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第四百五十六話 ばっちい毛だけど実は相当の価値があった

 俺たち一行を乗せたゴン爺は、ものすごい速さで飛び続けて、予定していたよりも大分早い時間にカレーリナの街近くの平原へと着地。

 ゴン爺の背中からやっとのことで降りた俺は、草の生えた地面へと大の字になった。

「あ~、ひどい目にあった……」

『あれくらいでへたるとは、主殿はひ弱だの~』

「あれくらいってねぇ、ゴン爺は飛ばしすぎなんだよ! もうちょっとゆっくり飛んでくれたらいいのに」

『何を言うか。儂が速度を出したからこそこんなに早く目的の地に到着したのではないか』

「それはそうだけどさぁ」

『だから今まで通り我に乗ればよかったのだ』

「まぁまぁ、それはそれというかさ」

 移動についてはフェルも速いけど、何だかんだ言ってもゴン爺はもっと速いからさ。

 時短だよ時短。

『おーい、早く家に帰ろうぜ』

 焦れたドラちゃんがそう言ってくる。

「そうだな。って言っても先に冒険者ギルドに行くけどな」

 ゴン爺の従魔登録はブリクストで終えて、ここカレーリナにもその連絡は来ているはずだけど、やっぱり一応は面通ししておかないとさ。

 なんと言ってもこの街は今のところの俺たちの拠点でもあるし。

「それじゃあ行くか」

『うむ、ここからは我だ。ほれ、乗れ』

「はいはい」

 今度はフェルの背によじ登る。

 それと同時にゴン爺の体がピカンと光って小さくなっていく。

『よし、儂もいいぞ』

『んじゃ俺はゴン爺に乗せてもらおうっと』

 パタパタと飛んでいたドラちゃんがゴン爺の首下へと着地。

『しょうがないのう』

 スイは、どうかな?

 革鞄の中を覗くと、未だ熟睡中のスイが。

 ゴン爺の背中に乗って移動中に、スイってばはしゃぎ過ぎて途中で寝ちゃったんだよね。

 ぐっすり寝ているから、スイはこのままそっとしておこう。

「それじゃ懐かしのカレーリナへ帰るとするか」

 俺たち一行は、カレーリナの街へと進んでいった。

 事前に知らせがいっていたからなのか、門番たちもゴン爺連れでもある程度落ち着いていた。

 それでも、実物を見ると驚きもひとしおなのか、ゴン爺を前にしておっかなびっくりという感じだったけどね。

 なんとか無事にカレーリナの街へと帰り着いたけど、街中に入ってからの方が大変だった。

 ゴン爺のことは、街の上層部には知らせがいっているんだろうけど、住民たちがそんなことを知っているはずもなく……。

 例によって大騒ぎになりましたよ。

 ブリクストの街と同じ状況に。

 当然俺は、冒険者ギルドまでの道のりを「俺の従魔ですから! 大丈夫ですから!」と声を張り上げて練り歩く羽目になったよ。

「ひー、疲れたぁ」

 大声を出しての練り歩きに、少々グッタリ気味で馴染みのカレーリナの冒険者ギルドへと入っていった。

 俺たち一行が入ったとたんに、冒険者ギルド内がシーンと静まり返る。

 デジャヴかよ。

 ため息をついたあと、ここでも「俺の従魔ですから!」と再び声を張り上げた。

「よ~、ようやく帰ってきやがったか」

「ギルドマスター……」

「ったく、またどえらいもんを連れてきやがってからに」

 そんなこと言ってもしょうがないじゃないですか。

 気付いたら従魔になってたんですもん。

「まぁいい。ついてこい」

 そう言うギルドマスターに連れられてきたのは、馴染みの倉庫だ。

 フェルとゴン爺連れじゃあどう考えたってギルドマスターの部屋には入りきらないもんな。

「兄さん、お帰り。まぁたやっちまったなぁ」

 そう声をかけてきたのは、いつもお世話になってる解体職のヨハンのおっさん。

 やっちゃってないから。

 ってか、ニヤニヤしてるくせに、ちょっと離れたところから声をかけてくるとはゴン爺にビビってるんですかねぇ?

