第四十七話 フェルVSグリフォン
今日は46話、47話更新です。
『もうすぐグリフォンの縄張りに入るぞ』
フェルの言葉にドキッとする。
いよいよグリフォンの縄張りか。
入りたくねぇーなー。
「結界しっかり張っておいてくれよ」
『承知している。心配するな』
そうは言っても心配なんだよ。
何せグリフォンだからな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たちはグリフォンの縄張りの中にいた。
今のところグリフォンの姿は見ていない。
このまま姿を見ないままグリフォンの縄張りを通り抜けられたらいいんだけどね。
グリフォンの縄張りに入って3日目。
ついにグリフォンが姿を現した。
バサバサッと大きな翼を広げ俺たちの前に一匹のグリフォンが着地した。
俺はというと、驚きすぎて声が出せなかった。
目の当たりにしたグリフォンに正直チビリそうだ。
グリフォンはとにかくデカかった。
鷲の上半身とライオンの下半身をしたグリフォンは、フェルより一回り大きい。
そのデカいグリフォンがいきなり伏せて頭を下げた。
『フェンリルサマ、オネガイ、アリマス』
「しゃ、しゃべったッ?!」
人語を話す魔物はフェルくらいだと思ってたから驚いた。
スイは念話ができるけど、それだって俺と従魔契約を結んでいるからだろうし、フェルと念話できるのもフェルがスイと同じように俺の従魔だからだろう。
グリフォンもしゃべれるんだ……。
『グリフォンだから人語を話すわけではないぞ。このグリフォンは特別知能が高いのだろう』
「あ、そうなんだ」
『人語をよどみなく話せるのは我と古竜くらいなものよ』
なるほど。
『フェンリルサマ、イウトオリ、ヒトノコトバ、ハナセル、オレダケ』
じゃあ、人語を話すグリフォンはこのグリフォンだけなんだな。
『ムレノオサ、ナルタメ、シレン、オレト、タタカッテ、クダサイ』
んん?
グリフォンの群れの長となる試練としてフェルと戦いたいってことか?
『ツヨイ、フェンリルサマ、タタカウ、ミンナ、オレ、ミトメル』
強いフェンリルと戦うことで群れのみんなに長として認められるってこと?
へー、なかなか根性あるじゃねぇか、このグリフォン。
『よかろう。相手になってやる。だが、我は手加減はできんぞ』
『ワカッテル』
俺とスイは避難だ。
フェルの背から降りるとき、耳元で「殺すなよ」とは言ったけど、ピクッとしただけで返事はなかった。
手加減はできんとか言ってるし、あのグリフォン大丈夫かな?
いざと言うときはアレを使おう。
スイ特製上級ポーションだ。
でも、ペットボトル1本分しかないんだよな。
あの大きさのグリフォンでこれだけで足りるか心配だ。
『スイ、上級ポーション作ってもらえるかな?』
『ん、いいよー』
俺は念のために、ペットボトル1本分追加でスイ特製上級ポーションを作ってもらうことにした。
フェルとグリフォンが対峙する。
『では、行くぞ』
フェルのその声が合図となり、グリフォンが大きな翼を広げ上空に飛んだ。
そして、上空にいるグリフォンから無数の黒い矢のようなものが発射された。
フェルはそれを踊るようにかわしていく。
グリフォンから発射された矢をよく見ると、それは羽だった。
相当硬いのか、転がっていたバレーボール大の石も粉々に砕けている。
「おおっ、すげぇ……」
今度はフェルが上空にいるグリフォンに向かって魔法を撃つ。
あれは風魔法か?
上空のグリフォンの周りに小さい竜巻が発生している。
グリフォンが竜巻に巻き込まれて錐揉み状態に……。
しかも竜巻には刃が仕込まれているようで(魔法自体がウィンドカッターの上位版て感じなのだと思う)竜巻がグリフォンの血で真っ赤に染まっていく。
あのグリフォン、ヤバいんじゃないのか?
「お、おい、フェルやり過ぎだっ」
『フンッ』
竜巻が収束して、グリフォンがドサっと地面に落下した。
俺はすぐさまグリフォンに近づいてスイ特製上級ポーションを振りかけた。
『手加減はできんと言ったはずだ』
そりゃそうだけど、限度ってもんがあるだろうが。
何あの竜巻、あんなエグイ魔法撃つなよな。
『ンン……』
グリフォンが目を覚ました。
「おい、大丈夫か?」
『アア……キズガ…………』
「ポーションを振りかけたから傷は大丈夫だと思うけど、痛いところはないか?」
『ヒトノ、クスリ……タカイ』
「ああ、それなら心配しなくて大丈夫だ。それより、大丈夫か?」
グリフォンの体は真っ白だった翼も含め全身が痛々しいくらいに血で真っ赤に染まっていた。
『ダイジョウブ、スマナイ』
ふー、良かった。
スイ特製上級ポーションがばっちり効いたみたいだな。
ペットボトル2本分使い切った甲斐があるぜ。
『ナニモ、デキズニ、マケタ……』
そう言ってグリフォンがガックリ項垂れた。
グリフォンもフェルに敵うとは思ってなかったみたいだけど、手も足も出ないで負けるとは思っていなかったんだろう。
何と言ってもボスキャラ級のグリフォンだし。
この世界でも強いと言われる魔物のはずだ。
それを魔法一つで完膚なきまでに負かすフェルって……本当に規格外だよなぁ。
ん?あれ?
フェルを見ていて気付いた。
「何も出来なかったってことはないぞ。ほら、あれを見ろ」
俺はフェルの前足の肩に近い部分を指した。
フェルの白銀の毛にうっすらと赤い血が滲んでいた。
「グリフォンの最初の一手で受けた傷だろう。伝説の魔獣フェンリルにちょこっとだけど傷を負わせたんだよ。そうなんだろ、フェル?」
『ぐぬぬぬ、悔しいがそうだ』
フェルの言葉を聞いてグリフォンがガバッと頭を上げた。
『オ、オレガ、フェンリルサマ二…………ピーヒョロロロロロロッ』
グリフォンがいきなり空に向かって鳴声を上げた。
上空を見上げると数十にもなるグリフォンがこちらに向かって飛んできている。
「う、うわぁっ、な、なんだッ?!」
1匹でも相当な威圧感のあるグリフォンが数十いる様は圧巻だ。
というかめちゃくちゃ怖い。
グリフォンの集団は、フェルと戦ったグリフォンの後ろに着地した。
そして頭を垂れた。
『オレ、オサ、ミトメラレタ』
おおっ、そうかそうか良かったな。
『フェルサマ、アリガト、ゴザイマシタ』
うんうん、こういうのいいね。
『ニンゲン、コレ、ヤル』
グリフォンが自分の羽を何枚か毟って俺によこした。
ポーションで傷を治したお礼かな。
グリフォンの羽だなんて高額アイテムっぽいな。
ありがたくいただきます。
『アト、ニンゲン、オマエハ、ツギココトオッテモ、タベナイ』
……うん、嬉しいような怖いような。
食べないってことは、グリフォンって人食いなんだな。
そんなん聞いて、二度とこんなとこ通るわけないだろ!
「フェル、さっさと行こうか」
『そうだな』
スイを鞄に戻し、フェルに跨った。
こんなところはさっさとおさらばだ。
ったく人騒がせなグリフォンだぜ。