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第四百三十五話 スカラべ

「とんでもスキルで異世界放浪メシ」の書籍6巻、本編コミック3巻、外伝1巻をお買い上げの皆様本当にありがとうございます!

引き続き「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をよろしくお願いいたします!

「オ、オェェ……」

 這う這うの体でフェルの背から何とか逃れた俺は、四つん這いのままに思わず嘔吐(えず)いた。

『おーい、大丈夫かぁ?』

『あるじー、大丈夫ぅ?』

『まったくいつになっても軟弱だな、お主は』

「くそぅ、だ、誰のせいだと思ってんだよ……」

 俺は、ここ3日ですっかりゲッソリしてしまった顔を上げてフェルを睨んだ。

『このどうしようもなくつまらん階層を早く抜けるためなのだからしょうがないだろう』

「俺は反対したのに……」

『そこはお前、多数決で決まったのだから我を責めるのはお門違いというものだ』

「くっ……」

 初日ですっかり懲りた俺は、もっとゆっくり進もうと提案したんだけど、フェルが頑として早くここの階を抜けることを主張したんだ。

 俺はドラちゃんとスイを味方につけてフェルを説得しようと試みたんだけど、その味方に付いてもらうはずのドラちゃんとスイが今回ばかりはフェルの意見に賛成してしまった。

 ポイズンヴァルチャーしか出ないただただ広いだけのこの階層の退屈さに我慢が出来なかったんだろうね。

 そんなわけでフェル主導の下に俺たち一行は、3日という強行日程で広大な荒野を駆け抜けてきたのだ。

 元気いっぱいのフェルとドラちゃんとスイとは対照的に、フェルにしがみついているのが精いっぱいだった俺は日に日にゲッソリしていった。

 汚い話、下手に飯を食うと吐きそうになるから、この3日間はネットスーパーで買った栄養ゼリーでしのいでいたからな。

 フェルたちはいつも通りもりもり肉を食っていたけどさ。

『しょうがないな、ここで1泊するか』

「そうしてもらえるとありがたい」

 俺の体力が限界だったのと、43階層へと続く洞窟の前に到着したのが日が暮れる寸前だったこともあって、俺たち一行は洞窟の中で一泊することにした。




「うっぷ……」

 作り置きしていたギガントミノタウロスの肉で作ったカツサンドを美味そうにバクバク食うフェルとドラちゃんとスイ。

 空きっ腹には応えるぜ。

『うむ、美味いな』

『パンにソースが馴染んで肉と抜群に合ってるぞ』

『美味しー!』

 そりゃあ良かったね……。

 俺は同じのは食えないけど。

 栄養ゼリーで凌いでいた俺の胃には受け付けないよ。

 というわけで、俺は別メニューの夕飯だ。

 立ち上がる気力もないから、地面に胡坐をかいて目の前に以前は散々お世話になったカセットコンロを取り出した。

 久しぶりの出番だ。

 簡単で栄養もあって胃に優しい卵雑炊を作ることにした。

 土鍋に水、顆粒だし、醤油、みりん、塩を入れて火にかけたら、沸騰するまでの間に卵を溶いておく。

