第四百九十五話 まだ見ぬダンジョンへ、出発!
お、遅くなりましたが、なんとか更新。
「さてと、やるか」
フェルたちや“アーク”の面々が寝静まった後、俺は寝る前にもう一仕事やらねばならない。
教会と孤児院巡りをした後に、神様たちからのリクエスト品は用意してある。
いろいろとあって予定していた時間より帰ってくるのが遅くなったけれど、なんとか無事に用意もできた。
まったく、教会関係者のあの使徒様攻勢にはまいったね。
そうは言っても俺はまだマシだけど、使徒様攻勢をまともに食らったフェルとゴン爺は相当うんざりしていた様子だったもんなぁ。
しかし、他の街でもお布施&寄付回りしたらあんな風になるのかね。
そうなったら、ちょっとやり方も考えないといけないかもしれないな。
あまりにもしつこいようだと、フェルとゴン爺が爆発しちゃいそうだし。
ま、それはその時に考えるとして、今は神様たちへのお供えだ。
明日にはダンジョンに向かうことになってるから(俺としてはもうちょっと余裕を持ってもいいと思うんだけど、フェルたちや“アーク”の面々がノリノリでそういう予定になってしまった)、早く寝ないとだしね。
「みなさん、お待たせいたしました~」
声をかけると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
『待っておったのじゃー!』
『フフフ、待ってたわよ~』
『よっ、待ってました!』
『待ってた』
『おお~、待ってたぞい!』
『来たぞ、来たぞ!』
まったく騒がしい神様たちだね。
「ええと、明日は早いのでどんどんお渡ししていきたいと思います」
『また、ダンジョンに行くらしいじゃないの。次のテナントも目前ね』
この声はキシャール様か。
ってか、よく知ってるな。
また、こっち覗いているのか?
『当然だぜ。お前を見るのはオレらの娯楽の一つだからな~』
これはアグニ様か。
く、娯楽とか言われてるし。
プライバシーなんてあったもんじゃないな。
神様に文句言ってもしょうがないけどさ。
『心配するな。お主のお花摘みの場面などは見てないからのう。というか、そんなもの見たくもないのじゃ』
この声はニンリル様だな。
見たくもないって、そんなら最初から全部覗かないでほしいですよ。
ったくもう。
『そんなことよりも、次のテナントは和菓子屋がいいぞ!』
そんなことよりもって、ニンリル様……。
前にも言ったはずなんだけどね、テナントは何が来るかわからないんですって。
『私はアイス屋さんがいい。絶対にアイス屋さん』
ルカ様まで~。
『おいおい、お主ら彼奴の話を聞いとらんかったのか?』
『選べるテナントは確認してみないと何が来るのかわからねぇって言ってただろ』
ヘファイストス様、ヴァハグン様、ナイスです。
「そういうことです。それに、次にテナントが解放されるのはレベル160ですよ。まだまだですからね」
まったくみんな気が早いんだから。
レベル160なんてまだまだだっての。
称号に「孤独の料理人」が付いているのを確認したときは、レベル90だったんだから、そんなに一気にレベルが上がるわけないんだから。
「それじゃあ、どんどんお渡ししていきますからね。まずはニンリル様です」
ニンリル様のリクエストはいつものとおりの甘味。
今回も不三家の限定ケーキとどら焼きは『絶対なのじゃ!』とか宣言されていたよ。
そういうことで、今回ご用意した限定ケーキは、春の桜の花を使ったケーキ各種だ。
淡いピンク色のクリームが目にも美しい桜のモンブランに生地に桜が使われているピンク色の桜のシフォンケーキ、そして、真っ白な生クリームの上に桜の花を象ったピンク色のクリームがちりばめられた桜のロールケーキ。
どれもキレイで美味そうなのはもちろんなんだけど、桜の文字を見て、日本では春なんだなぁと思い、もう一度満開の桜を見たかったなと選んでいるときにちょっとしんみりしてしまったのは内緒だ。
あとはいつものように、カットケーキとホールケーキを適当に選んで、ニンリル様の大好物のどら焼きを大量に。
「それではどうぞ」
テーブルの上に置いた、甘味の詰まった段ボール箱が淡い光とともに消えていった。
『ありがとなのじゃー! むっはー、待ちに待ったケーキとどら焼きなのじゃー!』
