第四百九十三話 ワニ肉のから揚げ&キノコクリームソースのワニ肉ソテー
何故か“アーク”の面々と一緒にダンジョンへ行くことが決まっていた件。
はぁ~、もうなんでこうなるんだよ~。
この街で借りている家へと向かう俺たち一行と“アーク”の面々。
俺以外は楽しそうにワイワイガヤガヤと盛り上がっている。
ガウディーノさんたち、フェルと意気投合してたのに、いつの間にか『どうでもいい』とか言っていたゴン爺とも仲良くなってるし。
しかも、念話が通じないはずのドラちゃんとスイともそれなりに仲良くなっているのが意味不明。
共通の話題のダンジョンって、そこまでさせるものなのかよ。
ってか、いつの間にか“アーク”の面々を家に泊めることになってたしさ。
フェルが、俺の用が済んだらすぐにダンジョンに向かうから、家に来いとかなんとか言ってすんなり決定。
ガウディーノさんたちもダンジョンに付いていく気満々だから、断らないんだもん。
冒険者ギルドでその話が出たときは、飯目当てのフェオドラさんなんか拳を突き上げてたし。
俺もカレーリナの街に来たら家に泊まってくれてもいいって言った手前、この街で借りてる家には泊めませんなんて言えないしさ。
まったく、なんでこんなことになってるんだよ~。
そもそもダンジョンなんて散々行ったじゃん。
ドランにエイヴリングに肉ダンジョンにブリクスト。
しかも、みんな踏破してるんだぞ。
十分だろうが。
それなのにまたダンジョンだなんてなぁ……。
俺以外は行く気満々で盛り上がっちゃってるし。
もうどうにでもなれって気分だよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まったくもう、みんないい気なもんだよ……」
只今キッチンでワニ肉を使った夕飯の準備中。
家に帰り着いた途端に、フェルが『よし、飯だ。景気付けにワニ肉を食うぞ』とか言い出してさ。
景気付けもなにも、最初っからワニ肉を食うつもりだっただろうに。
しかも、フェルってば“アーク”の面々に偉そうに『お前らにも食わせてやろう』なんて言うし。
ガウディーノさんとギディオンさんはノリがいいのか、それに対して「ゴチになりまっす」とか言っちゃうしさ。
シーグヴァルドさんも厳つい顔に笑みを浮かべて「馳走になるわい」とか言うし、フェオドラさんなんて小躍りしてたよ。
ゴン爺はゴン爺で『主殿の飯、心して食うんじゃぞ』とか言うしさ。
心してって、ゴン爺こそ最初っから俺の飯ガツガツ食ってましたけどねぇ。
ドラちゃんとスイだけは『ワニの肉ってどんな味すんだろな?』『楽しみだね~』なんてやり取りしてて、ほっこりさせられたよ。
まぁ、どのみち夕飯は作んなきゃならないからってんで、俺はそのままキッチンに直行してきたってわけ。
ダンジョンの話で盛り上がるだろうみんなから逃げてきたってもあるけどね。
ったく、なんでみんなあんなにダンジョンが好きなんだろうね。
一発当てればデカいんだろうけど、危険を冒してまでダンジョンに行きたがる気持ちが俺にはさっぱりわからんよ。
そんなことは置いておいて、みんながご所望のワニ肉料理を作っていきますか。
まずは味見だな。
タイラントブラックアリゲーターはどんな味なのやら……。
ワニ肉って鶏肉に似てるって聞くけど、実際はどうなのかね。
軽く塩胡椒をして焼いて試食してみた。
こっちに来てからヘビだのなんだの(というか、そもそもが向こうの世界にない魔物ってくくりだしね)食ってきたから、今更躊躇はしない。
ということで、パクリ。
「ふむ……。確かに鶏っぽい味だな。白身魚っぽくもあるし、なんにしろクセのない淡白な味わいだ」
“アーク”の面々もいるし、ここはオーソドックスな料理がいいだろう。
そうなるとやっぱりから揚げは外せないな。
