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第四百九十二話 傍迷惑な意気投合

「ドラゴンを新たに従魔にしたって噂、マジだったんだな……」

 俺たち一行を見て、ガウディーノさんが遠い目をしながらそんなことをつぶやいた。

 そんなに現実逃避しなくてもいいと思うんだ。

「しかも……」

 そこで言葉を止めたギディオンさんが前後左右を確認してから、小声で「古竜(エンシェントドラゴン)、なんだろ?」と確認するように聞いてくる。

「ええ、まぁ」

 そこまで察知していたか。

 まぁ、皆さんAランク冒険者だしね。

 情報には敏感か。

「まぁ、ムコーダさんじゃからな……」

 なにそれ。

 そんな理由で納得しないでよ、シーグヴァルドさん。

 フェオドラさんまで無言のまま頷いているし。

「えーと、そうだ! フェルたちは皆さんのこと覚えてるだろ?」

 その場を誤魔化すように、話を変えてみた。

『うむ。確か、ダンジョンで出会った人間どもであろう』

『そうそう。覚えてるぜ』

『ご飯も一緒に食べたー』

 フェルとドラちゃんとスイは、“アーク(箱舟)”の面々を覚えているようだ。

「それでですね、みなさんと出会った後に新しく従魔に迎えたのが、このゴン爺です」

 微妙な空気の中、勢いで“アーク”の面々にゴン爺の紹介をする。

『儂は主殿以外はどうでもいいんじゃがのう』

「ちょっとゴン爺、そういうことは言わないの!」

 ほらぁ、“アーク”の面々が口元ヒクつかせてるじゃんか。

 最年長なんだから、もうちょっと空気を読んでよー。

 さらに微妙な空気になっちゃったじゃないか。

 どうすんだよ、これ。

 えーと、えーと……。

「そ、そうだ、な、中で落ち着いて話しませんか?」

 やっと思いついたのがこの言葉。

 俺たちは、冒険者ギルドの中に併設されている食事処で話をすることになったのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 注文したぬるいエールを飲みながら、早速話し始める。

「で、ムコーダさんは何でこの街に?」

「ええとですね……」

 ガウディーノさんの問いに、かくかくしかじかと魔道コンロが壊れた経緯と、それを新調しにこの街へとやってきたことを話した。

 もちろんルバノフ教総本山を潰したことは内緒だ。

「“ウラノス”とはねぇ」

「また、とんでもない所に行ってたんだな……」

「まぁ、ムコーダさんたちならありっちゅうことじゃろうて」

 ガウディーノさんもギディオンさんもシーグヴァルドさんも、呆れたようにため息をついてから言うのやめてくれませんかね。

 俺は断固拒否してたんだから。

「ムコーダさん、そういやブリクストのダンジョンも踏破したんだよな?」

 ギディオンさんがそう言うと、ガウディーノさんとシーグヴァルドさんが「そうだ、その話もあったな」と頷いている。

「ええ。フェルたちの強い希望でブリクストのダンジョンへ」

 みんな三度の飯と同じくらいにダンジョンが好きだからね。

 皆さんからいただいた転移石が大活躍でしたよ。

 ハハハ……。

 苦笑いしながらみんなを見ると、ご機嫌でカニクリームコロッケをパクついていた。

 俺たちがエールを注文したときに、フェルに念話で『我らにも何か出せ』と強請(ゆす)られて、冒険者ギルドの中ということもあり、あまり匂いの強いものも出せずに、保管してあった料理の中で一番匂いの少ないカニクリームコロッケを出すハメになったのだ。

