第四百七十話 カレーリナの街でもお布施&寄付
フゥ……。
朝飯を食い終わって、リビングでほうじ茶を飲みながらホッと一息。
今朝は久々にほうじ茶を淹れてみた。
というのも、昨日は肉三昧で胃があっさりしたのを求めてね……。
フェルもゴン爺もドラちゃんもスイも、久しぶりの肉を食いまくった。
分厚いステーキを焼いても焼いても追いつかないくらいだったよ。
塩胡椒からいつもの各種ステーキ醤油にレモン塩や山葵塩などのブレンド塩をかけて一通り食ってからの、お気に入りをかけてのおかわり。
特に肉に飢えていたフェルとゴン爺は、どんだけ食うんだよって呆れかえるほどだった。
俺も勢いで分厚くて大きいステーキを焼いて食ったんだけどさ、さすがに多かったわ……。
そんな感じで昨日の夕飯にたっぷりとこれでもかという量の肉を食ったにもかかわらず、食いしん坊カルテットは今朝も元気に肉をご所望。
しかも、フェルからは『この間狩ってきたコカトリスの変異種がいいぞ』などと要望まで。
しょうがないから昨日、冒険者ギルドから回収してきたばかりのコカトリス(変異種)の肉を使って、これでドヤァって感じでこってりなコカトリスの照り焼き丼(トッピングでマヨも格子状にたっぷりとかけて)を作ってやったら、何度もおかわりしてバンバン食ってたわ。
昨日の肉三昧からのこってり味の肉なんだけど、食いしん坊カルテットには胃がもたれるなんてことは一切ないってことが改めてよく分かったね。
ちなみに俺の朝飯は、昨日の朝食の残りのジャガイモとタマネギの味噌汁に卵を入れたのと昆布の佃煮と鮭のほぐし身を具にしたおにぎり、あとはキュウリとナスの浅漬けだった。
やっぱり朝飯はこれくらいが丁度良い。
そんなわけで朝飯を食い終わってまったりしているところ。
フェルとゴン爺とドラちゃんとスイは、これまた朝からサイダーとコーラとパンチの利いたものを飲んでるよ。
『おい、おかわりだ。次はサイダーだぞ』
『儂にも。今度は黒いコーラというのがいいのう』
『俺もおかわり! 俺はまたサイダーだな』
『スイも~。スイはね、コーラがいいなぁ』
「はいはい」
フェルとドラちゃんとスイには、ネイホフで手に入れた青緑色と瑠璃色と淡い紫色のそれぞれ専用の深めの陶器の皿に、ゴン爺が今使っている同じくネイホフでまとめ買いした深い緑色の丼にもぴったりな深めの皿へと注いでやった。
ゴン爺には専用の皿がないんだよね。
最近仲間になったからしょうがないんだけど。
ゴン爺は気にしてないみたいだけど、専用の皿はあった方がいいよなぁ。
もう少し食器も買い足したいと思ってたところだし、あとで買いに行ってみようかな。
どうせだったら、ネイホフで買ったようないいものが欲しいな……、そうだ、こういう情報だったら、マリーさんが詳しいかもしれない。
ランベルトさんの店に行って、マリーさんに聞いてみるかな。
まぁ、行くにしても今日はやりたいことがあるから、それが終わってからだけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食後の休憩を終えた俺たちは、俺の今日の目的を果たすべく街へと繰り出していた。
『それで、最初は当然ニンリル様のところなのだろうな?』
「いや、違うぞ。うちから一番近いのは土の女神キシャール様の教会だからな」
『なぬ?!』
「なぬって、近い所から順に回っていくに決まってるだろうが。土の女神様、水の女神様、風の女神様、火の女神様、戦神様の順だから、ニンリル様のところは3番目だよ」
そう、今日はお布施&寄付行脚なのだ。
自分が住んでいる街だってのに、まだだったからね。
ニンリル様、キシャール様、アグニ様、ルサールカ様の四女神の教会がこの街にあることはさすがに知っていたけど、戦神様の教会があることは知らなかった。
