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第四百四十一話 VSアイスドラゴン

「やっぱりかい……」

『うむ、思った通りだったな』

『また真っ白ー』

 階段を下りた先の46階層。

 予想していた通り45階層と同じく見渡す限り一面の銀世界が広がっていた。

『うう、また寒いのかよ……』

 46階層も45階層と同じ極寒の地と知ったドラちゃんの落胆した声が頭に響いた。

「落胆するには早いぞ、ドラちゃん」

 ドラちゃんにそう声を掛けて寒さに強いフェルとスイにはそのまま待ってもらって、寒さ除けに階段の半ばまで革鞄に入ったままのドラちゃんを連れて俺だけ戻る。

 そして、さっき手に入れたばかりのイエティのマントをアイテムボックスから取り出した。

 着ていたワイバーンのマントを脱いで、取り出したイエティのマントを羽織る。

「どうだ? ドラちゃん。今までのワイバーンのマントと交代してイエティのマントを羽織ったんだけど。イエティのマントは保温効果大で寒冷地でも暖かく快適に過ごせるものなんだ」

『……うーん、少しはマシなような気がするかな』

「そうか。とりあえず46階層に行くぞ。そこで様子見だ」

『分かった』

 俺は階段を下りて再び46階層に降り立った。

 待っていたフェルとスイが俺の下へやってくる。

『ドラ、どうだ?』

『暖かいー?』

 フェルとスイも気になるのかすぐさまドラちゃんに聞いた。

「ドラちゃん、どうだ?」

 そう言いながら下を向いてマントの中を覗く。

 ゆっくり、そろりそろりと革鞄の中から顔を出すドラちゃん。

『…………寒く、ない。うん、寒くないぞ!』

 興奮したように鞄から身を乗り出すドラちゃん。

「おいおい、落ちつけよ。でも、良かったな、ドラちゃん」

 俺としても暖かくて快適だ。

 イエティのマントが手に入って本当に良かった。

 極寒の階層を行く今の状況にドンピシャに最適だよ。

『良かったねードラちゃん』

『うむ、これで少しは状況も良くなるだろう。だがマントの外は寒い。気を付けるのだぞ、ドラ』

『ああ。それはもちろん分かってるさ、フェル。でもよ、これで俺も少しは協力できそうだぜ。ここからでも魔法でなら攻撃できるからな』

 マントの中だけではあるけれど動くことが出来るようになって、少しだけ元気を取り戻したドラちゃんだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 宣言どおりにドラちゃんが戦闘に加わったことで、46階層はよりスムーズに先へと進むことが出来た。

 マントの中から魔法を放つだけとはいえ、やはり数多くの魔物が出たときにはフェル、ドラちゃん、スイで対処した方が当然早いからな。

 そんなわけで、俺たち一行は45階層よりも早い4日目にして階層主(ボス)の下へとたどり着くこととなった。

 目の前にはデデンと聳え立つ雪山というか氷山。

 その前に威風堂々と鎮座していたのは……。

「完全にフェルのフラグじゃんか……」

『何がだ』

「フェルがアイスドラゴンなんて言うからだよ」

 そう、俺たち一行の前に現れたボスはアイスドラゴンだった。

 白銀にほんの少し青が混ざったような色をしたアイスドラゴンは、見ているだけならば美しいと感じるほどだ。

 でも、下の階層へと進むならばそのアイスドラゴンを相手に戦って勝たなければいけない。

「あんなんどうすんだよ?」

『どうするって、当然倒すだけだ』

「倒すだけって大丈夫なのか? あのアイスドラゴン、フェルやみんなが倒した地竜(アースドラゴン)赤竜(レッドドラゴン)よりも大きいぞ」

『心配無用だ。我は過去に二度ほどアイスドラゴンと戦ったことがある。もちろん我が勝ったがな』

 そう言って自信満々な様子のフェル。

「それなら任せるけどさ」

 まぁ、俺にはドラゴンなんてどうにもできないんだからそれしかないし。

『フェルおじちゃん、スイもアイスドラゴンと戦うー!』

『何だ、スイも参戦するのか?』

『うんっ。だって、あのアイスドラゴンっていうののお肉美味しいんでしょ?』

『うむ。彼奴の肉は他のドラゴンの肉と違ってさっぱりした味わいなのだが、それがまた美味くてな。それこそいくらでも食えるのだ』

 アイスドラゴンの肉の味を思い出しているのか、目を瞑りながらそう言うフェル。

 というか、フェル、口の端から涎が垂れてるからな。

『スイもアイスドラゴンの美味しいお肉食べてみたいのー! だからスイも戦うー!』

『そうか。それなら楽に終わりそうだな。よし、スイ、行くぞ』

『うんっ』

「って、ちょっと待ったー! 何か簡単に行くぞみたいになってるけど、スイ、相手はドラゴンなんだぞ。大丈夫なのか? フェルは戦ったことがあって勝ったっていうから大丈夫なんだろうけど、スイは俺たちと一緒に待ってた方がいいんじゃないか?」

