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第四百三十七話 貪り食うもの

「うーっ、さぶっ」

 夕飯の用意をしながらかじかむ手に息を吹きかける。

 44階層。

 ここも砂漠だった。

 そうじゃないかなとは思ってたけどね。

 何せ、ここのところ同じ環境の階層が2階層続いていたし。

 しかし、森に荒野に砂漠か。

 まったく呆れるくらいに過酷な環境が続くイヤなダンジョンだよ。

 それもどこの階層も無駄にだだっ広いしさ。

 そんなことを考えながら身に染みる寒さに手をこすり合わせた。

 41階層と42階層の荒野もそうだったが、43階層とここ44階層の砂漠も夜になるとものすごく気温が下がって冷える。

 特に砂漠は昼と夜の寒暖の差が激しくて、それだけでも体力を奪われる。

 フェルの結界のおかげでその気温の差も抑えられているから体調を崩すほどではないのが救いだが、やはり寒いものは寒い。

 特に寒さが苦手なドラちゃんは、暖をとるために早めに出してある布団の中に早々に潜り込んで夕飯の時まで出てこないほどだ。

「ううっ、何だか今日は一層冷えるな……。こういう冷える日にはおでんでも食いたくなるなぁ」

 そんな独り言を口にすると、尚更おでんが食いたくなってくる。

 今日は作り置きしていたミノタウロスの肉で作った牛丼にしようと思ってたんだけどな……。

 ええい、我慢しないでおでんも追加だ。

 とは言えフェルたちへはメインは牛丼にして、おでんはちょっとしたおかず程度に。

 おでんだと肉がないからな。

 まぁ、フェルたちのためにちょっとした追加はするけども。

 ということで、早速ネットスーパーを開いた。

「ええと……、あった!」

 パックに入った温めるだけでOKのおでん。

 出来合いながら味もなかなかだ。

 おでんは自分で作るとなると手間も時間もけっこうかかる。

 そのため、作るとなると一人暮らしだった俺にはなかなか手が出ない料理だ。

 でも、これなら温めるだけでおでんが楽しめるから冬の間はかなり世話になったものだ。

 賞味期限も長いし便利なのもあって、冬の間は常に一袋ストックを置いておくくらいにな。

 そのおでんに追加用のソーセージも購入。

 最初はおでんにソーセージ?と思ったけど、これがやってみるとなかなかに美味いのだ。

 おでんパックとソーセージを購入したら、おでんを弱火で温める間に少しばかりソーセージに下ごしらえを。

 ソーセージに斜めに切り込みを入れて1分くらい軽くゆでて余分な脂を落としてから、おでんに投入。

「よし、温まったな」

 久しぶりの熱々のおでんに胸が躍る。

『それは何だ?』

『美味そうな匂いじゃねぇか』

『いい匂い~』

 おでんの匂いに釣られてフェルとスイ、そしてドラちゃんも布団から出て集まってきた。

「これはおでんっていうんだ。でも、これは肉ばっかりじゃないからね。みんなのメインは……、はい、ミノタウロスの肉で作った牛丼。こっちのおでんはおかずだよ。寒いから温まるものと思ってな」

 みんなの前に牛丼とおでんを盛った皿を出してやった。

『うむ、美味いな。この牛丼というのは他の肉でも食ったが、この肉が一番美味いかもしれんな』

『そうかぁ? 確かにこれも美味いけど、ワイバーンの肉で作ったやつも美味かったぜ』

『むむ、そう言われると確かに……』

『あるじが作ったのはどれも美味しいよー』

「はは、ありがとうな。おでんも美味いし温まるから食ってみろよ」

 俺に言われておでんに口をつけるフェルとドラちゃんとスイ。

『ほぅ、これは確かに温まる。肉が少ないのが難点だがな』

『ホントだな。体がポカポカしてくるってか、全身に気力が漲ってくる感じだ』

 ん?

 全身に気力が漲ってくる?