この情報は、うちの奴隷でこの町出身であるペーターからの情報だ。
そんなには大きくないらしいし、少しわかりにくい所らしいが、場所もしっかり聞いてあるから大丈夫……だと思う。
そうそう、それから、全部のところで孤児院も運営しているらしいぞ。
そんなこんなでまず最初に訪れたのは、土の女神キシャール様の教会だ。
信者数としては、この街ではキシャール様のところが一番多いらしい。
農業が盛んなここレオンハルト王国とエルマン王国では、実りに直結する土の女神キシャール様を信仰する人が圧倒的に多いようだ。
そっと教会の中へ入ると、大勢の子どもたちが一所懸命掃除をしていた。
「おじさん、まだ掃除が終わってないから、ちょっとだけ待ってて」
掃き掃除をしていた活発そうな男の子がそう声をかけてきた。
お、おじさん……。
君、俺はちょっぴりショックだぞ。
「ええと、司祭さんに用があるんだ。ちょっと呼んできてくれるかな」
「分かった。ちょっと待ってて」
そう言って男の子が走り去った。
そして、少しすると……。
「早く~」
「これこれ、そんなに押すんじゃない」
男の子が、立派な白いひげを蓄えたお爺ちゃん司祭の背中を押しながら連れてきた。
「いやいや、お待たせしました」
「いえ、ええと……」
「あなたは、ムコーダさんですな」
「え? 俺のことを?」
「そりゃあ有名ですからなぁ。ホッホッホッ」
有名って、俺って有名なの?
と思ったが、俺の後ろにいるカルテットを見て、ああ~と納得。
特にフェルとゴン爺というデカブツ2体が一緒にいて目立たないわけがないもんなぁ。
とまぁそれは置いておいて、お布施&寄付のことをお話しさせていただいた。
すると、お爺ちゃん司祭大喜び。
「本当に、本当に、ありがとうございます。この街は他の街に比べて恵まれてはおるのですが、やはり子どもたちが多いと、それだけ何かと入り用な物が多くなるのも実情でして……」
お爺ちゃん司祭の話では、ここの領主のラングリッジ伯爵の援助もそれなりにあるので、他の街に比べれば大分マシではあるそうだ。
あのダンディなハゲおっさん、やるじゃん。
あ、今は毛髪パワーでハゲじゃなくなってるのか。
とりあえずは金貨300枚分の白金貨3枚をお布施&寄付として渡して、子どもたちへのお土産に肉ダンジョン産のダンジョン豚とダンジョン牛の肉塊を渡した。
掃除中だった子どもたちが肉を見て大はしゃぎしてたから、援助があると言っても肉は滅多に食えないんだろうね。
みんな喜んでたから、見ていてこっちとしても嬉しかったよ。
お爺ちゃん司祭や、話を聞いてやってきたシスター、そして子供たちに見送られながら、俺たち一行は次の教会へと向かった。
それから、順に立ち寄っていった、水の女神ルカ様の教会や風の女神ニンリル様の教会、火の女神アグニ様の教会。
そこでも、俺のことは知られていた。
街で唯一のSランク冒険者だっていうことと、デッカイ狼とドラゴンを従魔にしているってことで「街で知らない人はいませんよ」とか言われちゃったよ。
お布施&寄付のことを話して、白金貨3枚と子どもたちへのお土産の肉を渡すと、一様にその額に驚いていたけど、みんな喜んで大いに感謝してくれた。
やっぱり孤児院まで運営していると、どこもカツカツなんだろう。
チラッと話してくれたけど、ラングリッジ伯爵の援助もあるから、なるべく孤児は受け入れるようにしているらしいし。
そういう話だから、どこの孤児院も人数が多かったね。
この街でストリートチルドレンをほぼ見かけないのは、そういう方針だったからなんだなって納得した。
そういう話を聞いて、ここカレーリナは拠点にしている街だし、定期的にお布施&寄付はしていこうと思う俺だった。
そして最後は、戦神ヴァハグン様のところだ。
