第四百九十一話 討伐報酬と買い取り代金の受領&思いもよらない再会
昨日は、フェルの宣言通りにエレメイ川でカニ獲りだった。
みんなして大きくなったスイに乗って、エレメイ川を一日がかりで探索しまくった。
その甲斐あってか、3匹のバーサクマッドクラブの捕獲に成功。
さすがに4トントラックの大きさとはいかなかったけどね。
3匹ともあれよりも一回り小さい個体だ。
まぁ、それでも、見つけること自体難しいカニを3匹確保できたから、みんな満足げだったけどね。
川魚も追加で手に入れることができたから、俺としても悪くはなかった。
ただ、一日中川の上っていうのは、めちゃくちゃ疲れたけどね。
みんなを乗せてがんばっていたスイには申し訳ないけど、やっぱり地に足を着けるってのが一番安心だよ。
そんなわけで、本日は昼近くまでゆっくりと過ごし、しっかりと昼飯を食ってから冒険者ギルドへと向かう。
ちなみに昼飯は、ダンジョン豚を使った豚テキ丼だった。
本当は、エレメイ川で獲ったナマズに似た魚のエレメイメガロドラスのフライでもと思っていたんだけど、食いしん坊カルテットの『肉!』とのリクエストで変更した。
中濃ソース、醤油、酒、みりん、砂糖、おろしニンニクで作った甘辛ダレを纏った肉と米だ。
食いしん坊カルテットの本領発揮と相成って、追加で大量に作るハメに……。
新しい魔道コンロも大いに役に立ってくれたよ。
ま、それは置いておいて、今は冒険者ギルドへ向かう道中。
もちろん、暇していたみんなも一緒にくっついてきている。
俺の両脇を、スイを乗せたフェルと、ドラちゃんを乗せたゴン爺がのっしのっしと歩いている。
当然のようにサーッと人が引いていく。
しょうがないことではあるんだけど、でもさ……。
さすがに「狼さんとドラゴンさんだよ~。さわってみたいなぁ」なんて言ってる子どもの母親が「シッ、見ちゃダメ!」って言っているのを見たときは、なんとも言えない気持ちになったわ。
見た目は怖いけど、フェルもゴン爺も何より食い気が勝る気の良い奴らなんだけどねぇ。
そうこうしているうちに、冒険者ギルドが見えてきた。
『ワニの肉か。楽しみだのう』
ゴン爺……、笑ってるのかもしれないけど、牙が見えて周りの人たちが怯えてるから止めなさいって。
『うむ。今夜はワニの肉だな』
フェルも同じく。
『ワニの肉は俺も初めてだから楽しみだわ』
『楽しみだね~』
ドラちゃんとスイははしゃがないの。
周りの人たち、今度は困惑してるじゃん。
周囲へとカオスを振りまきながら、冒険者ギルドへ、そそくさと入っていく俺たち一行だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今回の依頼の討伐報酬ですが、バーサクマッドクラブが金貨200枚、ケルピーが金貨135枚、タイラントブラックアリゲーターが金貨170枚となります。買い取りの方は……」
ギルドマスターの部屋でオーソンさんから、今回の依頼の討伐報酬と買い取り代金の説明を受ける。
全部で金貨650枚とのこと。
ケルピーの皮とタイラントブラックアリゲーターの皮がいい値段になったみたいだ。
そして、例によって、ここも金貨より上の貨幣で支払いということに。
「それでは、こちらです。ご確認を」
オーソンさんから麻袋を受け取った。
中にはここ最近よく見るようになった大きめの金貨がジャラジャラと入っていた。
その大きめの金貨を取り出して数えていく。
1、2、3、4…………、大金貨で65枚、確かにあるね。
本当は金貨の方が使いやすいけど、白金貨でもらうよりはまだマシだ。
あれは本当に使いどころがないというか、限られてるからな。
というかさ、最近はこれくらいの金額じゃあ驚かなくなってきたってのがなんとも言えないね。
ハハ……。
「はい。大金貨65枚、間違いなく」
そう言って、大金貨を麻袋に入れなおす。
それから、ちょっと気になっていたことを聞いてみた。
