第四百十五話 実力派冒険者パーティーと能天気なムコーダ
『おい、次の肉が来たぞ』
『よっしゃ肉ー!』
『お肉~』
「ちょっと、肉って言わないの」
フェルたちにとってギガントミノタウロスはもう肉にしか見えないようだ。
そして、三方からの集中砲火であっという間に倒されるギガントミノタウロス。
後に残ったのは大きな肉塊と牙と魔石。
肉塊を見たことでフェルたちのテンションが急上昇。
『おお~、肉が出た出た!』
『お肉、お肉、お・に・く~♪』
『うむ、美味そうな良い肉だ。しかし、すべてに肉が出るわけではないのがもどかしいな。まぁ、とにかくどんどん狩って肉を回収するしかない。ドラ、スイ、いいな』
『もちろんだ』
『うんっ』
最初のギガントミノタウロスを狩って大きな肉塊を得ると、フェルの宣言通りにギガントミノタウロス狩りへと繰り出した俺たち一行。
しかしながら、フェルが先ほど言ったようにすべてのギガントミノタウロスで肉がドロップされるわけではなかった。
これまでを見ると、およそ2割から3割という感じだ。
ドロップされる肉塊は大きいものの、待ちに待った肉でしかも美味いと分かっていれば肉好きのみんなは止まらない。
これまでに得たドロップ品の肉塊も2桁にはなっているが、まだまだ満足とは程遠いフェルとドラちゃんとスイだった。
その後もギガントミノタウロス狩りを続けた俺たち一行だったが、みんなの「腹が減った」の大合唱に一時中断。
フェルの体内時計によると、もうそろそろ夕刻の時間とのことで近場のセーフエリアで一泊することにした。
今日の朝飯、昼飯とも作り置きでサクッと済ませたこともあって、フェルからは『もちろん夕飯はさきほど得た肉だろうな』と鼻づらを押し付けられながらの念押しというか脅しをされて、夕飯ではギガントミノタウロスの肉を使うことにした。
ここはシンプルに1番肉の味がよく分かるステーキに。
最初は塩胡椒のみのステーキだ。
程よくサシの入った分厚い赤身肉が焼けていくその様は圧巻だった。
その肉の味も絶品で、フェルもドラちゃんもスイも次から次へと平らげていった。
結果、せっかく得たギガントミノタウロスの肉も半分近くに減ることに……。
とは言っても、ギガントミノタウロスの美味さをしっかりと味わったフェルとドラちゃんとスイは、改めてギガントミノタウロス狩りに闘志を燃やしていたけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一夜明けて、再びギガントミノタウロス狩りへと出発する俺たち。
『昨日はそれほど肉を得られなかったからな。今日はたくさん手に入れるぞ』
『うん! 今日はいっぱい美味しいお肉獲るー!』
『まぁ昨日はこの階に来たのが遅かったからな。今日は1日中ここで狩るんだろ? なら余裕余裕。それによ、量が足りないようだったら、明日もここで狩りしてもいいし。なんてったって、美味い肉だからな。それだけの価値はあるさ』
『うむ、それもそうだな。足りなければ明日も狩りを続けるのもありか』
ギガントミノタウロスの美味い肉をしっかりと味わったからか、みんなのヤル気が昨日より増している。
それに、フェルとドラちゃんの間では量が足りないようなら明日も狩りを続けるとか決めちゃっているようだし。
ま、まぁ別にいいけど、こうなるとギガントミノタウロスがいささか気の毒になってきた。
そうは言っても肉大好きのフェルたちトリオが狩りを止めるはずもなく、今日もギガントミノタウロスは張り切るトリオに次々と狩られていった。
途中にあった部屋も入って漏れなくギガントミノタウロスを倒しつつ進んでいると、前方から刃物がぶつかる音やら爆発音、そしてがなり声が聞こえてきた。
ガキンッ、ギンッ―――。
ドカンッ―――。
「そこだっ、いけーっ!」
6人の冒険者がギガントミノタウロスと戦っていた。
バスタードソードを振り上げてギガントミノタウロスに斬りかかる大柄な冒険者。
身軽さを武器に片手剣で執拗に足を狙う細身の冒険者。
大斧を膝に叩き付ける大柄な獣人冒険者。
火の魔法を顔にぶつける少しキツイ顔立ちの女性冒険者。
チクチクと腕を狙って矢を次々と放つエルフの女性冒険者。
そして……。
「テイマーか」
フェルと同じくらいの大きさの赤い毛並みのトラを操り盛んに攻撃を仕掛けていた。
これが件のこの国屈指の実力派冒険者パーティーなのだろう。
実力派というだけあって、連携の取れた攻撃は見事だった。
『おい、何を呆けておる? しっかりつかまっていないと振り落とされるぞ』
実力派冒険者パーティーの戦いに目がいって、フェルにつかまっていた手の力が緩んでいたようだ。
