第四百六十五話 ベヒモス発見
翌朝、壊れてしまった魔道コンロの代わりに最近はとんと使われなくなっていた懐かしのカセットコンロを使ってフェルのリクエストで肉マシマシの焼き肉丼を作り、みんなの朝飯に。
しっかりガッツリ朝飯を食った後は、いざ、ベヒモス狩りへ。
手っ取り早く、ゴン爺の背に乗ってベヒモスを探索だ。
大事な魔道コンロを壊したベヒモスを退治するためだし、今回は、俺も気合を入れてゴン爺に乗り込んだ。
「ゴン爺、乗ったぞ」
『よし、いいぞゴン爺』
『みんな乗ったぜ』
『わーい、お空お空~』
『では行こうかのう』
みんなを乗せて上空に舞い上がるゴン爺。
「う、うおぉ~」
高い所が苦手な俺は、思わず声を漏らす。
『フェル、探索は任せたぞ』
『任せておけ。ベヒモスなどすぐに見つけてやる』
探索はフェルに任せておけば問題ない。
『ゴン爺、あっちだ』
『うむ、分かったのじゃ』
フェルの指示の下、鬱蒼とした森の上空を飛ぶこと数十分。
『あそこだ』
フェルが見下ろす先を見ると、鬱蒼とした森の中に忽然と現れた洞窟があった。
これも上空から見ているからこそ分かる光景だ。
『ここまでくれば儂でも分かるわい』
そう言いながらゴン爺が高度を下げて洞窟の前へと降り立った。
『この洞窟の中にベヒモスがいるのか?』
中の様子を窺うように大きく穴の開いた洞窟の前を飛ぶドラちゃん。
『悪いべひもすでてこーい!』
ポンポンと飛び跳ねながらヤル気満々でそんなことを言うスイ。
いよいよベヒモスと対峙するのかと緊張していた俺だけど、スイを見たら緊張も解れてくる。
スイちゃん、念話だからベヒモスには聞こえていないよ。
『おい、いるのは分かっているぞ!』
フェルが洞窟に向かって声を出した。
しかし、何の反応もない。
「おい、本当にいるのか?」
フェルの言うことは信用しているが、物音一つ聞こえてこない洞窟に思わずそう聞いてしまう。
『いる。我が間違うはずがなかろう。ベヒモスは間違いなくここにいる』
フェルがそう言うのを聞いて、ドラちゃんとスイが洞窟に向かって叫ぶ。
『おいおい、さっさと出てこいよー、ベヒモスーっ!』
『べひもす、出てこーい!』
ドラちゃん、スイ、だから君たちのは念話だから聞こえないと思うんだ。
ヤル気満々で念話で誘い出すドラちゃんとスイに苦笑いする俺。
『出てこぬならば、こちらから行くしかないかのう!』
なかなか姿を現さないベヒモスに、ゴン爺がダメ押しとばかりに洞窟に向かって声を張り上げた。
すると、洞窟の奥からドシンドシンとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
『来るぞ!』
フェルのその言葉とともに、みんないっせいに洞窟の入り口から飛び退いた。
「グルォォォォォォォォッ」
ベヒモスが雄叫びを上げながら現れる。
『ハッハー、ようやく出てきやがったな!』
『悪いべひもすー! スイが倒すよー!』
姿を現した巨大なベヒモスにドラちゃんとスイのテンションが上がる。
『我らの夕飯を横取りしたのだ。死をもって償え』
『相手が悪かったのう。まぁ、この世が弱肉強食なのはお主もよく分かっておることじゃろう。悪く思うなよ』
フェルもゴン爺もヤル気だ。
みんなが相対するのは、少々というか大分過剰戦力な気もするけど、相手はあの凶暴なベヒモスだ。
こうしたほうが安全なのは間違いないだろう。
『フェルとゴン爺は手ぇ出すなよな!』
『スイが倒すんだから~』
最初はドラちゃんとスイが仕掛けるようだ。
何だかんだ言ってもドラちゃんもスイも強いからな。
だが、ドラちゃんとスイがベヒモスに攻撃を仕掛ける寸前、俺は見てしまった。
「ちょっと待ったーーー!!!」
大声を上げて慌ててドラちゃんとスイを止めた。
『何だよいきなり!』
『あるじー、なんで止めるの~?』
ドラちゃんもスイもいきなり止めに入った俺に不満な様子。
「ベヒモスの足元、お腹の下見てよ!」