『えー、スイも戦うんだもん。それでね、アイスドラゴンの美味しいお肉食べるのー!』

「美味しいお肉食べるのーって、肉がドロップされるとは限らないんだぞ」

『ぬっ、そうだった。ここはダンジョンだったな。そうなると、肉がドロップされるとは限らないのか。そうなったら待ってもう一戦といくか……』

 なんだかフェルが不穏なことを言っている。

「ちょっと、もう一戦ってそんなことダメだからな」

『何を言う。アイスドラゴンの肉は美味いのだぞ! なかなか手に入るものではないのだから、逃すわけにはいかん!』

『そうだよ、あるじー。スイも美味しいお肉食べたいもん』

 ぐぬっ、スイまでそんなこと言って。

「いや、でもさ、ほら、ドラちゃん、寒いのが苦手なドラちゃんがいるんだから、そう長いことこの階に留まってるのはダメでしょうが」

 ドラちゃんをだしにしてそう言うと……。

『俺なら大丈夫だぜ。このマントの中なら快適だからな』

 ちょっと、ドラちゃん~。

 ドラちゃんにそんなこと言われちゃうとさぁ……。

『ドラはこう言っているのだから問題ないな。あのアイスドラゴンが肉を落とさなかった場合はもう一戦するぞ』

 ほら、こうなっちゃうんだから。

『というか、肉を落とすまでだな』

「え゛」

『フェルおじちゃーん、もう行こうよー』

『うむ、そうしよう。スイ、彼奴が肉を落とすまで戦い続けるぞ』

『うん! アイスドラゴンのお肉ー!』

 そう言ってフェルとスイがアイスドラゴンに向かって行ってしまった。

「ちょっとー君ら何戦するつもりだよー! この戦いが終わったら終わりなんだからなー!!」

 そう声をかけるが聞いているのかいないのか。

『ああなったらしょうがないってことよ。肉を手に入れるまで収まりがつかないんだから、あいつらがアイスドラゴンの肉を手に入れるまで俺らは大人しくしてようぜ。最初の戦いで肉が手に入りゃあそれが一番いいんだけどなぁ』

