第四百七十八話 集り教団がまた来た
木の伐採をして更地にする作業はつつがなく終わった。
いやぁ、魔剣、超役に立ったよ。
知ってるか?
魔剣でスパッと斬った木って、倒れずにそのまま自立するんだぜ。
それをすかさずアイテムボックスに収納。
ルークとアーヴィンの双子が木を1本伐る間に、残りは全部俺が斬った。
アホの双子は「俺らいらないじゃん」とか言っていたけど、「それでもいいけど、そうなると当然ご褒美はなしだな」って言ったら真面目にやりだしたけどな。
伐った木をスペースのある場所に出して、枝を払って適当な長さに切って積んでいく。
その作業の繰り返しだ。
魔剣があったから超ラクに作業が進んだよ。
俺の方はな。
アホの双子は自分たちが伐った1本を始末するだけでヒーヒー言ってたけどね。
木の幹の方は薪になるとして、葉っぱのついた枝の方は処分しないとダメかなって思ってたけど、農村出身だった双子曰く「葉っぱが落ちてある程度乾けば、それも十分薪として使える」とのことだったから、一か所に集めておいた。
切った木の根っこは、それこそ力がないと抜けそうにないので、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの従魔ズを招集。
フェルとゴン爺は力業で引っこ抜いて、ドラちゃんは土魔法で根元の土を柔らかくしてから抱え込んでスポンと引っこ抜いていた。
スイは分裂体を出してジュワッと溶かしていたよ。
ドラちゃんの土魔法を見て、なるほどと思い俺も挑戦。
根っこという異物の周りの土だけ柔らかくするというのがなかなか難しかったけど、なんとか俺も一つだけは処理できた。
他はフェルたちみんなが軽く処理してたけどね。
その根っこも様子を見に来たテレーザによると、乾かして土を落として薪に使うとのことだった。
できるだけ無駄にはしないその精神、見習うところだよ。
最後に、根っこを抜いた所を土魔法で均して作業終了。
ルークとアーヴィンの双子には、ご褒美にワインとビールを1本ずつ渡した。
自分たちには? って顔をしていたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイには、おやつとして不三家のケーキをご馳走したよ。
まぁ、そんな感じで木の伐採と更地にする作業は無事に終わった。
その後は、魔道コンロのことはあったけど、治安が悪いと聞いているロンカイネンに行こうとは思えず、まぁ急ぐ必要もないかとまったり過ごした。
途中、いつものごとく狩りに行きたいと騒ぐみんなのために、日帰りできる近場に狩りに行ったりもしつつの2週間。
今日は久々に商店街を覗いてみようかななんて考えながら、コーヒーを楽しんでいると……。
ドンドンドンドンッ―――。
「ムコーダさんっ」
焦ったようにドアを叩く音と俺を呼ぶペーターの声。
急いで玄関に向かいドアを開けた。
「どうした、ペーター?」
「い、今、ルバノフ教の奴らが来てっ」
「ルバノフ教?!」
確かにブリクストの街でルバノフ教と揉めたけど、あれは完全にあっちが悪い。
それはいいとして、この街にルバノフ教の教会はなかったはずだ。
この国でルバノフ教の教会があるのは王都だけだと聞いていたけど、まさかわざわざ王都くんだりからここまでやってきたってことか?
「バ、バルテルが今一人で門を守ってるっ。すぐにムコーダさんとタバサとルークとアーヴィン連れて来いって」
元冒険者みんなを招集したってことは、ブリクストの時のように用心棒連れだってことだろう。
「分かった。すぐ行く!」
俺がそう言うと、ペーターはすぐさまタバサたちを呼びに行った。
「フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ、非常事態だっ!」
リビングに向かってそう叫ぶと、すぐにみんながやって来た。
『どうした?』
「みんな、ブリクスト、この前のダンジョンの街で俺たちを訪ねてきた無礼者を覚えてるか?」
『うむ、覚えているぞ。我らに向かって穢らわしい魔獣などと言った大馬鹿者たちだ』
『そうじゃ。儂も覚えているぞ。ギャーギャーとゴブリンのように喚き散らしておったわ』
『恐ろしく趣味の悪い恰好した奴らだよなぁ』
『スイ、あの人たち大っ嫌ーい』
みんなも俺と同じく最悪な印象しか残っていないようだ。
