第四百七十三話 高級って高いね
以前、活動報告にて、ドラマCD第2弾付き原作ノベルス8巻はオーバーラップストア限定でと書かせていただきましたが、一般発売もするそうです!
既にアマゾンでも予約開始が始まっております。(ハヤッ)
2020年1月25日の発売ですが、8巻も是非是非よろしくお願いいたします!
「ええと、ここだと思うんだけど。こんにちは~」
様子を窺いながら、中へと入り声をかける。
俺たちは、先日、マリーさんに教えてもらった工事業者へとやって来た。
今日のお供はフェルとスイだ。
ゴン爺とドラちゃんのドラゴン勢は、行先が工事業者だと分かると留守番を申し出た。
風呂拡張はゴン爺のためなんだけどねぇ。
ゴン爺は風呂に入れさえすれば、デザインとかそういうものにはまったくこだわりはないってことなんだろうな。
そういうわけで、工事業者の事務所にお邪魔したんだけど……。
「誰もいないね」
中はガランとして人っ子一人いなかった。
「あの~、すみません」
念のためともう一度声をかけてみると……。
「ハイハイ、今行くよ~」
その声とともに現れたのは、ちっちゃいおばちゃんだ。
120センチ前後の身長におばちゃんの顔。
ドワーフのそれなりにお年を召した女性だ。
何度か見かけたことがあるが、これがこの世界のドワーフの女性だ。
ロリッ子と思ったか?
フッ、そんなのは幻想だ。
この世界のドワーフの女性はちゃんと年齢と共に老いていくんだぜ。
「こんにちは。ランベルト商会のマリーさんにこちらを紹介していただいたのですが……」
「おや、マリーさんにかい?」
「はい、紹介状もいただきまして」
とりあえず、そのおばちゃんドワーフにマリーさんからもらった紹介状を見せる。
「私はランベルトさんと懇意にさせていただいているムコーダと言いまして、実は家の風呂場の拡張を考えていまして……」
かくかくしかじかと風呂の拡張工事を考えている旨をおばちゃんドワーフに話した。
「ランベルトさんの所の紹介じゃあ断れないねぇ。ただ、うちも今は仕事が立て込んでてねぇ。貧乏暇なしってやつだよ。アッハッハ」
そう言いながら豪快に笑うおばちゃんドワーフ。
その後、おばちゃんドワーフ(アニカさんというそうだ)と打合せして、工事担当のご主人(ブルーノさんといって、もちろんドワーフらしい)が三日後になら少し時間がとれるそうなので、三日後に家に下見に来てくれることになった。
「それじゃあ三日後、お待ちしてます」
「あいよ。旦那にもしっかり伝えておくからね」
三日後の約束を取り付けて、俺たちは工事業者を後にした。
家に戻った後は、みんなで昼飯を済ませ、午後は自由時間。
フェルたちは庭で日向ぼっこをするようだ。
俺は、昨日神様ズから聞いたリクエストの品を揃えていくことに。
細かい指定があったりするから、間違えないようにしないとな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日付も変わり、翌日の夜。
フェルたちも既に寝て、起きているのは俺一人だ。
今日は特にやることもなかったから、一日休みだった。
とは言っても、俺は暇だったから、うちの奴隷みんなが地下でしている、売れ筋商品のシャンプーやらトリートメントやら今や王都で爆売れ中でお貴族様なんかの富裕層の一部から喉から手が出るほど欲しいと言われている大大大人気の【神薬 毛髪パワー】の詰め替え作業に押しかけて参加させてもらったけどね。
今やみんな慣れた手つきでおしゃべりしながらも的確に作業をこなすベテランだ。
初期のころは自分でもやってたけど、地味な作業なのに飽きもせずみんなよくやってくれてるよ。
次々に詰め替え品が出来ていく様は圧巻だったね。
ただ、どれも人気商品なだけあって、ランベルトさんのところからの注文も増えてるし、これはちょっと前から思っていたことだけど、奴隷は増やした方がいいよなぁとは思った。
そうなると、奴隷用の家も準備しないといけないし……。
そうだ、今度工事業者のブルーノさんが下見に来てくれるから、その時にその件についても相談してみるか。
そんなことを考えながら、淹れたてのコーヒーを一口すすった。
「さてと、始めますか」
恒例行事の神様ズへのお供えだ。