 そうドラちゃんに言われてガックリと項垂れながら、フェルとスイの戦いを大人しく見守ることにした俺だった。

 アイスドラゴンと対峙するフェルとスイ。

 先に動いたのはアイスドラゴンだった。

 アイスドラゴンが喉を膨らませて……。

『ドラゴンブレスが来るぞ!』

 マントの隙間から戦いを覗くドラちゃんの声。

「って、うわぁぁぁぁ! フェルとスイが避けたら俺らに直撃するコースじゃないかぁぁぁぁぁ!」

 脱兎のごとく直撃コースから退く俺。

 俺が退いた直後、アイスドラゴンの大きな口からゴォォッという音と共に青白い光のドラゴンブレスが放たれた。

 あまりの眩しさに俺は手で目を覆い顔を伏せた。

 光が収まったところで顔を上げ目を開ける。

 そして見た光景に顔が引き攣った。

「き、木が凍ってるよ……」

 不運にも俺たちがいた場所の後ろにあった雪をかぶった木々。

 それが雪ごと見事に凍り付いていたのだ。

 ドスン、ドスンと伝わってくる震動。

 フェルとスイ、そして巨体のアイスドラゴンが遣り合っていた。

 アイスドラゴンはその巨体を振り回し、フェルにその鋭い歯で噛みつこうとして、スイを太い前脚で踏み潰そうとしている。

 スイは振り下ろされる太い脚をヒョイヒョイと避けながら酸弾を脚にぶち当てていた。

 だが、さすがドラゴンというところなのだろう。

 攻撃力の高いスイの酸弾でも貫通まではせず黒っぽく変色するに留めていた。

 それでもダメージがないわけではなさそうで、酸弾を嫌がる素振りを見せつつ、足下をうろつくスイを始末しようと何度も何度も前脚を振り上げている。

 フェルの方は何度も向けられたアイスドラゴンの噛みつき攻撃を軽やかに避け、その隙を狙いすましたように前足を振るい爪斬撃そうざんげきを繰り出した。

「グギャオゥゥゥゥッ」

 アイスドラゴンの絶叫。

 爪斬撃を躱しきれなかったアイスドラゴンの翼の付け根から脇腹の間がザックリと切れ、ドクドクと血が流れ出している。

 しかし、致命傷とまではいかず、逆に傷をつけられて怒り狂ったアイスドラゴンがさらに巨体を振り回し暴れ出す。

 その震動が俺たちにまで伝わってきていた。

 そして…………。

 パリン―――。

 本当にそんな感じだった。

 アイスドラゴンのドラゴンブレスで凍っていた木々が、繰り広げられている戦闘の震動で粉々に砕け散った。

『あいつのドラゴンブレス、ヤベェな……』

 俺と同じ光景を見ていたドラちゃんのつぶやきに俺も無言のまま何度も頷いていた。

 その間もフェルとスイ対アイスドラゴンの戦いは続いていた。

 なかなか仕留めきれないフェルとスイに業を煮やしたアイスドラゴンが、再びドラゴンブレスを放つ素振りを見せた。

『ドラゴンブレスだ!』

 いち早く気付いたドラちゃんが念話で叫ぶ。

『フン、させるか!』

 ザンッ―――。

『エーイッ!』

 ビュッ―――。

 アイスドラゴンがドラゴンブレスを放つより早くフェルの放った爪斬撃がアイスドラゴンの首を刎ね、スイの大砲並みの酸弾が胸元に大きく穴を開けていた。

 事切れたアイスドラゴンはゆっくりと横に倒れていった。

 俺はドラちゃんを連れてフェルとスイの下へ駆け寄る。

「フェル、スイ、大丈夫か?!」

『此奴程度にやられる我ではないわ』

『大丈夫だよー。あのねー、アイスドラゴンねぇ、ビュッてしてもなかなか倒れなかったんだよー。でも、大きいのエイッてやったら倒れたのー。フェルおじちゃんと一緒に倒したんだよー、すごいでしょー』

「うん、うん、すごいね。こんな大きいの倒してホントすごいぞ」

 一生懸命アイスドラゴンを倒したことをアピールするスイにホッとしたのとちょっぴりホンワカした俺だった。

 そして現れたアイスドラゴンのドロップ品は……。

『おお、これがアイスドラゴンの肉だ』

 嬉々としてそう言ったフェルの前には大きな白い肉塊が。

 フェルは美味いとは言うけど、色からして肉という感じがしないし、真っ白な肉はお世辞にも美味いとは思えないんだけど……。

 俺のそんな思いが顔に出ていたのか、フェルが『お主も食ってみればこれの美味さは分かる』と自信満々に言っているからマズいということはないんだろう。

 とりあえず初戦で目的だったものが手に入ったので俺的には一安心だ。

 他には白銀にほんの少し青を混ぜ込んだ美しい色をした皮、白っぽい壺に入った眼球と肝、太く鋭い牙、そして超特大の魔石がドロップされていた。

 そのすべてを拾い集めた後に、アイスドラゴンの肉のために『もう一戦してもいいかもな』なんてつぶやいていたフェルを何とか押しとどめて、俺たち一行は聳え立つ雪山にポッカリ開いた洞窟の中へと進んで行った。

「よし、この階段を下りれば47階層か。今度はどんな階層になってるやら……」

 森、荒野、砂漠、極寒ときて、次はどんな環境の階層が待ち受けているのかという不安からそんな言葉が口をついて出た。

『む……、どうやら次の階層が最下層のようだな』

「ホントか?!」

 最下層と聞いてやっとダンジョンから出られると喜んだのも束の間。

 デミウルゴス様の言葉を思い出した。

「さ、最下層って……」

『まさかこれは…………、彼奴なのか?』

 鋭い視線で階下を睨みそんなことをつぶやいたフェル。

「彼奴って何?」

 俺の質問に答えないままフェルはゆっくりと階段を下りていった。

 俺とドラちゃんとスイは、そんなフェルの後をついていくしかなかったのだった。






次回いよいよ最下層に突入します。

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― 新着の感想 ―
スイがかわいい(﹡´◡`﹡ )
解体の必要も無いしダンジョンでドラゴン肉集めといた方がご褒美にドラゴン出すからさってのが使えるのになんでダメなんだろう 2回目の方がスムーズに討伐できそうなのに
水戸黄門〜と言いつつ461話も読んでて草 水戸黄門ええやん。分かりやすいし。 ピンチにならんって分かってるからこそゆったり読めるのが良いんじゃないか。
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