 沸騰したらご飯を加えてご飯が程よく汁を吸ったところで溶き卵を回しかける。

 卵が少し固まったら混ぜて、最後に味を調えたら出来上がりだ。

 本当は刻みネギや刻みのりを載せるといいんだけど、今日は面倒だから省いた。

 出来上がったばかりの卵雑炊をフゥフゥと息をかけて冷ました後にズズッとすする。

「ハァ~、染みるわ……」

 思わずしみじみとつぶやいてしまう。

 空っぽの胃にやさしい味の卵雑炊が染みわたる。

 再びズズッと卵雑炊をすすると、チョイチョイっと太ももをつつく感触が。

 ん?と下を見ると、スイが触手で俺の太ももをつついていた。

『ねぇねぇあるじー、それ、美味しいのー?』

「まぁ、俺にとっては美味しいかな。スイも食ってみるか?」

『うん』

 スープボウルに少しよそってスイにお裾分け。

 すぐさま味を確かめるスイ。

「どうだ?」

『うーんと、美味しいけど、スイ、お肉の方が好きかなぁ』

「ハハ、そう言うと思った」

 特に今日のは胃に負担がかからないようにお粥に近いくらいに柔らかく煮てるし、味も薄めにしてあるからな。

『おい、おかわりをくれ』

『俺もだ』

 フェルとドラちゃんからおかわりの声がかかる。

「はいはい。スイもおかわりいるだろ?」

『うん、いるー!』

 カツサンドを腹いっぱい食ったフェルとドラちゃんとスイ、そして久しぶりにまともな飯にありついた俺は、その後泥のように眠ったのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あと数段下りれば43階層だな」

『うむ。さすがに次も何もない荒野ということはないだろう。もしそうだったら……、さすがに温厚な我でもキレるぞ』

「えー、フェルが温厚って、それ本気で言ってるのか?」

『何だそれは。失敬なヤツだな。我は十分に温厚だろうが』

「いやいやいや、一国を滅ぼしたとか伝説とかいろいろあるでしょ。しかも、凶暴な魔物だって狩りまくってるし」

『それとこれとは別だろう』

「何が別なんだよー」

 そんな言い合いをする俺とフェルの間に俺たちの前方を飛んでいたドラちゃんが割って入る。

『はいはいはい、そういう言い合いは終わり終わり。さっさと行こうぜ』

『みんなおそーい。先にスイが行っちゃうよ~』

 フェルの背中に乗っていたスイがポーンとフェルの頭を飛び越えて着地。

 43階層に一番乗りしたのはスイだった。

 スイの後を追って俺たちも43階層へと降り立った。

「こうきたか……」

『あるじー、砂がいっぱいだねー』

『砂漠ってやつだろ。ドランのダンジョンにもあったなぁ』

 目の前に広がったどこを見ても砂しかない広大な砂漠にそんな感想を言う俺たち。

 そして、そんな俺たちとは違う感想を持ったのが約1名。

『ククッ……、フハハハハハハハハッ。喜べドラ、スイ。ここにはいるぞ。我らが屠るべき魔物が山ほどな!』

『ホントか?! ヒャッホー! この階では退屈せずに済みそうだな!』

『魔物いっぱいヤッター! スイ、ビュッビュッてしていっぱい倒すー!』

 いやいやちょっとみんな、魔物がいっぱいで何でそんなテンション高いのよ?

