第四百五十七話 呼んでいないのにあの人が我が家にやって来た
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懐かしき家の門が見えてきた。
今日の門番の担当はバルテルとペーターみたいだな。
「バルテル、ペーター、ただいま!」
「おう、帰ってきたか。無事で何よりだ」
「お帰り」
バルテルとペーターと挨拶を交わすが、俺の横にいるゴン爺が気になって仕方がない様子。
「それにしても……」
バルテルが頬をヒクつかせながらゴン爺を見上げる。
「冒険者ギルドから連絡が来たときにゃあ、みんなして驚いたが、本当にどえらいもんを連れてきたもんじゃなぁ」
そのバルテルの言葉にペーターもしきりに頷いている。
「まぁ、なりゆきっていうかね。とにかく、俺の従魔になったんだから、みんなにも慣れてもらわなくちゃな」
「確かにそうだのう。考えてみると、謂わば儂らの同志のようなもんじゃし」
「そういうこと。それで、俺が留守の間、大丈夫だった?」
「うむ。いたって平和なもんじゃ。そうだ、ペーター、ひとっ走りして屋敷にいるみんなに知らせてこい」
バルテルにそう言われてコクリと頷いたペーターが、大きな体を揺らしながら走っていった。
「今日は、みんなからいろいろ話も聞きたいし、みんなで一緒に飯にするか」
そんなことをつぶやくと、隣を歩いていたフェルが『当然肉はたっぷりとな』と言いながら鼻先がつきそうなくらいに顔を寄せてくる。
「はいはい、わかってるって。てか、顔近すぎ」
そう言いながらフェルの横っ面を押し返して遠退ける。
まったく、肉たっぷりはいつものことなんだから言われなくたって分かってますって。
「ま、アルバンの野菜も使おうと思ってるけどな。バルテル、アルバンの畑は順調に育ってるんだろ?」
「ガハハハハッ、順調なんてもんじゃないわい。アルバンが気合を入れて世話をするもんだから、採れすぎてここのみんなでせっせと食ってもおっつかないくらいじゃ」
おいおい、採れすぎって、アルバンはどんだけ野菜作ってるんだ?
ま、まぁ、後で詳しく話を聞くとしよう。
『肉も当然食うけど、ここで作った野菜はまぁまぁ美味いから俺は食うぞ』
ゴン爺の上に乗っていたドラちゃんが嬉しいことを言ってくれる。
『スイはめろんっていう甘いのがまた食べたいなぁ。あと、お肉もいーっぱい食べるー!』
飯の話になった途端に目が覚めたのか、革鞄から飛び出てきたスイがフェルの背中の上に飛び乗って念話でそう言う。
スイちゃん、メロンは野菜だけど飯になるような野菜じゃないから。
メロンはデザートに食べようね。
『肉が一番じゃが、主殿が出す物に不味いものはないからな。儂もここでできたという野菜を食ってみるとしよう』
うんうん、そうしなそうしな。
「だって。フェルもたまには野菜を食ったほうがいいんじゃないの?」
『ぐぬっ……。ええい、我は肉だけでいいといったらいいのだ!』
まったく頑なだねぇ。
そうこうしているうちに母屋の前へ。
懐かしい顔ぶれが集まって待っていてくれた。
「お帰りー、ムコーダのお兄ちゃん!」
飛び跳ねながら、真っ先に出迎えてくれたのは元気いっぱいのロッテちゃんだ。
「ただいまロッテちゃん。みんなもただいま」
「「「「「お帰りなさい、ムコーダさん」」」」」
みんなが笑顔でそう言ってくれた。
そんな姿を見ると、自然と俺の顔もほころぶ。
やっぱり我が家っていうのはいいもんだぁねぇ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃあ、お願いね」
みんなにゴン爺を紹介した後は(ドラゴンのゴン爺に大いに驚かれたけどね。というか気絶しなかっただけ偉いぞ、みんな)、女性陣に手伝ってもらい宴の準備にとりかかった。
