第四百五十八話 ドラゴンLOVEなおっさんエルフがやらかした
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「何でエルランドさんがここにいるんですかっ?!」
「何でって当然じゃないですかっ。ドランの冒険者ギルドにいたら、転移の魔法道具に通知が来ましてね。それを見て、心の底から驚きましたよ。古竜ですよ、古竜! じっとしてなんていられるわけがないじゃないですかっ!」
フンスと鼻息荒く、そうまくしたてるエルランドさん。
「古竜を従魔にしたのが無二の親友のムコーダさんだと分かり、羨ましくて妬ましくて血の涙が出そうでしたが、そこはもうどうしようもないと自分を納得させました。それよりも今は何としても古竜に会いに行かねばと思ったのです!」
ちょっと、エルランドさん、本音が駄々漏れだよ。
妬ましいって何だよ、妬ましいって。
それに無二の親友って何さ?
俺、エルランドさんと知り合ってそんなに経ってないんだけど。
無二の親友と言えるほどのお付き合いはしてないはずだぞ。
「ムコーダさんのところには、ドラちゃんがいる。そして、今度は古竜まで! これは私に対する天啓なのだと思いました。ムコーダさんたちの仲間になって、一冒険者に戻って再び冒険をしなさいということの!」
いやいやいやいや、全然意味わからないから。
一人で盛り上がらないでくださいよ。
それは置いておいて、さっきとても気になる言葉があったんだけど……。
「あの、一冒険者に戻ってってどういうことですか? エルランドさんはドランの冒険者ギルドのギルドマスターじゃないですか」
「ああ、それなら全く問題ありません。辞めてきましたから」
笑顔でそう言い切るエルランドさんに理解が追い付かない。
「………………は?」
「ですから、ギルドマスターは辞めてきたんです。王都の本部にも転移の魔法道具を使って辞表を送りましたし、副ギルドマスターのウゴール君にもギルドマスターを辞めますって置手紙を残してきましたからね。まったく問題ありませんよ」
いやいや、ちょっと待って。
問題ないどころか大アリでしょうが!
本部には辞表を送り付けただけで、ウゴールさんには手紙を置いてきただけって、何を考えてるんだこの人。
一方的なばっかりで全然許可を得てないじゃないか!
どうすんだよこれ。
ドランみたいなデカい街の冒険者ギルドのギルドマスターが、勝手に辞めるって言って出奔しちゃったんだから、本部もドランもエラい騒ぎになっていそうな予感……。
特にウゴールさんは怒髪天を突き抜けちゃってる気がするよ。
「そんなことより、古竜はどこにいるんですか?」
そんなことよりって、エルランドさん、そこが一番重要なことでしょうが。
「そんなことよりって、そこ一番重要ですからね。要は、勝手に仕事を放棄してこっちに来ちゃったってことですよね? それはダメでしょう。またウゴールさんに怒られますからね」
「ウゴール君には置手紙を残してきたし、大丈夫ですって」
「いやですから、全然大丈夫じゃないですって。置手紙で許されるなら、ウゴールさんはいつもあんなに怒ってないでしょうよ」
「そ、それは……」
そう言いながら俺と目を合わせないエルランドさん。
こりゃ確信犯だな。
「傷が浅いうちにドランの街に戻った方がいいですよ、エルランドさん」
「それは嫌です! 私は決めたんですっ、ムコーダさんたちの仲間になって一緒に冒険するんだって!」
やる気に満ちたキラキラした目でそう宣言するエルランドさん。
だけどねぇ……。
「仲間になってって、なに勝手に決めてるんですか? ダメですよ、ドラちゃんが嫌がりますから」
ドラちゃんはエルランドさんのこと相当苦手にしてるんだから。
「そ、そんなっ……」
俺に断られるとは思ってもいなかったのか、エルランドさんが膝から崩れ落ちる。
そしてポロポロと涙を流し始める。
「そんな、そんなっ……。ムコーダさぁん、そんなこと言わないでくださいよーっ。私とムコーダさんの仲じゃないですかぁぁぁ! 私を仲間に入れてくださいよぉーっ! お願いですからー!」
そう言って泣きながらエルランドさんが俺の足にすがり付いてきた。
「ちょっ、ちょっとっ、放してください!」
すがり付くエルランドさんを何とか引き離そうとするが、なかなか離れてくれない。
「お願いですからぁぁぁ、ムコーダさぁぁぁん」
ワンワン泣きながらエルランドさんがさらにひっしとすがり付いてくる。
「もー、エルランドさん!」
おっさんエルフにすがり付かれても誰トクだからっ。
離れてくれよ、も~。
なかなか離れてくれないエルランドさんに辟易していると……。
ヒソヒソ、ヒソヒソ。
家の門の前の通りを通る住民の方々がこちらを見てヒソヒソと話していた。
ゲッ……、そういえばここは門の前で通りから丸見えだった。
