第四百八十七話 オーソンさんへ依頼完了報告
連休中は胃の調子が悪くて筆が進まなかった……(汗)
なので短めです。
来週はがんばります。
「は? も、もう一度言ってもらえますか?」
オーソンさんからの依頼を終えた俺たち一行は、冒険者ギルドに来ていた。
窓口で、オーソンさんを呼んでもらって依頼を終えた旨を報告したのだが、聞いた途端にポカンと口を開けて唖然としてしまった。
そして、この発言だ。
「だからですね、バーサクマッドクラブにケルピー、それからタイラントブラックアリゲーターの討伐が完了しました」
「三つとも、ですか?」
「はい」
「本当に?」
「ええ」
余程信じがたいのか、念を入れて確認してくるオーソンさん。
「現物を確認してもらった方が早いですし、買い取りもお願いしたいのですが……」
そう言うと、ハッとしたオーソンさんに「そ、そうですね」と、俺たちにとっては冒険者ギルドではお馴染みの倉庫へと案内される。
そして……。
「それじゃあまずは、バーサクマッドクラブを」
そう言って、倉庫の空いている場所にバーサクマッドクラブをアイテムボックスから出してドドンと置いた。
「…………」
無言のまま見上げるオーソンさん。
「あの、これはみんなで食う予定なので、このまま持ち帰ります」
「は? 食う?!」
食う予定だと聞いて、オーソンさんが目を剥いた。
ここら辺の人たちは食わないのかな?
「茹でると美味いらしいんですよ」
「いやいや、ちょっと待ってくれ。茹でるって、バーサクマッドクラブの殻は鎧にしても良し盾にしても良しの一級の素材なのだぞ!」
オーソンさんの話では、バーサクマッドクラブの殻は何やら職人が手を加えればさらに硬くなって、鎧や盾にすれば相当の値打ちものになるそうだ。
素材が殻だけに大方の金属よりも軽いうえに、革よりも硬くそれこそ魔鉄に匹敵するほどの硬さを誇るバーサクマッドクラブの鎧や盾は、高ランク冒険者がこぞって買い求めるような代物らしい。
そんなわけで、是非とも買い取らせてほしいとオーソンさんから熱心に説得されたけれど……。
「うちの場合は、何よりも“美味い”が優先されるので」
『そうだ。こいつは食うぞ。殻などどうでもいい』
『うむ。美味いと聞いて、食うのを楽しみにしていたからのう』
『そうだぞ。それを横からかっさらうのは許さないからな!』
『カニさん食べるのー!』
食いしん坊カルテットからの圧力にタジタジだ。
「そういうことなので。確認だけお願いします。このバーサクマッドクラブはご依頼のもので間違いないですか?」
「は、はい。この大きさ、依頼した個体で間違いないです」
「それでは、確認していただけたので回収させていただきます」
バーサクマッドクラブをアイテムボックスへと回収すると、オーソンさんから「ああ~」と未練タラタラの声が上がった。
まったく、そんな声出さないでくださいよ。
これは、俺たちの中では食うことが決定済なんですってば。
こればっかりは覆りませんよ。
「次はケルピーです」
水棲の馬、ケルピーをアイテムボックスから取り出した。
バーサクマッドクラブほどではないが、このケルピーも普通の馬(と言っても、こっちの馬は競走馬なんかに比べても一回り大きいくらいなのだが)の1.5倍はありそうな大きさだ。
「これマズイらしいので、このまま買い取りをお願いします」
俺がそう言うや否や、オーソンさんがすぐさま職員に指示をして、ケルピーを移動してしまった。
そんなに急がなくても、うちじゃ必要ないものだから回収はしないのに。
オーソンさん曰く「ケルピーから取れる素材は皮くらいしかないが、その皮も貴重ではありますからな」とのこと。
みんなが敬遠することもあって、なかなか出回らないのだそうだ。
しかしながら、ケルピーの皮は水を弾くという性質から、馬車の幌に最適で、商人からの引き合いも多いのだという。
なるほどねぇ。
「最後は一番の大物、タイラントブラックアリゲーターです。これは肉が美味いみたいなので、肉はこちらでいただきたいと思います。それから皮も少し」
皮は、ランベルトさんへのお土産にいいかと思って少し持ち帰ることにした。
それに、自分用にもね。
会社員時代にワニ革の小物が欲しいなって思ったことがあったんだけど、高額過ぎて断念したのを思い出してさ。
素材が手に入ったんだから、作ってもらうのもアリかなって思って。
「承知しました。それでは、依頼の報酬と買い取り代金ですが……」
オーソンさんの話では報酬の方はすぐに用意できるが、買い取り代金に関しては査定等に2、3日はかかるとのことだった。
なので、まとめて3日後にということにしてもらった。
何せ、さっきから食いしん坊カルテットからの念話がすごいのだ。
『まだか?』とか『早く』とか『早くカニ食いたい』とかね。
極めつけは、スイからの『あるじー、お腹空いたよぉ~』という悲しそうな声。
これは急がねばと、オーソンさんと3日後と話をまとめて、俺たち一行は冒険者ギルドを後にした。
早く早くと急かされて、俺はフェルの背に乗り、ドラちゃんとスイはゴン爺の背に乗って、メインストリートを爆走中。
フェルとゴン爺が並んで走っているものだから、人でごった返しているはずの通りもおのずと道が開けていく。
その一方で、俺の頭の中で考えを巡らせていたのは、バーサクマッドクラブの茹で方だった。
鑑定で“茹でると美味い”と出たからには、茹でて食うのは絶対だもんなぁ。
となると、やっぱり細かく切って茹でていくしか方法はないか。
でも、切ると旨味が逃げて水っぽくなりそうでどうも気が進まない。
何かうまい方法はないものか……。
『あるじー、カニさん楽しみだね~』
スイの呑気ともいえる念話が入ってくる。
『はは、そうだねー……。あ』
スイと話して思い出した。
そういやドランのダンジョンでだったか、キラーホーネットっていうハチの魔物の巣を大きな水の球の中に閉じ込めるってやり方で倒したことがあったな。
それを応用すれば、もしかしたら……。
『フェル、ゴン爺、思いついたことがあるから、街の外に出てくれ』
『む、カニを食うために戻るのではないのか?』
『そのカニを茹でるためには外じゃないとダメなんだよ!』
『フェル、主殿がそう言うのであれば向かった方がいいじゃろう』
『カニが食えるなら何でもいいよ。腹が減って死にそうだぜ~』
ドラちゃんの言葉が引き金になったのか、みんなの腹が一斉に鳴った。
『絶対に美味いカニを食わせるのだぞ!』
フェルのその言葉とともに方向転換して、再び俺たち一行は街の外へと繰り出したのだった。
~倉庫にいた職員たちの話~
職員A「な、なぁ。あの冒険者、あんな大きい魔物を入れて、どんだけアイテムボックスの容量があるんだ?」
職員B「しかも、バーサクマッドクラブにケルピー、タイラントブラックアリゲーターを次々と出してたぞ」
職員C「シーッ! バカッ、あのSランク冒険者を話題にしたらダメだって言われてるだろ!」
職員A「そりゃあそうだけど、あの人そんな慎重にするほどか?」
職員D「あの冒険者の人はたいしたことなさそう見えるけど、連れてるのフェンリルと古竜って話だからな」
職員A、B「「ゴクリ、そ、そうだった……」」
ムコーダ「聞こえてるんだけど……。というか、冒険者ギルド内で俺ってアンタッチャブルな扱いなの?」




