第四百二十五話 4アームズベアー<ギガントミノタウロス
ちょい短めです。
40階層に降り立った俺たち一行の目の前に現れたのは……。
「え~、また森?!」
先ほど後にした39階層と同じ青々と生い茂る木々が立ち並ぶ森だった。
「なぁ、フェル、これってさっきの39階層の森と同じくらいの広さがあったりするのか?」
そうなんだろうなと思いつつもフェルに聞いてしまう。
『うむ。もしかしたら先ほどよりも広いかもしれぬな』
フェルの答えを聞いてガックリ。
39階層の森よりも広いなんて……。
ようやく森を抜けたところだってのに、トホホだよ。
『しょうがない。進むぞ』
『それしかないよな。じゃなきゃあ下の階へ進めねぇもんよ』
フェルとドラちゃんの言うことがもっともなんだけど、ため息が出ちゃうよ。
『魔物はスイがぜーんぶ倒しちゃうからまかせてー』
スイだけはウッキウキだ。
「仕方ない、行くか」
俺たち一行は40階層に出現した新たな森に足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここ40階層の森では蟲の魔物は激減し、獣系の魔物が次々と襲い掛かってきた。
レッドボアを皮切りにコカトリス、ロックバード、ジャイアントドードー、ジャイアントディアーと普段からよくお世話になっている(主に肉として)魔物のほか、ジャイアントホーンラビットやワイルドエイプ等々が次々と現れた。
もちろんスイがフェルの上から酸弾を放ってすぐさま倒していったけどね。
そんなわけで俺たち一行は危なげなくどんどんと森の中を進んで行った。
『よし、今日はここまでにするぞ』
フェルがその念話とともに足を止めた。
「暗くなってきたし、そうしよう」
どういう原理なのかはわからないけど、ダンジョンの中なのに時間に合わせて明るくなったり暗くなったりするんだよね。
今までのダンジョンもそうだったけど、森とか砂漠とかフィールド系の階層になると何でかそうなるんだ。
そこだけは時間経過がわからない階層よりはいいんだけど、無駄にだだっ広いのだけはいただけない。
『ハイハイハイハイッ!』
自己主張するように両手をあげて俺の前へ来るドラちゃん。
「何だよ、ドラちゃん」
『夕飯はさっきの熊の肉を使ってくれよ。俺、あれ食ったことないから食ってみたい!』
「熊肉だと~、まぁた面倒なことを……」
熊肉料理なんて俺やったことないんだけど。
思い浮かぶのっていったら、会社の慰安旅行で行った温泉旅館で食った熊鍋くらいなもんだぞ。
見た目は熊鍋っていうか熊汁みたいな感じだったけどさ。
味噌仕立てで熊肉も思ったほどクセもなくて普通に美味かったからよく覚えてる。
そういや話の種で旅館の人に作り方も聞いたな。
「熊肉つったら、熊鍋くらいしか思い浮かばないぞ」
『鍋、いいじゃん。鍋にしてくれよ!』
『鍋か。我もそれでいいぞ』
『スイもお鍋好きだからいいよー』
そんな感じで夕飯は熊鍋に決定。
とは言っても、旅館の人が言ってたけど熊肉って獲れた時期やらその年齢やらによって臭みとか肉の固さなんかが違うって話だったんだよなぁ。
旅館で食ったときの熊は冬眠直前で年齢もちょうどいい年齢の熊だったらしくて臭みもなくて美味かったけど。
ダンジョン産の4アームズベアーはというと……。
4アームズベアーの肉の匂いを嗅いでみる。
「うーん、そんな変な匂いはしないな。とりあえずちょっとだけ焼いて味見してみるか」
4アームズベアーの肉を少しだけ切り取って、塩胡椒をして焼いて食ってみた。
「んん? このままでも全然いけるぞ。肉も全然硬くなくて普通に噛み切れるし。ちょっとだけジビエ肉特有のクセがあるけど、そんな嫌な感じもしないな」
どうなんだろと思ったけど、全然イケる。
考えてみると、熊肉とは言っても日本の熊と違うのは当然と言えば当然だよな。
何せこれは異世界のダンジョン産の魔物肉なんだから。
「これなら旅館で教わったレシピに沿って作っても美味い熊鍋が出来そうだな」
俺は、温泉旅館で作り方を教わったのを思い出しながらネットスーパーで材料を購入していった。
「さてと、まずは野菜だな」
ダイコンとニンジンはイチョウ切りにして、ゴボウはささがきにして水にさらしておく。
4アームズベアーの肉は適当な大きさに切り分けて薄切りにする。
そうしたら深鍋にごま油をひいて、熊肉を炒めていく。
熊肉に火が通ったところでダイコン、ニンジン、ゴボウを入れてさらに炒めて、全体に油が回ったらだし汁(昆布だしがいいっていう話だった。今回は簡単に顆粒の昆布だしを使ったよ)を加えて煮ていく。
ここで灰汁が大量に出てくるって話だったから灰汁取りシートを購入してたんだけど、4アームズベアーの肉は出ないことはないけど大量というほどでもなかった。
そうは言ってもしっかり灰汁取りシートを使って取り除いたけどね。
灰汁が取れたら田舎味噌とみりんを入れてコトコト煮込む。
その間にエノキとシメジをほぐして、ネギはななめ切りにして木綿豆腐は賽の目切りに。
最後に火の通りやすいエノキ、シメジ、ネギ、木綿豆腐を加えて火が通ったら出来上がりだ。
味見してみると、なかなかに美味い。
ちょっとだけあったクセもまったく気にならなかった。
「ふぅ、何だかんだでけっこう時間かかったけど出来たぞ~」
『そうだぞ。待ちくたびれた』
『腹減ったぁ』
『お腹ペコペコ~』
「ごめんごめん、煮込み時間がちょっとかかっちゃったんだよ。それよりも、はい、どうぞ」
たっぷりと熊肉、もとい4アームズベアーの肉が入った熊鍋をよそいみんなに出してやった。
『むむ、野菜が多いな……。腹が減っているしまぁ良い』
フェルが入っている野菜の多さに一瞬目をひそめるものの、空腹の方が勝ったのかバクバク食い始める。
『ほ~、これが熊の肉か。どれどれ……』
初めての肉を味わうようにしっかりと噛み締めるドラちゃん。
『わーい、ごはん~』
お腹ペコペコのスイはすごい勢いでバクバク食っている。
魔道コンロをフル活用して深鍋4つに用意した熊鍋が見る間に減っていった。
毎度毎度のことだけど、みんなよく食うよなぁと思う俺であった。
『ふぅ、食った食った』
ポコンとした腹をさするドラちゃん。
『しかしよ、熊の肉も悪くはないけど、ぶっちゃけでっかいミノタウロスの肉の方が美味いよな』
……オイ。
『肉の美味さで言うなら当然だろう。これはたまに食うから美味いのだ』
……オィィィ。
『あのねー、スイもそう思うの。さっきのも美味しかったけど、大きい牛さんの魔物のお肉の方がもっと美味しいかなぁ』
スイちゃぁぁぁん。
熊肉なかなか美味いって言ったくせに……。
熊肉食いたいって言ったくせに……。
正直に言えば俺だってギガントミノタウロスの肉の方が美味いとは思うよ。
でも、それを言っちゃあお終いなのよ。
ハァ、熊肉は鬼門だな。
ダンジョン編はまだ続きますが、もう少しで一区切りつきそうなのでもう少しお付き合いください。
そうなったら新たなテナントの話も……。
 




