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とんでもスキルで異世界放浪メシ  作者: 江口 連


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第四百十七話 すき焼きを堪能するムコーダ一行と実力派冒険者パーティーの末路

既にご承知の方もいらっしゃると思いますがスピンオフコミック「とんでもスキルで異世界放浪メシ スイの大冒険」の第2話がコミックガルドにて公開されてますので、よろしかったら読んでみてください。

https://over-lap.co.jp/gardo/

『なぁフェル、もうそろそろ下の階層へ行こうぜ』

『むぅ、肉もそこそこ貯まったしドラの言うことにも一理あるか。しかしなぁ、肉はもう少しあってもいいような気もする』

『だけど、それ言ってたらキリがないぞ』

『確かにな。それに下の階に行くまでにはまだそれなりに狩れるか。よし、下の階層へ向かうとするか』

 フェルとドラちゃんの話がまとまったようだ。

 進むかどうかは主戦力であるみんなにお任せで、俺はそれに引っ付いていくだけって感じだからね。

「それじゃこれからはボス部屋へ向かって進むってことだな」

『うむ。それまでの間、狩れるだけ狩っていくぞ。ドラ、スイ、いいな』

『最後の肉確保だな。たくさん落としてくれよ~』

『これで最後かぁ。いっぱいお肉が出るといいねー。スイ、がんばる』

 ボス部屋へ向けてラストスパートだ。

 フェルとドラちゃんとスイは、ボス部屋までの間に現れたギガントミノタウロスは1匹も漏らさず撃破していった。

 その甲斐あって、追加でそこそこの数の肉塊を確保することができた。

 そして……。

「あれがボス部屋か」

『うむ』

 フェルが案内したボス部屋の入り口は重厚な扉で閉じられていた。

「よし、開けるぞ」

 この階に見合う大きな扉を両手を使って押した。

 しかし、扉はビクともしない。

「あれ? もっと力を入れないとダメかな?」

 力が足りないのかと思い、今度は肩を使って体重を乗せて力いっぱい押してみた。

 それでも扉は微動だにしなかった。

「おかしいなぁ」

『おい、開かねぇってことは先に入っている奴がいるってことじゃねぇのか』

 ドラちゃんにそう言われてそうかと思った。

「そういやこの階にはもう一組いたもんな。そっか、ちょうどボス部屋に来るのが重なっちゃったか。とは言え先に入ってるならしょうがないもんなぁ」

『おい、そうなるといつ開くかわからんぞ』

「そうだよなぁ。ボス戦がいつ終わるかわからないし」

『それだけではない、終わったとしてその扉がすぐに開くとは限らんだろう』

「確かに……」

 このダンジョン、今までもそうだったけど次に魔物が湧くまでのクールタイムが階層ごとにまちまちだって話だし、実際かなり待った階層もあったもんな。

 この階層について情報がないにしても、ここにきてクールタイムがまったくないってことはないだろうし。

『そういうことだ。今日はここまでにして、明日にでも入ればよかろう』

「あれ? もうそんな時間なのか。じゃあそうするか」

 今日は飯食った後は、休みもなしに狩りに勤しんでたからなぁ。

 それに付き合わされた俺もちょい疲れ気味。

 フェルの提案は、そんな俺にとっては願ったり叶ったりだった。

「で、近くにセーフエリアはあるの?」

『うむ、すぐそこだ』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 セーフエリアに入った途端に飯飯と騒ぎ出した食いしん坊な無敵トリオのために、俺は早速夕飯の準備に取りかかった。

「さて、何を作ろうかな」

 アイテムボックスにあった作り置きの飯もいよいよ少なくなってきているから節約だ。

 そもそもが旅のために作ってあったものの残りだったから、それほど量があったわけじゃないしね。

 作り置きは時間に余裕のない朝飯や探索途中の昼飯で使いたいから、夕飯は作るようにした。

 夕飯なら食後休憩してあとは寝るだけだから多少時間の余裕もあるし。

「みんなのリクエストは、またギガントミノタウロスの肉でってことだったんだよなぁ。うーん……、あ、久しぶりにすき焼きってのもいいかも。ギガントミノタウロスの肉で作ったら美味そうだし。ってか、すき焼きが思い浮かんだら無性に食いたくなってきたわ。よし、今日はすき焼きにしよう」