『ポッカポカ~』

 そう言いながらブルブル震えるスイに、さらに「んん?」と思う俺。

 …………あ。

 おでん、全部ネットスーパーで買った異世界産のものだった。

 鑑定してみると……。



 【 おでん 】

  異世界の食材で作られたおでん。体力・魔力を20分間およそ12%向上させる。



 あちゃー……。

 ま、まぁ、持続時間が20分間だし、何とかなる。

 これ以上食わせなければな。

「な、なぁ、牛丼のおかわりいるか? おでんよりもやっぱり肉がガッツリ食える牛丼の方がいいだろ」

『うむ、まあな。しかし、お主がおかわりを勧めてくるとは、怪しいな』

 そう言って胡乱げな目でこちらを見るフェルにドキリとする。

「な、何を言ってるんだよ、肉好きのお前らにはやっぱり牛丼の方かなと思っただけだよ」

 俺は努めて平静を装いながらそう言い返した。

『ふむ、まぁいい。牛丼をおかわりだ』

『俺も牛丼おかわり。おでんっていうのも悪くないけど、やっぱ肉の方が美味いしな』

『スイも牛丼おかわり~』

 みんなに牛丼のおかわりを出してホッと一息。

「さて、俺も食うか」

 俺のメニューは、メインのおかずにおでんだ。

 さすがにみんなと一緒に牛丼とおでんじゃあ重すぎるからな。

 メインのおでんのお供に白菜の浅漬け、あとは白飯だ。

 白菜の浅漬けは作り置きしていたもの。

 市販の液体タイプの浅漬けの素を使って漬けたものだ。

 ほぼ俺専用ではあるけど、キュウリと白菜の浅漬けは朝食やちょっとした箸休めとして重宝している。

 おでんのダイコン、味が染みてて美味い。

 たまごは安定の美味さだな。

 久しぶりのおでんをじっくりと味わう俺。

 そしてスープをゴクリ。

「ふ~、温まるわー」

 パリポリと白菜の浅漬けを食った後に白飯をかっ込む。

 おでんソーセージに手を出すが、ふと足りないものに気が付いて手を止めてアイテムボックスを漁る。

「やっぱりソーセージにはこれがないと」

 取り出したのは粒マスタードだ。

 俺はおでんにからしは付けない派だが、ソーセージには粒マスタードがいるだろう。

 ということで、粒マスタードを付けてソーセージをパクリ。

「美味い」

 ソーセージを噛み締めながら、多めに温めてしまったおでんをどうしようかと思う。

 俺が1人で食うしかないんだろうけど、アイテムボックスに入れておけば悪くなることもないし、またおでんを楽しめるんだからいいか。

 今度は地上でビールをお供にゆっくりとおでんを楽しめるといいなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 魔物を倒しつつ砂漠を進むこと4日目、ようやく階層主(ボス)の下へ。

「41階層、42階層の荒野ほどじゃなかったけど、前の階層とここの砂漠もけっこうな広さだったな」

『うむ。我らでも数日かかる階層がこうも続くとなると、普通の冒険者ではこのダンジョンを踏破するなどほぼ無理な話だろうな』

「確かに」

 荒野の階層でほぼ心が折れる、というか力尽きるんじゃないかな。

 何しろ準備万端で強力なフェル、ドラちゃん、スイがいる俺たち一行でさえもここまで来るのに2週間ちょいかかってるからなぁ。

 借りていた一軒家を解約しておいて正解だったわ。

 2週間契約で借りていた一軒家だが、前回ダンジョンから地上に戻ったときに期限が来てしまって1週間延長していたんだ。

 その契約の途中ではあったけど、40階層から潜るに当たって、ダンジョンでは下層にいくほど難関になっていくのは当然で前回より短い日程でというわけにはいかないだろうなと思って、とりあえず一旦解約させてもらったのだ。

 商人ギルドからは、途中解約となると返金はできませんと言われて「ムコーダ様でしたら、このまま延長してダンジョンから戻ってから精算していただいてもかまいませんよ」とは言われたんだけどさ。

 そうなると、結局俺たちが使ってない間の料金も支払うことになるからな。

 いつ戻ることになるか分からないし、それならいっそ解約した方がいいだろうと思って解約してもらった。

 ダンジョンから戻ったときに借りられる家を探すのが面倒だけど、まぁいざとなればトリスタンさんに頼んで冒険者ギルドの訓練場でも借りればいいかなと思ってさ。

 まぁそんなことはさておき、前方にいるここ44階層のボスだけど……。

 43階層と同じような石を積み上げた四角い箱型の建物を守るように1頭の魔物がうろついていた。

「あれ、めちゃくちゃ強そうだな……」

 頭がワニで上半身がライオン、下半身は毛がなくてなんかカバっぽい。

 ここからでもよく見えるということは、この魔物も例にもれずデカいということだ。

『あの魔物は我も初めて見るぞ。フハハ、これだからダンジョンは楽しいのだ』

 フェルが初見の魔物を見てワクワクしております。

『俺も初めて見るな。まぁ、砂漠の魔物なんて滅多に見る機会ないけどよ』

 こう見えて100歳超えのドラちゃんも初見の魔物らしい。

『あれ強そうだけど、スイのがもっと強い!』

 強そうなボスを見て、フンスと意気込むスイ。

 あれを見て意気込めるスイちゃんが俺は少し心配になってきちゃうぞ。

 と、それよりも気になるのはフェルもドラちゃんも知らないあのボスのことだ。

 とにかく鑑定してみることに。



【 アメミット 】

   砂漠に棲むSランクの魔物。食欲旺盛でこの上もなく獰猛。砂漠地帯の人々からは「貪り食うもの」として恐れられ、出会ったならばそれが人生の最後と言われている。



 ハハハ……。

 乾いた笑いしか出ないよ。

 43階層のボスだったアペプに続いて、ここ44階層のボスのアメミットってのも物騒すぎる説明書きなんだけど。

 食欲旺盛でこの上もなく獰猛?