「で、それが新しい従魔の古竜(エンシェントドラゴン)か」

「はい。古竜(エンシェントドラゴン)のゴン爺です」

『主殿の従魔になった。主殿の家はこの街にあるそうだから、儂も世話になる。よろしく頼むぞ』

 ゴン爺が声に出してそう言った。

 なんと言っても一番世話になるのはここの冒険者ギルドだから、ゴン爺にも一言あいさつするように言ってあったんだ。

 見た目からしてヤバいゴン爺だから、少しでも印象が良くなるようにってさ。

「あ、ああ。こちらこそ、よ、よろしく頼む」

 いきなりゴン爺に声をかけられて、ギルドマスターが「や、やはりこいつも人語をしゃべるのか」とかボソボソ言いながら驚いている。

「見ての通りドラゴンなので見た目は怖いですけど、暴れるようなことは絶対にないんで。な、ゴン爺」

『うむ。まぁ、主殿を害するようなことがない限りな』

 ゴン爺がそう言うと、ギルドマスターがまじまじと俺を見てくる。

「なんですか?」

「いや、本当に古竜(エンシェントドラゴン)を従魔にしたんだと思ってな」

「だからそう言ってるじゃないですか」

「分かってはいても、そう思っちまうんだよ! お前が古竜(エンシェントドラゴン)を従魔にしたって聞いたときだって、儂も耄碌して耳がおかしくなったのかと疑ったくらいなんだからな」

「そんなことを言われても……」

「まぁそれを言ったらフェンリルもなんだがな。まぁ、お前もこれで名実ともに史上最強の冒険者になったわけだから、指名依頼もたんまり舞い込んでくるだろうな。せいぜいがんばってもらうぜ」

「ちょっとちょっと、その史上最強の冒険者ってなんですか?」

「その名の通りだろう。フェンリルと古竜(エンシェントドラゴン)を従魔にして史上最強じゃなかったら、誰が史上最強なんだって話だぜ」

 俺の両隣にいるフェルとゴン爺を見上げる。

 …………。

 いや、それはまぁねぇ。

「しかも、それだけじゃねぇんだろ? そのピクシードラゴンとスライムもかなり強いってことは聞いてるぞ。それほどの戦力を従えてんだから史上最強と言わずしてなんて言うんだよ」

「百歩譲ってそうかもしれないですけど、それ、他では言わないでくださいね」

「なんでだよ? もうみんな言ってるぞ」

「え゛」

 史上最強とか、なんか痛いヤツみたいで嫌だ。

「諦めろ。事実だし、みんながそういう認識なんだからよ」

「そんなぁ~」

 ガックリ項垂れていると、ヨハンのおっさんの声が。

「兄さん、ギルドマスターとの話は区切りついただろ。ちょっと相談なんだが、いいか? 兄さんだけ、ちょっとな」

 そう言いながら、ヨハンのおっさんが手招きしている。

「なんですか?」

「あのよ、ものは相談なんだけど、古竜(エンシェントドラゴン)の鱗とかはないのか? 古くなって剥がれ落ちたのとかさ」

 ゴン爺をチラチラと見ながらそんなことを言い出した。

「ゴン爺は最近従魔になったばっかりなんですよ。そんなの持ってるわけないじゃないですか」

「そうか。じゃあ、近々剥がれそうな鱗とかは?」

「それはゴン爺に聞いてみないとわからないですよ」

「じゃあ聞いてみてくれないか」

「しょうがないですねぇ。……なぁ、ゴン爺、古くなって近々剥がれそうな鱗とかない?」

『む? 特にないぞ。儂の鱗はそうそう剥がれるもんでもないしのう。何だ? 主殿は儂の鱗が欲しいのか? 無理矢理剥がせば採れんことはないぞ』

 うへ、無理矢理って痛そう。

 別にそんな痛そうなことしてもらってまで欲しいもんじゃないし。

「いやいや、いいって。そこまですることないよ」

「ちょい待て待て。鱗、欲しいぞ! 古竜(エンシェントドラゴン)の鱗なんてお宝中のお宝、見逃すわけにはいかねぇぜ!」

 目をランランと輝かせたヨハンのおっさんが興奮気味にそう言ってくる。

「おいおい、それこそちょっと待て、ヨハン。伝説の古竜(エンシェントドラゴン)、その鱗が手に入るとなりゃあ興奮するのも分かるし、何がなんでも手に入れたいって気持ちもわかるぜ。だがよぉ、その資金はどっから出すんだ? ここのギルドにゃあひっくり返したってそこまでの資金は出ないぜ」

 手に入れる気満々のヨハンのおっさんに、ギルドマスターからの鋭い突っ込みが。

「そんなぁ~。ギルドマスター、古竜(エンシェントドラゴン)の鱗ですぜぇ」

「そんなこと言ったって、ないものはない。それとも足りない分はお前が出すか? 莫大な金額だぞ」

「ぐっ……」

『なんじゃ、儂の鱗が欲しいのは主殿ではなくそこの人間か。主殿なら考えてやらんでもないが、ただの人間のためにそこまでする義理はないわ。まぁ、儂の鱗一つで莫大な富をもたらすというからその考えもわからんでもないが、高望みし過ぎだぞ。まだフェルの毛の方が手に入りやすいだろうて』