前にも“アーク”の面々に振舞って大好評だったし、フェルたちもから揚げ大好きだからな。
から揚げでも、この肉ならば醤油ベースの味の方が合うかもしれない。
その代わりトッピングでマヨやレモン、七味、ネギソースなんかを用意しよう。
そうすれば、いろんな味変を楽しめるし。
あとは無難だけど、ソテーにするか。
割と淡白な味わいの肉だから、濃厚なクリームソースにしよう。
ソースの具にはキノコがいいな。
メニューが決まったら、まずはネットスーパーで買い物だ。
あれとこれとこれを買って…………、よし、OK。
準備ができたら、最初にやるのはから揚げの仕込みだな。
ワニ肉を切って、いつもの醤油ベースのタレに漬け込んでおく。
その間に、トッピングのネギソースとソテーの調理だな。
ネギソースは、超簡単。
ボウルにみじん切りにしたネギを入れて、そこにニンニクとショウガのみじん切り(瓶に入った市販のもので全然OK)、酢、醤油、水、砂糖、ゴマ油を入れて混ぜ混ぜ。
今回、酢は黒酢を使ってみたけど、まろやかな酸味でイイ感じだ。
ネギソースが出来たら、次はソテーだ。
まずは、クリームソースに使うキノコを切っていく。
シメジは石づきを切ってほぐして、マッシュルームは石づきを切って薄切りに。
それが終わったら、手のひら大に切ったワニ肉に少し切り込みを入れて、塩胡椒を振り軽く小麦粉をまぶしておく。
それを、熱したフライパンに油をひいて焼いていく。
両面がこんがり焼けて中まで火が通ったら、いったんワニ肉を取り出しておく。
思ったよりも脂が出なかったので、脂は拭かずにそのままのフライパンにバターを溶かしてシメジとマッシュルームを炒めていく。
シメジとマッシュルームがしんなりしたら、塩胡椒を振り軽く炒め合わせたところに白ワインを加える。
白ワインのアルコールが飛んだら、生クリームとチキンコンソメスープの素(顆粒)を加えてとろみがつくまで煮つめていく。
最後に塩胡椒で味を調えたらキノコのクリームソースの出来上がりだ。
今回はしないけど、粉チーズを加えてもより濃厚かつクリーミーになって美味いぞ。
あとはワニ肉のソテーを皿に盛って、たっぷりとキノコのクリームソースをかければ……。
「キノコクリームソースのワニ肉ソテーの完成!」
うむ、いい出来栄えだ。
孤独の料理人の恩恵で大量に作り上げたキノコクリームソースのワニ肉ソテーは、アイテムボックスに一時保管して、次はから揚げを揚げていく。
今回はカラッと二度揚げ。
中温で揚げたあと、仕上げに高温で揚げる。
どんどんどんどん揚げていき、黄金色のから揚げが積み上がっていった。
「こんなもんかな。よし、これで準備完了」
出来上がった料理をアイテムボックスにしまい、リビングで今か今かと夕飯を待っている食いしん坊カルテットと“アーク”の面々(というかフェオドラさん)の下へ。
「みんな、出来たぞ~」
大量に食うフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイにはそれぞれキノコクリームソースのワニ肉ソテーを盛った大皿とから揚げをこんもりと山のように盛った大皿を出してやった。
“アーク”の面々と俺には、キノコクリームソースのワニ肉ソテーの皿を個々に、から揚げは大皿に盛って好きなだけ取ってもらうようにして、ネットスーパーで大量に買ったバターロールも籠に盛ってこれも好きなだけ取ってもらうようにした。
から揚げのトッピングもレモン、マヨネーズ、七味、ネギソースをご用意。
「今日はタイラントブラックアリゲーターの肉を使ったから揚げとソテーです。どうぞ」
俺がそう言う前から、食いしん坊カルテットはガツガツムシャムシャ食い始めている。
『うむ。やはりから揚げは美味いな』