歓喜の声とともにベリベリッと段ボールを開ける音が聞こえてくる。
『ちょっとニンリルちゃん、ここで食べないで自分の宮に戻って食べなさいよー』
『まったくキシャールはうるさいのう~。戻って一人でゆっくり堪能するのじゃ、フフン』
ぶつくさ言うその言葉の後に、ドタドタと足音が聞こえてくる。
どうやらニンリル様は帰っていったようだ。
周りに誰もいないことをいいことに、また早々に食い尽くしたなんてことにならなきゃいいけど。
『ホント騒がしいわね、ニンリルちゃんは。はい、次は私よ』
はいはい、分かっていますってキシャール様。
アイテムボックスから段ボール箱を取り出した。
キシャール様の分は単価が高いこともあって、小さめの段ボール箱だ。
今回もキシャール様はST-Ⅲのシリーズをご所望だ。
この高級スキンケアのシリーズにすっかり魅了されて、『私の肌にはこれじゃなきゃダメなのよ』なんて言っていらっしゃったよ。
そして、化粧水と乳液をお買い上げ。
あとは、いろいろと美容について勉強したキシャール様のうんちくが炸裂。
キシャール様曰く『お肌はね、結局保湿が一番なのよ、保湿が』とのことで、ST-Ⅲの化粧水を毎日たっぷり使うのはもちろんのこと、毎日のシートパックも効果的。
だけど、毎日となると高級なものでは続かない。
そこで、『でもね』とキシャール様の力説が。
『今はプチプラでも良いシートパックがたくさん出ていて、毎日のお手入れはプチプラのシートパックでも十分効果があるのよ! それで、ここぞという日はお高めの美容成分モリモリのシートパックを使うというわけよ。なるほどね~と思ったわぁ』
その言葉を聞いて、こっちはキシャール様の口からプチプラって言葉が出たことに驚いたわ。
それに、神界にいるキシャール様にここぞという日なんてあるのかって思ったりね。
もちろん口には出さなかったけどさ。
それにキシャール様は『あなたの元の世界ってホント美容には気を使ってるわよね~。すっごく勉強になるわぁ。私ももっともっと勉強しなきゃね』なんて言っていたけど、なんか、むっちゃ日本に毒されていっている気がしたよ。
美容関係一点突破だけどさ。
ま、ご本人が楽しそうだったから黙ってたけどさ。
そんなわけで、キシャール様にはST-Ⅲの化粧水&乳液とプチプラのシートパック30枚入りのを3点購入。
シートパックはマツムラキヨミで売れてるTOP3を選んだから間違いないだろう。
「キシャール様、どうぞ」
『ありがとうね!』
ウキウキしたその声とともに、テーブルの上に置いた段ボール箱が消えていった。
『次はオレだな、オレ!』
男勝りなこの声はアグニ様。
アグニ様のご希望は、当然だがビールだ。
朝の訓練の後に飲むビールは何より格別で止められないっておっしゃってたよ。
それに『これがあるから朝の訓練にも身が入るってもんだ』とも言ってたなぁ。
だけど、ニンリル様とキシャール様が小声で『配下の下級神たちはいい迷惑じゃがのう』『そうよねぇ。みんな辛いってボヤいていたわ』なんて話していたけどね。
今回は、全部お任せでということだったので、それならばいろいろ飲み比べができるギフトセットがいいかなと思いそれ中心に選んでみた。
まずは、国産原料にこだわった6種類のYビスビールが入ったギフトセット。
それから、S社のウイスキーの代名詞とも言える国産ウイスキーの原酒樽で熟成したビールをブレンドしたこだわりの詰まった高級感あふれるビールのギフトセットだ。
あとは、ビール職人がこだわって丹精込めて造ったクラフトビールの詰まったセットと地ビールのセットをいくつか。
最後は、アグニ様がチラッと『キレのあるのど越しもいいんだよな』って言ってたから、キレのあるビールといえばこれでしょってことで銀色のヤツを一箱。
重量感のある段ボール箱を3つほどテーブルの上に置いた。
「こちらになります。アグニ様」
『お、ありがとよ! これで明日の訓練にもバッチリだぜ!』
訓練のヤル気に拍車がかかるアグニ様。
下級神様たち、ガンバ。
わずかながらエールを送っておいた。
『次は私』
ルカ様だな。
ルカ様のリクエストも前と変わらずケーキとアイスだ。
ただし、アイスが多めで。
今回もバニラアイス多めでという話だったが、他もいろいろと試してみたいとのことだった。
ルカ様は無類のアイス好きとなってしまったようだ。
