第四百八十九話 新・魔道コンロ
朝飯を食い終わり、みんなでリビングでまったり。
オーソンさんとの約束の日は明後日だから、今日はゆっくりして明日は目的だった魔道コンロを買いにいこうかなと考えている。
そう考えていたんだけど……。
『よし、狩りに行くぞ』
「ちょっとフェル、唐突になに言ってんの」
『昨日のカニ、美味かっただろう』
「ああ。確かに美味かったけど?」
『あと数匹確保しておけば、また楽しめるだろう』
『おお、それは良いのう!』
『確かに! あのカニ、また食いたいもんな!』
『スイもカニさんまた食べたーい!』
フェルの提案にゴン爺もドラちゃんもスイも大乗り気だ。
だけどここは譲れないよ。
「ダメダメ。今日はこの街に来た一番の目的を果たそうと思ってるんだから」
『『『『この街に来た一番の目的ー?』』』』
ったく、みんな忘れてるのかよ。
「魔道コンロだよ、魔道コンロ!」
俺がそう言って、ようやくみんな思い出したようだ。
ベヒモスに壊されて使い物にならなくなった魔道コンロ。
これがないと不便で仕方がない。
「俺たちにとっては必需品なんだぞ。飯の作り置きはしてるけどさ、旅先とか狩りに行った時に手持ちが尽きたり、あれ食いたいこれ食いたいってなったときは、作る道具がなきゃあなんともならないんだから」
ちょくちょく作り置きはしているものの、食いしん坊カルテットの大食いの前には心もとないのが実情。
魔道コンロがあれば、その場で作ることができるから安心感も違うんだよね。
『むぅ、飯が作れなくなるだと?』
「そうだよ。この街に来る前だって多めに作り置きしてきたし、今は街にいるからなんとかなるけどさ、これが旅の途中で森の中だったらどうなる? そこで作り置きが尽きたら、そこで飯を作るってなるだろ?」
『まぁ、そうなるな』
『そうじゃなぁ』
『そうしなきゃあ、俺ら飯にありつけないじゃん』
『ご飯食べられないのはイヤー』
「だろ。それにはやっぱり魔道コンロが必要になるわけよ」
『大事ではないか』
フェルが怒ったようにそう言う。
「いやだから、さっきからそう言ってるじゃん。魔道コンロは俺たちにとって必需品なんだって」
『カニどころではないな。その魔道コンロとやらの方が先だ。皆もいいな』
フェルがそう言うと、ゴン爺、ドラちゃん、スイも承知する。
『カニは魔道コンロとやらを手に入れてからだ』
『そうだのう』
『だな』
『分かったー』
みんな、カニは諦めてないのね。
まぁ、魔道コンロが先っていうのは分かってくれたからいいけどさ。
ということで、街へレッツゴー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔道コンロを買いに行こうということになったわけだが、この魔道具屋がどこにあるのかさえわからんってことになった。
で、こういうときこそ商人ギルドとなり、商人ギルドに寄って魔道具屋のことを聞いてみた。
探しているのが大きい物だから、そのことも伝えると、それだけのものを扱っているとなるとやはり大店ということになって、この街でベスト3の魔道具屋を紹介してもらった。
もちろん場所もバッチリ聞いたから、近場から順に行こうということになった。
まず最初の店は、ヴァルドネル魔道具店だ。
この道をまっすぐ進んで、二つ目の角を左に曲がったらすぐの店だって言ってたな。
みんなでヴァルドネル魔道具店を目指して通りを歩いているんだけど……。
サーッと人が引いていくよ。
そんなにピッタリ壁際に寄らなくてもいいのに。
初日のことがあったから、街の人たちにはフェルとゴン爺とドラちゃんとスイが俺の従魔だっていうことは知れ渡っているようだけど……。
俺の両脇を固めるでっかいお供たちを横目でチラリ。
『何だ?』
『何じゃ主殿?』
「いや、別に……」
巨大狼とドラゴンだもんなぁ。
ビビられても仕方がないか。
騒ぎにならないだけまだマシってことなのかも。
そんなことを考えながら歩いているうちにヴァルドネル魔道具店へ到着。
「ここだな」
『儂たちはここで待っていようかのう』
店の中にいろんな商品が所狭しと並んでいるのを見てか、ゴン爺がそう言うとフェルたちも同意したのか早速店の前で横になっている。
邪魔かもしれないけど勘弁してもらうしかないな。
「なるべく早く戻ってくるから」
そう言い残して店の中へと入っていくと、すぐに店員さんがやってきた。
「どのようなものをお探しですか?」
「えーとですね、魔道コンロを探しているのですが……」
今まで使っていた魔道コンロのスペックを説明して、それと同等かそれよりも上のものを探していることを伝えた。
すると、店員さんが困り顔に。
「そこまでのものになると、通常は特注になるのですが……」
やっぱそうなるかぁ。
ドランで買ったときだって、店に置いてはあったものの最新式ってことで客寄せの目玉商品みたいな扱いだったようだし。
店員さんの話では、ヴァルドネル魔道具店で今のところ在庫があるのは、人気のある二口の魔道コンロのみ。
それ以上のものになると、オーダーメイドになるそうだ。