『おい、早速お出ましだぞ』

 フェルのその言葉にギョッとしてフェルが見つめる方向を見ると、赤黒い点がこちらへと押し寄せてきていた。

「なんか見覚えのあるような……」

『サンドスコーピオンの群れだ』

「そうだった!」

 ドランのダンジョンにもいた1メートルくらいある赤黒いサソリだ。

「あれがサンドスコーピオンの群れだとしたら……」

『当然彼奴もいる。そこだ!』

 ザシュッ―――。

 砂を舞い上がらせながらフェルの爪斬撃(そうざんげき)が撃ち込まれる。

 30メートルくらい先の砂の中から姿を現したのは真っ二つに割れて既に息絶えた馬鹿デカイサソリ、ジャイアントサンドスコーピオンだった。

 群れの長であるジャイアントサンドスコーピオンがいなくなったことで、散り散りに逃げようとするサンドスコーピオン。

 しかし、それを逃さない者たちが。

『デカイのをフェルに取られちまったのに、お前らまで逃すかってんだ!』

『待てー! えいっ、えいっ』

 ドラちゃんの氷魔法とスイの酸弾にサンドスコーピオンがどんどんと討ち取られていく。

『あ~、逃げられちゃったー』

 スイの触手が向けられた先には、脱兎のごとく遠ざかっていく赤黒い小さな点が。

『スイよ、気を落とすな。獲物はまだまだたくさんいる』

『そういうこった。次だ次』

『うんっ』

 って、魔物がまだまだたくさんいるってのが慰めになってるのがおかしいんだけどね。

「ま、まぁそれは置いといて、このドロップ品を集めるの手伝ってくれよ」

 43階層に着いて早々に砂の上に散乱したドロップ品をせっせと拾い集める俺たちだった。

 それから砂漠の暑さ対策にフェルに結界を張ってもらった俺たち一行は砂漠を進んでいった。

 道中、フェルが言っていたとおりに次々と魔物と出くわした。

 最初に出てきたサンドスコーピオンをはじめ、ギザギザの歯を持った巨大ミミズのようなサンドワーム、3メートルはあろうかというガラガラヘビに似たデスサイドワインダー、そして砂で出来たゴーレムのサンドゴーレム。

 砂漠という特殊な環境なこともあって、出てくる魔物はドランのダンジョンの砂漠階層で見かけた魔物とほぼ同じだ。

 砂漠特有のその魔物たちが次々と俺たち一行の前へ現れる。

 というか、前に進みながらもフェル自ら魔物のいる方へと先導している感じだ。

 フェルもドラちゃんもスイも41階層と42階層の何もない荒野には相当鬱憤が溜まっていたようで、魔物を見つけ次第に次々と攻撃を繰り出していく。

 容赦なしのその戦いというか一方的なまでの攻撃に、ちょっぴり引いてしまうくらいだ。

 でも、みんなの気持ちが分かるだけに俺も止めるようなことはしなかった。

 前にネットスーパーで買ったフード付きUVカットパーカーを着てドロップ品拾いに専念したよ。

 そして意気揚々と魔物を倒しながら進む俺たち一行の前方に、遠目に見ても巨大だと分かるこげ茶色をした真ん丸の石のようなものが姿を現した。

「ん? 何だあれは…………。ってか、あれ、動いてないか?」

『動いているな。あれも魔物だ』

「魔物って、あの真ん丸なのが?」

『違う。その後ろだ』

「後ろ?」

 そう不思議に思っていると、こげ茶色の真ん丸の石のようなものに覆いかぶさるように黒い何かがひょっこりと頭を出した。

「んん?」

 まだ距離のある魔物をジッと見つめる。

「…………げぇっ、あれってフンコロガシかぁぁぁっ」

 いつか見た砂漠にいる生物を特集したドキュメンタリー番組。

 その中に出ていたフンコロガシにそっくりだった。

『馬鹿者。お主が大声を出すから気付かれてしまったではないか』

 フェルにそう言われて思わず口を押さえるが、もう遅かった。

 巨大フンコロガシが糞球を転がしながら猛烈な勢いでこちらに向かってきていた。

「ギャーッ! 来るっ、来てるよっ!」

 迫りくる巨大フンコロガシに恐怖する。

『そう騒ぐなって。気付かれようが気付かれまいがやることは一緒なんだからよ。そうだろ、フェル』

『まぁ、ドラの言うとおりだがな』

『あるじー、スイが倒すから大丈夫ー!』

「何を呑気にっ! あー、来る、来るっ、バッチィ、汚いっ、もー誰でもいいから早く倒してくれよぉぉぉぉっ!」






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― 新着の感想 ―
フェルの速度で3日もかかる距離って どんだけ広い階層の設定なんだよ… 人類に走破するの無理すぎてなんか逆に冷めるきがする 物資も絶対足りなくなるし、ピストンで輸送部隊送るにしても40層で敵もヤバいし…
いつも思ってましたが、フェルの上に乗って高速移動する時に、風の魔法で風圧を軽減したり、匂いや暑さを防げるなら風を防ぐ結界を張って乗ったらいいのでは?笑 しがみ付くのが疲れるならスイちゃんに背中に乗って…
[気になる点] 〉我は十分に温厚だろうが フェル、温厚だと思ってるんだ。 [一言] 食べたら吐きそうな体調でも、従魔ズのためにお肉料理を提供するムコーダさん。 「主婦の鏡」の称号をあげてもいいので…
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