具材を切ったり下茹でしたりの作業を女性陣にお願いする。
アルバンが手塩にかけて育てた自慢の野菜を見て、その野菜を使ってみんなでわいわい食えるものとして俺が思いついたのがチーズフォンデュだ。
これならみんなで楽しめるし、何より美味いからね。
そして、そんなに難しくないところも良い点だ。
女性陣には、アルバン自慢の野菜の中からチーズフォンデュに合うものを厳選して渡してある。
ジャガイモ、カボチャ、ブロッコリー、ニンジン、プチトマト、赤とオレンジのパプリカ。
こんな野菜の種渡したっけって野菜もあるんだけど……。
あ、そういや前にアルバンに請われて、ネットスーパーで適当に片っ端から種を買って渡したことがあったかも。
ま、まぁ、美味そうな野菜に育ってるから、結果オーライだよな、うん。
その野菜の切ったり茹でたりの下処理を女性陣が手際よく進めている。
具材に肉がなくては、誰かさんたちからブチブチ文句が出るからね。
多少肉の具材も用意する。
ネットスーパーで調達したソーセージは斜めに半分に切って軽く炒めてもらって、在庫からコカトリスの肉も一口大に切って軽く塩胡椒をしてから炒めておいてもらう。
今朝焼いたという、テレーザの作った自慢の田舎パンも一口大に切り分けるようお願いしておく。
大量の具材の下処理は女性陣に任せて、俺はというと……。
少し前から準備して、オーブンで焼いている最中のローストポークの様子を見る。
「こっちは焼き上がるまで、もうちょっとかかりそうかな」
やっぱりがっつり肉っていうメニューがないとフェルたちが騒ぐからねぇ。
今回は奮発して肉ダンジョン産のダンジョン豚の上位種の特殊個体の肉を使った。
しっとりとした肉質でほどよくさしも入っていて、見るからに良い肉って感じなんだ。
その肉塊におろしニンニク、塩、あらびき胡椒、オリーブオイルをすり込んで準備しておいて、少し前にオーブンへ。
もちろんキッチンに備え付けのオーブンとアイテムボックスから出した魔道コンロにあるオーブンをフル回転しながらいくつもの肉塊を焼いている。
あとは焼き加減を見ながらこんがりジューシーに焼き上がるのを待つだけになっている。
その間にチーズフォンデュのチーズソースを作っていく。
まずはピザ用のとろけるチーズに片栗粉をまぶしておく。
次に鍋の内側にニンニクをこすりつけて香りを移したら、そこに白ワインを入れて一煮たちさせてアルコールをとばす。
ここで、白ワインじゃなくて牛乳を使ってもいいけど、白ワインの方がコクのあるチーズソースに仕上がるから個人的には白ワインがおすすめだ。
あとはアルコールをとばした白ワインの中に、片栗粉をまぶしたとろけるチーズを2、3回に分けてよく溶かしながら入れていけば、トロっとして濃厚なチーズソースの出来上がりだ。
オーブンの中をのぞくと、ダンジョン豚のローストポークもイイ感じに焼き上がっているね。
女性陣にお願いした具材の準備もOKみたいだ。
あとは皿に盛り付けて、テーブルにセット。
「よし、みんなを呼んで食べよう!」
ダイニングにあるドデカいテーブルの上に、大皿に盛り付けたチーズフォンデュの具材とローストポークが所狭しと並ぶ。
それと一緒に用意した4つのカセットコンロの上には、トロリと濃厚なチーズソースが入った鍋がクツクツと音を立てている。
チーズフォンデュにしたものの、そういやチーズフォンデュ用のフォークは用意してなかったからちょい焦ったけど、ネットスーパーで売ってたよ。
キッチン用品もよく見ると意外に充実しているから、改めて思うけどホントありがたい存在だわ。
みんなが席に着いたところで、今日のメニューの説明をば。