『こちらの白いのが掛かっている方も悪くないぞい』
『ああ。濃厚な味がワニ肉と合ってるな!』
『どっちも美味しいね~』
オーソドックスなメニューにして正解だったな。
「あ、そうだ。今回、から揚げには、いろいろかけて違った味を楽しめるようになってるからな」
『早くそれを言え!』
即行で一皿ペロリと平らげたフェルがそう言うが、どうせおかわりするじゃんか。
『おかわりだ!』
ほらね。
『よし、かけろ』
とりあえずイチオシのネギソースをかけて出してやったよ。
それを見ていた、ゴン爺とドラちゃんとスイも次々とおかわりと言うので、フェルと同じネギソースをかけたから揚げを出してやった。
そして、“アーク”の面々も実に美味そうに食っている。
最初は、タイラントブラックアリゲーターの肉と聞いて(高級過ぎて)ビビっていたようだけど、どうぞどうぞと勧めてようやく手を付け始めたよ。
某一名、食いしん坊エルフさんは、遠慮なくから揚げを山盛り取っていたけど。
そして……。
「みなさんにはこれですよね」
栓を抜いた瓶ビールを、ガウディーノさんとギディオンさん、そしてシーグヴァルドさんの前に置いた。
「おお、ありがたい! さすがムコーダさん。分かってるね~」
「ホントホント。ありがとな、ムコーダさん」
「く~、ムコーダさんの酒がまた飲めるとは、ありがたいもんじゃ」
3人ともめっちゃ嬉しそうだ。
今回は、俺自身も飲んでみたくて、リカーショップタナカでギフトセットになっている、ちょっといいやつを買ってみた。
いつもはアグニ様にお供えするだけだったけど、お客様もいるし、たまにはいいかなって思ってさ。
ちなみにフェオドラさんにはサイダーを渡してある。
フェルたちに注いでやっていたら、エルフのグルメセンサーが反応したのかジーッと見てくるんだもん。
だからフェオドラさんにも注いでやったよ。
早速サイダーを飲んで目をキラキラさせてたけどね。
「ク~、美味い!」
「美味すぎる! ってかよう、俺たちがいつも酒場で飲んでる酒は何だったんだろうなぁ」
美味そうにビールを飲むガウディーノさんとギディオンさんを見て、俺もビールを飲んでみる。
おお、確かに美味い。
香りもいいしコクがある。
たまにはこういうビールもいいかも。
「プッハ~、美味い! もう一本!」
「おいおい、飲むのが早いぜシーグヴァルド」
「しょうがないじゃろ! このビールは美味すぎるわい!」
「確かに美味いけどさ~、美味いからこそ、もうちっと味わって飲めよ」
「しっかりと味わっとるわい。酒を味わいながらたくさん飲むのがドワーフっちゅうもんじゃい」
「まぁまぁまぁまぁ。どうぞ」
シーグヴァルドさんに追加のビールを出してやる。
「おお、すまんのうムコーダさん」
受け取ったビールを早速グビリと飲むシーグヴァルドさん。
しかし……。
「みなさん、ビールばっかり味わってますけど、ビールの最高のお供のから揚げがなくなっちゃいますよ」
俺がそう言うと、ガウディーノさん、ギディオンさん、シーグヴァルドさんの視線がから揚げの皿へと注がれる。
中央に置いてあった皿に山盛りにあったから揚げは、既に半分以下になっていた。
「おーいっ、フェオドラっ、お前食い過ぎだ!」
「そうだ! つうか両手持ちで食うのは反則だろ!」
「そうじゃそうじゃ、お前は一人で食い過ぎじゃわい!」
三人の突っ込みにも動じないフェオドラさんは、両手に持ったフォークに突き刺したから揚げを交互に何食わぬ顔をして食っている。
「あーもうっ、美味いものを目の前にしたフェオドラに何を言っても無駄だ。全部食われる前に、俺たちも食うぞ」
競うようにから揚げを食い始めたちょっと子どもっぽい“アーク”の面々に笑ってしまう俺。
そんな感じで、いつもより賑やかで楽しい夕飯の時は過ぎていったのだった。




