めればレアチーズケーキの完成だよ」
そう言いながら魔道冷蔵庫に型を入れていく。
一人1ホールと考えて5ホール作製。
なんとか魔道冷蔵庫に収まった。
まぁ、俺は一人で1ホールなんて食わないけど、残ったら誰か食うから大丈夫でしょう。
こんな感じで俺がバイト先で教わったレアチーズケーキは、定番中の定番って感じだ。
俺でも作れたんだから、まぁそうだろう。
でも、そこそこ人気だったんだよね。
今考えると、やっぱり定番っていうのが良かったんだと思うな。
大きく外さないしさ。
あとは、季節ごとにかけるフルーツソースを変えていたんだよね。
それも人気だった理由かも。
このレアチーズケーキはこのままでも十分美味いけど、俺もバイト先に倣ってフルーツソースも作ることに。
「スイ、今度はレアチーズケーキにかけるフルーツソースを作るよ」
『ハーイ』
「手持ちのフルーツでは…………、あ、これがまだ残ってるな。ヴィオレットベリー」
『あー、ダンジョンで採ったやつー』
「そうそう。これをソースにしよう」
適当な大きさに切ったヴィオレットベリーとグラニュー糖とレモン汁を鍋に入れて弱火で加熱。
水分が出てグラニュー糖が溶けて少しとろみが出るまで煮詰めたら、あとは冷ましておけばヴィオレットベリーソースの出来上がり。
『ねぇねぇあるじー、ケーキできたかなぁ』
「まだだよ」
『そっかー。どれくらいでできるのー?』
「まだもうちょっとかかるかなぁ。でもね、できてもすぐには食えないぞ」
『なんでー?』
「夕飯の後のデザートだって言っただろう。だから、夕飯の後のお楽しみだよ」
『そうかぁ~。じゃあ、スイ、お夕飯まで我慢するー』
………………
…………
……
そして、お待ちかねの夕飯後。
純白のレアチーズケーキを切り分けて、鮮やかな紫色のヴィオレットベリーソースをかけて……。
「はい、食後のデザートのレアチーズケーキ。俺とスイの力作だぞ」
『わーい! これねぇ、スイも一緒に作ったんだよー!』
『ほう、どれ』
『見た目もキレイじゃのう』
『なかなかいい出来なんじゃねぇの』
フェルとゴン爺、ドラちゃんがレアチーズケーキにかぶりつく。
『ねぇねぇ、どーお?』
スイがブルブル揺れながらみんなに聞いている。
『うむ。悪くないな』
『ああ。甘過ぎずなのがいいのう』
『普通にうめぇ』
みんなの感想を聞いたスイが『ヤッター!』とポンポン飛び跳ねている。
俺も一口。
「うん、上手くできたね。美味しい。スイも食ってみなよ」
『うんっ』
レアチーズケーキを取り込んでいくスイ。
『おいしい~』
嬉しそうなスイを見て、こっちも嬉しくなってくる。
『……ぐぬぬ…………妾も、食べたいのう……』
あらら、今は聞こえちゃいけないお方の声が聞こえたぞ。
『くっ……聞かなかったことにするのじゃ』
甘いものが好き過ぎて、思わず声が届いてしまったようだ。
プププ。
「スイ、このケーキ、女神様にお裾分けしていいかな?」
『ん? いいよ~』
「それじゃあこれをテーブルの上に置いて、女神様にお裾分けですってあげてくれるかな」
切り分けたレアチーズケーキをスイに渡した。
『これスイが作ったの~。女神様におすそわけー』
スイがテーブルの上に置いたレアチーズケーキの皿が、淡い光と共に瞬く間に消えていった。
『わっ! あるじー、ケーキ消えちゃったー』
「ハハ、女神様が持っていったんだよ」
『そっかー。美味しいって言ってくれるかなぁ?』
『美味しいのじゃ! スライムよ、なかなかの腕じゃぞ!』
『わぁ~、女神様、スイが作ったケーキ美味しいって』
「良かったなぁ、スイ」