「みなさん、いらっしゃいますか~」
『いるぞ! ちょっと前から待機していたのじゃ!』
『もちろんいるわよ~』
『おっしゃ、来た!』
『……待ってた』
『この時を待ってたぞい!』
『ああ! この時をな!』
問いかけのあとすぐに返ってくる返事。
いつも通りだね。
みなさん既にスタンバってた模様。
ただ、酒好きコンビがいつも以上に気合が入っているような気がするんだけど。
『ようよう、今の街でも教会に寄付してくれたようだな。ありがとよ』
この声はアグニ様か。
「ええ。住んでいる街ですしね。これからも、余裕があるときには寄付させていただこうと思ってます。あと、他の街に行ったときにも気が付いた時には」
『そうか、そうしてもらえると嬉しいよ。オレのとこは場所によって懐が厳しいところもあるからな』
『妾の所もじゃ。妾の所はアグニの所より厳しい所は多いかもしれんな。お主、稼いでいるようじゃし、そういう厳しい所は助けてやってほしいのじゃ』
残念女神のニンリル様も、厳しい生活をしている信徒のことは気になるようだ。
「分かりました。もちろんすべては無理ですが、気付いた時にはなるべくお助けするようにします」
『うむ、頼んだぞ』
『私の所も』
「分かっています、ルカ様」
『私の所はありがたいことに信者が多いから、それほど困窮することはないみたいだけど、信徒で困っている子がいたら助けてくれると嬉しいわ』
「はい、キシャール様。そうさせていただきます」
『まぁ、儂の所は職人集団じゃから食いっぱぐれることはないじゃろうが、戦神のとこはこいつらのとこより一層厳しいんじゃ。頼むぞ』
『鍛冶神の、ありがとよ。お前も見てきたようだから分かる通り、俺の信徒は紛争地帯に多くてな。荒事はお手の物でも、それ以外はからっきしってのが多いんだよ』
「大丈夫ですよ、ヴァハグン様。寄付するときには、分け隔てなく同じ金額でやらせてもらってますので」
いつもわちゃわちゃしてる神様ズだけど、やっぱり信徒のことは気になってるんだねぇ。
神様たちが直接地上に手を出すことはできないだろうから、代わりにと言ってはなんだけど、俺ができうる限りのことはやらせてもらいますよ。
何だかんだ言って、俺も加護もらったりといろいろ助けてもらってるしね。
ちょっとだけしんみりしてしまった雰囲気を吹き飛ばすように、みなさんへお供え物をお渡ししていくことに。
「それじゃあ、ニンリル様から」
『うむ。毎回、このときばかりはワクワクが止まらないのじゃ!』
ニンリル様のリクエストは、いつも通りというか、ブレないというか、当然のように甘味だ。
ホールケーキと限定もののケーキ、それからどら焼きやらだな。
限定ものとしては、濃厚レアチーズケーキと濃厚ベイクドチーズケーキ、それから国産和栗のモンブラン等々。
あとは、定番のイチゴのショートケーキとチョコレートケーキをホールで用意して、他にもフルーツのタルト各種やアップルパイなんかもホールでご用意。
そして最後は、ニンリル様の大好物のどら焼き各種だ。
こしあん、粒あん、栗入りをたんまり用意した。
「これがニンリル様の分です。どうぞお受け取りください」
『うむ! ありがとなのじゃー!』
リビングのテーブルの上に載せた、これでもかと甘味の入った段ボール箱が消えていった。
『ヤッター! ケーキいっぱい、どらやきいっぱいなのじゃー!』
いつものごとく、その場で開封したのか、ニンリル様の叫び声が聞こえてくる。
『もう、ニンリルちゃんうるさいわよ。今度は私の番なんだから、開けるなら自分ちでやりなさいよ』
『ムム、キシャールに言われなくても家でゆっくり楽しむもんね。さらばじゃ』
さらばじゃって、ニンリル様……。
『まったく、ニンリルちゃんはいつになっても落ち着かないわねぇ。お待たせ、次は私よね』
「は、はい、次はキシャール様です」
キシャール様のリクエストは、相当気に入っているのか今回もST-Ⅲのシリーズだ。
前に買ったST-Ⅲの乳液と洗顔料をリピ、そしてスペシャルケアなのだといってST-Ⅲのシートマスクをご所望された。
このシートマスク、値段を見たらもうびっくりだよ。
シートマスク6枚入りで金貨1枚。
シートマスクって、使ったらそれっきりだろ?