「ごめん、ごめん」
そう言いながらしっかりとつかまり直した。
気付いたフェルが止まってくれていたから助かったけど、このままだったら振り落とされてたな。
危ない危ない。
『さっさと行こうぜ。俺たちの肉が待ってんだからよ』
ドラちゃん、俺たちの肉ってね……。
まったくもう。
「ハァ、分かったよ。それじゃ、邪魔しないように脇からね。スイは手を出しちゃダメだからな」
『分かったー』
プライドが高くてちょっと面倒そうな人たちだし、絡む必要もないからそそくさとその場を離れることにする。
邪魔にならないように脇から素早くすり抜ける俺たち一行。
さすがに気付いた実力派冒険者パーティーの面々が一瞬目を見開いて驚いていたけどね。
脇をすり抜けて先に進もうとしたその時……。
カツン―――。
「え?」
矢が足元に落ちていた。
「流れ矢かっ」
ひえ~。
戦闘してる真っ只中をすり抜けるんだから、たまにはこういうことも起きるか。
「危なかったー。ダンジョンに入る前にフェルに結界を張ってもらっておいて正解だったわ」
難関ダンジョンということもあって、何があるかわからないし念のためフェルにお願いして俺とドラちゃんとスイには結界を張ってもらっていたことが功を奏した。
「ありがとなー、フェル。って、どした?」
フェルが何だか知らんけど、戦闘中の実力派冒険者パーティーの面々を眉間に皺を寄せて睨んでいた。
「何だよ、流れ矢だろ? 戦闘中なんだから、そういうこともあるだろ。睨まない睨まない」
『ハァ、これだから能天気なヤツは……』
「能天気って何だよ、ドラちゃん」
『ドラ、此奴にそういう機微を知れと言っても無駄だろう』
「何だよそれ。何かあるなら言ってくれなきゃわかんないっての」
まったくフェルもドラちゃんも訳のわかんないこと言ってんだから。
『ねぇねぇ、早くお肉獲りにいこうよー』
『うむ、そうだな。こんなところで手間取っている暇はない』
『だな。肉だ肉ー』
スイに急かされたことで、俺たち一行はギガントミノタウロスを求め再び進み始めた。
~side 冒険者パーティー~
ムコーダ一行が去ってから少しして戦闘が終了した。
実力派冒険者パーティーの勝利だ。
腐っても実力派だと言われるだけはあった。
「ハァ、疲れたぁ~」
そう言いながらキツイ顔立ちの女性冒険者が座り込むと、バスタードソードを持った大柄な冒険者をそのキツイ目でキッと睨みつけた。
「というかさ、リーダー、どうなってんのよ?! アタシたちがこのダンジョンで1番先を行ってるはずじゃなかったの!」
「俺もそこんところ聞きてぇな」
大斧を持った大柄な獣人冒険者もそう続いた。
「知らねぇよ! ただ、あいつが誰かってのは想像がつく」
バスタードソードを持ったリーダーが苦虫を噛み潰したような顔でそう返した。
「誰よ?」
「フェンリルを連れたSランクのテイマー……。このダンジョンに来るって少し前から噂になってただろう」
テイマーの男が赤い毛並みのトラの頭を撫でながらそう言った。
「チッ、ポッと出のテイマーなんぞに俺たちの栄誉を奪われるなんて腹が立つぜっ! だいたいよう、フェンリルフェンリルってみんなありがたがってスゲェだのなんだの騒いでるけど、実際その実力を見たやつなんて誰もいないんだろ? なんせ最近までフェンリルなんて本で読むくらいで、誰一人実物なんて見たことなかったんだからよ。買いかぶり過ぎなんだよ!」
片手剣の細身の冒険者が憎憎しげに顔を顰めながらそう言う。
「俺だって腹が立つ。みんなで苦労してここまで来たんだぞ、それなのに……。だから禁じ手でも指示したんだよ、リーダーとしてな。戦闘の最中ならいくらでも言い訳が立つからな」
「死ぬほどではないけど、深手を狙って肩を狙ったわ。それならたとえ上級ポーションを持っていても、利口な冒険者なら地上に戻るはずだもの。だけど阻まれた。アイツ、何かの魔道具で身を守ってる」
そう言ってエルフの女冒険者が悔しそうにギリリと唇を噛み締める。
「何よ、魔法が付与されたご自慢のエルフの弓でも通じないっていうの?」
嫌味ったらしくキツイ目の女冒険者がそう言うと、エルフの女冒険者がキッと睨み返しながら言い返す。
「それならアンタのご自慢の火魔法をお見舞いしてやればよかったじゃない」
「ハンッ、殺してもいいっていうならいくらでも当ててやったわよ」
「止めろっ。仲間内で言い合っててもしょうがない。とにかくだ、このダンジョンを最初に踏破するのは俺たちだ。そこだけは何があろうと譲れない。何があろうとな。……みんないいな?」
リーダーがそう言うと、他のメンバー全員が神妙な顔をしながら頷いた。