後ろ足の間のお腹の下辺りに、小さいベヒモスが2匹寄り添っていた。
『なんだ、子持ちかよ』
『ちっちゃいべひもすがいる~』
俺を襲ったベヒモスは子持ちだったようだ。
「グルァァァァァァァッ」
ベヒモスが子どもを守るかのように俺たちを威嚇してくる。
明らかに格上だろうフェルやゴン爺に囲まれても子どもを守ろうとする必死さが伝わってきた。
『何だ、子持ちだからどうだというのだ?』
「いやさ、子どもがいるなら話はちょっと変わってくるかなぁって……。ってか、フェルは子どもいるの分かってたのか?」
『もちろんだ』
「何だよ~、そんなら言ってくれよ」
『何故? 子どもがいるから許すとでも言うのか?』
「いや、そこは許すとかそうじゃないとかじゃなくってさぁ……。ほら、子どもがいるのに、討伐しちゃったら後味悪いじゃん。子どもだけだと、生き残れないかもしれないだろ」
子どもにおっぱいあげるために親ベヒモスはたくさん食わないといけなかったんじゃないかなとか考えると、一太刀浴びせてやるんだって猛っていた気持ちも霧散してしまう。
『主殿、それも世の理じゃ。その子どもが真の強者であるならば生き残っていけるじゃろう』
『ゴン爺の言うとおりだ』
そうは言うけどさ……。
「いくらベヒモスとはいえ、子どものベヒモスだけでこの秘境で生き残っていけるとは限らないじゃんか……」
『ええい、ウダウダと面倒な奴だ。そんなことを言うのなら子ども共々狩ってやるわ!』
業を煮やしたフェルが一歩前に飛び出してそんなことを口走る。
「ダメだっ! 絶対にダメだからな!」
親ベヒモスには魔道コンロを壊されたし、それを思い出すと確かに業腹だけど、子どもには何の罪もない。
それを子どもも一緒に討伐なんてさせるものか。
『まったく主殿は甘いのう。ではどうするのじゃ?』
どうするって言っても……。
『おいおい、どうすんだよ? やっていいのか?』
『悪いべひもす倒さないの~?』
止めていたドラちゃんとスイからもどうするんだと念話が届く。
そんなとき、小さな鳴き声が聞こえてきた。
「クルゥゥゥ」
「クルルル」
子ベヒモスたちがブルブル震えながら不安そうな鳴き声をあげていた。
それを見たら、とても討伐なんてことはできそうになかった。
「止めだ止め。帰ろう」
そう言うと、みんなから一斉に『エェ~』と抗議の声があがるが、俺の気持ちは変わらない。
甘ちゃんと言われるかもしれないけど、これが俺なんだからしょうがない。
「もういいの! 壊された魔道コンロだって、また買えば済むことだし。幸いにしてみんなのおかげで金はうなるほどあるんだからさ」
『ハァ……。まぁ、弱くて甘いお主らしいと言えばお主らしいか』
「おーい、そこは関係ないだろ、フェル~」
『いやいや、フェルの言うとおりだろ。でもよ、食われた夕飯の恨みはどこで晴らせばいいんだ?』
「あー、はいはい、それなら家に帰ったら食われたのと同じ肉団子を作ってやるよ」
『同じ料理なら俺たち食われ損じゃね?』
ぐぬぬ、ドラちゃん痛いところついてくるね。
「はいはい、分かりました。それじゃあ今のところひき肉がたくさんあるから、ひき肉料理尽くしといこうじゃないの。ハンバーグにメンチカツに、他にもいろいろ作ってやるから」
『ハンバーグ~! ねぇねぇあるじー、白いトロトロのチーズがはいったのも作ってねー!』
ハンバーグが大好きなスイはチーズINをご所望だ。
「チーズINハンバーグか。分かった、いっぱい作るからな」
『わーい、ヤッター!』
スイが嬉しそうにポンポン飛び跳ねている。
『よし、帰ろう。今すぐ帰るぞ』
そう言い出したフェルは、味を思い出しているのか涎をダラダラ垂らしていた。
『フハハ、儂がまだ食ったことのない料理が多々あるようじゃのう。楽しみじゃわい』
ゴン爺の興味もまだ見ぬ料理に移ったようだ。
「よーし、家に帰ってひき肉尽くしの夕飯だ!」
俺たち一行は来たときと同様に、ゴン爺に乗ってさっさとその場を引き上げたのだった。