「あの、バーサクマッドクラブを怒らせた貴族の冒険者っていうのは、まだこの街にいるんですか?」
質の悪そうな貴族のボンボンみたいなので、この街にいるようだったら関わらないようにしないといけないからね。
まぁ、フェルたちもいるから滅多なことにはならないだろうけど、真正のバカだと何をするかわからないところがあるからさ。
集り教団の方たちのような前例もあるし。
「いえ、面倒ごとはこちらに押し付けて、さっさと出ていかれましたよ」
オーソンさんがハァッとため息をつきながらそう言った。
うわぁ、それはご愁傷様。
と言っても、件のバーサクマッドクラブについてはもう片付いてはいるんだけどね。
でもまあ、面倒くさそうなのがいないと知ってちょっとホッとした。
「ムコーダさん、それであのバーサクマッドクラブは……」
オーソンさんが遠慮がちにそう聞いてきた。
バーサクマッドクラブの殻に随分とご執心の様子だったから、気になるんだろうね。
でも……。
「みんなで美味しくいただきました。茹でて食べたんですが、すっごく美味かったです」
『うむ。あれは悪くない。悪くない味だった』
『予想以上に美味かったのう、あのカニは。追加で3匹獲れたのは運が良かったわい』
『美味かったな、カニ!』
『カニさん美味しかった~』
俺の言葉を聞いて、みんなも美味かったと口にする。
ドラちゃんとスイは念話だから、さすがにオーソンさんには伝わらないけど、フェルとゴン爺の言葉は声に出ていたから聞こえているはずだ。
「本当にあれを食べてしまったのですか……。しかも、茹でて……」
そう言って肩を落として気落ちするオーソンさん。
「え? 茹でたらダメでした?」
「あの殻は、加工前に熱を加えると脆くなってしまう性質なのです……。あれは殻に価値があるので、身を食べようとするものなどいなかったのに……」
いや、そう言われても。
てか、熱を加えると脆くなるのか。
硬いって聞いていたのに、どうりで俺でもバキバキと割れたわけだよ。
しかし、オーソンさん、そんな気落ちしなくてもよくない?
他にも冒険者はいっぱいいるんだから、そのうち手に入るでしょうよ。
そんなことを考えていると、オーソンさんが急に何かを思い出したようにハッと顔を上げた。
「さっき、追加で3匹捕獲したとおっしゃっていましたよね?!」
「え? ええ、まぁ」
確かに追加で3匹獲ったけども……。
「それを是非とも買い取らせてください!」
「えーと……」
チラリとフェルたちの方を見る。
『ダメに決まっているだろうが』
『そうじゃ。皆で食うために獲ったのだからのう』
フェルとゴン爺がそう声に出す。
フェルとゴン爺に拒否られて、またもや肩を落とすオーソンさんだった。
うちにとってはあのカニ、完全に食用ですからねぇ。
苦笑いしながら肩を落とすオーソンさんと別れて、俺たち一行は倉庫へと向かった。
そこで、タイラントブラックアリゲーターの肉と皮の一部を受け取り、本日の予定は完了だ。
後はとくにやることもないんだけども……。
「通りの店でも覗いていくか」
『賛成! 美味そうな屋台があったら頼むぜ!』
『うむ。たまに美味そうな肉があるからな』
『む、そうなのか? それなら儂も食ってみたいのう』
『スイもお肉食べるー!』
何故か屋台巡りになる予感。
まぁいいけどね。
そんなことをみんなと念話で話しながら冒険者ギルドを出たところで……。
「ムコーダさん?」
名前を呼ばれ、声のした方を見ると、懐かしい顔ぶれがいた。
「みなさん、どうしてここに?!」
俺の目の前にいたのは、バスタードソードがよく似合うガウディーノさん、ハリウッド俳優並みのイケメンのギディオンさん、ウォーハンマーを携えたドワーフのシーグヴァルドさん、そして金糸の髪に翠の目をしたものすごい美人エルフのフェオドラさん。
エイヴリングのダンジョンで出会ったAランク冒険者パーティー“アーク”との再会だった。