ということはだ、1枚日本円にして約1600円もするんだぞ。
ひぇ~だよ。
1回でその値段なんだもん、そんなもんよく使えるなと思うよ。
あとは入浴剤とボディケア製品が欲しいということだったので、ちょいお高めのバスソルト数種とボディーソープ、そしてボディオイルを選んでみた。
「それではこちらです。ご希望だったST-Ⅲのシートマスクも入っていますよ」
『キャーッ、楽しみにしてたのよ~! ありがとうね~。フフン、早速今夜使ってみなくっちゃ』
あれを使うのか。
てか、使えるのがすごいぞ。
俺だったらもったいなくてとても無理だな。
『女はね、美に金額は厭わないものなのよ』
うう、キシャール様に思考を読まれていたぜ。
気を取り直して、次はアグニ様だ。
「それで、次はアグニ様の分です」
『よっしゃ待ってました!』
アグニ様は、当然ビールだ。
いつものお気に入りのS社のプレミアムなビールとYビスビール、それからS社の黒いラベルのビールを箱で。
その他は前回と同じく国産と海外産の地ビールの飲み比べセットだ。
いろんなビールを飲むことにハマっている様子で、今回は幅広く揃えてほしいとのことだった。
ということで、いろいろ揃えてみた。
国産地ビールセットはもちろんのこと、ドイツビール、ベルギービール、アイリッシュビールの飲み比べセット。
変わったところでハワイのビール飲み比べセットやオーストラリアのビールの飲み比べセットなんかも選んでみた。
「こちらになります。よっと」
アグニ様の分の重量感のある段ボール数個が消えていった。
ビリーッと段ボールを開ける音の後に、アグニ様のはしゃぐ声が聞こえてきた。
『おお~、見たことないのが入ってるじゃないか。さすが分かってるなー、お前。ありがとよ!』
とりあえず色々入れてみましたからね。
ただ、海外のビールは飲んだことがないのばっかりなので、味は保証できませんけど。
そして、お次はルカ様。
「次はルカ様の分です、こちらになります」
こちらも希望はいつも通り、ケーキとアイス。
ルカ様、本当にアイス好きだよね~。
ケーキは限定品のほか、各種カットケーキを多めに取り揃えて、アイスはプレミアムなものや、定番商品、新商品など満遍なく選んで詰め込んでみた。
いつもだけど、すごい量と種類になってるよ。
『ん。ありがと』
その声とともに、ケーキとアイスが詰め込まれた段ボールが消えていった。
そして次はこの二人。
『よしっ、次は儂らの番じゃ!』
『待ちに待ったアレだな!』
『で、あったんじゃよな?』
『連絡がなかったんだから、無事あったんだろ?』
「え、ええ」
そう返事すると、お二人の『おお~』という野太い声が聞こえてきた。
「しかし、よく思い切りましたね。こんなに高いの頼むなんて」
『そりゃあのう。ウイスキーのことを調べていたら、実に美味そうに飲んでいる奴がいてなぁ』
『そうだぜ。そんで、そのウイスキーを調べていったらこれに行きついたわけよ。そうなったら飲むしかないだろ』
『うむ。そんなに美味いウイスキーなら飲むという選択肢しか儂らにはないからのう』
いや、それはお二人だけだと思うよ。
そのお二人がご所望して待ち望んでいたのが、お二人も何度か飲んだことがある特徴のある瓶に入った国産ウイスキーの12年ものだ。
高級ウイスキーと言われる類のものだ。
お値段なんと金貨5枚と銀貨4枚。
高いっていうのは知っていたけど、まさかこれほどとはね。
酒一本でこの値段だよ、一人分の予算以上の値段なんだから。
お二人で協力したから頼めるってわけだな。
これで予算の大部分を使ったから、残りは安めのをとにかく多くってことだった。
それじゃあないと、飲む酒がなくなっちゃうもんね。
ということで、残りはお二人もそれなりに美味いと言っていたお手頃ウイスキーを中心に購入した。
いつもよりも慎重に段ボール箱をテーブルの上に置いた。
「それじゃあお受け取りください」
『おう、ありがとよ!』
『待ちかねたぜ! あんがとな!』
そう言うお二人の声とともに段ボール箱が消えていった。
そして、早速段ボール箱を開けるビリッという音が聞こえてくる。
『『おお~』』
高級ウイスキーを見たんだろう。
しっかりした箱に入っていて見るからに高級って感じだし。
『戦神の、今夜はこのウイスキーをじっくり味わおうぞ』
『おう、味わい尽くそう』
ま、まさか、あれを一晩でってことはないよな?
いや、ありえそうだから怖いな。
ま、まぁ、それはお二人の自由だし。(俺知らね)
さてと、最後はデミウルゴス様だ。
とは言っても1週間ぶりなんだけどね。
デミウルゴス様にはちゃんとお供え続けてるぞ。
日本酒と缶つまと最近は従者さんが気に入った梅酒が主だけど、何を贈っても基本的に喜んでくれるから楽だし。
それに、1週間ごとにやり取りしてたからかな、創造神様にこんなこと言ったらあれだけど、好々爺で神様の中で一番話しやすいんだよね。
たまに、お告げみたいなのされて困るときもあるけどさ。
そんなわけで、最後は……。
「デミウルゴス様、いますかー」
ちょい長くなったのでデミウルゴス様枠は次話にて。




