第四百五十四話 こんな日は美味いもんでも食わないとやってらんないよ
あー今日は朝からムカつく奴らの訪問があって散々だったよ。
訳の分からない屁理屈こねて金を巻き上げようなんて、どう考えたって宗教者じゃなくってヤクザ者だよな。
ホント思い出しただけでもムカムカするよ。
あいつらのことを冒険者ギルドへ報告しに行って、その後は神様たちへのリクエストに基づいていろいろと用意していたんだけど、その最中もムカッ腹だった。
こんな日は美味いもんでも食わないとやってらんないよ。
ということで、封印していたあれを作ることにした。
好きだけど手間がかかるということで止めていたミルフィーユカツ。
肉を重ねるのにどうしてもね。
その分手間がかかるわけよ。
だけど、あれは美味い。
チーズとか梅しそとかを挟むとさらに美味い。
幸か不幸か“孤独の料理人”なんていう称号が付いちゃったしさ。
この称号は一人でする調理作業がスムーズかつ高速化されるなんて補正があるから最適でしょ、ハハ。
それはいいとして、ミルフィーユカツを作っていこう。
今回作るのは肉を重ねただけのノーマルバージョンと間にチーズを挟んだチーズINのミルフィーユカツの2種類だ。
本当ならチーズINと梅しそを作りたいところだけど、肉至上主義のフェルがいるからねぇ。
それを考慮してノーマルバージョンとチーズINにした。
チーズはスイが大好きだし、俺もミルフィーユカツならチーズINが一番好きだからね。
まずは、ネットスーパーで肉以外の材料を調達だ。
とは言っても、買うのはとろけるチーズとバッター液用の卵とパン粉くらいのもんだけど。
材料が揃ったら早速作業開始だ。
まずは、オーク肉の薄切りを並べて軽く塩胡椒を振る。
あとはオーク肉の薄切りを10枚重ねてノーマルバージョン。
ある程度厚みがある方が美味いからね。
チーズINの方はオーク肉ととろけるチーズを交互に重ねて、オーク肉は7枚で。
俺の場合、とろけるチーズはスライスタイプをいつも使う。
こっちの方が重ねやすいからね。
それから小麦粉と卵と水をダマが残らないようにバッター液を作ってくぐらせたら、パン粉をおしつけながらしっかりつけていく。
ミルフィーユカツの場合、バッター液の方が衣がしっかりついて崩れにくい気がするから俺はいつもバッター液を使っているな。
あとは170度くらいの温度の油で揚げていく。
最初のうちは衣が固まるまでいじらないのがみそだね。
衣が固まったら交互にひっくり返しながらきつね色になるまでじっくり揚げていけば出来上がりだ。
黙々と肉を重ねては揚げてを繰り返す。
そして、大量のミルフィーユカツが出来上がっていった。
「フ~、よし、こんなもんかな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『く~、これも美味いのう!』
とんかつソースのかかったノーマルバージョンのミルフィーユカツを一口でパクリと頬張り唸るゴン爺。
『うむ、まぁまぁだな』
ゴン爺と同じく一口でパクリといったフェルが偉そうにそう言うが、尻尾が盛大に揺れているからきっと美味いのだろう。
『サクッとジューシーでこのソースとも相性抜群だな!』
だよねぇ。
やっぱりドラちゃんは分かってるよ。
ソースと言えばここの。
当然とんかつソースもね。
昔ながらの味がやっぱり最強だよ。
『とろっとした白いのが入っているのすっごく美味し~』
左右に大きく揺れながら嬉しそうにそう言うスイ。
スイはチーズ好きだもんなぁ。
肉とチーズの組み合わせは無敵だと思う。
ハァ、口の中に涎が……。
って、俺も早く食おうっと。
チーズINミルフィーユカツにかぶりつく俺。
「ク~、美味い! とろけるチーズがたまらんな」
次に白飯をパクリ。
白飯との相性も抜群でおかずとしても優秀だ。
そして口直しにキャベツの千切り。
俺の分だけキャベツの千切りを添えてある。
これをとんかつソースで食うのがまたいいんだよ。
カ~、美味いねぇ。
っと、揚げ物に欠かせない飲み物がまだだった。
俺はアイテムボックスから冷え冷えのいつものプレミアムなビールを取り出した。
プシュッ、ゴクゴクゴク―――。
「ハァ~、最高」
やっぱり揚げ物にはビールだよね。
ホント、美味いわ。
作って良かった。
『おい、おかわりだ! 肉だけので頼むぞ』
『儂も! 儂は両方でじゃな』
『俺も両方で!』
『スイはねー、とろっとした白いのが入った方でおかわり~』
へいへい。
フェルがノーマルバージョンのミルフィーユカツで、ゴン爺とドラちゃんがノーマルとチーズIN、スイがチーズINね。
「はいよ」
それぞれに希望のおかわりを出してやると、嬉々としてガッツキ始める。
まぁ、みんなも美味そうに食ってるし、ちょっと手間のかかる料理も“孤独の料理人”の称号があればそんなに苦もない。
正直、こんな称号いるかって思ったけど、これはこれで俺にとっては良い称号なのかもしれないな。
「しかし、ミルフィーユカツ美味いねぇ。昼間あった嫌なことも、この美味さの前にはどうでもよくなってくるわ」
みんなも夢中で頬張っているのを見てると、嬉しくなってくるね。
