第四百十四話 お肉発見!
『とんでもスキルで異世界放浪メシ』第4巻がまたまた重版決定です!
お読みいただいている皆さま本当にありがとうございます。
それからコミックガルドにてスイが主役のスピンオフコミック「とんでもスキルで異世界放浪メシ スイの大冒険」が連載開始となっておりますので、よろしかったご覧になってみてください!
同じくコミックガルドにて本編コミックの第15話も公開になっていますので、こちらもよろしくお願いいたします。今回のお話しは小説にはないオリジナル展開なので必見ですよ!
(コミックガルド)
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36階層へと降り立った俺たち一行。
それと同時に遠くから鳴き声が聞こえてきた。
それがだんだんと近付いてくる。
「ウォンッ、ウォンッ、ウォンウォンッ」
けたたましい鳴き声とともに姿を現したのは、1匹1匹がフェルの大きさにも引けを取らないドーベルマンを巨大にしたような犬の集団だった。
「あれがブラックドッグか……」
ブラックドッグの集団が目前に迫っていた。
ペンタグラムからブラックドッグの話も聞いていた。
話している最中、ペンタグラムの面々が渋面だったのが印象に残っている。
ファティマさん曰く「ここでブラックドッグなんか出してくるのがこのダンジョンのいやらしいところだよ」とのことだった。
アレクさんとアクセルが言うには、ストーンゴーレムとアイアンゴーレムは強いが、鈍足だからいざとなれば逃げることができる。
次に出てくるオーガも、数が出てくる35階は危ういが34階程度であればなんとか対応可能だし、オーガの動きが素早いとはいえ所詮は巨人、自分たちの方が素早く動くことができるため逃げることも可能だ。
しかし……。
「「ブラックドッグから逃げるのは無理だよな」」
声を揃えて2人はそう言っていた。
続いてアデルミラちゃんが「ブラックドッグは魔法を使いますからね」と言っていた。
なんでも風魔法を使ってさらに走るスピードをあげているそうだ。
あとは上位種になると、遠吠えで一定時間恐慌状態にするなんてこともしてくるのだという。
「ストーンゴーレムにアイアンゴーレム、そしてオーガを相手にしてからのブラックドッグじゃあいくら何でも体力が持たんわい。だいたいブラックドッグほどしつこい魔物はなかなかいないぞ。いくら傷つこうが引き下がることをせんからな。決着がつくのは、あっちが死ぬかこっちが死ぬかのどちらかじゃ」
長命種であるドワーフのサムエルさんは、何度かブラックドッグと戦ったことがあるらしく嫌そうにそう言っていた。
しかし、あっちが死ぬかこっちが死ぬかって……。
「大丈夫なのか?」
ペンタグラムの面々から聞いていた何とも不穏な情報に少し心配になってそう聞いてみる。
『フン、あんな犬風情に我らがやられるものか』
そう言うと、フェルがブラックドッグの集団に向かって一声鳴いて威嚇した。
『アォォ―――ン』
フェルの鳴き声にブラックドッグの集団が急停止して怯む。
しかし……。
「ヴゥー、ウォンッ、ウォンッ、ウォンッ」
ブラックドッグは唸り声をあげて再び向かってきた。
『フン、力の差もわからぬとはな……。此奴らはやはり馬鹿な犬どもだ』
フェルはそう言うと、前足を振り下ろした。
ザンッ―――。
フェルの爪斬撃を食らったブラックドッグの集団が一瞬のうちに細切れになって息絶えた。
ブラックドッグの骸が消えたあとには、小粒の魔石が残されていた。
「本当に魔石だけなんだな」
これもペンタグラムからの情報で、ここの階は厄介なブラックドッグが相手なのにも関わらず、ドロップ品は少量の魔石のみということを聞いていた。
そもそもブラックドッグの素材というと皮と魔石くらいしかないらしい。
その皮も、丈夫なものはほかにいくらでもあるらしくあまり良いとは言えないらしいから、ブラックドッグは冒険者から嫌われる魔物五指に入るだろうという話であった。
『ドラ、スイ、犬を見たらすべて殲滅だ。いいな』
『おう、分かってる。あいつら絶対引かないもんな』
『分かったー!』
「ドラちゃん、その言いぶりだと前に何度かやりあったことがあるのか?」
『ああ。何度かな。どこまででも付いてきてしつこくて参ったぜ。しつこさにかけては、ちょっと前のサル並だぞ』
しつこいサルというと、ブラックバブーンか。
あれもしつこかったな……。
思い出してげんなりする。
『犬どもなどまともに相手にしてもつまらん相手だ。早急に下の階へ向かうぞ』
フェルのその宣言の下、俺たち一行はこの階層を早急に抜けるべく進むことになった。
ところが……。
『ああっ、もううっとうしいったらありゃしねぇな!』
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
ドラちゃんの氷魔法がブラックドッグの集団に降り注ぐ。
犬型で鼻の利くブラックドッグは、次から次へと俺たちの前に現れた。
『次はスイがやるよー!』
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの酸弾に撃ち抜かれたブラックドッグが次々と地に伏せていった。
主にドラちゃんとスイが戦い、時々フェルも戦いつつ、ようやく俺たちはボス部屋へとたどり着いた。
「しかし、途中の部屋も捨てて進んだのにけっこう時間かかったな」
『此奴ら次から次へと湧いてきたからな。さすがにうんざりしたぞ。さっさとここを出て下に行くぞ』
『だなぁ。俺もさすがにうんざりしたぜ』
『スイはいっぱい戦えて楽しいよー』
