第四百二十一話 ちょっぴりブラックなムコーダ
UPするの忘れてました(汗)
『やけに蟲の魔物が多いな』
背中に俺を、頭にはスイを乗せたフェルに並走するように飛ぶドラちゃんが念話でそうつぶやいた。
『森だからじゃないの?』
ダンジョンの中の森ということもあっていつもよりは抑え気味のスピードで走るフェルの背中の上から俺はそう念話で返した。
『それにしても多過ぎねぇか? フェル、どう思う?』
『うむ、確かにな。もしかしたら、そういう森なのかもしれぬぞ』
『蟲の森か……。嫌な森だな。って、そういやダンジョンコアってのがあるんだっけ。要はダンジョンの中はそのダンジョンコアの思うがままってことか?』
『そういうことだ』
『あれ? でもさ、前にフェルに森の中に出来たばっかりの若いダンジョンだって無理矢理連れて行かれたことあるじゃん。あの時は、魔素が濃い場所にダンジョンは自然にできるって言ってたような気が……』
『ああ、それはな……』
フェルの話によると、ダンジョン自体はいろんな条件はあるものの魔素が濃い場所に自然にできるってことで間違いないんだけど、出来たあとにある程度ダンジョンが成長したところでダンジョンコアが生まれるのだそうだ。
そのダンジョンコアが生まれるまで成長するってのが相当長い年月かかるみたいだけどね。
そうしてダンジョンコアが生まれたあとのダンジョンは、ダンジョンコアの意向によって、どんな階層になるのかやどんな魔物が湧くのかが決められてゆっくりと成長を続けていくのだそうだ。
もちろん長生きのフェルにしたってさすがにダンジョンコアと交信したことなどないから、伝え聞いた知識ではあると言っていたけどね。
まぁとにかくだ、そういう話だからダンジョンコアがこの階層を蟲系の魔物ばかり配置しているっていうのも有り得る話ではあるということだ。
『また魔物だー! エイッ!』
ビュッ―――。
大量の蟲の魔物に歓喜していたのは戦闘大好きなスイだった。
今も名前は知らないがデカいアブの魔物に酸弾を撃ち込んで撃墜させていた。
『鬱陶しくはあるが、スイに任せておけば大丈夫であろう』
フェルが自分の頭の上に陣取るスイを見上げてそう言った。
『うんっ。スイがぜーんぶやっつけるよー!』
フンスと荒い鼻息が聞こえそうな勢いでそう宣言するスイ。
『フェルの言うとおり大丈夫みたいだな。ハハッ』
『スイ……』
ダンジョンに入るたびに戦闘スライム(?)化していくスイに何とも言えない気持ちになる俺だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次から次へと出てくる蟲系の魔物をスイがバッタバッタと倒しながら俺たち一行は森の中を進んで行った。
高ランクの魔物のドロップ品については回収も忘れない。
そこは身軽なドラちゃんにお任せだ。
俺が預けたマジックバッグを首に掛けてそこへ飛びながら回収したドロップ品を入れていく。
今もスイが倒したジャイアントセンチピードのドロップ品の殻と魔石を回収したところだった。
『しかしホント蟲ばっかりだよな。森なのに獣系の魔物は全然出ない』
『蟲以外も出ただろ。ヌメヌメしてるキモいのがよ』
『そうか。数は少ないけどポイズンスネイルだのジャイアントスラッグだのもいたか』
ドラちゃんが言うヌメヌメしてキモいのってのは、中型犬くらいの大きさの毒持ちのカタツムリの魔物と全長が2メートルくらいありそうな超デカいナメクジの魔物やらだ。
『他にも上から降ってきたヤツがいただろう』
『おいー、思い出させるなよドラちゃぁぁぁん』
上から降ってきたヤツ……。
あれはトラウマものの魔物だった。
その名もビッグフォレストリーチ。
体長20センチくらいのヒルの魔物だ。
最低のFランクの魔物で雑魚もいいとこだけど、精神的には1番堪える魔物だったよ……。
ビッグフォレストリーチは木の枝にいたんだろうな。
体長20センチの黒っぽいヒルがウネウネしながら頭上からボトボト雨みたいに大量に降って来たんだ。
そりゃあもう全身鳥肌もんの超絶気色悪い光景だった……。
フェルの結界のおかげで直接吸い付かれるなんてことはなかったから良かったけど、そんなことになってたら絶対に気絶してたぞ俺は。
そんでもって一生もののトラウマになってたはずだ。
とにかくだ、思い出すだけでもゾワッときて気持ち悪くなる悪夢のような光景だったよあれは。
『ううっ、思い出したら気持ち悪くなってきた……』
『自分で言ってなんだけど、すまん、俺もだ』