 虎の子で残しておいたってのに……。

 ちなみにだが、フェオドラさんも俺たちの話そっちのけでご機嫌にカニクリームコロッケをパクついている。

 フェルたちにカニクリームコロッケを出していたら、フェオドラさんが指をくわえてめっちゃ食いたそうに凝視してくるんだもん、無視できないじゃん。

 ま、それはいいとして、俺たちのことよりもガウディーノさんたちのことだよ。

「皆さんこそ、どうしてこの街に?」

「俺たちは護衛だよ、護衛」

 ガウディーノさんの話によると、俺たちと別れた後しばらくエイヴリングのダンジョンで探索を続けていたそうだ。

 そこで、そこそこの成果もあげて、そろそろ他の街へ移ろうかと考えていたところに、顔見知りの商人からの依頼があり、この街までの護衛任務に就いたそうだ。

「しばらくこの街で活動するんですか?」

「それがなぁ……」

 渋い顔で歯切れが悪いガウディーノさん。

「俺たちパーティーは水系の魔物とは相性が悪いんだよ」

 ギディオンさんが代わりにそう答えた。

 なるほどね。

 この街での冒険者の活動の場と言えば、エレメイ川ってことになるもんな。

「苦戦するほどのこともないじゃろうが、それ以外にも、この街はあまり治安が良くないと聞くしのう」

 そう言いながら、隣でご機嫌にカニクリームコロッケをパクつくフェオドラさんをチラリと見るシーグヴァルドさん。

 あぁ~、その仕草だけで何となく想像ついた。

 孫もいるフェオドラさんだけど、見た目だけはピッチピチの美人エルフだもんなぁ。

 治安がよろしくない場所だと、それだけで面倒ごとに巻き込まれそうだ。

「ということは、違う街へ移動するってことですか?」

「そう考えてはいるんだけど、次にどこにするかがいまいち決まらなくてなー」

「王都やドランはどうかって話もでたんじゃが、儂らにとっちゃどうも新鮮味に欠けるっちゅうかのう」

「そうそう。もう何回も行ってるしな~」

 ガウディーノさんもギディオンさんもシーグヴァルドさんも思案顔だ。

「そうだ! 参考に聞くが、ムコーダさんたちはこの後どうするんだ?」

 思いついたようにギディオンさんがそう聞いてくる。

「俺たちもこの街での用は済ませたので、明後日くらいには家に戻ろうかなって考えています」

 一番の目的だった魔道コンロも無事手に入れたし、明日パパッとお布施&寄付を済ませて、明後日にはカレーリナに向けて出発できたらいいかな。

 んん?

 3人とも不思議そうな顔してるけど、俺の答えおかしかった?

