第四百五十話 リサーチ&お土産購入
コミックガルドにて外伝「スイの大冒険」の最新話が更新されていますので是非どうぞ。
ドロップ品の買い取りも終わり、翌日はゆっくりと休みに。
天気も良かったからフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイと一緒に庭先へ。
フェルとゴン爺とドラちゃんは芝生の上でグースカ昼寝だ。
スイだけは元気いっぱい遊んでいたけど。
とは言っても、最後にはフェルのモフ毛を布団代わりに爆睡していたんだけどね。
スイの遊びに付き合わされた俺は若干お疲れ気味。
それよりもだ、俺たちが庭先に出ているのを誰かが見かけたのか、その噂が広がって1日中この家に張り付く見物人が絶えなかったのには苦笑いだよ。
その見物人にも物怖じしないで悠々と寝続けていたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイのうちのカルテットの大物ぶりにも苦笑いだったけどね。
そして今日は、再び冒険者ギルドへとやってきていた。
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイのみんなを連れてね。
目的は情報収集だ。
ヒルシュフェルトの街でやった社会奉仕をここでもしようかななんて思ってさ。
そのためにもまずは教会と孤児院の情報収集というわけだ。
トリスタンさんにはすぐに会えて、いろいろと教えてもらえた。
まだまだゴン爺の姿にはビビっていたけどね。
「社会奉仕ですか。それはいい心がけですな。この街はこの国でも王都に次ぐ大きさですから大小さまざまな教会が揃っていますし、それに伴って孤児院もそれなりにあります。信者数の関係がありますので、多少の実入りの差はあれども、どこも清貧の生活を送っているようです」
トリスタンさんが続けて苦々しい顔をしながら「一つを除いては……」と言った。
トリスタンさんの言う、その一つというのがルバノフ教の教会だ。
例の人族至上主義を唱える宗教だ。
常々からトリスタンさんはルバノフ教のことを快く思っていなかったのか、これでもかという悪評の数々を余すことなく教えてくれた。
本国から送られてくる潤沢な資金によって、司祭をはじめとして教会の者たちは清貧には程遠い贅沢三昧の生活を送っているそうだ。
そして、その潤沢な資金を目当てに悪人どもが集まり悪い噂が絶えない。
極めつけは、この街の東地区(貧民が集まるいわゆるスラムだ)から人を攫って奴隷として他国に売り払っているなどという噂まであるそうだ。
なかなか尻尾をつかませないが、トリスタンさんとしては十中八九事実なのでは、とまで言っていた。
「人族至上主義を唱えるルバノフ教は、この国でも当然のごとく獣人やエルフ、ドワーフは人族に劣る種族だと言って憚りません。しかしですね、そもそもそんな教義はみんなが仲良く暮らしているこの国には馴染まないのですよ。その証拠に、この街ではルバノフ教の信者などほとんどいません」
この街のルバノフ教の信者はほぼ他国から流れてきた者で占められているそうだ。
しかも数も少ない。
「それでも私はですね、この国でルバノフ教が人族至上主義の教義を声高に喧伝しているのがどうしても許せないのですよっ」
らしくない怒りの込もった強い口調でそう断言するトリスタンさん。
「あの、トリスタンさん?」
「ああ、すみません。つい熱くなってしまいました。実は私のひい爺さんがドワーフなのですよ。私が成人する前の年に亡くなってしまいましたがね。強面で半端な仕事をするやつには容赦なく怒鳴るような人でしたけど、私には優しいひい爺さんでした」
そのドワーフのひい爺さんを思い出しているのか、トリスタンさんの表情も和らいでいる。
「ルバノフ教は、その優しかったひい爺さんを汚しているようで我慢ならないのです」
再び苦々しい顔をしてそう言うトリスタンさん。
なるほどねぇ。
身内にドワーフがいたのか。
それならトリスタンさんの気持ちも分かるな。
そういう身内がいなくたって、ルバノフ教の教義は眉をひそめるしかないしねぇ。
当然のことながらルバノフ教へのお布施なしで決定だよね。
というか、するわけがない。
この教団にお布施するくらいならドブに捨てた方がまだマシだわな。
「大変参考になりました」
「そうですか、良かったです。して、ルバノフ教へは……」
「ハハ、当然しませんよ。何に使われるか分かったもんじゃないですしね」
「それを聞いて安心しました」
「あともう一つ聞きたいことがあるんですが……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たち一行はブリクストの街のメインストリートを歩いていた。
ゴン爺を見てギョッとする人はまだいるものの、さすがにゴン爺の存在は大分浸透しているようで騒ぎにまではならなかった。
ただ俺たちが通るときはササッと人垣が割れるけどね。
歩きやすいと開き直るべきかどうなんだかわからんけどさ……。
『主殿、主殿っ、あそこの肉を所望するぞ』
『いや、あっちの方が美味そうな匂いではないか?』
『えー、こっちの煮込みのほうが美味そうじゃんよー』
『スイはねぇ、全部食べてみたいなぁ~』
『『『その手があるな』』』
数多く出ている屋台を見ながら、あれを食いたいこれを食いたいと騒ぎ出すフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテット。
「ハァ、あのねぇお前らの買い食いのために来てるわけじゃないんだからね」
