第四百四十三話 しょうもないことで言い争う二大巨頭
なんと、いつの間にやらシリーズ累計100万部突破だそうです!
これも読んでいただいている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
それから、本日、コミックガルドで本編と外伝のコミックが更新となっておりますのでこちらもよろしくお願いいたします。
『あるじ?』
古竜が不思議そうな声をだした?
『我らはあそこにいる人間の従魔なのだ。人間の隣にいるピクシードラゴンも我らと同じ従魔だぞ』
フェルがそう説明すると、古竜のゴツイ顔がこちらに向けられた。
圧倒的な存在感に見つめられて股間がヒュンとなる。
ドラちゃんも隣で固まっているよ。
『我と引き分けたお主が、あの矮小な人間の従魔だと?』
古竜から見たら人間なんて矮小でしょうよ。
というか、今更だけどフェルの言っていたとおり古竜さんもバリバリ人間の言葉がしゃべれるんだね。
あれ?
でも何でスイの念話が古竜に通じてるんだろ?
確か念話は主である俺と従魔のフェルとドラちゃんとスイの間でしか通じないはずなんだけど……。
ま、まぁ、相手は古竜だからね。
フェルが爺というくらいだから1000歳超えのフェルよりも大分年上なのが間違いないとすれば、そういうこともできるのかもしれない。
現実逃避で取り留めなくそんなことを考えていると、巨大洞窟に重低音ボイスの笑い声が響き渡った。
『グワッハハハハハッ』
古竜が前足を踏み鳴らしながら笑っていた。
『お主、フェンリルが人間の従魔だと? グハハッ、嘘をつくならもう少しましな嘘をつけい』
古竜さん、何で嘘前提なんですかね?
事実ですよ。
フェルが従魔になったいきさつがアレですが。
『フン、嘘だと思うならそう思うがいい。彼奴の価値をまったく分かっとらん爺にどう思われようが関係ないしな』
『人間の価値だと?』
そう言いながらめっちゃ俺をジーッと見てくる古竜。
「いや、あの……」
迫力があり過ぎて思わず目を逸らす俺。
古竜の顔は小心者の俺には心臓に悪いんですけど。
『ドラゴンのおじちゃん、あのねー、あるじの作るご飯はとーっても美味しいんだよ! あるじのご飯が美味しいから従魔になったんだってフェルおじちゃんが前に言ってたのー』
『これスイ、そんな爺に教えてやる必要はない』
ポロッとバラしてしまったスイをフェルが軽く叱る。
『ご飯とは飯のことだろう? それでは何か、お主ほどの者がたかが飯のために矮小な人間の従魔になったというのか?』
古竜さん、アナタからしてみればそうなんでしょうけどそう矮小矮小言わんでほしいです。
『それがどうした。たかが飯と言うが、されど飯だ。どうせ食うなら美味い飯を食った方が余程良いに決まっているだろう。まぁ、味オンチな爺には言っても仕方ないがな』
古竜をちょっと馬鹿にした感じでフェルがそう言うと、古竜が憤慨する。
『何を言うかっ。儂ほど美食家のドラゴンはおらんぞ』
『フフン、美食家とは聞いて呆れるわ。どうせ生肉を食らっているだけだろうが』
あの、フェルさん。
生肉食らってたっていうのは俺と出会う前のフェルと同じことだと思うんだけどな。
ものすごい突っ込みたかったけど、俺に古竜とフェンリルの会話に割って入る勇気はなかったよ。
『ぬ、血の滴る生肉以上の美味い食い方があるわけないではないか』
『ハンッ、それで美食家気取りとは片腹痛いわ。しかし、生肉が一番美味いとほざくとはなぁ。まぁ、爺には関係ないが』
『ぐぬぬぬ』
悔しそうにフェルを見据えていた古竜が、ハッとしたように再び俺の方に目を向けた。
『なるほど、そこであの人間が出てくるわけか。あの人間が生肉以上に美味い飯を食わせてくれるのだな』
えーと、何だか古竜にロックオンされた気がするんだけど……。
『おい、矮小な人間よ。フェンリルが美味いとほざく飯を儂にも食わせてみよ!』
食わせてみよ!って、え、これどうすりゃあいいの?
