第四百八十二話 たまにはそんなこともあるさ
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それから特典情報も公開になりましたので活動報告にてどうぞ。
ルバノフ教総本山が瓦礫と化して大騒ぎとなった隙に、さっさととんずらしてきた俺たち一行。
フェルたちのたっての希望で、次の予定地であるロンカイネンの街へと向かう前に腹ごしらえをするために、ルバノフ神聖王国に向かう前に立ち寄ったルバノフ神聖王国と小国群との国境の森に再び降り立った。
「はぁ~、無事かどうかはさておき、なんとか終わったな……」
『あの程度では消化不良だがな』
『うむ。フェルの言う通りじゃな。主殿に言われて、自慢のドラゴンブレスも使えなかったしのう』
フェルもゴン爺もたったの一撃であっさり終わってしまったことに不満気のようだ。
「ゴン爺がドラゴンブレスなんて放ったら、辺り一面焦土になるぞ。だいたいさ、フェルとゴン爺が全力を出したら国そのものがなくなっちゃうだろうが」
『それはそれでいいだろう。どうせろくな国ではなかったのだからな』
「そう言うなって、フェル。デミウルゴス様もお仕置きって言ってたんだから、あのくらいがちょうどいいんだよ」
『でもよ~、あの程度の建物を壊す程度なら、俺たち全員でかからなくてもよかったんじゃねぇか?』
「そりゃあドラちゃんの言う通りかもしれないけど。まぁ、そこはみんなで仲良く共同作業した方がいいんじゃないかなぁって」
だって、誰か一人にやってもらったら、それはそれで文句タラタラになるでしょうよ君たち。
『ビュッビュッてもっとやりたかったなぁ~』
ハァ、スイまでそんなこと言うんだから……。
『まぁいい。そのロンカイネンという街の後には、我らが楽しめる場所に向かうからな』
『ん? そんな予定あったかのう?』
『俺らが楽しめる場所ー?』
『フェルおじちゃん、そうなの~? 楽しみ~』
「おいおい、フェル、どこに向かうつもりなんだ?」
『ククク、まぁ、楽しみにしておれ』
ちょっと、フェル、何なのその含みのある言いぶり。
とんでもなく嫌な予感しかしないんだけど。
とてつもなく不安だ……。
その後フェルに問い詰めようとしたけど、腹が減ったみんなに急かされて、飯の用意をしなければならなくなった。
作り置きしてきたダンジョン豚のネギ塩豚丼で遅い昼飯をたらふく食ったフェルたちは、今度は食後の運動に狩りに行くと言い出して……。
ちょうどいいことに森の中にいるのだから狩りに行かない手はないだろうということらしい。
フェルたちはあれよあれよという間に意気揚々と狩りに出かけてしまい、フェルの発言を問い詰めようとしたのも有耶無耶になってしまったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まったく、消化不良だからって早速狩りに行っちゃうんだもんな、みんな」
フェルが楽しめる場所に向かうなんて含みのある事言ってたから、なら狩りなんて行かなくてもいいじゃんと思ったけど、それはそれ、これはこれなんて言ってさっさと行っちゃうんだから。
時々聞こえてくる不気味な鳴き声にビクつきながらも「フェルの結界があるし大丈夫だろう」と言い聞かせる。
「しかし、やることがないな。ネガティブ思考になるのは暇だからってのもあるのかも。うーむ……、カセットコンロしか使えないけど、夕飯の用意がてら料理でもするか」
はて、何を作ろうか……。
「そうだ、目をつむってアイテムボックスに手を突っ込んで……」
アイテムボックスの中をまさぐりつつ一つの肉塊をつかむ。
「よし、この肉だ!」
つかんだ肉を取り出してみると、ブリクストのダンジョンでしこたま手に入れたギガントミノタウロスの肉だった。
「ギガントミノタウロスの肉か、ふむ……」
ギガントミノタウロスの肉を抱えながらしばし考える。
「決めた。ニラと合わせて炒め物にしよう」
甘辛い味付けにして丼にすれば食べ応え抜群。
腹ペコで帰ってくる食いしん坊カルテットにもうってつけだろう。
「メニューが決まったら、ネットスーパーで足りない材料の買い足しだな」
ネットスーパーを開くのも、もはや手慣れた作業だ。
ささっと画面を開いて、ニラをカートに入れて精算すると、すぐに段ボールが現れる。
「よし、材料が揃ったな。そうしたらまずは……」
ギガントミノタウロスの肉を適度な厚さの一口大に切っていく。
焼き肉用の肉って言えば分かりやすいかな。
あれくらいの厚さと大きさだ。
なにせこの料理自体、俺が一人焼肉をしたあとに残った焼き肉用の肉を使った定番料理だしね。
ま、それは置いておいて、次はニラを4、5センチくらいの長さに切っていく。