その注文の受付もしているが、出来上がるまでには1年近くかかるとのことだった。
その話を聞いて、こりゃあダメだと店を出た。
「はい、みんな起きて。次の店に行くよ」
『随分と早かったな』
「んー、あの大きさの魔道コンロはないって話でなぁ。次の店で見つかればいいけど……」
フェルたちを引き連れて、次の店であるリゴーニ魔道具店へと移動。
しかし、リゴーニ魔道具店での反応も芳しくなかった。
最初のヴァルドネル魔道具店と同じで、売れ筋の二口の魔道コンロが主流で、それ以上のものはオーダーメイドになるということだった。
どうしよう……。
こりゃあ王都に行かないとだめなのかな。
それでもなければ、時間はかかっても特注で作るしかないってことだよな。
うーむ……。
いろいろと考えてしまうが、ないものは仕方がない。
最後の店であるアルファーロ魔道具店に望みをかけるしかない。
この店は、商人ギルドから紹介してもらった3つの店の中でも一番の大店らしいから期待できる。
というか、お願いだからあってくれと祈るような気持ちで、みんなとアルファーロ魔道具店へと向かった。
「ここか……」
ゴクリ。
確かに今までで一番大きな店だった。
「それじゃあみんなはここで待っていてくれ」
フェルたちを残して、俺は店の中へと入っていった。
すぐに来てくれた店員さんに、欲しい魔道コンロのスペックを伝える。
すると……。
店員さん満面の笑み。
「お客様、幸運でしたね! なんと今でしたら、お聞きした魔道コンロを超える性能のものがありますよ!」
「ホントですか?! 是非、見せてください!」
勢い勇んでそう言うと、苦笑いしながら店員さんが現物が保管されている倉庫へと案内してくれたのだった。
そこにあったのは、業務用でもなかなかないんじゃないかと思うほどの大きな魔道コンロだった。
今まで使っていた魔道コンロよりも一回りデカい。
何よりこっちは六つ口もある。
それに……。
「オーブンが2つもついている!」
興奮して思わず叫んでしまった。
「ええ。そうなんです。これならコカトリスの丸焼きを2つ同時に作ることも可能なのですよ!」
店員さんのセールストーク。
「上のコンロも最大限に使えば、ご自宅での大人数のパーティーにも対応できますよ」
うんうん、これだけあれば料理も大量に作れるね。
うちにピッタリというか、まるでうちで使うために作られたような魔道コンロだよ。
もうこれは買うしかないでしょ、というか絶対に買う!
「これ、買います! ください!!」
俺の勢いに押されている店員さんだったが、遠慮がちに「お値段をまだお伝えしていないのですが、よろしいので?」と聞いてきた。
「一応、Sランク冒険者なので金はあるんです」
うちの従魔ズが稼いでくれるからね。
この魔道コンロは、フェルたちみんなの飯を作るために必要な大切なものなんだから、みんなに正しく還元されていると言えるよな。
「Sランク冒険者様ですか。これは失礼いたしました。では、この魔道コンロのお値段ですが……」
この魔道コンロのお値段は、なんと金貨1200枚。
高いけど、このスペックなら納得の値段かな。
前の魔道コンロだって金貨860枚したんだから。
代金はもちろんその場でお支払い。
魔石はサービスでつけてくれたよ。
ニコニコ現金一括払いで、店員さんもホクホク顔だ。
「お届けはどういたしましょうか?」
「あ、アイテムボックスがあるので大丈夫です」
そう言って、手に入れた魔道コンロをアイテムボックスへとしまった。
これで安心。
しかも、こんな良い魔道コンロが手に入るなんてなぁ。
終わり良ければ全て良しってね。
「しかし、普通なら特注品なのに、よくありましたね~」
「実はですねぇ……」
気が緩んでおしゃべりになった店員さんから聞いた話によると、この魔道コンロは元々はお貴族様からの特注品だったらしい。
それが、もう少しで出来上がるという寸前になって、違うスペックにしたいと言い出したらしいのだ。
本来ならば、特注品ということで全額支払ってもらうのが筋なのだが、「品はまだできていないではないか」との鶴の一声で泣く泣く店側が支払うハメに。
物が物だけに、店主含め従業員も不良在庫になる他ないのかと思っていたそうだ。
そこに俺が登場してお買い上げというわけだ。
店としちゃあ災難だったけど、俺としては本当に幸運だった。
去り際には、店員さんが「ありがとうございました!」って深々と頭下げていたよ。
店の外に出ると、フェルとゴン爺とドラちゃんとスイがお待ちかね。
ちょっとソワソワしてるよ。
ま、飯を作るのに必要なもんだって散々言ったからね。
『それで、どうだった?』
「バッチリ。今までのよりも良いのが買えたよ」
『おお~、それは良かった。主殿!』
『よっしゃ! これで美味い飯がいつでもどこでも食えるぜ!』
『美味しいご飯~』
みんなも嬉しそう。
『よし、ちょうどいい。飯にするぞ』
『うむ。いい考えだのう』
『ちょうど小腹も空いてきたところだしな』
『ご飯にする~』
盛り上がる食いしん坊カルテット。
「まったくもう。でもまぁ、試運転ってことでよしとするか」