俺がおろおろしていると……。
『何が食わせてみよだ。偉そうに。爺に食わせる飯はない! だいたい此奴の従魔でもない爺が飯を食わせろとは図々しいにも程があるわ』
いや、そうなんだけど、フェルも人のこと言えないからね。
十分偉そうなんだから。
『む、そういうケチ臭いことを言うのならば、飯を食わせるまではお主とは戦わんからな!』
『何故そうなる?!』
『お主がケチ臭いことを言うからだろうが。儂と戦いたいならば、そこの人間の作った飯を儂にも食わせることだな』
『ぐぬぬ、いつぞやの決着をつけるという話だったではないか!』
『フン、知らんわい』
……なんだろうね。
俺たちの目の前で、飯を食わせろ食わせないと言い合う古竜とフェル。
しょうもないことで言い争う二大巨頭に一気に力が抜けていく。
というか、古竜もフェンリルもどっちも伝説の中で語られるような存在なのに、こんなしょうもないことでギャアギャア言い合ってるんだもんガッカリだよ。
それは俺の隣にいたドラちゃんも同じのようで……。
『えー、古竜ってこういう奴だったのかよ……』
なんて念話でボソっとつぶやいていた。
何だか本当に残念な二大巨頭である。
残念な目で古竜とフェルを見ていると、フェルが『ハン、どうしても戦わぬというならそれでいいわ』と捨て台詞を残してこちらへと戻ってきた。
「フェル、どうするんだ?」
『どうするって、どうもせんっ』
「そんな怒るなよ。イライラしてるのは分かるけど、ちょっと落ち着けって」
古竜とのやり取りでカッカきているフェルを宥める。
『そうだぜ。それにどうもせんつったって、ここからどうやって地上へ戻るんだ? 来た道を引き返すのか? 俺たちならできなくはないが、転移石ってのが使える40階層まで戻るとなるとけっこう面倒だぞ』
ドラちゃんの言うことはもっともだ。
40階層からここ最下層まで来るのに、順調に進んできたというかかなり速いペースで進んできた俺たち一行でさえもかなりの日数がかかっているのだから。
恐らくだけど、ここにも地上へと戻る転移の魔法陣があるはず。
それを使えばすぐにでも地上へと出ることが可能だろうけど……。
「なぁ、そもそもの話だけど、ここ最終階層のボスって、きっとあの黒竜なんだよな?」
俺は、大ダメージを食らって未だ壁際でピクピクしている黒竜を見ながらそう聞いた。
『だろうな』
『うむ。あの爺とは外で会っているからここの階層主だということはない』
「だとすればさ、あの黒竜を倒せば、転移の魔法陣が現れるとかってならないかな?」
今までのダンジョン、ドランやエイヴリングはそんな感じだったし。
『そうだとして、あの爺が素直に使わせてくれると思うか?』
フェルがそう言いながら顔を顰める。
「ああ、だよね~」
『ねぇねぇあるじー、スイ、お腹すいたー』
フェルが戻って来ると同時にこちらへと引き上げてきていたスイがそんなことを言い出した。
「スイ、今大事なお話してるから、ちょっとだけ待っててね」
そうスイに言った後、単純なことを思いついた。
「なぁ、俺の作った飯を食わせないってフェルは頑なに言い張ってるけど、古竜が食いたいって言うなら、食わせれば気も収まるんじゃないか? そうなれば転移魔法陣だって使わせてくれるかもしれないし」
『ダメだダメだダメだ、絶対にダメだ!』
提案したものの、フェルに即ダメ出しされた。
『しかし、ふむ、飯か……』
考え込んでるフェルが何か悪巧みしてそうな顔してるんだけど。
『フハハハハハ、よし、飯にするぞ』
「は? 飯って……」
スイにはわざわざ待っててねと言ったのに、いきなり飯だと言い出すフェルに戸惑う俺。
『スイ、腹が減ってるのだろう?』
『うん、お腹すいたー』
『ドラはどうだ?』
『まぁ、すいてるっちゃあすいてるな』
『おい、そういうことだから飯にするぞ』
「そういうことだからって、この状況で意味わかんないんだけど」
『意趣返しだ』
「意趣返し~?」
『そうだ。あの爺の目の前で豪華で美味い飯を食って悔しがらせてやるのだ』
「ハァ? 何、それ」
『何とはそのままの意味だが』
「いやいや、言っていることの意味は分かってるよ。でも、それって意地悪過ぎない?」
食い物の恨みは恐ろしいって言うよ。
『何を言うか。あの爺の方がよっぽど意地が悪いわ。前の戦いの時、どれだけ我が苦しめられたことか』
それを言うなら、古竜の方もそう思ってそうだけど。
『とにかくだ、お主は豪華で美味い飯を作ればいいのだ。そうだ、さらに食欲をそそる香りのするものがいいぞ。フフフフフフ』
何かフェルが悪そうに笑ってるわぁ。
まぁ、言われれば作るけどさ。
古竜には俺からこっそりお裾分けしよう。
しかし、豪華で美味くて食欲をそそる香りのする料理か。
俺の中で食欲をそそる香りっていうと、やっぱりニンニクの香りなんだよね。
そうなると、やっぱりあれしかないかな。
終わらなかった……(汗)
あと少し古竜回続きます。