「アイツらの仲間が懲りもせずにここに来たんだ。追い返すのを手伝ってほしい」
『フン、追い返すなど手緩い。嫌というほどぶちのめしてやればいいのだ』
フェルが歯をむき出しにしてそう言う。
いつもならば窘めるところだけど、今回は……。
「場合によってはそれもありだ」
『ほう』
一人で門を守ってるバルテルに手を出してたら、いくら何でも俺だって容赦しないぞ。
俺とフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは急いで門へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「無礼者がっ! 儂を誰だと思っている!」
「お主が誰かは知らん。だが、誰であろうとここを通すわけにはいかん! お主は家主の許可も得ずに他人の家にズカズカ入り込むつもりなのか?! 無礼はどっちじゃ!」
門のほうから、激昂する声とそれに言い返すバルテルの野太い声が聞こえてきた。
「ドワーフ風情が生意気を言いおって! かまわんっ、門を壊してこのドワーフは斬って捨てろ!」
大柄な男が剣に手をかけながら門を蹴破ろうと足を上げたのが見えて、俺は大声で叫んだ。
「ヤメローッ!!!」
既の所に駆け込んだ。
「ハァハァ……、バルテル、大丈夫かっ」
「おお、来てくれたか。助かった」
いつもは豪胆なバルテルも、俺たちを見てホッとしている様子。
そして、俺たちが到着してすぐに、ペーターがタバサ、ルーク、アーヴィンを連れて現れた。
もちろんみんな完全武装だ。
「バルテル、手間をかけたな。もう大丈夫だ」
そう言いながら門の外を見ると、ブリクストで見たルバノフ教のやつらと同じような派手な服を身にまとった成金ぽい集団と金魚の糞のように付き従う用心棒と思われる図体ばかりデカいガラの悪い輩の集団が。
まったくいつ見ても品のない集団だ。
「バルテル、タバサ、ペーターは後ろで待機していてくれ。ルーク、アーヴィンは……」
双子にはこっそり、冒険者ギルドと騎士団に連絡するように伝えた。
元冒険者のみんなは大きく頷いて、バルテル、タバサ、ペーターは俺たちの後ろに立って成金集団に睨みを利かせて、ルーク、アーヴィンは静かにその場を去っていった。
『フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ、みんな頼むぞ』
『うむ。いざとなれば細切れにしてくれるわ』
『ああ。儂のドラゴンブレスで灰も残らんようにしてやるぞ』
『俺の氷魔法で串刺しだな』
『スイがね、ビュッビュッてやって溶かしちゃうよー!』
フェルたちに念話を送ると、ヤル気満々の返事が返ってきて逆に焦った。
『えーと、手を出すのは、俺が言ってからだからな。それと、やりすぎて死んじゃうとこっちが悪くなっちゃうから、ほどほど、くれぐれもほどほどにね』
みんなにそう釘を刺してから、成金集団に目を向けた。
「あの、うちの者を斬って捨てろとか、聞き捨てならないことをおっしゃっていたようですが、うちに何の用があるんですか?」
「フン、無礼なドワーフなどどうなろうとかまわんだろう。そんなことより、まずは儂たちを中へ入れろ」
品のない集団の中でも一番と言っていいほどの趣味の悪いギラギラした派手なマントを羽織った、でっぷりと太った男が偉そうにそう言った。
は、何言ってんのコイツ。
バルテルを斬って捨てるとか、とんでもないことを口にしておいて、俺がうちに入れると思うわけ?
「え、嫌ですけど」
「な、何っ?!」
「そこ、驚くところですか? 見ず知らずの他人、しかも、うちの者を斬って捨てろなんて平気で言うような野蛮な輩を家に入れるわけないでしょう。普通に考えたら分かりますよね」
ちょっと小ばかにしながらそう言ってやったら、わなわなと震え始めたでっぷりと太った男。
「なっ、なななななっ……」
プクク、顔真っ赤にしてるけど、俺は至って普通のことを言っただけだから。
後ろにいるバルテル、タバサ、ペーター、必死に笑いをこらえてるだろ。
くぐもった声、こっちに聞こえてるからね。
「司教様に向かってなんてことをっ! 貴様は我らの言うことを聞いてさっさと中へ入れればいいのだっ!!」
派手な取り巻きの一人がそう叫ぶ。
ハァ、あのさぁ、ルバノフ教って馬鹿しかいないのか?
前のときもこんな感じだったけど、ルバノフ教って言えばなんでも通ると勘違いしてない?