ペーターに教えてもらった通りに来てみたけど……。
「ここでいいのかな?」
町外れにある、庭付きのちょっと古い個人宅に見えるんだけど。
ここでこうしていても仕方ないかと、とりあえず入ってみる。
「お邪魔します~」
ボロい木造の囲いにあった扉から入ると、庭で木の枝を振り回してチャンバラごっこをする子供たちがいた。
「おっちゃん、誰だ?」
お、おっちゃん……。
ここでもダメージを食らったぜ。
「えっと、ここは戦神様の教会でいいのかな?」
「うん、そうだぞ。おっちゃんもあっちの国から来た傭兵か? それにしちゃあヒョロイけど」
男の子がそう答えてくれた。
しかし、ヒョロイは余計だぞ、君。
「バーカ、後ろ見てみなよ。従魔連れてるんだから冒険者だよ」
俺をヒョロイと言った男の子に向かって、気の強そうな女の子がそう言う。
「バカじゃねぇよ! バカって言った方がバカなんだぞ!」
「何よ、アタシとやるっていうのか!」
コラコラ、君たちちょっと短気じゃないかい。
一触即発の男の子と女の子。
周りにいる子どもたちはヤレヤレと囃し立てている。
睨み合う男の子と女の子の間に入ろうとした時、家の中から大柄な爺さんが飛び出してきた。
「コラーッ、またお前らケンカやっとんのか!」
「ゲッ、院長先生だ! みんな逃げろ~」
7、8人いた子どもたちが、クモの子を散らすように散っていった。
「ったく、相変わらず逃げ足だけは速いのう……。で、お前さんはうちに何か用か?」
「ええと、こちらは戦神様の教会でいいんですよね?」
「ガッハッハ。一応な。教会というより、孤児院って名目の方が主だがな」
「ええとですね……」
俺のことを知らない様子の院長さんに、かくかくしかじかと俺のこととお布施&寄付をしにきたことを話す。
そうしたら「本当か?!」と驚いた様子で、家の中へ「ノエリア! ノエリア! すぐに来てくれ!」と呼びかけた。
そして現れたのは、院長さんと同じくらいで若い頃はさぞや美人だったんだろうなとうかがわせるお婆さん。
「なんだい、大声出して」
「いやな……」
さっき俺が伝えたことを、お婆さんに伝える院長さん。
すると「本当かい?!」と院長さんと同じように驚くお婆さん。
「ええ」
他の教会と同じように白金貨3枚と肉を渡すと、院長さんとお婆さんは泣き出してしまった。
話を聞くと、この二人は元は小国群出身の傭兵で、傭兵を引退したあとにこの国に来て孤児院を開いたそうだ。
子ども好きだったが、終ぞ子供ができなかった二人にとっては天職だと思える孤児院の運営。
苦しくともなんとかやってきてはいたが、特に最近は寄付もほとんど無い状態。
しかも、小国群から送られてくる孤児だけは増えていて、経営が日増しに厳しくなっていたところだったという。
元々この国に住む人で戦神を信仰する人はほぼ皆無なのもあって、ラングリッジ伯爵からの援助もわずかばかりだったが、なんとかその援助で食いつないでいたそうだ。
二人とも泣きながら何度も「ありがとう、ありがとう」と言っている。
そこまで感謝されると、照れるというか、どうしていいかわからないというか。
泣き顔の二人に見送られて、そそくさとお暇させてもらったよ。
相当苦労してきたんだろうなと思いながら、この寄付金で少しは経済的な苦労がなくなればいいなと思う俺だった。
「それじゃ、次はランベルトさんのお店ね」
『ええ~、まだ行くのー? スイ、お腹空いちゃった~』
『主殿、儂も腹が減ったのう』
『俺もー』
『我もだ。飯が先だ』
「あ~、あちこち回って大分時間経ってるからなぁ。それじゃあ、一回家に帰って昼飯食ってからランベルトさんの店に行くか」
そう言うと、みんな諸手を挙げて賛成したので、食いしん坊カルテットの腹を満たすため俺たち一行は一度家へと帰ることにした。