あの悪夢のような光景は、ドラちゃんにも精神的ダメージを与えていたようだ。
ドラちゃんとそんなやり取りをしていると、ふいにフェルの足が止まった。
『フェル、止まってくれたのはありがたいけど大丈夫だぞ』
『ああ。気持ち悪くなったけど、止まってもらうほどじゃない』
俺とドラちゃんがそう言うと、フェルがフンと鼻で笑う。
『お前たちのために止まったのではないわ。あれを見てみろ』
フェルが鼻先で指す方を見ると、この森にはいないと思っていた獣系の魔物がいた。
『あれはレッドボアか?』
レッドボアが体長50センチくらいのアリの魔物の集団に囲まれて追い込まれていた。
『あれがいるとはな。どうりで蟲しかいないはずだ』
『だよなぁ。あれがいるんじゃいないはずだわ』
レッドボアを囲むこの世界基準でいくと小さめと言えるアリの魔物を見て、フェルとドラちゃんが訳知り顔でそう言った。
『あのアリ、鑑定では“フォレストアーミーアント”って出たけど、あれがいると何か問題なのか?』
『まあな……』
フェルとドラちゃんの話では、フォレストアーミーアントは集団戦の得意な肉食の魔物で、自分たちよりも大きい魔物や格上の魔物だろうがエサとみなして集団で襲うのだという。
強力な顎を使っての噛み付いての攻撃がメインで、言ってみれば攻撃方法はそれだけしかないから個の強さはそれほどでもない魔物だが、とにかく数が多く集団で襲ってくる。
仲間が死のうがおかまいなしで数の力で力押しという戦い方。
『数がいるからな。あのように集団で次々と襲ってエサにしてしまうのだ』
フェルの目線の先にはレッドボアに次々と噛み付くフォレストアーミーアントたちが。
数の暴力ってやつか。
レッドボアは必死にフォレストアーミーアントたちを引き離そうと「プギィィィッ」と盛大に叫び声をあげ暴れている。
『フェルの言うようにそんなんだからこいつ等の巣ができた森じゃあ獣系の魔物の姿が消えるんだぜ。ちなみにだけど、もちろん人間のお前も捕食対象だからな』
ドラちゃん、そんなの一々言われなくても察しはついてるよ。
そうこうしているうちにレッドボアがアリの集団攻撃にどうすることもできずに力尽きた。
肉と皮がドロップされると、フォレストアーミーアントたちは皮には目もくれずに鋭い口で手早く肉を小分けにするとそれぞれが抱えて運んでいった。
『あるじー、スイがやっつけるー?』
スイがそう言うと、フェルが『手を出すな、スイっ』と強い調子でピシャリと言った。
『ちょっと、フェル』
強い口調を窘めるようにフェルを見た後、ショボンとしてしまったスイを胸に抱いた。
『むぅ、すまんとは思うが理由があるのだ』
フェルが言うには、フォレストアーミーアントに下手に手を出すと後が大変なんだとか。
仲間がやられたのを察知したフォレストアーミーアントは次々と群がって襲ってくるらしい。
もちろんフェルがフォレストアーミーアントごときにどうということはないのだが、弱い魔物のクセにとにかく数が半端じゃないくらいに多くてとにかく鬱陶しい思いをするハメになるらしく、関わるのも嫌な魔物の1つなのだと顔を顰めている。
ドラちゃんも『あいつ等に手を出すなら巣を殲滅する気でやらないと面倒なだけだぞ』という意見だ。
巣を殲滅か。
それ、やれるかも。
確かネットスーパーにあったあれでイケるはず……。
『おい、殲滅する手がありそうだ。とりあえずあいつ等の後を追うぞ』
俺たち一行は、見つからないよう一定の距離を置きつつ肉を手にしたフォレストアーミーアントを追跡した。
ほどなくして巣を発見。
大きな岩陰の下にパッカリと開いた穴に次々と入っていくフォレストアーミーアント。
『あそこが巣穴のようだな。して、殲滅する手があると言っていたがどうするつもりなのだ?』
巣穴を窺いながらフェルがそう聞いてくる。
俺としてはよくぞ聞いてくれましたって感じだ。
『ちょっと待ってて』
そう念話で伝え、俺はネットスーパーを開いて殺虫剤のメニューを開いた。
『フフフフフ、やっぱりあったな。アリにも効くやつが』
俺は見つけた物をすぐさま購入した。
『なんか悪い顔してんな、お前。何があったってんだよ?』
『ちょっとドラちゃん悪い顔って失礼だね』
とは言ってもちょっぴりブラックなところが出ちゃってるか?
何せフォレストアーミーアントにとってはとんだ災難になるだろうからね。
『フッフッフッ、これはね、アリの巣を殲滅する秘密兵器だよ』
すぐに届いた段ボールを開けながら、俺はニンマリと笑ってそう言ったのだった。