閑話 かの冒険者の話
7月25日に書籍7巻「とんでもスキルで異世界放浪メシ7 赤身肉のステーキ×創造神の裁き」、本編コミック「 とんでもスキルで異世界放浪メシ 4」、外伝コミック「とんでもスキルで異世界放浪メシ スイの大冒険 2」が同時発売になります!
書籍については、今回ももちろん書き下ろしがあります。コミックの方にもそれぞれ書き下ろし短編を書かせていただいておりますので、そちらも楽しんでいただければ嬉しいです。
2週間ぶりの更新ですが、閑話からです。しかも短め。来週からは本編ですので。ホントです(汗)
「かの冒険者は我にもこのようなものを差し出すか」
我が国唯一のダンジョンがあるブリクストの街、そこの冒険者ギルドのギルドマスターが差し出した品々が目の前にある。
かの冒険者からの献上品だ。
それを見て、既に妃はうっとりして目を奪われておるわ。
その気持ちはわからなくもない。
王である我とて、このようなものは初めて見るのだ。
「はい。これからもどうぞよしなにお取り計らいくださいとのことでございます」
「よしなにと言っても、それほどのことはやっておらんのだがな。だいたい、フェンリルを従魔に持つ者に手出しなどできるはずもなかろうて」
伝説の魔獣フェンリルを従える者、その価値は計り知れない。
最初はなんとかしてこの国にとも思ったが、レオンハルト王からの書簡で目が覚めたわ。
フェンリルを怒らせれば国が危うくなるとな。
下手をしたら、我がこの国の最後の王になるところだったわ。
「して、その件の冒険者、ムコーダといったか? フェンリルとは別に、またとんでもないものを従魔にしたと耳にしたのだが、本当なのか?」
我の耳にまで入ったということは、でたらめな話ではないことなのは分かっている。
だが、にわかには信じがたい話である。
「はい、本当でございます。ムコーダさんは、古竜を従魔にしております。私も実際に見せられましたので間違いありません」
ギルドマスターからのその返答に、思わず深いため息が出た。
「ハァ~……。そもそもムコーダはダンジョンに潜っていたのだろう? その古竜はダンジョンの魔物なのか? ダンジョンに古竜が出るなどと我は聞いたことがないぞ」
「いえ、それがですね、うちの副ギルドマスターがムコーダさんに詳しく話を聞いたところによりますと……」
ギルドマスターの話では、古竜はブリクストのダンジョンの最下層にいたらしく、それも200年も前に侵入していたのだという。
200年前と言えば、そのころには既にブリクストの街もあり、ダンジョン付近も厳重に警戒されていたはずではあるのだがな……。
しかも古竜は巨大だと伝え聞くが、そんなものがどうやってダンジョンへと入ったのかも疑問だ。
そこのところをギルドマスターに問うてみると、古竜は大きさを自在に変えることができるらしい。
ギルドマスターが実際に見たときも、隣にいたフェンリルと然程大きさは変わらなかったという。
よもや古竜にそのような能力が備わっていたとはな。
「古竜までも従魔にするとはな……。ムコーダはフェンリルにとどまらず古竜まで手中に収め、何をする気なのだ?」
フェンリルと古竜を従えているのならば、我が国、いや、この大陸全土を手中に収めることも容易いことだろう。
「それについても、副ギルドマスターが聞いたところによりますと……」
ムコーダから話を聞いた副ギルドマスターとやらは、途方もない戦力を手に入れたムコーダに疑念を抱き「この大陸に覇を唱えるつもりなのか?」と問い質したのだという。
しかし、ムコーダは大いに驚きそんなつもりは全くないときっぱり否定したそうだ。
「ムコーダさんの温厚な性格を考えますと、その言葉に嘘はないと考えております。フェンリルと古竜も、ムコーダさんの言うことには従っておりました。それに、フェンリルと古竜からも言質をとってあります。『今まで通りに手を出してこないならば、こちらから何かをすることもない』ということでした」
「ふむ、そうか……」
しかし、相手はフェンリルと古竜だ。
本気になれば我が国を滅ぼすことなど造作もないことだろう。
「アナタ、心配しても仕方がないことではありませんか。そもそもフェンリルと古竜を相手にして勝てる国などありますか?」
