第四百六十七話 ムコーダ、ギルドマスターから説教される
皆さま、ご心配をおかけしました。
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本当にありがとうございました。
これからも更新をコツコツ頑張っていければと思いますので、皆さまどうぞよろしくお願いいたします。
冒険者ギルドに着くと、すぐにギルドマスターが出てきた。
「オイオイオイオイ、お前、またやらかしてくれたなぁ」
渋い顔のギルドマスターにそう言われて困惑した。
「え? 何かしましたっけ?」
「何かしましたっけ? じゃねぇよ! バレンスエラの街方面へ向かうブラックドラゴンの目撃情報で、そっち方面の冒険者ギルドじゃてんやわんやの騒ぎだったんだぞ!」
あちゃー……。
バレンスエラの街は知らないけど、ブラックドラゴンについては大いに思い当たる節がある。
ベヒモス騒ぎですっかりそんなことは頭から抜けてたけど、ゴン爺に乗って移動してたんだから騒ぎになるよなぁ。
元の大きさじゃなく普通のドラゴン程度の大きさなんだから大丈夫だってゴン爺もフェルも言い張ってたけど、やっぱり大丈夫じゃなかった。
フェルとゴン爺を睨むが、当の本人たちはどこ吹く風だ。
「ブラックドラゴンって話だったが、そいつなんだろう?」
もしやと思っていたところ、ここカレーリナの街の郊外から飛び立っていったという目撃情報がギルドマスターの耳に入ったことから、うちのゴン爺に間違いないと確信したそうだ。
「えーと、はぃ……」
「お前、ちょっとは考えてくれよ~。ドラゴンが飛んでんの見たら大騒ぎになるに決まってんだろうが」
そう言いながら呆れたように額に手を当てるギルドマスター。
ごもっともです、はい。
「俺も反対はしたんですけど、『元の大きさじゃなく普通のドラゴンの大きさなら問題ないだろう』と言い張られまして……」
言い出しっぺのくせにどこ吹く風のフェルとゴン爺を見やる。
ギルドマスターもフェルとゴン爺を見るが……、あ、目を逸らした。
「問題ないわけないだろうが。どう考えたって問題ありだろ。そりゃあよ、人知の及ばない古竜の巨体を見たら、誰だってこの世の終わりかと思うだろうよ。だがよ、お前の言う“普通のドラゴン”だって、一般市民はそう思っちまうんだぜ」
まったくもっておっしゃる通りです、はい。
だけど、フェルとゴン爺には強く言えないからって俺だけに言ってるよね。
解せぬ。
「だいたいよ、お前が主なんだろ? そんならしっかりと言い聞かせて従わせるのが基本だろ」
ぐぬ、それを言われると反論できない。
でも、相手はフェンリルと古竜なんだよ。
ちょっとは俺の苦労も察してほしい。
「確かに従えてるのはフェンリルや古竜っちゅう伝説の魔獣だがよ、お前の従魔だろうが。主になったからには………………」
ギルドマスターの説教は続く。
ぐぬぬぬぬぬぬ、これもフェルとゴン爺のせいだ。
俺は止めたのに~。
「…………とまぁそういうことだ。儂が言いたいのは、ドラゴンを足に使うときは必ず事前に冒険者ギルドに連絡をくれってこった。そうでなきゃあむやみに騒ぎを起こすだけなんだから、これだけは徹底してくれよな」
「重々承知いたしました」
ようやくギルドマスターの長い説教が終わった。
言ってることは正論なので反論の余地もないけど。
『ねぇねぇあるじー、お話終わったー? スイ、飽きてきちゃったの~』
『おいおい、スイー、こいつは怒られてるんだから察してやれよ』
ドラちゃんのその優しさが辛いです。
というか、フェルもゴン爺も欠伸なんてしてるし。
元凶のくせに~。
理不尽だ。
覚えてろよ、絶対ぎゃふんと言わしたるからなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これと、これと、これでしょ」
フェルたちの狩りの成果をアイテムボックスから出して、ギルドマスターと俺の担当の解体職と言っても過言ではないくらいになってきたヨハンのおっさんの前にどんどんと積み上げていく。
ここ冒険者ギルドに来た当初の目的であるフェルたちの狩りの成果を買い取ってもらうために、俺たちはお馴染みとなっている倉庫へとやって来ていた。
「あとはこれに、それからこれもです」
ゴン爺が加わったことでさらに多くなった狩りの成果。
既に獲物の山がいくつも出来上がっていた。
多少慣れてきているはずのギルドマスターもヨハンのおっさんも呆然とそれを見ている。
「……えーっと、これで最後ですね。よっと」
最後にドドンと出した、苔むした巨大な岩にしか見えないカエル。
