第四百二十四話 熊肉ゲット
朝食後、再び森の探索を開始した俺たち一行。
出てくる魔物は昨日に引き続きスイが一手に引き受けていた。
フェルの背に乗る俺の上やフェルの上を縦横無尽に移動しながら酸弾を放ち次々と撃破していく。
高ランクの魔物のドロップ品を拾いつつ進んで行くが、フェルの機動性をもってしても森を抜けることは未だ叶わなかった。
『しっかし、広い森だな。まだ抜けないのか?』
フェルの背から念話でそう聞いてみる。
『最短距離で移動してはいるのだがな。この森が広すぎるのだ』
フェルが言うには、現在地は感覚的に半分をちょい過ぎたくらいなのだそうだ。
『ったく、ダンジョンの中なのにこんな広い森造っちゃって嫌になるね』
『全くだ。我が相手にしたい強い魔物もいないしつまらん』
『それには俺も同意。ここならスイの戦力だけで何の問題もないもんな。俺らの出番がねぇよ』
いやいや、そんなこと言えるのは君たちだけだからね。
この森、ちょいちょいAランクの魔物出て来てるでしょ。
時々Sランクが混じってたりするし。
スイがすぐ倒しちゃってるけどさ。
さっきもスイが倒したギガントヘラクレイオスビートルとかいうSランクのでっかいカブト虫の魔物のドロップ品を拾ったばっかりじゃないか。
俺の背丈くらいある長い角とそこそこ大きい魔石をさ。
そんな風に思いながらフェルとドラちゃんの言い分に若干頬をヒクつかせる俺だったけど、それが通ってしまうのがうちの最強トリオなんだよねと最終的には苦笑い。
『まぁ、ここはこのまま進んで行くしかないね』
『もっと速く走って良いのなら、今より早く進むこともできるがな』
『フェル、それは止めて。俺が落っこちて死ぬから』
フェルの提案は当然即座に止めた。
フェルの早くっていうのは本当にハンパないから。
吹っ飛ばされて背中から落ちるのがオチ。
ダジャレじゃなくて、マジな話。
だからこのままの速度で進んでくださいよ。
一向に終わりの見えない森に辟易としながら、森を抜けるために俺たち一行は移動に専念することにしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨日と今日、移動に費やすこと2日。
俺たち一行はようやく森を抜ける目前まで来ていた。
それはすなわちこの階のボスが出てくるということだった。
「あれがボスか……」
森を抜けたその先にあったのは大きな岩山だ。
その中央にポッカリと口を開けた大きな洞窟があった。
洞窟の前には体長10メートルはあろうかという4本腕の超巨大熊が我が物顔でのっしのっしと歩き回っていた。
俺たちは、途切れた森の手前にある木の陰からその様子をうかがっていた。
超巨大熊を鑑定してみると……。
【 4アームズベアー 】
Sランクの魔物。怪力無双。雑食で非常に凶暴。
「怪力無双……、非常に凶暴……」
うん、見るからにそんな感じするよ。
『心配するな。彼奴は何度か倒したことがある』
俺が余程不安そうな顔をしていたのか、フェルが小声でそう言った。
「そうなのか?」
『うむ。あれは確かに怪力で凶暴だが、体がデカいのもあって機敏ではないからな。近付きさえしなければどうということはない。それよりもだ、彼奴の肉は少しクセはあるがそれもいい味わいでなかなかに美味いのだ』
フェルのその言葉に反応したのは肉好き仲間のドラちゃんとスイだ。
『ほ~、あれの肉は美味いのか。1度見かけたことはあるが食ったことはなかったんだ。ちょうどいい』
『美味しいお肉なのかぁ。楽しみ~』
あの凶暴な面の熊を肉としか見ていないんだなぁ、うちのみんなって。
分かってはいたけど。(遠い目)
『よし、それでは行くぞ』
『おうよ。オラァ、肉よこせー!』
『美味しいお肉~!』
一斉に飛び出していったフェルとドラちゃんとスイ。
「お、おいっ、ドロップ品が肉とは限らないんだからなっ」
そう声を掛けるが、熊肉のことで頭がいっぱいなトリオに聞こえたかどうかはわからない。