フェルとドラちゃんはブラックドッグ相手はさすがに辟易してるようだが、スイちゃんは元気いっぱい。
『そうか。ならここはスイに任せたぞ。少々魔法のできる犬の上位種が混じっておるようだが、まぁ、神の加護のある我らには効かんだろう』
「上位種の魔法って、遠吠えで一定時間恐慌状態にするってやつか?」
『うむ。それもあるが、あとは同じく遠吠えで目を見えなくするというのもあるぞ』
え? それは聞いてないぞ。
『まぁこれができるのは上位種でも一部ではあるが、そこの奴はできるだろう』
ボス部屋にいる一際大きいブラックドッグを鼻先で指しながらフェルがそう言った。
「エエッ、だ、大丈夫なのかよ?!」
目が見えなくなるって、あのブラックドッグが相手じゃ一瞬だって致命的だろ。
『我らには神の加護がある。状態異常にはかからんから心配するな』
「ほ、本当だろうな? スイに何かあったら……って、スイッ?!」
俺とフェルが話している最中にスイが『いっくよー!』とボス部屋に突撃してしまった。
俺は慌てて後を追いボス部屋へと入った。
その後にゆっくりとボス部屋へと入ってきたフェルとドラちゃんは、俺の慌てぶりにやれやれという感じで頭を振っていた。
『ったく、お前は心配性だよなぁ。見てみろよ、スイがあんなのにやられるわけないだろ』
ドラちゃんにそう言われて見ると、既に元気いっぱい戦闘を開始しているスイがいた。
上位種の遠吠えもものともせずに『エイッ、エイッ』と酸弾を撃ちまくっている。
ブラックドッグも何とかしてスイに近付こうと向かってくるが、すべてスイに撃破されて付け入る隙もなかった。
そして、ものの数分で数を減らしたブラックドッグはついに上位種1匹のみとなる。
自分以外を倒されて歯をむき出しにして涎を垂らして怒り狂うブラックドッグの上位種。
「ヴヴヴヴヴッ、ウォォォ―――ンッ」
唸り声を上げて一声鳴くとスイに突進した。
『あとはお前だけー。スイが倒すんだからーっ! エイッ!』
突進するブラックドッグにも怯むことなくスイが大きめの酸弾を撃った。
ビュッ―――。
「あ……」
スイの酸弾が当たった瞬間、ブラックドッグ上位種の頭が弾け飛んだ。
この表現がいいのかわからないけど、とにかく当たった瞬間に頭が消えたのだ。
『ヤッター! スイ全部倒したよー!』
ポンポンと飛び跳ねて喜ぶスイ。
「スイちゃん……」
『だから言っただろう。心配するなと』
『だよなぁ』
うう、ダンジョンに来るたびに俺のかわいいスイちゃんの戦闘力がヤバいほど上がっていく……。
俺の苦悩をよそに、拾い集めたドロップ品の魔石をフンスと渡してくるスイ。
褒めてほしそうなスイに苦笑しながら『スイ、よくやったな』と撫でてやると、嬉しそうにブルブル振動していたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、いよいよ37階層。
現状このダンジョンを最も先行しているパーティーがこの階層にいるらしい。
この国屈指の実力派のパーティーらしいけど、ペンタグラムの面々が言うには確かに実力はあるけどプライドも山のように高いらしくあまり好きにはなれないという話だった。
プライドが高いって面倒そうな人たちだな。
まぁこの階も広そうだし、おそらくかち合うことはないだろうけどね。
それにしても……。
「聞いていたとおり、広いな」
事前にペンタグラムの面々から聞いていたとおり、それまでより幅も天井の高さも4、5倍はあるだろう通路が目の前には広がっていた。
ペンタグラムの面々も37階層はとにかく広くて通路もそれまでとは段違いだというところまでは情報を得られたものの、それ以外については分からず仕舞いだったと言っていた。
出てくる魔物についても、過去の文献を調べても詳しいものもなく、先行している件のパーティーにも聞いてみたらしいが、「そんな大事な情報を簡単に教えられるか」と皆口を閉ざしていたようだ。
「何が出てくるかわからないから身を引き締めて……」
『分かるぞ』
「え? フェルは何の魔物が出るのか分かるのか?」
『うむ。匂いで分かるぞ。此奴は……』
「グモォォォォォォッ」
突然響き渡る雄叫び。
そして現れたのは……。
「ミノタウロス? にしてはデカ過ぎない?!」
その巨大な体に見合った肉厚な斧を持った巨大なミノタウロスがこちらに向かってやって来ていた。
とっさに鑑定してみると……。
【 ギガントミノタウロス 】
ミノタウロスの大型種。Sランクの魔物。ほどよくサシの入ったその肉は非常に美味。
『フハハハハハッ。ようやく肉を落とすのが現れたか。ドラ、スイ、あれの肉は美味いぞ!』
そう言いながらキランというかギランと光ったフェルの眼。
さ、さすがフェル。
ギガントミノタウロスが美味いって知ってるんだな。
『何っ?! 美味い肉だと! よっしゃー! 肉だ肉っ、肉をよこせー!』
美味い肉と聞いてテンションが上がりまくるドラちゃん。
『美味しいお肉ー! お肉、お肉、お肉~♪』
スイも美味い肉と聞いて興奮したのか高速でポンポン飛び跳ねていた。
『ドラ、スイ、分かっているな?』
『もちろん』
『うんっ』
え?
いや、何が『分かっているな?』なのよ?
『狩りまくるぞ!』
『ヒャッハー!』
『お肉ーーー!』
美味い肉を目の前にテンションの上がったフェルとドラちゃんとスイは、ギガントミノタウロスに突進していった。
そして、みんなからの攻撃を一斉に受けたギガントミノタウロスは一瞬にして沈んだ。
「エェ……」
肉のためとはいえ、みんなの苛烈過ぎる集中攻撃にちょっぴり引き気味になる俺だった。