鑑定では“ジャイアントミミックフロッグ”と出ていたな。
Bランクの魔物で森の中でジッとしていて、獲物が近寄ったところでパクリッとやるらしいぞ。
これも当然のごとく変異種だ。
肉はあっさりして美味いらしいので、こちらで引き取る予定。
カエルを食うのか……、とも思うけど、ヘビ肉を食ってるし今更かって感じだしね。
それに、日本以外では普通に食ってる国もあるみたいだしさ。
何より、自称グルメなフェルとゴン爺からもなかなかに美味い肉だとお墨付きもいただいてるしね。
「いやはや、前にも増してずいぶんと量があるなぁ……」
「新たにゴン爺が加入してますからね」
「そうだったなぁ……。うちの資金繰り大丈夫かのう……」
ギルドマスター、そんな遠い目をして言わないでくださいよ。
まぁ、みんなの獲ってきた高ランクの獲物を買い取っても、冒険者ギルドとしちゃあそれを金にしなきゃあならんでしょうからね。
すぐに金に換わるようなものも、そうでないものもあるだろうし。
ま、一番はうちのみんなが狩りに行く頻度が高いのが悪いんだろうけどさ。
「えーっと、それなら今回は少なめにしておきますか?」
「うーむ、ちょっと考えさせてくれ」
そう言って考え込むギルドマスター。
まぁ、ここのギルドも大商いが続いているだろうからねぇ。
主にというか、間違いなく俺たちが原因だけど。
「オイオイオイ、兄ちゃん、これ、どこで獲ってきた?」
獲物を見ていたヨハンのおっさんが焦ったようにそう聞いてくる。
えーと、そこやっぱり気付いちゃうよね。
「ん? ヨハン、どうした?」
「ギルドマスター、よ~く見てみてくださいよ」
「何だよ、もったいぶって」
ヨハンのおっさんに促されて、山積みになった獲物たちをジッと見るギルドマスター。
「ん~、全体的にデカいのが多いが、それは個体差じゃねぇのか?」
「違いますよ。分かりやすいのは、このトロールですかね」
そう言いながらポンとトロールを叩くヨハンのおっさん。
そうだよね~、それは俺でも気が付いたし。
普通のトロールはちょっと緑がかった灰色というか、そんなような色してるのに、そのトロールは赤茶けてるもんねぇ。
「そりゃあ普通のトロールと色違いなのは分かるけどよ、特殊個体ってことなんじゃねぇのか? こいつ等が獲ってきたもんなんだし、そんなのがあってもおかしくはねぇだろう」
なんかエライ言われようだけど、否定できないところがね。
いろいろとやらかしてるし。
「俺もそうかとも思ったんですけど、これも、これも、これも、よく見ると普通のとは違うんですよ。それで、見ているうちに、昔読んだ本を思い出したんですわ。こう見えて、俺は魔物のことに関してはそれなりに勉強していますからね」
な、なんかヨハンのおっさんには、どこで獲ってきたか既にバレてる気がするね。
「これを持ってきたのが兄ちゃんじゃなきゃあ俺も何をバカなと一笑しているところだけどよ、兄ちゃんならあり得そうなんだよな」
そう言いながら、ヨハンのおっさんは俺の後ろで家にいるかのようにくつろぐフェルとゴン爺をチラリと見る。
「おいおいヨハン、何もったいぶってんだ? はっきり言えよ」
「兄ちゃん、もう一回聞くぜ。これ、どこで獲ってきたんだ?」
これはやっぱり答えなきゃいけないよな。
でも、何か言い難いね。
行ったから分かるけど、決して人が気軽に行けるような場所じゃないし。
おお、ヨハンのおっさんとギルドマスターの視線がイタイよ。
「ええと…………、“天空の森”で」
俺の答えを聞いて、ヨハンのおっさんが「やっぱりか……」と頭を押さえた。
「……は? 幻聴が聞こえた気がするぞ。もう一回言ってくれ」
ギルドマスター、幻聴って何だよ。
幻聴じゃないから。
もう一回言うぞ。
「ですから、“天空の森”で。“ウラノス”とも呼ばれているみたいですけど」
「ウ、ウ、ウ、ウラノスだとぉぉぉっ?!」
ギルドマスター、叫ばれると耳が痛いです。
「兄ちゃん、そんな顔してるけど、ギルドマスターの反応が普通だからな」
呆れたようにそう言うヨハンのおっさんの説明によると、100年ちょっと前に、それまで手つかずだった “ウラノス”に当時の高ランク冒険者たちが集まって挑んだそうなのだ。
しかし、意気揚々と冒険に出た五十数名の高ランクの冒険者たちのうち、戻ってきたのはたった一人。
その一人も救助されたときには、弱り切って錯乱していたのだという。
最初はまともに口もきけないほどだったらしく、そのまま冒険者を引退。
晩年になり、その生き残った冒険者が、“ウラノス”のことを一冊の本に書き残した。