ケーキはニンリル様と同じく限定のものを用意して、あとはいくつかカットケーキを。
その他は全部アイスでいってみた。
不三家のアイスはとりあえず一通り揃えて、ネットスーパーのアイスコーナーにあったバニラも全部揃えて、残りは予算いっぱいいっぱいまでいろいろ選んでみたよ。
数も種類も文句なしのはずだ。
ケーキが入った段ボール箱と、アイスが入って冷えた段ボール箱をドドンとテーブルの上へ。
「ルカ様、こちらです」
『ありがと。大切に食べる』
ルカ様はどこかの残念女神と違って、計画的に食ってるみたいだもんね。
いいことだ。
『よっしゃ、次は儂らじゃ』
『待ってたぜ~』
酒好きコンビことヘファイストス様とヴァハグン様だ。
お二人は前回高級ウイスキーをご所望されたのだが……。
『なんでお主の世界ではこんな美味い酒があるんじゃ。また同じものを飲みたくなるではないか』
『だよなぁ。美味すぎるんだよ。だけどよ、美味い酒は高い高すぎる』
『そうなんじゃ。前回の6本、最上級に美味かったが、あれを頼むとウイスキーの量が足りなさすぎるんじゃ!』
『でも、あの味は忘れられねぇよ!』
リクエストの時にそんな感じで言われてさ。
恨み節で言われても、俺のせいじゃないでしょうよって感じだよ。
お二人とも迷いに迷っていたみたいだけど、高級ウイスキーは諦めがたかったのか、ブルーのラベルが目印のウイスキーと国際大会で六度も金賞に輝いているという濃厚な味わいのウイスキー、チョコレートモルトと呼ばれる麦芽を使った高級感のあるデザインのボトルのウイスキーの3本は再びのリクエスト。
残りは、手ごろなウイスキーでお二人がまだ飲んだことないものをということだったので、リカーショップタナカを見たら、カナディアンウイスキー特集をしていたのでそこから選んでみた。
カナディアンウイスキーは、それほどお二人にお渡ししていなかったと思うしね。
それで選んだのは、カナディアンウイスキーの代表格でクセがなくすっきりした味わいのウイスキーと3回の蒸溜の後にホワイトオーク樽で熟成されたまろやかですっきりした口当たりが楽しめるウイスキー、そして、軽やかな口当たりとリッチな甘味が楽しめるライ麦100%を原料に造られるカナダで唯一のウイスキー。
その他、特集でおすすめされていたウイスキーのほか、カナディアンウイスキーのランキングの中から手ごろな価格帯のものを選んでみた。
前回よりも本数は確保できているので大丈夫だろう。
所せましとウイスキーが詰まった段ボール箱をアイテムボックスから取り出して、テーブルの上へと置いた。
「ヘファイストス様、ヴァハグン様、お待ちかねのウイスキーです」
『ほっほー! あんがとな!』
『久しぶりにウイスキーをたっぷり飲めるぜ! ありがとよ!』
テンション爆上がりのお二人。
きっとこの後は飲み明かすんだろうねぇ。
ま、ほどほどに。
神様ズへのお供えが終わったら、トリは当然このお方。
「デミウルゴス様~」
『お~う』
「お供えです。どうぞ」
『ありがとうのう』
デミウルゴス様にはいつもの通り日本酒と梅酒をご用意。
大吟醸全国10酒蔵飲みくらべという10本セットがあったから、日本酒好きのデミウルゴス様にはピッタリだと思いそれを選んでみた。
そして、品種の違う梅を使った梅酒のセットがあったから、面白そうだったのでそれも選んでみた。
あとはいつものお手軽おつまみ、プレミアムな缶つまをセットで。
デミウルゴス様へのお供えの入った段ボール箱が消えてから、ちょびっとオハナシを。
「デミウルゴス様、あれから、というか、ロンカイネンの街で大変だったんですよ」
『まぁまぁ。それはそうと、いい仕事じゃったの~う、お主ら』
まぁまぁじゃないですよ。
使徒様、使徒様ってすごかったんですから。
『主要な教会関係者には儂の声も含めて、全部聞こえていたからのう。彼奴らからしたら、フェンリルと古竜は儂の使徒ということになるじゃろうのう。あながち間違ってもおらんし』
「え? フェルとゴン爺はデミウルゴス様の使徒なんですか? そこまでの話は聞いてなかったと思うんですけど?」
『…………さらばじゃ!』
「さらばじゃじゃなくって、ちょっとー、デミウルゴス様ー!」
ええ~、フェルとゴン爺は使徒って、デミウルゴス様公認?