 ゴン爺の話を聞いて、「確かに」とつぶやいたヨハンのおっさんのギラギラした目がフェルに向けられる。

『おいっ、我に振るな』

 フェルはフェルで、急に話を振られて不機嫌そう。

 というか……。

「え? フェルの毛って素材になるの?」

 風呂に入る前とかに梳いてやると、ブラシに大量についてくるんだけど。

 埃まみれでばっちい抜け毛の塊。

『うむ。儂の鱗ほどではないだろうが、魔力が豊富で丈夫なフェンリルの毛なら素材として十分優秀だろう』

「そ、そうなんだ。埃まみれでばっちいから今まで捨てちゃってたわ……」

 そんな俺のつぶやきを聞いていたヨハンのおっさんから俺の肩をガシッと掴まれて叫ばれた。

「おーいっ、なんてもったいねぇことしてんだよー!」

「そんなこと言われても、ただの抜け毛だし、ばっちかったし……」

 タジタジになりながらそう反論すると、「ただの抜け毛じゃねぇだろー! フェンリルの抜け毛だろうがー!」とまた叫ばれた。

「次出たときは絶対に持ってこいよ!」

 ヨハンのおっさんにはそう言われるが……。

『やめろ! そんなことはさせんからな! お主、そんなことをすれば、これから風呂に入ることは断固拒否するぞ!』

「え? なんでそうなるの?」

『いいか、我の毛はな、普通にしていればほとんど抜けることはない。風呂に入る前にお主が梳くときに多少まとまって抜けるくらいなのだ』

 そういえばブラシにくっついているときは大量に見えたけど、フェルの大きさと毛量から考えたらもっとあってもおかしくないような気がするな。

『それを今まで通りに始末してくれるならば問題ない。だが、売るとなると別だ。自分の毛が素材として売られるなど気持ち悪かろうが』

 まぁ、言われてみれば確かに。

 自分の爪とか髪の毛とか売ってくれなんて言われたら、ドン引きだよな。

 そんなフェルとのやり取りに割って入ってきたのはヨハンのおっさん。

「そんな殺生なぁ~」

「うわぁ、ちょっとー」

 ムッキムキのヨハンのおっさんにすがりつかれて慌てる俺。

「一回、一回だけでいいから買取らせてくれよ~」

「それについては儂もお願いしたいところだ。フェンリルの毛となれば、欲しいという奴はわんさかいるだろうからな」

 ギルドマスターまでそういうこと言うんだからぁ。

 ヨハンのおっさんの「一回だけ、一回だけ」という泣きが入ったところで、俺も折れた。

「わかりましたって! 一回だけですからね!」

 ムッキムキのおっさんに泣いてすがりつかれるって、ウザ過ぎるだけだよ。

 まったくもう。

 もちろんフェルからは猛抗議にあったけど、一回だけという約束で、そのときはフェルの好きなものを食わせてやるってことでなんとか納得させた。

 それはいいんだけど……。

『覚えていろよ。これでもかというくらいに、美味い物を食わせてもらうからな』

 そうふてぶてしくフェルに宣言されて戦々恐々だけど、ま、まぁ、なんとかなるだろう。

 カレーリナに戻ってきたことの報告だったのに、なぜかフェルの毛を買取りに出すことを約束させられて、俺たち一行は冒険者ギルドを後にした。

 そして、家までの道のりを、また「俺の従魔ですから! 大丈夫ですから!」と声を張り上げて練り歩いていった。






感想でも何回か触れられていた件について書いてみました。

ここにきてという感じなのですが(笑)

それから話題のあの人ですが、来週には登場する予定です。

……多分(汗)

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― 新着の感想 ―
フェルの様々な意見出ているが…フェルを仲間としてみるか?魔物としてみるか?にも違うし、意思ある 他人が自分の髪の毛等をくれ、といわれていい気するか? そのかみを枕に入れて素材にすると言われて… 何度…
ムコーダがどうこうよりもギルマスとヨハンのおっさんの言い分の方が嫌だなぁ 素材としての価値はともかくねだり方がなぁ……… 従魔とはいえ伝説の魔物相手ですよね?
変な感想が多くて、作者様も大変だなと思います。 このエピソードにしても、フェルの『抜け毛』の事もムコーダさんは『埃まみれでばっちい抜け毛の塊』としか思ってなかったのに、 よくもまあそこまで!という程…
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