 そうと決まればネットスーパーを開いて、次々と材料を買い込んでいく。

 ネギ、白菜、焼き豆腐、しらたき等々。

 そして忘れちゃいけないすき焼きのタレ。

 簡単だし間違いない味だから、家ですき焼きをするときはいつもこれだぞ。

 材料を切ったら、ダンジョン牛の脂身(ギガントミノタウロスは脂身が少ないからこちらを使うことにした)を熱したすき焼き鍋に溶かしてネギを焼いていく。

 ギガントミノタウロスの肉を軽く焼いて色が変わったら、すき焼きのタレを入れて弱火に。

 あとは白菜、焼き豆腐、しらたき等々を入れて煮ていけば出来上がりだ。

「あー、いい匂い。この匂い、たまらんな……」

 何とも言えない甘さを含んだ醤油の香り。

 恐ろしく食欲を刺激する香りだ。

『いい匂い~』

 スイが俺の横にやってきてそう言いながらプルプル震えていた。

 しかし、この匂いに釣られてやってきたのがスイだけとは解せないな。

 そう思いながら右後方を見ると、フェルとドラちゃんが何やら顔を寄せ合っていた。

 また自分たちだけで念話で話しているんだろう。

 きっとろくでもない話なんだろうなと想像する。

 だってフェルもドラちゃんも悪い顔してるし。

 まったく何を話し合っているんだか……。

『おうおう、あいつこっち見てんな』

『大方また我とドラが悪巧みでもしていると思っているのだろうよ』

『悪巧みじゃねえが、ろくでもない話ではあるな。ハハ』

『まぁ、こちらは何の手出しもしていない。すべては彼奴ら自身の責任だろう。滅ぶにしても先に進むにしてもな』

『そりゃあそうだわな。っつっても、あの実力じゃあ下の階へ進める可能性はかなり低いだろうけどな』

『それも含めて決断して中へ入っていったのは彼奴ら自身ということよ』

『でもよ、あの扉フェルなら開けられなくはなかったんだろ?』

『まぁな。此奴には言うなよ。知ったらうるさいからな。我くらいになるとおおよその魔力の流れが見えるのだが、あの扉は雷魔法に弱そうだったからな。おそらくだが雷魔法を一発浴びせれば開いていただろうよ』

『そこまで分かっててあいつに言わなかったってことは……』

『此奴を亡き者にしようとしていた者たちだぞ。助けてやる義理はない』

『だよなぁ。ま、ここはダンジョンなんだから死にたくなきゃあ自分の実力に見合った場所で探索しろよってこったな。ま、今頃身に染みてるだろうけどよ、ハハハッ』

『まぁ、我らには関係のないことよ。ククク』

 フェルとドラちゃんをジト目で眺める。

 なんかフェルとドラちゃんがさっきよりも悪い顔してるんだけど。

『あるじーブクブクしてるよー』

「おっと、もうそろそろ煮えたかな」

『わーい、ご飯ご飯ー』

 フェルとドラちゃんが何を話していたのかは気になるけど、まずは飯だな。

 フェル、ドラちゃん、スイの専用の皿に卵を割って軽く溶いたら、ギガントミノタウロスの肉多めそれ以外の具材は少なめによそって卵をよく絡める。

「はい」

『む、これは前にも食ったことのある匂いだな』

「ああ、すき焼きだ。確か前はワイバーンの肉で作ったな。ギガントミノタウロスの肉でも美味そうだって思って作ってみたんだ」

『おお、美味いぜ! 卵が絡むと絶妙だ!』

『甘くてしょっぱい味のお肉と卵、すっごく美味しい~。スイ、いくらでも食べられるよー』

『うむ、美味いな!』

 だよねぇ、何てったってすき焼きだもんな。

 さて、俺も食おう。

 いそいそと俺が用意したのは、こんもりとよそられた白飯。

 そして、ここに溶いた卵をたっぷり絡めたギガントミノタウロスの肉を載せて、その肉で白飯を包んだら……、パクリ。

「ク~、美味い! ちょっと下品かもしれないけど、これは止められないね」

 すき焼きのタレの味が染み込みつつもしっかりと本来の肉の味を失わないギガントミノタウロスの肉とそれをまろやかな味わいに昇華してくれる生卵、そしてそれを受け止める白飯。