「今日のメニューはチーズフォンデュとローストポークだ。チーズフォンデュは、こんな感じで……」
アルバン自慢のブロッコリーをチーズフォンデュ用のフォークに刺して、チーズソースにたっぷりと絡めてパクリ。
熱いけど、うっま。
茎も固すぎず柔らかすぎず、ちょうど良い食感を残しながら噛み締めるとほんのり甘味も感じてコクのあるチーズソースと抜群に合っている。
美味すぎてさらにもう一つといきそうになるのを堪えて、みんなに説明を続ける。
「こんな感じで、このチーズフォンデュ用のフォークに具材を刺して、チーズソースに絡めて食うんだ。さ、みんなも食った食った。あ、熱いからそれだけは気を付けてな」
俺がそう言うと、みんな一斉にチーズフォンデュ用のフォークを持ち、思い思いの具材を刺してチーズソースに絡めていく。
そして、フーフーしながらパクリ。
「美味しい!」
「うめー!」
「うっま!」
「これは美味しい!」
「美味しいわ!」
口々に美味いと声が上がる。
『おい、我らにも食わせろ!』
『そうだそうだ』
みんなの美味いという声を聞いてフェルたちも声をあげる。
「あれ? ローストポークは?」
フェルたちには先にローストポークをたっぷりと出していたんだけど。
『もう食ったぞ』
『うむ、美味かったから一瞬でなくなったぞ』
『美味しかったー』
『やはり主殿の飯は美味いのう』
早っ。
山盛りに盛ったのに。
「チーズフォンデュはチーズを絡めるのにちょっと時間かかるから、こっち食べてて。ローストポーク、にんにく醤油がけ」
『む、これはステーキにかけるあれか?』
「そ。フェルが好きなやつ。これ、どんな肉にも大抵合うから、ローストポークにかけても美味いんだぞ」
そう言いながら出してやると、肉好きのみんなはいっせいにかぶりついた。
『おおっ、確かに合うな』
『うっめー!』
『美味しいー!』
『ほ~、さきほどのも悪くないが、こちらも美味いのう!』
みんながローストポークを食っているうちに、自分でもつまみつつ、チーズフォンデュの具材をチーズソースに絡めてせっせと皿に並べていく。
「よし、こんくらいかな。はい、チーズフォンデュ」
チーズソースがたっぷりとからまったチーズフォンデュを頬張る。
少し冷めてるのもみんなにとってはいいだろう。
『我は肉だけで良かったのだがな。肉は美味いぞ』
『濃厚なチーズが絡まって、うめぇなこりゃ』
『トロっと白いチーズがとっても美味しいね~』
『うーむ、これも美味い! 主殿の飯は本当に美味いのう』
チーズフォンデュはフェル、ドラちゃん、スイ、ゴン爺にも好評だ。
フェルは具材は肉だけでいいとか言ってるけどね。
さて、俺もガッツリ食わせてもらうぞ。
テレーザの田舎パンを濃厚チーズソースに絡めてパクリ。
パンにチーズソースがガッツリ絡んで美味いとしか言えない味わいに。
やっぱりチーズフォンデュにパンは鉄板だよね。
次はジャガイモ。
これも鉄板だよ。
ジャガイモの淡白な味わいにチーズソースが合わないわけがない。
パクパクとチーズフォンデュを味わったら、お次はローストポークをパクリ。
自分で言うのもなんだけど、絶妙の焼き加減で最高に美味いね。
「うっま! この肉、うっま!」
右隣から声があがった。
双子の片割れアーヴィンだ。
「ほんと、めっちゃ美味いなこの肉」
アーヴィンの向かいに座ったもう一人の双子の片割れルークからも声があがる。
「ちなみにじゃが、なんの肉なんじゃ?」
バルテルがそう聞くから「今日は奮発して肉ダンジョン産のダンジョン豚の上位種の特殊個体の肉を使ったんだ」と言うと、冒険者組の5人全員が一斉に噴いた。
「ちょっとー、汚いよ」
「ムコーダさんっ、そんなこと聞いたら噴いちまうのもしょうがないだろ! ダンジョン豚の上位種、しかも特殊個体の肉なんていくらすると思ってるんだい!」
