第四百八十話 フェルもゴン爺も自信満々だったのに……
皆さま、あけましておめでとうございます。
今年も「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をよろしくお願いいたします!
俺たち一行は、ルバノフ神聖王国と小国群との国境に広がる深い森の中に留まっていた。
というのも、朝にカレーリナの街を発ち、その日の夜にはルバノフ神聖王国へとたどり着くことは可能ではあったのだが、夜にルバノフ教総本山を潰しても目撃者が少なくなるんじゃないかと思ってね。
そうなると効果がイマイチになりそうだし。
やっぱり、こういうことは目撃者が多数いることで絶大なインパクトを与えられると思うんだ。
そういうことから、みんなと話し合ったうえで、この森で一泊して、翌朝、ルバノフ教総本山に乗り込むことに決まった。
『そうと決まれば腹ごしらえだ』
『うむ。明日の大一番に備えてな』
『たらふく食って備えるべし、だな!』
『スイもいっぱい食べる~』
「そんなこと言ってるけど、明日に備えてって、みんながいっぱい食うのはいつものことじゃん」
毎食毎食たらふく食ってて何言ってんだよって感じだぞ。
それに……。
「どうせ明日の朝飯だって腹いっぱいに食うつもりなんだろ?」
『何を当たり前のことを』
『当然じゃな』
『ま、明日の朝は明日の朝だもんな』
『明日もいっぱい食べるよ~』
君らみんな潔すぎだからね。
たまには遠慮してくれてもいいんだよ。
って、食いしん坊カルテットには無理か。
そう思って苦笑いしながら夕飯の用意をしていく。
とは言っても、カレーリナで作ってきたからアイテムボックスから出すだけなんだけどね。
今回の件、フェルたちがどうにかされるなんてことは万が一にもあり得ないだろう。
けど、演出上、みんなにはちょっとした小芝居を打ってもらうことになっているのだ。
人語がしゃべれるフェルとゴン爺の役割は特に重要。
そこで、ゲン担ぎにとこれを作ってきた。
「はい、カツ丼」
フェルたち専用の深めの大皿に盛った特盛カツ丼をみんなの目の前に置くと、待ってましたとばかりに勢いよくかっ込んでいる。
やっぱり勝負飯っていったらこれだよねぇ。
『主殿、このカツ丼というのも美味いのう!』
そう言いながらガツガツとカツ丼を食うゴン爺。
そういやカツ丼、ゴン爺には初めて出したのか。
揚げたてのトンカツ(オークの肉だから正確に言うならオークカツって言うんだろうけどさ)の衣に染み込んだ甘辛い割下とそれを包むふんわりトロトロの卵……。
うん、間違いない美味さだよね。
うう、見ていたら涎が口の中にあふれてきた。
俺も食おうっと。
俺用に作ってきたカツ丼に箸をつけた。
「カツ丼、やっぱ美味いなぁ」
一口食った後はかっ込むように豪快に食っていく俺だった。
………………
…………
……
『ふぅ~。カツ丼、美味かったぞ、主殿』
『うむ。悪くはないな。ただ、我は肉だけの方が好きだがな』
『トンカツか。確かにあれも美味いよな~』
『スイはね、どっちも好きー』
カツ丼をたらふく食って夕食を終えたみんながコーラを飲みながらそんなことを口にしている。
フェルはあんだけ食ってて何が『我は肉だけの方が好きだが』だよ。
明日に備えてなのか、いつにも増して食欲旺盛な食いしん坊カルテットに、しこたま作ってきたカツ丼が足りなくなるんじゃないかと途中何度も焦ったんだからな。
「はいはい、トンカツも用意してあるから、明日の朝に出してやるよ」
俺がそう言うと、みんな嬉しそうにしている。
もちろん、俺は別口であっさり朝食メニューだけどね。
食いしん坊カルテットには朝から肉食は当然の話で、肉であればどんな調理方法であろうがドンと来いだもんね。
だから、朝から揚げ物でも無問題。
みんなの胃袋ってどうなってるんかねぇ、ホント。
あ、スイには胃袋自体がないけどさ。
明日の朝みんなに出す予定の山盛りのトンカツを想像して胃がムカムカしてきた。
それを抑えるように、愛用のマグカップに入ったブラックコーヒーを一口すすった。
明日の朝食のことは置いておいて、それよりも……。
「フェル、ゴン爺、明日の手はずというか、口上は大丈夫なんだろうな?」
カレーリナからここまでの移動中に、念話を使ってみんなとは散々打ち合わせをした。