 もう最高としか言うことないね。

『おい、おかわりだ! 卵に入れるのは肉だけでいいからな。というかむしろ肉だけしか入れるな』

「ちょっ、フェル」

 美味いのは分かるけど、すき焼きの肉だけって贅沢過ぎるだろ。

『おっ、それいいな。俺も肉だけでな』

『スイもお肉だけがいい~』

「いやいやダメだからね、みんな。そんなことしたら野菜だけ残っちゃうでしょ。それじゃなくても野菜は少なめにしてるんだから、野菜も食わなきゃダメ」

 しっかりと野菜もよそっておかわりを出してやると、みんなブー垂れつつも美味そうに食っていった。

「味の染みた野菜も美味いんだけどねー」

 そう言いつつ卵の絡んだネギをパクリ。

「うん、美味い」




~side 冒険者パーティー~

 ムコーダ一行がギガントミノタウロスのすき焼きを存分に堪能していたちょうど同じころ。

「こんなの聞いてない! 何でこんなに出てくるのよ! 話が全然違うじゃないっ!!!」

 ありありとした恐怖の表情を浮かべてキツイ顔立ちの女性冒険者がヒステリックに叫ぶ。

「こんなっ、こんな数を相手にするなんて無理よ! 逃げないと!」

 エルフの女冒険者が後方を気にしながら、入ってきた扉を開けようと必死に押した。

「開かない! 開かないわっ!」

 ビクともしない扉に焦りの入った形相で叫ぶエルフの女冒険者。

「手伝うわ!」

 命のかかったこの時ばかりはキツイ顔立ちの女性冒険者も協力して必死に扉を押した。

「無駄だ! 決着が付くまでは開かない仕様になってるんだろうよ!」

 リーダーが眼前のギガントミノタウロスから目を離さないまま声をあげた。

 部屋の中には総勢12匹のギガントミノタウロスがひしめいていた。

 際どい部分はあるものの、このメンバーならば何とか1人で1匹を倒す実力はある。

 しかし、この数となると何の犠牲もなしに通ることは到底無理そうであった。

 リーダーの額から冷や汗が滴り落ちる。   

「逃げることが叶わないなら、あいつ等を倒すしかない。生き残るにはそれしかないんだ、みんな覚悟しろ」

 生き残れるかどうかの瀬戸際。

 そういう場面に遭遇していることは、メンバー全員がそれぞれひしひしと感じていた。

「グモォォォォォォッ」

 ギガントミノタウロスの雄叫びが部屋の中に響き渡る。

「やってやる、やってやんぞ!」

 自分を叱咤しながら愛用している大斧をきつく握りしめる大柄な獣人冒険者。

「俺は絶対に死なない! このダンジョンを踏破するんだ! そして名誉も金も手に入れる!」

 自分に言い聞かせるように自分を奮い立たせる片手剣の細身の冒険者。

「絶対に生き残るぞ。やれるな?」

 従魔である赤い毛並みのトラに言い聞かせるテイマー。

 そして健気にも主に従おうとする赤い毛並みのトラは「ガゥ」と短く返す。

「死にたくない……死なない…………こんなところで絶対に死ぬもんかっ」

 唇をきつく噛み締めながら何が何でも生き残ってやると心に決めるキツイ顔立ちの女性冒険者。

「…………落ち着くのよ。私は死なない、絶対に」

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、何とか生き残るための道を探して辺りに目を配るエルフの女冒険者。

「絶対に勝つっ!」

 リーダーが自分に、そしてメンバー全員に言い聞かせるように叫んだ。

 そして、ぶつかり合う冒険者たちとギガントミノタウロス。

 ガキンガキンと鉄が激しくぶつかり合う音と爆発音、そしてギガントミノタウロスの雄叫びと冒険者たちの叫び声が長い時間響き渡っていた。

 そして……。

 戦闘が終わった部屋の中にいたのは4匹のギガントミノタウロスだった。






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― 新着の感想 ―
…とりあえず…パーティーが自分を亡き者にしようとしてた事、すき焼きで食事してた時に逆に亡き者にされた事を知ったらムコーダさん、嫌な気分になるだろうな… だからこそフェルもドラちゃんも口にしなかったんだ…
…ん?あれ? ドランのダンジョンは倒さずとも部屋から出る事は出来た(一人が大怪我して撤退したパーティーがいた)よな… もしかして…決着がつくまで開かない仕様じゃなくて、壊す気でいろんな魔法当てたら撤退…
獣人冒険者の声が島田敏さんだと お茶吹く自信がありますねぇ アニメ3期目でも届かないんでしょうが
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