本国のルバノフ神聖王国とか周辺の属国とかならそれもあるのかもしれないけど、ここはレオンハルト王国だぞ。
「司教様かどうかは存じませんけど、そちらはルバノフ教の方々ですよね?」
「そうだ! 我等は神聖なるルバノフ教の聖職」
「あ、そういうのいいんで」
取り巻きの言葉を遠慮なくぶった切る。
「俺も含めてこの家の者にルバノフ教信者はいませんので。というか、そもそもルバノフ教なんぞ信じてませんので」
はっきりとそう言ってやると、成金集団全員顔真っ赤にしてやんの。
「き、き、貴様ーーーっ! 我が教団に献金する栄誉を授けようと思ったが、かまわんっ! こいつら全員、そこの穢らわしい獣も斬り捨ててしまえー!」
顔を真っ赤にして額に青筋を立てたでっぷりと太った男が、怒鳴るようにわめき散らした。
「何だ、やっぱり金を集りにきたのか。どうしようもないね、お宅ら」
ボソッとそう言ってやったら、でっぷりと太った男「キーッ」って言いながら地団太踏んでやんの。
「早く此奴等を斬り捨ていっ!!!」
でっぷりと太った男の金切り声に、用心棒たちが剣を抜いた。
「お前たちが従わないのがいけないんだ。悪く思うなよ」
用心棒のうちの一人がニヤリと笑いながらそう言った。
『みんな頼む! やり過ぎはダメだから、牽制からね』
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイに念話を送ると、食いしん坊カルテットが前に出た。
そして……。
『フン、木っ端が粋がりおって。よほど死にたいらしいな』
『それを抜いたということは、お主らは儂らの敵じゃ。覚悟はあるのだろうな?』
人語がしゃべれるフェルとゴン爺がそう言いながら明確な殺気を放った。
「ひ、ひぁっ……」
「こっ、殺されるっ」
「し、ししししし、死にたくないーっ」
「た、たたっ、助けてくれっ」
図体ばかりデカい用心棒たちは、剣を放り出して腰砕けで尻餅をついている。
でっぷりと太った男を含む成金集団は、フェルとゴン爺の殺気をぶつけられた時点で、声も出せないままに白目をむいてぶっ倒れていた。
汚いことに失禁までしているよ。
『何だ、我らのほんの少しの殺気を受けただけで戦意喪失か? 口ほどにもない』
『大口叩いていたくせに情けないのう』
散々偉そうな口を叩いていたルバノフ教のやつらの成れの果てに、さすがにフェルとゴン爺も呆れている。
『何だよ、もう終わっちまったのか? 俺とスイの出番ないじゃんか』
『ビュッビュッてしないの~?』
ドラちゃんとスイは、出番がなくて不満げだ。
そうこうしているうちに、双子が冒険者ギルドと騎士団から人を連れて戻ってきた。
「ええと、何があったんだ?」
一人の騎士が困惑気味に聞いてきたのを機に、俺は、ここまでやって来てくれた冒険者ギルドの職員たちと騎士たちに、今までの経緯を話していった。
「宗教の名を騙った集りとしか言いようがないですね」
一通り話を聞いた冒険者ギルドの職員がそう言った。
辛辣だけど、正にその通り。
「いやぁ、こいつらはしょっちゅうこういうことやるらしいですな。王都でも問題になっていますよ。しかしですね、ムコーダさんには手出し無用ということは、王都にあるルバノフ教教会にも通知されたはずなのですがねぇ」
年のころ四十くらいのがっしりした体格の騎士がそう言う。
聞いたところによると、この方はラングリッジ伯爵領第三騎士団の団長さんだということだ。
「ま、何にしろ集りは犯罪。お前ら、しょっ引いて牢にぶち込んどけ」
「「「「「「ハッ」」」」」」
騎士団の人たちによって、腰砕けの用心棒たちは縄を巻かれて引っ張られていく。
意識のない成金集団は、引き摺られるように連行されていった。
「ムコーダさんに何かあったときは報告するよう厳命されていますので、このことは閣下に急ぎ報告させていただきます」
おぅ、伯爵様、そんな命令出してたのか。
伯爵様の方から王様へ連絡が行って、エルマン王国みたいにこの国からもルバノフ教追放なんてことになってくれれば万々歳なんだけどな。
「こちらもこの件については、王都の本部に至急報告させていただきます」
冒険者ギルドの方もこの件については、この国の本部に報告するそうだ。
あーあ、冒険者ギルドを敵に回して、本国の方は大丈夫なのかね~。
「それでは、また何かあればご連絡を」
「冒険者ギルドとしてもSランク冒険者は貴重です。何かあれば、気軽にご連絡を」
そう言って、騎士団長はじめ騎士団の方々と冒険者ギルドの職員たちは帰っていった。
こうして今回のルバノフ教の一件は片付いたんだけど……。
今回の件は、俺もかなりムカついた。
ムカついたというより、怒り心頭だ。
非常識にいきなり押しかけて集りにきたこともそうだけど(しかも、今回で2回目)、何より、バルテルを斬って捨てろなんて言って平気でそれをやろうとしたことが許せない。
あの用心棒、俺が叫ばなければ絶対にバルテルを斬っていた。
今までもああやってルバノフ教の奴らは平気で斬り捨てろと命令して、用心棒はそれをやってのけていたんだろう。
命令する方も、される方も一切の躊躇が見られなかったんだから。
ルバノフ教を今のままにしておいてはいけないということだけは俺でも分かる。
これは、デミウルゴス様のお告げを実行してもいいかも。
今までは、別に俺たちに関わりがあるわけじゃないし、急いでやる必要もないって思ってたんだけどさ。
こうして実害が出ちゃったし。
あの集り教団にギャフンと言わすのも今なら大アリだ。
今夜辺り、みんなと相談してみようかな。