そして、飛び出したフェル、ドラちゃん、スイから繰り出される一斉攻撃。
ズガガァァァン―――。
フェルの雷魔法だろう4アームズベアーの脳天に落ちる稲妻。
ドシュンッ―――。
ドラちゃんの氷魔法だろう先の尖った太い氷の柱が4アームズベアーの背中から貫くようにグッサリと深く刺さる。
ビュッ―――。
スイの酸弾が4アームズベアーの横っ腹に大きな風穴を開けた。
「グァ……」
どれもが致命傷になりうる攻撃を一斉にその身に受けた4アームズベアーは、か細い声を出したあとドスンッと大きな音を立てながら横に倒れていった。
4アームズベアーが倒されたのを見計らって、俺はみんなの下へと近寄った。
『よっしゃあ! にーく、にーく、にーく!』
『おにく、おにく、お・に・く~♪』
ご機嫌でアクロバット飛行を披露しながらにーくにーくと掛け声をかけるドラちゃんと、ポンポンとリズムよく飛び跳ねながら鼻歌交じりのスイ。
「いやいやだからさ、さっきも言ったんだけど聞いてた? 肉が出るとは限らないだろ」
『ぬっ、確かに』
フェルさん、今気付きましたって顔しないでよ。
『えーっ? 肉出ないかもしれないんか?』
『お肉でないのー?』
「いやさ、何がドロップされるかはわかんないだろ? ……あ、ちょうどドロップされた」
ドロップ品を確認すると……。
「毛皮と肝と魔石だって」
『くっ、肉が出ぬとは……』
『何だよー、期待してたのにー』
『むぅ、お肉でなかったー』
肉が出なかったことにガッカリするトリオ。
「まぁ、こういうこともあるさ。とりあえず先に進もうぜ。この洞窟の中に下へ続く階段があるんだろ?」
俺は洞窟の中へと1歩足を踏み入れた。
「グオォォォォォッ」
ドスドスドスと地響きのような足音とともに目の前に現れたのは……。
「わわわわわわわっ、もっ、もう1匹いたのー?!」
俺の目の前に現れたのは、もう1匹の4アームズベアーだった。
思わず声をあげた俺に気付いた4アームズベアーが俺に向かって腕を振り上げた。
「グガオォォォォォッ」
息遣いさえも感じられる距離。
あまりの迫力と恐怖に、俺は腰が抜けてへたり込んでしまった。
『あるじをいじめるなー!』
ビュッ―――。
『小賢しい。死ね』
ズガガァァァン―――。
『どうせなら肉落とせよ!』
ドシュンッ―――。
フェル、ドラちゃん、スイから先ほどと同じ一斉攻撃が新たな4アームズベアーに向かって繰り出された。
「グォ……ガ…………」
後ろにドタンと倒れた4アームズベアーはピクリとも動かなくなった。
そして少しすると……。
『ヤッター! お肉出たよー!』
スイがドロップ品の肉の前で嬉しそうにポンポン飛び跳ねていた。
『よっしゃ、来たな! 食ったことのない肉だからめちゃくちゃ楽しみだぜ!』
ドラちゃんも初めての肉に興奮気味だ。
『ちと少ない気もするが、まぁいいだろう』
少ないって、フェル、その肉塊10キロくらいはありそうなんだけど。
トリオに重要なのは肉みたいだけど、それ以外にも爪と魔石をドロップしていたのでもちろん回収したよ。
「はぁ、しかしさっきはビックリしたぁ……。いきなり目の前に現れるんだもんな。まだ膝がガクガクしてるよ」
『お主はいつになってもだらしないのう。ほれ、シャキっと歩け』
そう言いながら未だ本調子ではなくよろよろと歩く俺を尻尾でパシパシ叩くフェル。
「おい、叩くなよぉ。そんなこと言ったって、しょうがないだろ。あんなん目の前に出てきたら誰だって驚くって」
正直漏らさなかっただけでも自分を褒めてやりたいくらいだぜ。
『あんなのはただデカいだけの魔物でたいしたことはない。そんなことよりお主の歩調に合わせていると、いつになっても下に行けないぞ。乗れ』
「まぁいろいろ言いたいけど、お願いするよ。この洞窟から早く出たいし」
俺はよろつく足を叱咤してフェルの背中によじ登った。
『では、行くぞ』
俺たち一行は洞窟の最奥にあった階段を下りて40階層へと向かったのだった。