 貪り食うもの?

 出会ったならばそれが人生の最後?

 ダメじゃん、会ったら絶対にダメな魔物じゃないか。

 何で立て続けにこんなんばっか出てくるんだよ、ここのダンジョン。

「お、おい、どうすんだよ? あの魔物、アメミットって言うらしいけど、食欲旺盛でこの上もなく獰猛だって。でもって出会ったならばそれが人生の最後だって言われてるらしいぞ」

『出会ったら最後だと? フン、面白いことを言う。どちらが最後か我が思い知らせてくれるわ。ドラ、スイ、この前の階層主はお主らが戦ったのだ、此奴は我に譲ってもらうぞ』

 そう言って既に戦闘モードに入ったフェルは歯をむき出しにして目をギラギラさせていた。

『チッ、しゃあねぇなぁ』

『むぅ、わかったー。フェルおじちゃん、がんばってー!』

『フッ、お主らもどちらが強いのか、その目によく焼き付けておけ』

 そう言ってフェルが走るのと同時にアメミットも「グギャァァァッ」と雄叫びをあげてその巨体を揺らしながら突進してくる。

 噛みつく気満々で大口を開けたフェルの3倍はありそうな巨体のアメミットと流れるように走るフェルが交差した。

「え、え、え、うわぁぁぁぁぁっ」

 フェルと交差した後も俺たちの方に突進してくるアメミット。

 思わず俺は顔を背けて蹲った。

 その直後、ドスンッと何かが倒れる音と振動、そして砂煙が舞う。

「ゴホッ、ゴホッ……。ど、どうなった?!」

 砂煙が収まり、恐る恐る目を開けてみると、俺たちの目の前には息絶えたアメミットが倒れていた。

 アメミットの左側面には内臓にまで達した深く抉れた爪痕のような傷跡が。

『我の方が強い』

 そう言いながらドヤ顔をかますフェル。

『悔しいけどさすがだな、フェル』

『フェルおじちゃん、すごーい!』

 ドラちゃんとスイにそう言われて満更でもないフェルが、尻尾を盛大に揺らしながら『当然の結果だ』なんて返していた。

「まったく、あんまり驚かせるなっての」

 アメミットが目の前まで来たときは、心臓が止まるかと思ったぜ。

『相も変わらずお主は小心者だな。我らといるのだから、もう少しどんと構えていろ』

「小心者で悪うございますね。元の世界じゃあんなおっかない生き物は居なかったんだからしょうがないんだっての」

 そう言いながらそそくさとアメミットのドロップ品を拾っていく。

「この黒い皮は下半身のカバっぽいところのかな? それと大きめの魔石だろ。あとは……、箱?」

 なんだかエジプトっぽい幾何学模様の入ったハデハデな色柄の箱が落ちていた。

 それを開けてみると……。

「…………」

 中を見てフタを閉じた。

 フーッと大きく息を吐いてから、もう一度フタを開ける。

 中に入っているのはキラキラと輝く淡いブルーの宝石。

 その大きさが普通じゃなかった。

 ゴルフボール大の大きさがある宝石。

 今までいろいろと宝石は手に入れてきたけれど、その中でも一番の大きさだ。

 何だかヤバそうな宝石だなと思いながら鑑定してみた。



【 ブルーダイヤモンド……非常に稀少な宝石。かつてこの宝石に魅入られたとある国の王妃が言葉巧みに王を操り、この宝石を所持していたとある小国を攻め滅ぼしてまで手に入れたという逸話が残っている。】

 


 …………。

 うん、見なかったことにしよう。

 静かに箱のフタを閉めてアイテムボックスへ。

『どうかしたか?』

「え、何でもないよ、何でもない」

 なんか、こんなんばっかりだな。

『そうか、なら下へ行くぞ』

 俺たち一行は45階層へと降りて行った。






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― 新着の感想 ―
いわくあり過ぎて献上もできねぇww
食欲旺盛でこの上もなく獰猛。砂漠地帯の人々からは「貪り食うもの」として恐れられ、出会ったならばそれが人生の最後と言われている。 「砂漠地帯の人からは」の部分を「魔物たちからは」にすると ムコーダさん…
[一言] 〉『相も変わらずお主は小心者だな。我らといるのだから、もう少しどんと構えていろ』 「小心者で悪うございますね。元の世界じゃあんなおっかない生き物は居なかったんだからしょうがないんだっての」…
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