演出上、強者が前面に出る方がより説得力があるということで、メインはフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイで、俺はゴン爺の背に乗って伏せて隠れている予定。
フェルとゴン爺は特に重要な役どころだ。
『フン、当然だ。我は風の女神ニンリル様の眷属なのだぞ。それに創造神デミウルゴス様というのは、ニンリル様の上位の神なのだろう? さすればニンリル様の顔に泥を塗るような真似はできん。任せておけ』
そう言って自信満々なフェル。
『儂とて大丈夫じゃぞ。そのくらい造作もないことよ』
ゴン爺も自信満々だ。
「ならいいけど……。ドラちゃんもスイも明日はよろしくな」
『おうよ!』
『スイ、がんばるよ~』
ドラちゃんとスイはともかく、フェルとゴン爺は本当に大丈夫だろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝からトンカツをドカ食いして準備万端な食いしん坊カルテットとともにルバノフ神聖王国へと入った。
そして、ついにルバノフ教総本山の教会が目の前に。
正直、教会がどこにあるのかなんて知らなかったけど、ゴン爺がバッチリ知っていた。
曰く『目立つから良い目印になるんじゃ』とのこと。
その目立つ教会の前にある広場に降り立ったわけだが……。
元の大きさに戻ったゴン爺が余裕で降り立つことができたことからも、相当の広さがあるのが分かる。
その広場を見渡すように造られた建物も相当なものだった。
ゴン爺から目立つとは聞いていたけど……。
「これが、教会?」
予定通りにゴン爺の背中に待機中だが、そこから見た教会は城かと見紛うほどにデカかった。
なにせこの巨大なゴン爺よりもさらにデカいのだから。
しかも、細部にまで拘っていることが一見してわかるくらいに金がかかっていそうな造りをしていた。
窓枠一つとっても細やかな細工がなされて、正に贅を尽くした仕様だ。
教会の豪華さに唖然としていた俺だが、そこかしこから悲鳴や怒声が聞こえてきてハッと我に返った。
それと同時に、教会の中からピカピカの白銀の鎧を着こんだ騎士たちがワラワラと出て来るのが見える。
「けっ、穢らわしい魔物め! 我ら聖騎士隊が成敗してくれる!」
中央にいたひときわ豪華な鎧を着こんだ騎士がそう叫んだ。
『穢らわしい、だと? フェンリルであるこの我に向かって。小賢しい人間どもめ、細切れにしてくれるわっ』
フェル、激おこ。
『細切れなど生易しいわい。古竜である儂を穢らわしいなどとほざきおったのだからのう。儂のブレスで跡形もなく消し去ってやるわ』
ゴン爺も激おこ。
今にも攻撃しそうなフェルとゴン爺に焦りながら念話を送った。
「フェ、フェル~、堪えてくれ! 昨日、任せておけって言ってたでしょ!」
『むむ、し、しかしなっ』
「ゴン爺もだぞ! 造作もないって言ってたじゃん!」
『それはだな……』
「頼むよ~、流れがおかしくなるだろ。それにデミウルゴス様の出番もあるんだからな!」
デミウルゴス様がこのミッションの肝なのに、癇癪起こして攻撃しちゃったら元も子もないんだよ~。
「フェルもゴン爺もちゃんと予定通りにやってよ!」
『散々打ち合わせしたのに何やってんだよお前ら~。ダメダメだな』
『フェルおじちゃんとゴン爺ちゃん、ダメダメ~』
『ぐぬ……』
『ぐっ……』
あれだけ自信満々なこと言っておいてホントダメダメだよ。
ドラちゃんもスイももっと言ったれ。
「とにかく、フェルもゴン爺も予定通りの口上を言ってくれよな! ちゃんとやってくれないと今晩の夕飯はないかもよ!」
『わ、分かった』
『う、うむ』
夕飯ないかも発言が効いたのか、フェルもゴン爺も気を取り直して当初の予定通りに事を進めることにしたようだ。
『我は風の女神ニンリル様の眷属であるフェンリル。ニンリル様の上位神たる創造神デミウルゴス様の神託によりこの地に参った』
『儂は古よりこの世界を見てきた古竜。創造神デミウルゴス様の神託によりこの地に参った』
『『人間どもよ、創造神デミウルゴス様の声を聴け』』
フェルとゴン爺の口上が終わったところで……。
「デミウルゴス様、お願いいたします!」
俺は、思考の読めるデミウルゴス様に念話を送りバトンタッチしたのだった。
次はデミウルゴス様の出番。