先ほどまで献上品に夢中になっていた妃がそう言った。
「まぁ、それはそうだが……」
「どうにもならないことを考えるだけ時間の無駄というものです。そのムコーダという冒険者が無理難題を言ってきたり、理不尽なことを要求してきたりしたとすれば、それなりの対応を考えなければなりませんが、そうではないのでしょう?」
妃がギルドマスターを見ながらそう問う。
「はい、それはもう。ムコーダさんは、地位や権力には一切の興味がないらしく、一般の冒険者と同じく自由に暮らしていきたいと考えているようでございます」
「そういうことらしいですわよ」
「うーむ、確かに今から考えても詮無きことか」
「そうですよ、アナタ。それよりも、今まで通りに自由にさせておけば、このように素晴らしい品を再び献上してくるかもしれませんわよ」
「それもそうか。既にムコーダのことは、我が国の貴族や主要機関には通達しているし、馬鹿な真似をする輩もおらんだろうしな」
フェンリルを従魔にした冒険者が我が国に来ると連絡が来た時点で、我が国の全貴族と主要機関にはすぐに王宮から通達を出しているから、その辺は心配いらんだろう。
そんなことを考えていると……。
「陛下、一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「それがですね……」
ギルドマスターの話を聞いていくうちに、我の顔がだんだんと険しくなっていく。
ルバノフ教の阿呆どもがやりおった。
通達もきちんといっているにもかかわらずだ。
だからあの阿呆どもを我が国へ入れるのは嫌だったのだ。
ルバノフ教が我が国にも教会を造りたいと言ってきたとき、本当ならば断りたいところだったのだが、このときばかりは我が国の自由な国風が災いして、断ること叶わずに我が国にルバノフ教を招き入れることになってしまったのだ。
そのことは常々苦々しく思っていたのだが、ルバノフ教の者がこれほどに阿呆だったとはな。
フェンリルと古竜が揃い踏みしているというのに、金をせびりにいくとは余程の馬鹿としか言いようがないわ。
それを誰一人止めなかったのか?
揃いも揃って阿呆ばかりでイライラするわ。
ルバノフ教がどうなろうと知ったことではないが、問題を起こしたのが我が国で布教している者なだけに、まったく関係がないと言いきるわけにもいかぬ。
「余計なことをしおってぇ。馬鹿者共めがぁ」
思わず憎々しげな声が出てしまうのも仕方があるまい。
ルバノフ教の者は金の亡者で阿呆ばかりだ。
だから我が国にルバノフ教の教会など造りたくはなかったのだ。
あの阿呆共め、我が国を巻き込むことだけは許さんぞ。
「アナタ、これはルバノフ教をこの国から追い出す良い機会なのではありませんか?」
「陛下、差し出がましいようですが、私も王妃様の仰るとおりだと存じます。ルバノフ教の者は、通達を無視し、著しく我が国の国益を損なう行為をしでかしました。ムコーダさんが温厚な人だったから無事に済んだものの、本来ならば亡き者にされてもおかしくはないかと……。フェンリルと古竜もムコーダさんに危害を加えるような輩には容赦はしないと言っておりましたし。もし、フェンリルと古竜に暴れられていたら、我が街も無事では済まなかったでしょう」
「うむ、確かに。その矛先が我が国ではなかったとしても、我が国で暴れられては、間違いなく我が国にも被害が出るところだっただろう。よし、ルバノフ教には我が国の方針に背き著しく国益を損なう行為をしたということで、我が国から退場してもらうとしよう」
「それがいいですわ、アナタ。あのような者たちは我が国に必要ありませんもの。それよりも、ムコーダという冒険者の方が余程私たちに貢献していますわ」
そう言って再び献上品をうっとりと見つめる。
妃の目線の先には、王である我でもなかなかお目にかかれないほどに見事な大粒のサファイアをあしらった指輪とネックレスとイヤリングが。
「私、決めましたわ。次のパーティーには、この指輪とネックレスとイヤリングを身に着けることに。きっと注目の的になりますわよ~」
フハハ、我が妃は呑気なものだな。
まぁ、我とてそこにある黄金に輝くズラトロクの角は寝室に飾っておくつもりだがな。