「落ち着きなよタバサ。いやまぁ、高級品ってのは知ってるよ」
「高級品ってか庶民の口には一生入らない超高級品だわな……」
バルテルがローストポークを見ながら余計なことをつぶやいた。
そんなこと言うから、トニ一家とアルバン一家も固まってるじゃん。
「ぐっ……。バルテルの言うとおりだけど、まぁ、たまにはいいじゃない。美味いしさ。それに、この前肉ダンジョンに行ったときに、フェルたちがハッスルしちゃってさ。いっぱいあるんだよ、ダンジョン牛とダンジョン豚の肉。だからいいの」
「たまにはって、俺たちいつも美味いもの食ってる気がする」
ペーターもそこでボソッとつぶやかないの。
「奴隷ってなんなんだろうね……」
「いいじゃんいいじゃん、主のムコーダさんがそう言ってくれてんだからさ」
「そうそう。ムコーダさんの奴隷、サイコー」
「ったくアーヴィンとルークは相変わらず調子いいんだから。でもま、そういうことだよ。たまにはこうやってみんなで美味いもの食うの楽しいしさ。気楽に考えなよ。ささ、食って食って」
そう言うが、超高級品と聞いてみんな遠慮がちになっている。
アーヴィンとルーク、そしてこの子以外はね。
「ねぇねぇ、お母さんとお兄ちゃん食べないのー? このお肉すっごく美味しいよ!」
ローストポークを口いっぱいに頬張ってモキュモキュと食べながらそう言うロッテちゃん。
「ロッテちゃん、美味しい?」
「うん! すっごく美味しいよ、ムコーダのお兄ちゃん」
「良かった。いっぱい食べな」
「うん、ロッテいっぱい食べる!」
元気いっぱい美味そうに肉を食うロッテちゃんを見て和む。
「ほら、みんなも気にしないで食った食った」
そう促して、ようやくみんなも元のように食い始めた。
「おっとこれを忘れてたな」
チーズフォンデュにはやっぱり白ワイン。
そして、何にでも合うビールも忘れちゃあいけないね。
「おお、酒か」
酒好きのバルテルが嬉しそうだ。
そこからはみんなで大いに食って、大いに飲んで。
飯を一緒に食ったことで、ゴン爺にも少しは慣れてきたみたいだ。
子どもたちは逆に興味津々みたいだけどね。
まぁ一緒にいればそのうち慣れてくれるだろう。
宴の終盤にみんなへのおみやげを渡すと、恐縮していたけど、みんな一様に嬉しそうに受け取ってくれたよ。
最年少のロッテちゃんは何度も何度も飛び跳ねて喜んでいた。
帰還の宴を終え、翌日から俺たち一行は休息に入った。
ダンジョンから帰ってきたばかりだもん、やっぱり休みは必要だよね。
とは言っても、その間にランベルトさんには帰ってきた旨の挨拶をしないといけないと会いに行って、そこで例のお土産も渡したり。
嬉し泣きされて抱き着かれたのには苦笑いだった。
おっさんに抱き着かれてもねぇ。
ま、そんな感じで多少の用を足しつつゆっくりと過ごして数日。
フェルたちが狩りに行きたいとウズウズしだして、明日くらいに冒険者ギルドに顔を出してみようかななんて思いながらリビングでくつろいでいると……。
「おーい、ムコーダさん。ムコーダさんの知り合いだってエルフが来てるんだけど」
母屋の玄関からそんな声が聞こえてきた。
玄関に向かうと、今日の門番のルークが困り顔で立っていた。
「なんかよう、ムコーダさんの知り合いだから入れてくれの一点張りでさ。一応、確認してからと思って今はアーヴィンが押さえてる」
「エルフ? 誰かな? 一緒に見に行くよ」
ルークを伴って門のところまで行くと……。
「ムコーダさん! 話を聞いて、居ても立っても居られなくて来ちゃいました!」
「ゲッ」
眩し過ぎるほどのイイ笑顔で俺を見ていたのは、ドランにいるはずのドラゴンLOVEなあの人だった。
「エルランドさん……」