ヨハンのおっさんはそれの写本を読んだそうだ。
その生き残った冒険者曰く“人が立ち入ってはいけない場所、人知の及ばぬ地がウラノスだ”らしい。
ま、まぁ、普通ならそうなんだろうね。
普通に行ったら、あの絶壁を登らなきゃいけないだろうし、下手したらというか普通にそれだけで命落としかねないし。
うちのカルテットにとっては普通に狩場扱いみたいだったけどね、ハハハハハ……。
全部丸投げだし、もういいかと思って、過去にフェルやゴン爺は“ウラノス”にも行ったことがあって、普通に狩場として認識していることとか、“ウラノス”に生息しているのはそこにしかいない変異種だということも二人に話した。
ギルドマスターもヨハンのおっさんも、俺の話を聞いて乾いた笑い声を発した後にため息を吐いている。
そして、ギルドマスターが「フェンリルと古竜だもんなぁ……」と言うと、ヨハンのおっさんが「そうですねぇ……」なんて遠い目をしながら言い合っていた。
「ゴホン、それで、どうしましょう? 少なめにしときますか?」
俺がそう言うと、ギルドマスターが正気に戻って「ウラノス産の変異種なら話は別だ。全部買い取る」と宣言。
短い間に算盤弾いたんだろうね。
ウラノス産の変異種ならば十分勝算があるとみたようだ。
「買い取り代金の支払いは、そうだな明日の昼過ぎだ。本音を言えば、もうちっと時間が欲しいところだが、儂も明後日には王都に向かわなきゃならんからな」
「ああ、お願いしている件ですね」
ギルドマスターには王様への献上品を託しているからね。
ランベルトさんのところの準備も整って、明後日にはここを出発する事が決まっているそうだ。
「そうだ、いつものように肉だけは……」
「兄ちゃん、分かってるって。食用になる肉は、そっちに戻せばいいんだろ」
ヨハンのおっさんも心得たものだ。
「それよりよ、聞きたいことがあるんだが、ベヒモスはいたのか?」
どうやら生き残りの冒険者が書いた件の本にベヒモスのことが書いてあったようで、ヨハンのおっさんにそう聞かれた。
「ええと、いましたね」
「どうしたんだ? お前らが狩れなかったとかはないよな?」
ヨハンのおっさんがチラリとフェルとゴン爺を見ながらそう言った。
「まぁ、そうなんですけど……」
かくかくしかじかとあったことを掻い摘んで話した。
「か~、何を甘っちょろいことを言ってんだって普通なら怒鳴るところなんだがなぁ」
「だよなぁ。儂もギルドマスターとして、そんなことやって人に危害が出たらどうすんだって怒鳴って説教かますところだが、場所が場所だからな……」
“ウラノス”、人は住んでないですからねぇ。
そこはフェルとゴン爺に聞いてたから、ベヒモスを見逃したのもある。
当然人に危害が及ぶ可能性ってのは頭によぎったからね。
でも、フェルたちから聞いた話とか立地を考えたら、あの場所に人が足を踏み入れるってことはそうそうないって分かってたからさ。
何も子どもがいるからかわいそうだって理由だけで見逃したわけではないんだぞ。
俺だって一応は考えてるし。
「まぁ、今回はお咎めなしだが、人に危害が出るような場所ではやるなよ」
ギルドマスターに厳重注意された。
「はい。そこは十分承知しています」
「あ、それとな、今話した通り、儂は明後日には王都に向かうことになるが、その間、お前のこと、こと買い取りに関しちゃヨハンに任せてあるからな。しかしよ、儂がいない間は少しは自重しろよ」
「そこは俺もお願いしてぇところだな。これと同じようなもん持ってこられると、買い取り価格にもろに反映するからな。俺の判断じゃどうにもできねぇからよ」
「そういうこった」
「えーと、善処します」
自重も何も、うちのカルテット次第なんだけどね。
ま、まぁ、最悪はアイテムボックスに突っ込んでおくって手もあるけど。
そんなこんなで、何とかみんなが獲ってきた獲物をすべて冒険者ギルドに引き取ってもらい、俺たち一行は冒険者ギルドを後にした。
「ちょっと寄りたい所があるから、こっちな」
『む、寄りたい所?』
『どこに行くのじゃ?』
『屋台か?』
『お肉~』
「違う違う、屋台じゃないよ、ドラちゃん。スイも、お肉は帰ってからな。寄るのは魔道具屋だよ魔道具屋」
以前、警備強化のための魔道具を買った店だ。
無理かもしれないけど、ベヒモスに壊された魔道コンロが直るかどうかの相談をね。
愛用していたから、やっぱり思い入れもあるしさ。
直らないようだったら、そこで同じくらいの性能の魔道コンロを新調したいし。
どちらにしても、魔道コンロは俺たちにとってはなくてはならない魔道具だからね。