「「「家?」」」

 不思議そうな顔をしている3人の声がハモる。

「ええ。皆さんと別れた後に、カレーリナの街で家を購入したんです」

「マ、マジか……」

「拠点持ちかよ……」

「うらやましい限りじゃのう……」

 3人のうらやましげな視線にちょっぴり優越感。

 冒険者で持ち家があるってのは、さすがに少ないか。

 これも何だかんだ言いつつ稼いでくれるうちのみんなのおかげだね。

「そうだ、皆さんもカレーリナに来ませんか? 部屋が余ってるくらいなので、宿は家を使ってもらってかまわないですし。カレーリナは良い街ですよー」

 “アーク”のような高ランク冒険者パーティーがいることは、その街の冒険者ギルドはもちろんのこと、街にとっても良いことなので勧誘してみる。

 いつも世話になっているカレーリナの冒険者ギルドのギルドマスターへ、ほんのちょっとだけど恩返しにもなるしね。

「カレーリナか~。そういやいつも通り過ぎるだけで、落ち着いて街に滞在したことはないな」

「考えてみりゃあ確かに」

 そんなことを言い合うガウディーノさんとギディオンさん。

「うむ。カレーリナの街、いいかもしれんな! そうしようぞ! ムコーダさんもいるしのう」

 シーグヴァルドさんはもろ手を挙げて大賛成だ。

 何故かフェオドラさんもコクコクと何度も頷いている。

 というか、フェオドラさん一応話は聞いてたんだね。

「まったくお前らは欲望に忠実だな~」

「本当だぜ。シーグヴァルドはムコーダさんが美味い酒持ってるからだし、フェオドラはこれでムコーダさんの美味い飯にありつけると思ってるんだぜ」

「バレてるか。しかしのう、ムコーダさんに飲ませてもらった美味い酒はなかなか忘れられんぞ。あれは本当に美味かった」

 そう言ってシーグヴァルドさんは腕を組んで目をつむり、酒の味を思い出しているようだ。

「美味しいご飯、最高!」

 俺も聞いたことのないしっかりとした声でそう言うフェオドラさん。

 ホント、欲望に忠実過ぎるこの二人に思わず苦笑いだ。

 ま、酒と飯くらいなら、出してやるのもそれほど苦ではないけどね。

 そんなことを“アーク”の面々と話していると……。

『おい、家に帰ると言っているようだが、我らは帰らんぞ』

「え? フェル、何言って……」

『主殿、そういうことじゃ。儂もフェルから聞いたのじゃがのう』

「そういうことじゃって、ゴン爺まで何言ってんの?」

『我らが今から向かうのは、ダンジョンだ』

「…………は? いやいや、俺、聞いてないし」

 この後の予定は、家に帰るものだと思ってたぞ。

「おいおいムコーダさん、どうなってんだ?」

 話の流れに困惑している“アーク”の面々。

 困惑しているのは俺も同じだ。

 だってダンジョンに行くなんて聞いてないし。

『ヒャッホ~! 話では手付かずのダンジョンなんだよな。めっちゃ楽しみ~』

『ダンジョン、ダンジョン♪ ダンジョンはスイにおまかせ~♪』

 ドラちゃんとスイも知っていたらしく、念話で聞こえてくる声がめちゃくちゃ楽しそうだ。

 ……ん?

 ちょっと待て、手付かずのダンジョン?

 ……………。

「あーーーっ!」

『フハハ、思い出したか。この前の街で聞いた話だ。手付かずのダンジョンなどという面白い話、我が忘れるわけがなかろうが』

 くっそー、思い出した!

 ブリクストの街でお布施&寄付巡りをしたときに、戦神ヴァハグン様の教会で聞いた話!

 群雄割拠の小国群にある手付かずのダンジョン話だ。

『ここから近いのだろう? その小国群とやら』

 二ヤリと笑みを浮かべたように鋭い歯を見せて、俺に詰め寄るフェル。

 行く気満々じゃん、こいつ~。

 ゴン爺も面白そうだと思っているのか全く反対してないし、ドラちゃんとスイに至ってはもう楽しみでしょうがないって感じだ。

「小国群のダンジョンか」

「しかも手付かずのダンジョン」

「お宝が眠ってそうじゃのう」

「美味しい食材があるかも」

 “アーク”の面々は、俺とフェルたちとの会話で話の内容を理解したようだ。

 しかも、冒険者魂が(うず)いたのか(若干フェオドラさんだけ方向性がアレだけども)、“アーク”の面々も目を爛々と輝かせている。

『ふむ、お主らも分かるか』

 偉そうに“アーク”の面々にそう聞くフェル。

「ええ。手付かずのダンジョンとは、非常に面白そうですね」

 そう言うガウディーノさんに、ギディオンさんもシーグヴァルドさんもフェオドラさんも同意している。

『お主らも我らに付いてくるか?』

「いいのですか?」

『此奴の知り合いだろう? それならばかまわん』

「それでしたら、是非ご一緒させてください」

『我も入ったことのないダンジョンだ。心して付いてこいよ』

「望むところです」

『フハハハハハ、楽しみだ』

「ハハハハハハ、本当に」

 ちょっとちょっとちょっと、なに意気投合しちゃってるんだよ!

 というか、“アーク”の面々、即決ってどういうことだよー!


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― 新着の感想 ―
従魔達にとってはもはやダンジョンはハイキングや遠足感覚レベルですね
基本ムコーダさん以外の人間には興味無さそうなフェルが誘うとは珍しい。それだけ手付かずのダンジョンが楽しみなのかな?
食いしん坊カルテットにとっては美味い飯食いながら大暴れ出来るダンジョンは最高だろう ドラッグストア解放したし高い栄養ドリンクをアークに飲ませれば過酷な場所でも大丈夫そうw
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