あとは、切ったギガントミノタウロスの肉に軽く塩胡椒をして片栗粉を薄くまぶしたら、醤油、酒、みりん、砂糖、すりおろしニンニクとすりおろしショウガ(チューブ入り)を混ぜ合わせておく。
「よし、下準備はOK」
フライパンにゴマ油を熱してギガントミノタウロスの肉を投入。
肉の色が変わってある程度火が通ったところに合わせ調味料を入れて全体にからめたら、ニラを入れてさっと炒め合わせて出来上がりだ。
味見で一口。
「うん、白米が進む味だね。間違いない」
あとはカレーリナで作り置きしておいた土鍋で炊いた熱々の白飯を器によそって、その上に炒めたものをたっぷりかければニラとギガントミノタウロスの肉の甘辛炒め丼の完成だ。
食いしん坊なみんなのお代わりの分を含めて大量に丼を作り、アイテムボックスに一時保管する。
「調理自体は簡単だったから、まだ時間がありそうだな」
ということでもう一品。
といっても、これはストック用に。
前に作って残っていたコカトリスのひき肉を使って、肉そぼろを作ろうかなと思う。
スイに手伝ってもらって作ったダンジョン豚とダンジョン牛の合いびき肉で作った肉そぼろはカレーリナで作ってきたけど、鶏系の肉そぼろのストックはないからね。
あと、肉だけのそぼろもいいけど、今回はいろいろと野菜も入れて具だくさんでと思って。
完全に俺好みだけど、美味いからいいだろう。
まずは、具だくさんというからには、その具材の用意だ。
タマネギ、ニンジン、ピーマン、シイタケ、タケノコの水煮をネットスーパーで購入。
あとはそれらをみじん切りにしていく。
具材を切ったら、あとはフライパンで炒めていくだけ。
フライパンに油を熱して、コカトリスのひき肉を炒めていく。
ひき肉の色が変わって火が通ってきたら、タマネギ、ニンジン、ピーマン、シイタケ、タケノコのみじん切りを入れて炒めていく。
タマネギ、ニンジン、ピーマン、シイタケにある程度火が通ったら、醤油、みりん、酒、砂糖、すりおろしショウガ(チューブ入り)を入れて、水分がなくなるまで炒めていけば出来上がりだ。
これも味見でパクリ。
「うん、これも上々の出来だな」
これは粗熱をとって特大タッパーに入れて保存だ。
うちの場合は、特大タッパー1つじゃなくて何個分もだけどね。
肉そぼろって作っておくと、めっちゃ便利なんだよね。
もちろんそのまま白飯の上にかけてもいいし、オムレツの具にしてもいいし、ひき肉チャーハンの具にしても美味い。
「ストック用にもっと作っておかないとな」
俺は4つのカセットコンロを駆使して、コカトリスの具だくさん肉そぼろを作っていった。
肉そぼろの入った最後の特大タッパーをアイテムボックスにしまうと同時に日が傾き始める。
「もうそろそろフェルたちも帰ってくるかな……」
ストックしてある缶コーヒーを飲みつつみんなの帰りを待った。
ちょうど缶コーヒーを飲み終えるころに、夕暮れ時の空に浮かぶゴン爺の姿が。
「おかえり。どうだった?」
目の前に降り立ったみんなに声をかけるが、どうも表情が芳しくない。
『この森には美味い肉の魔物がまったく見つからなかった』
『マイコニドやらマンイーターやらトレントやら……。ロクなのがおらんかったのう』
フェルもゴン爺も憮然とした様子。
『そうそう。そんでよ、やっと見つかったと思ったら、しょうもない小物なんだから嫌になったぜ』
『むー、お肉とれなかった~』
ドラちゃんもスイも不満顔。
「ということは珍しく成果ゼロってことか。ま、たまにはそういうこともあるさ。夕飯用意してあるから、食って元気出せ」
そう言いながら、みんなにニラとギガントミノタウロスの肉の甘辛炒め丼を出した。
『うむ、とんだ無駄足だったからな。美味い飯でも食わないとやってられん』
そう言って憮然とした顔のフェルがガツガツ食い始める。
『やはり主殿の飯は美味いの~。嫌な気分も晴れるわ』
出した途端にバクバクと食い始めたゴン爺は、口をモグモグと動かしながらそんなこと言っている。
『うんうん、これ美味いな! ったくよー、これくらい美味い肉が獲れればよかったんだけどな。次だ次! 次は美味いの獲るぜ!』
『これ美味しいー! スイも次は美味しいお肉とるんだー』
ニラとギガントミノタウロスの肉の甘辛炒め丼を美味そうに頬張りながら、もう次の狩りのことを考えているドラちゃんとスイ。
『やはりこの屈辱は……で晴らすしかないな…………』
口の周りをペロリと舐めながら、鋭い目つきで何事かつぶやいているフェル。
ちょっと~、フェルがずっとはっきり言わないまま何かを企んでる風なんだよなぁ。
ニラとギガントミノタウロスの肉の甘辛炒め丼を頬張り、フェルに胡乱な目を向けながら「お願いだから変なこと言い出さないでくれよな~」と心の中で願う俺だった。