「ムコーダさんってそういう趣味だったんだな……」
「人の趣味にどうこう言うつもりはないが、男色でおっさん好みとは難儀な趣味だなぁ」
俺から少し離れた場所からルークとアーヴィンの声が聞こえてくる。
「ちょっとちょっと、ルークもアーヴィンも変なことを言うなよな!」
変な誤解をされてはたまらないと慌てて反論するが、ルークとアーヴィンも住民の人たちも疑わしげな目でこちらを見ている。
いまだに俺の足にすがり付いているエルランドさんもといおっさんエルフが諸悪の根源なのは間違いない。
このおっさんエルフをどうにかしなければ、俺の尊厳がっ。
「エルランドさんっ! とにかくっ、ここでは話にならないので家に行きますよ!」
エルランドさんを立たせて、そそくさとその場を離れた。
「ムコーダさん、信じていましたよ! やっぱり私たちは無二の親友ですね!」
さっきまで泣いていたおっさんエルフが今度はニコニコ顔でそんなことを言う。
「ちょっと、勘違いしないでください。仲間に入れるのを承知したわけではないですからね!」
「いいからいいから、分かってますって」
「何がいいからなんですかっ。分かってますって、エルランドさんは何もわかってないじゃないですかー!」
人の話を聞かないドラゴンLOVEなおっさんエルフは、「それはいいですけど、古竜はどこに?」とまた言い出す始末。
「古竜、庭にはいないようですが……。あっ、巨大過ぎて庭では狭すぎるとかですか? もしかして街の外に?」
うちの敷地内をキョロキョロと見渡すエルランドさん。
古竜に会いたくて仕方がないのだろう。
ゴン爺には会わせたくはないけど、このおっさんエルフ、ゴン爺の姿を見るまで絶対に諦めないだろうなぁ。
ハァ~……。
ゴン爺を見せないことには何も進みそうにない。
嫌だけど、本当に嫌だけどさ。
「ハァ……。古竜は家にいます。小さくなれるんで問題ないんです」
「えっ、そうなんですか?! 古竜にそのような能力があったとは!」
今まで知らなかったことが知れたと一人で興奮しているおっさんエルフ。
あ~、家の玄関前まで来てしまった。
「ささっ、早く早く。古竜を私に紹介してくださいよ!」
面倒くさそうだから、本当は家には入れたくないんだけど……。
それでもやむを得ないと仕方なくエルランドさんを家に招き入れた。
そしてリビングへと通す。
フェルと並んで羽を伸ばしてリラックスするゴン爺の姿が。
「ムコーダさん。ありがとうございます。私は今、猛烈に感動しています。実物の古竜を私が生きているうちに目にすることができるとは……、ウグッ……」
エルランドさんがゴン爺を見て、滝のようにドバーッと涙を流している。
『ゲーッ! 何でそいつがここにいるんだよ?!』
警戒センサーにひっかかったのか、ドラちゃんがいち早くエルランドさんに気付いて鼻にしわを寄せてもの凄く嫌そうな顔をして念話でそう叫んだ。
『む……。ああ、前にダンジョンを共に潜ったエルフか』
『あー! エルフのおじちゃんだー!』
フェルとスイもエルランドさんのことは覚えているようだ。
あまり被害を受けなかったのもあってフェルもスイもどうという事はない。
『知り合いか?』
ゴン爺だけが分かってないよね。
『ゴン爺、最初に言っとく。本当にゴメン』
分かっていないゴン爺にそう念話を送った。
『何故謝る?』
不思議そうに念話を送ってきたゴン爺だが……。
『むぅ、何じゃ此奴は?』
そう困惑気味に声を上げた。
ゴン爺に引き寄せられるかの如くフラフラと近寄っていったドラゴンLOVEなおっさんエルフが、ゴン爺の首にガバッと抱き着いていた。
「はー、私は幸せです! ドラゴンの中のドラゴンである古竜に触れているのですから。……ハァ、もう死んでもいいかも…………」
終いには変なことを言いながらゴン爺の黒光りする鱗に頬ずりしてるし。
『うへぇ、気持ち悪っ。やっぱりあいつに触られなくて良かったわ~』
あまりの姿にドン引きのドラちゃんだけど、自分自身はおっさんエルフに触られなくて良かったと心の底から安堵しているようだ。
『主殿、何なのだこのエルフは。どうにかしてくれ!』
いい加減耐えかねたのかゴン爺が顔を顰めながらそう声を出して訴えた。
「エ、エルランドさん、もうその辺で……」
「はっ、すみません。つい感動のあまり我を忘れてしまいました」
いや、我を忘れたというか、欲望のまま行動しただけでしょ。
『おい、してそのエルフは何をしにきたのだ?』
我関せずと寝そべっていたフェルがそう聞いてくる。
「フェル様、よくぞ聞いてくれました! 私エルランド、みなさんの仲間になり一緒に冒険するためにここカレーリナまで参りました!」
すがすがしいまでに眩しい笑顔でそう言い放つエルランドさん。
俺はその姿を見て、頭を抱えるしかなかった。