俺、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは、美味い夕飯ミルフィーユカツを心行くまで楽しんだ。
『主殿、今日の夕飯も美味かったぞ。大満足だ』
「ハハハ、それは良かった」
飯を食っただけでご機嫌なゴン爺に、今更だけど古竜がこれでいいのかと苦笑い。
『うむ、今日のは悪くなかったな』
「悪くなかったってのは、美味かったってことだろ?」
『まぁ、そうとも言う』
まったくフェルはひねくれた言い方するんだから。
素直に美味かったら美味かったって言えばいいのに。
まぁ、尻尾の振り加減で美味いって思ってるのは丸分かりだからいいけどさ。
『なぁなぁ、今日こそはデザートあってもよくね? 俺の歯もホレこのとおりちゃんと生えたしさ。いい加減プリン食いたいぞ』
ドラちゃんからデザートの言葉とともに口を大きく開けて鋭く生えた歯のアピールが。
実を言うと、2週間くらい前にドラちゃんの歯がポロっと抜けたんだ。
もうびっくりしちゃってさ。
最近甘いものを食い過ぎたのが原因かもって思って(1日2個の約束だったけど、多くなる時もけっこうあったからなぁ)、ちょっとみんなに控えさせていたんだ。
スイはめちゃめちゃ悲しんだけど、そこは心を鬼にしてね。
ドラちゃんは『ただの生え変わりだ』って言ってたけど……。
やっぱり食ってるのが異世界の甘味だから、いろいろと心配しちゃうわけだよ。
そんなわけで甘いデザートは控えてもらっていたんだけど、さすがに甘味が恋しくなってきているようだ。
『甘いの! スイもケーキ食べたぁーい!』
甘味大好きなスイもケーキが恋しくてたまらないようだ。
フェルは肉至上主義だから、それほどでもなさそうだけど、あれば絶対に食うよな。
うーん、ま、甘味断ちしてから2週間経つし(甘いものを完全にダメっていうのもかわいそうだから時々ジュースはだしてたけどね)、ドラちゃんの歯も俺が心配していた虫歯ってわけでもなさそうだしな。
それに、今日はルバノフ教の奴らを追い払うのにみんなの力も借りたから、ご褒美っていう意味合いも含めてデザート解禁といきますか。
「分かった分かった。デザート解禁だ」
『よっしゃ!』
『わーい! ヤッター!』
ドラちゃんとスイが大はしゃぎしている。
「3個までね。で、明日はデザートお休みで、明後日は2個。それからは1日おきにね」
そう言ったらドラちゃんとスイはブーブー言っていたけど、食えないよりはマシかとなんとか納得してくれた。
「はーい、それじゃあ何がいい?」
『ハイハイハイッ、俺は当然プリン!』
『スイはケーキー! 甘~いちょこれーとのがいいなぁ』
『我はいつものだな』
ドラちゃんはやっぱりプリンで、スイは大好きなチョコレートのケーキか。
しれっとリクエストしてるフェルはいつものイチゴショートだな。
『主殿、そのデザートとやらは何なのだ? 皆が騒いでいるところを見ると、食い物だということは分かるのじゃが』
あー、ゴン爺はまだ食ったことなかったっけ。
「デザートっていうのは、まぁ、食後に食う甘いものってことかな」
『甘いもの? 主殿に飲ませてもらったサイダーとかコーラのことか?』
「うーん、それとは違うかな。あれは飲み物だから。えっと、ケーキって言って……。見て食ってもらった方が早いな。今回は俺が選んじゃっていいかな?」
『うむ、構わんぞ。主殿の出す食い物に間違いはなさそうだからのう』
ということで、ゴン爺の分は俺が選ぶことに。
俺は、久しぶりにネットスーパーのテナント、不三家のページを開いた。
とりあえず、フェルとドラちゃんとスイの分をカートへ。
フェルには国産イチゴを使ったプレミアムショートケーキを3個。
ドラちゃんにはプリンサンデーのイチゴとバナナ、それからカスタードプリンを。
スイにはチョコクリームたっぷりのチョコレートケーキとチョコレートシフォンケーキ、それからバナナ風味のクリームを挟んだチョコバナナケーキを。
そして、俺がゴン爺に選んだのは、ショートケーキと言えばこれでしょうというイチゴショート、限定品の甘夏のタルト、そしてそしてゴン爺のイメージでこれ好きそうなんじゃという独断と偏見で選んだ緑色が鮮やかな抹茶のケーキだ。
精算した後、みんなに出してやると、フェルとドラちゃんとスイは久々のデザートとあってすぐさまかぶりついた。
「ゴン爺も食ってみなよ。不味くはないと思うよ」
『では……。ほぅ、甘いがそれだけではないな。果実の瑞々しい甘さもある』
イチゴショートをパクリと一口で食い、そんな感想を言うゴン爺。
『こちらのオレンジのは……。ぬぅ、これは果実の瑞々しい甘酸っぱさがより鮮烈じゃぞ』
甘夏のタルトは甘夏がたっぷり載ってたもんね。
『最後はこの緑が鮮やかなものだな。……ムムム、これは、苦味と甘味。相対する味なのに、なぜかまとまっている。鼻を抜けるなんとも爽やかな香りもいいのう。これは美味い!』
「ゴン爺は抹茶のケーキが気に入った?」
『これは抹茶というのか。うむ、気に入った』
「それじゃあ次のデザートは抹茶尽くしだね」
『フハハ、それはいいのう』
みんながデザートを楽しむ間、俺は俺で自分で淹れた甘めのカフェオレを楽しんだ。
そんなこんなで、すっかり今日あった嫌なことは忘れていた俺だった。




