第四百八十三話 ロンカイネン到着
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俺たち一行は、ロンカイネンの街の手前の草原に降り立った。
「けっこう早く着いたな」
『儂が飛べばこんなもんじゃわい』
例によって朝飯をたっぷりと食い、食休みも十分にとってから、ロンカイネンの街に向かってルバノフ神聖王国と小国群との国境の森を飛び立った俺たち一行だったが昼前には着いてしまった。
『おい、何か来たぞ』
パタパタと飛んでいたドラちゃんが、街の門前からやって来る集団にいち早く気が付いた。
『む、やるか?』
物騒なことを言い出すフェル。
『ビュッ、ビュッてやっつけていいのー?』
ほらぁ、真似してスイも物騒なこと言い出しちゃったじゃん。
「ちょっとフェル、物騒なこと言わないでよ。あれ、この街の兵士でしょうよ。スイも手を出したらダメだからね」
こちらに向かってくる同じような鎧を着て槍を手にした集団は、その装備を見る限りこの街の兵士に間違いなさそうだ。
ロンカイネンの街へ向かうことは、冒険者ギルドにもちゃんと報告してあるんだけど、何だろうね……。
下手に動いて事を荒立てても面倒なだけだと思って、兵士たちが来るのをその場で待った。
「あ、あなたはSランク冒険者のムコーダさんで間違いないですか?」
やってきた兵士の集団の一人がそう聞いてきた。
「そうですけど……」
「では、こちらへ」
そう促されて、とりあえず大人しく付いていく。
すると、兵士たちが俺たち一行の周りをぐるりと囲み始める。
そして、そのまま移動。
えーと、何かな?
キョロキョロしていると兵士の一人が「みなさんを冒険者ギルドまでお送りします」と答えてくれた。
「えーと、俺たちだけで大丈夫ですけど……」
そう言ったのだが、返ってきた返事は「職務なので」という言葉。
うーむ、上からのお達しなんだろうか……。
フェルもゴン爺もドラちゃんもスイも、周りを囲む兵士たちに干渉されていると感じたのか、ブツブツ文句を言っていたけど、何とか大人しくしてもらうようになだめすかした。
そして、移動している間に兵士たちにいろいろと聞いてみた。
彼らは、俺たちが降り立った場所に一番近い北門を預かる第四兵団の兵士たちとのこと。
はっきりとは言わないけど、彼らの話を総合するとこんな感じらしい。
冒険者ギルドから、俺たち一行がロンカイネンの街にやって来るという通知があり、街の治安を守る彼ら兵団もてんやわんや。
なにせ一緒にやって来るのはフェンリルに古竜なのだから。
フェンリルはまだしも(まれではあるが、冒険者のテイマーがウルフ系の魔物を連れていることもあり、実際にこの街を訪れていたこともあったという)、さすがにドラゴン連れでは、住民たちが大騒ぎすることになる。
そう考えた上役たちは、どうせ来てしまうならばとこういう形をとったらしい。
そして、所属している冒険者ギルドへと送り届けたあとは、そちらで責任を持てよということのようだ。
確かに兵士に囲まれての移動ならば、住民たちも何だろうという気持ちにはなれど大騒ぎはしないだろう。
まぁ、気持ちは分からなくもないけど、個人的にはいつものように俺が「従魔ですから! 大丈夫ですから!」と叫びながら練り歩くのとあんまり変わらない気がするけどね。
兵士たちの間から垣間見えるロンカイネンの街の様子は、ヨーロッパの雰囲気を残したカレーリナや今まで訪れたことのある街々とはずいぶんと違う。
小国群との国境の街ということもあるのか、雑多な雰囲気もあってどこか東南アジアの街を思い起こさせる。
治安があまりよくないとは聞いているけど、見た感じは面白そうな街だ。
ゆっくり見物して回るのいいかも。
もちろん安全は確保しつつね。
そうこうするうちに、ロンカイネンの冒険者ギルドに到着。
「ようこそロンカイネンの冒険者ギルドへ! お待ちしておりましたぞ!」
俺たち一行は、居合わせた冒険者たちの視線を一手に受けながら、俺たちの到着を待ちかねていたらしい、中肉中背で白髪交じりの髭を蓄えたダンディな風貌のギルドマスターの歓待を受けたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では、さっそくですがお願いしたい案件がありましてな……」
早々に冒険者ギルドの2階にあるギルドマスターの部屋に連れてこられた俺たち一行。
フェルと小さくなっているとはいえ、フェルと同じくらいの大きさのゴン爺がいるため、部屋の中はぎゅうぎゅう詰め状態だ。
ちなみにフェルの頭にはスイが、ゴン爺の頭の上にはドラちゃんがいる。
デカブツなフェルとゴン爺をよけつつ、俺がイスに座った途端に、ギルドマスターから早くも依頼の話が飛び出した。
うーん、この街には魔道コンロを買いに来ただけなんだけどなぁ。
まぁ、各ギルドで滞ってる案件をなるべく受けてくれってカレーリナのギルドマスターからも頼まれてるから、別にいいけどね。
ロンカイネンのダンディなギルドマスター(オーソンさんというそうだ)の話を聞いていくと……。
ここロンカイネンの街は小国群との国境も近く、貿易で成り立っている街と思われがちだが、街の近くには、エレメイ川という大河があり、その川の恵みの一大産地でもあるのだという。
特に冒険者はその恩恵を一番受けているといっても過言ではなく、この街の冒険者の多くはエレメイ川の魔物を狩って生活しているのだそうだ。
そのエレメイ川だが、大河だけに時には厄介な魔物が棲み着く場合もあるわけだ。
要はそれらの討伐の依頼というわけだ。
「今問題になっているのは、ケルピーにタイラントブラックアリゲーター、そしてバーサクマッドクラブです」
ケルピーっていうのはあれだろ?