『『『『分かってるって』』』』
みんなから調子のいい返事が念話で返ってくる。
「まぁ、みんなはそれを狙って付いてきてるんだろうけどさぁ」
冒険者ギルドで情報収集をしてから、ちょっと買い物に商店街へと言ったらみんな行くって言ってついてきたもんね。
商店街へとやってきたのは、カレーリナの家で待っているみんなへのお土産を買っていこうかなと思ってさ。
何せ、ランベルトさんとことの取引とか、家のことは全部任せっきりになっちゃってるからね。
俺としてもこの街を巡るいい機会だし(この街でダンジョンしか潜りませんでしたなんて悲しいもんな)、商店街をいろいろ見て回るのもいい気晴らしになる。
とは言っても、良さそうな店は地元の人に聞くのが一番だからね。
ちゃんとトリスタンさんにおすすめの店をリサーチ済みだよ。
「ここだな。トリスタンさんのおすすめの店は」
トリスタンさんに相談したところ、この街のお土産にするにはやはり宝飾品がいいだろうという話になった。
何と言っても、ここブリクストのダンジョンは宝石や貴金属が特産品だからね。
そこであまり高級すぎない手頃な値段の宝飾品を取り揃える店でおすすめの店を教えてもらったわけだ。
こぢんまりした店構えなので、フェルたちには外で待ってもらうことにして、俺だけ店の中へ。
「いらっしゃいませ」
柔和な感じのする40代くらいの店主がにこやかに迎えてくれた。
「何かお探しですか?」
「あの、お土産を探していまして……」
「ふむ。相手は恋人ですかな?」
「いえ……」
フッ、長い間恋人なんていませんよ。
悲しいことにねー。
「ええと、相手は奴隷ではあるんですが、家族みたいな従業員と言いますか」
「ほぉ、奴隷にお土産とは、あなた様の奴隷は幸せですな」
「そう思ってくれたら嬉しいんですけどね」
「ご予算的にはいかほどですか?」
「ええと、1つ金貨1枚から金貨1枚と銀貨5枚くらいでと思ってます」
「ほうほう、それはそれは」
店主は奴隷に対してけっこうな額だとちょっと驚いている感じだけど、収入もあったし、まぁこれくらいはね。
あとはいろいろと店主に相談しながら予算に見合うものを決めていった。
そして決めたのが……。
セリヤちゃんとロッテちゃんの女の子組には、ローズクオーツというピンク色の宝石とプレナイトという透明感のある緑色の宝石をあしらった髪留めを。
どちらも淡いかわいい色合いで2人に似合いそうだし、喜んでくれるんじゃないかなと思う。
アイヤとテレーザ、そしてタバサの大人の女性組には、アメシスト、ペリドット、ガーネットという紫、緑、赤と濃い目の色合いの宝石をあしらったブローチを。
タバサがブローチなんて着けるかな? とも思ったんだけど、想い人もできたようだからオシャレしてデートっていうこともあるだろうしね。
ペーターよ、健闘を祈る。
そして、コスティ君、オリバー君、エーリク君、トニ、アルバン、ルーク、アーヴィン、ペーター、バルテルの男の子&男性陣には、宝石がワンポイントになったベルトのバックルを。
正直、男性陣には何がいいのか悩んでたんだけど、店主に相談したらすぐに解決。
男性にも人気の品だと濃い色の宝石がさりげなくワンポイントになったバックルを見せてくれて、これだと思い男性陣へのお土産はバックルに決定した。
ラピスラズリやヒスイ、オニキスなどの濃い色合いで男性陣がつけていても違和感のない宝石を使っていてなかなかいい感じだ。
実を言うと自分でも気に入って、みんなのお土産よりちょっとだけ大きめのヒスイをワンポイントにあしらったバックルを自分用につい買ってしまったくらいだ。
ま、金はあるしたまにはいいかなってね。
諸々の代金として金貨20枚(相談にも乗ってもらったから、その分も含めて多めにね)を渡して、お土産を包んでもらって店をあとにした。
店の外ではフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが待ち構えていた。
『ようやく終わったのう、主殿』
『次は我等に付き合う番だな』
『この街はデカいから屋台も多くて目移りするぜ』
『スイ、いーっぱい食べるんだー!』
「え? いや、ちょっと、食べ歩きに来たわけじゃないんだよ」
『いいから、いいから』
「いいからって何がいいんだよ、ゴン爺。ってか押すなよ」
『まずはさっき皆で相談したとおり、あの店に行くぞ』
「あの店? フェル、どこの店のこと言ってるの?」
『さぁて、この街の屋台は俺たちを満足させることができるかな?』
「ちょっと、ドラちゃん何グルメ気取ってんのさ?」
『あるじー、お肉食べに行こ~』
「いや、スイちゃん、お肉食べに来たわけじゃないんだよ」
『『『『いいから、いいから』』』』
「いいからって、ちょっとみんなぁ~」
その後、日が暮れるまで食いしん坊カルテットのブリクストの屋台巡りに付き合わされた俺だった。
~ムコーダ一行がブリクストの街を去ったあとの話~
ブリクストの串肉屋台①「あのエンシェントドラゴンも認めた串肉だよー! 美味いよ美味いよー!」
ブリクストの串肉屋台②「こっちはフェンリルが認めた串肉だー! 脂の乗った美味い肉だぜ!」
ブリクストの煮込み屋台「あのエンシェントドラゴンとフェンリルが美味いと言った煮込みだよ! 不味いわけがない! 是非とも食ってってよ!」
そんな様子をたまたま見ていた冒険者ギルドのギルドマスター。
トリスタンさん「ムコーダさん一行が訪れたときは皆一様に顔を引き攣らせて震えながら対応していたと聞きましたが、さすが商売人は打たれ強いですなぁ」