ま、まぁ、怖がられるよりはいいのかもしれないけど、なんか複雑だなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、翌朝―――。
朝飯を食い、予定より一日早いが借りていた家の鍵を商人ギルドに返却して、冒険者ギルドに挨拶をしてロンカイネンの街の外へ。
借りていた家の賃料は冒険者ギルド持ちだったから、一日分損した形になってしまいちょびっとオーソンさんの顔が引きつっていたけど、そこはちゃんと依頼をこなしたから許してほしいね。
何せうちの食いしん坊カルテットが……。
『いよいよダンジョンだな』
『儂も初めての場所だから楽しみだのう』
『ワクワクするなぁ~』
『ダンジョン楽しみだね~』
期待に胸膨らませてるからね。
そしてこちらも……。
「手つかずのダンジョンなんて、柄にもなくワクワクしてくるぜ」
「ああ。冒険者冥利に尽きるな!」
「お宝も期待できそうじゃのう」
「美味しいお肉があると最高」
“アーク”の面々も期待に胸膨らませてるしね。
こんな面子にもう一日ここに滞在しようなんて言えないよ。
『主殿、この辺でいいかのう?』
そう言うゴン爺に周りを見て、この辺ならいいかと俺は頷いた。
『よし、それではみんな儂に乗るのじゃ』
もちろん小国群のダンジョンにもゴン爺に乗っての移動になる。
「あ、乗るのは俺たちだけなんだから、あんまり大きくなるなよ」
『うむ。承知したぞい』
俺たちのやり取りを聞いていたガウディーノさんがギョッとする。
「ちょっ、ムコーダさん、まさか古竜に乗って向かうのか?」
「ええ。それが一番早いですから」
『お主らは主殿の知り合いじゃ。遠慮なく乗れ』
ゴン爺のその言葉に恐る恐る乗り込むガウディーノさんとスタスタ乗り込むフェオドラさん。
ギディオンさんと、シーグヴァルドさんは……。
「あれ、どうしたんですか二人とも」
青い顔をしてゴン爺に乗るのを躊躇していた。
「あの二人、高い場所が苦手なんだよ……」
苦笑いしながらそう言うガウディーノさん。
「おい、早く乗れ。お前らがそうやってる限りダンジョンに向かえないんだぜ」
「ええーい、男は度胸だ!」
そう言って青い顔のまま乗り込むギディオンさん。
「おいっ、シーグヴァルド!」
「くっそー! ドワーフ魂見せちゃるわ!」
そう言って短い足でゴン爺の背によじ登るシーグヴァルドさん。
『それでは行くぞ』
その声とともに浮き上がるゴン爺。
そして……。
「ウォォォォォォッ」
「ウワァァァァァァッ」
その日、ロンカイネン郊外の平原には野太い絶叫が響き渡ったのだった。
区切りのいい所なので、来週は更新をお休みさせていただいて、再来週から更新再開とさせていただきます。