水生の人食い馬。
タイラントブラックアリゲーターは名前からしてワニの魔物で、バーサクマッドクラブはカニの魔物か。
「特にバーサクマッドクラブについては、すぐにでも依頼できれば……」
オーソンさんが申し訳なさそうにこちらを見ながらそう言った。
『おい、あれは普段は大人しいものだぞ。手を出したのか?』
フェルはバーサクマッドクラブを知っていたのか、そんなことを口にした。
オーソンさんは、フェルがしゃべったことに少しビクリとしたものの、さすがギルドマスターというか、顔色を変えずそのまま会話を続ける。
「自分の実力も測れない大馬鹿者がいましてね……」
苦々しく思っているのか、オーソンさんの顔が歪む。
詳しく聞くと、道楽で冒険者登録した貴族の四男坊がBランク冒険者を侍らせて、バーサクマッドクラブに手を出したらしいのだ。
バーサクマッドクラブはCランクの魔物で、普段は川底の泥の中にいて大人しいものなのだが、攻撃すると激怒して暴れ回るのだという。
その状態になると、個体によってはAランクの魔物にも匹敵する強さなのだそうだ。
そして、その激怒状態は長いと1か月以上も続くらしく……。
「今日で20日目なのですが、まだまだ収まる気配がないのです」
そのことがあって、冒険者たちの活動にも支障が出ていて、「早いところ討伐を」とギルドもせっつかれているようだ。
また悪いことに、件のバーサクマッドクラブはかなり大きな個体で確実にAランク以上の強さがあるという。
「Aランクの冒険者パーティーに依頼を出そうにも、間が悪いことに皆、出払っているところで……」
そんな切羽詰まったところに、俺たち一行がこの街に来たというわけか。
そりゃあ、お鉢が回ってくるわけだ。
「で、どうする?」
フェルたちに念話で聞いてみる。
『まぁ、いいだろう。あれは美味いからな』
『そうなのか? 美味いなら問題ないのう』
『俺もー』
『スイもいいよー』
美味いと聞けば、食いしん坊なほかの面々も問題ないらしい。
「分かりました。バーサクマッドクラブの討伐依頼お受けします」
俺がそう言うと、オーソンさんはホッとした表情を浮かべた。
しかし、思い出したかのように「ケルピーとタイラントブラックアリゲーターの方はどうでしょう?」と聞いてくる。
そういや、そっちもあるんだな。
ケルピーは、Bランクの魔物でここにいる冒険者でも対応できるパーティーもいないわけではないらしいのだが、取れる素材が皮くらいしかなく、苦労の割には実入りが少ないということで、誰もやりたがらないらしい。
しかしながら、神出鬼没のケルピーの犠牲者も少なからず出ているため、こちらも放置できない案件となっているそうだ。
タイラントブラックアリゲーターは、Sに近いAランクの魔物で凶暴ではあるが、巨体のため姿を確認しやすいことと、無闇に近づかず距離を置いてさえいれば逃げることも可能ということもあって犠牲者はそれほど出ていない。
そのため、バーサクマッドクラブやケルピーほど緊急性はないものの、Sに近いAランクの魔物ということで、依頼するにしてもそれなりの高ランクパーティーとなってしまい、延び延びになっていた案件なんだそうだ。
要は、俺たちを逃すと討伐がさらに延び延びになる恐れもあり、できれば討伐をお願いしたいということだった。
「ケルピーとタイラントブラックアリゲーターはどうする?」
『水生の馬か。あれはとてつもなく不味いんじゃがのう……』
渋い顔をしたゴン爺がそう声に出してしゃべるが、フェルで耐性がついていたのか、オーソンさんは今回はビクリともしなかった。
『うむ、確かにあの馬は食えたものではないな。だが、黒ワニは皮は固いが身はなかなかの味だぞ』
フェルがゴン爺にそう答える。
『確かに。あの黒ワニはまぁまぁの味じゃったな』
ゴン爺はそう言って目を瞑りながら黒ワニことタイラントブラックアリゲーターの味を思い出しているようだ。
というか、フェルもゴン爺もケルピーとタイラントブラックアリゲーター食ったんだな……。
君ら本当に何でも食ってるよね。
さすがご長寿勢。
『へ~、フェルもゴン爺もそういうんなら、まぁまぁ美味い肉なんだろうな。興味が湧くな』
『スイも食べてみたいなぁ~』
まぁ、そうなるよねー。
『仕方ない、黒ワニのついでに水生の馬も狩ってやろう』
『異議なしじゃ』
『俺もそれでいいぜ』
『スイもいいよ~』
フェルとゴン爺は声に出してしゃべっていたため、それを聞いていたオーソンさんもホッと息をついて笑みを浮かべていた。
その後、この街での拠点としていつものように商人ギルドへ行こうと思い、オーソンさんに場所を聞くと、5軒隣ですぐ近くなので付いていってくれることに。
「私がいた方が、対応も早いでしょうから」
オーソンさんが言うには、貿易の街とも言えるロンカイネンの商人ギルドは年中混み合っているとのことで、下手をすると何時間も待つことになりかねないとのこと。
そういうことなら、確かに冒険者ギルドのギルドマスターであるオーソンさんが一緒ならば、すぐさま対応してくれるだろう。
依頼を受けるんだし、これくらいの恩恵はいいよね。
まぁ、実際の戦闘はフェルたち任せなんだけども。
そんなことを考えながら、俺たち一行はオーソンさんと共に商人ギルドへと向かったのだった。