第四百十三話 久しぶりの戦闘(強制)
皆さまの暖かいお言葉、とても励みになりました。
本当にありがとうございました。
活動報告に書かせていただいたのは、ここのところネガティブな感想が多くどうしたものかと考えていたところ件の感想があり、さすがに読者様方皆さまにもお願いしたく書いた次第です。
何度か前書きでも書かせていただいていることですが、感想にも返信はできませんが、すべてありがたく読ませていただいております。
いろいろとご意見はあるかとは思いますが、当方が兼業なこともあり今の状況となっておりますのでご理解いただければと思います。
なるべく週1の更新はしていきたいと考えておりますので、今後とも「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をよろしくお願いいたします!
「じゃ、世話になったな」
「いえいえ、こちらもいろいろとお話が聞けたので助かりました」
「こっちこそ助かったなんてもんじゃねえよ。ホント、ありがとな! 俺たちはこれからも当分の間はこの街にいるし、何かあったら手伝うからよ。冒険者ギルドに伝言してくれときゃあ駆けつけるからな」
アレクさんのその言葉にペンタグラムの面々は頷いたり「だな」と言っている。
「それじゃあまたな!」
ペンタグラムの面々はセーフエリアで一眠りした後、礼を言って去っていった。
フェルに頼んで上へと続く階段がある元の場所までのある程度の道順は説明してあるから大丈夫だとは思うけど。
こっちもいろいろと参考になる話が聞けたから助かった。
ここから先を探索する冒険者は2パーティーだけで、35階層を探索しているパーティーはメンバーの1人がケガを負って今は地上に戻っているという話だ。
アレクさん曰く「メンバーの1人が腕を1本持ってかれたらしいから、これからどうすんのかね。まぁ、その腕持ってかれたやつは可哀想だが冒険者は廃業だろう。あとは残りのメンバーでダンジョン探索を続けるか、また別なメンバーを入れるか、これを機にパーティー解散かってことになるだろうけどな」とのことだった。
そして、現状このダンジョンの最深37階層を先行しているパーティーが現在も探索中とのことだった。
聞いた話によると、6人パーティーのうち2人がSランクでその他がAランクのこの国屈指の実力派のパーティーらしい。
それから、これより下の階層に出てくる魔物の話も聞くことができた。
もちろんペンタグラムの面々が事前に調べた範囲でという限定付きではあるが。
何でもこの下の34階層は、オーガが出てくるという話だった。
レッドオーガやブルーオーガなどの色付きの特殊個体や上位種であるオーガキングなんかも出てくるらしい。
そして、35階も同じくオーガなのだが34階とは出てくる数が段違いに多いという話だった。
重要なのが、このダンジョンに出てくるオーガは普通のオーガよりも格段に凶暴で鼻が利くらしく、人の匂いに敏感で冒険者を的確に追ってくるということだ。
アクセルが「元が人食いだからな。ヤツ等にとっちゃご馳走にありつけるまたとないチャンスを逃すものかってことなんじゃねぇの」と言っていた。
35階層を探索中だったパーティーのメンバーがケガを負ったのも、この凶暴なオーガに片腕を食われたかららしい。
フェルにその話をすると『ふむ、凶暴なオーガか。しかも、オーガキング……』なんて言ってニヤっとしてたから、少しはやる気が出たみたいだ。
34階はフェルも加わってトリオで攻撃にまわりそうだな。
そうなると、さらに探索が加速しそうなんだけども。
デミウルゴス様が言っていた問題の最下層に思ったよりも早くたどり着きそうな気がしてくる……。
ううっ、頭が痛い……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アイアンゴーレムがわんさかいた33階層のボス部屋もドラちゃんがサクッと撃破。
無数に散らばるアイアンゴーレムの欠片をせっせと拾い集めた後に、俺たち一行は34階層へとやってきた。
思ったとおり、この階からフェルが攻撃に参加するという。
『オーガキングがいたら我がやるぞ』
なんて宣言していた。
探索を始め、次々とオーガを屠りながら順調に進む俺たち。
フェルは、なかなか出てこないオーガキングに『つまらん』とか言って不貞腐れていたが。
色付きの特殊個体のオーガは何体か出てきたが、それも問題なくドラちゃんとスイが瞬殺していた。
しかし……。
「オーガのやつ、俺のこと狙ってたよな」
『まぁ、あれは人が好物だからな』
『ああ、人食いだからな』
「ドランのダンジョンにもオーガがいたけど、ドランのよりかなり凶悪な顔つきだよな」
『さっきここのオーガは格段に凶暴な奴だと言っていただろう』
『だな』
分かってるよ、分かっちゃいるけど、フェルもドラちゃんもそんな簡単に言わないでくれよ。
2メートルを超える筋骨隆々の巨体のオーガが涎を垂らしながら俺にロックオン。
それが走って向かってくるんだぜ。
めっちゃ怖いんだからな。
思い出してブルッと震える。
『あるじー、大丈夫? あるじは絶対にスイが守るから心配しないでー!』
「スイ、ありがとなぁ」
思わずスイにスリスリした。
その後はスイが宣言どおりにがんばってくれたのもあって、ほぼスイだけの戦力で34階層を突破することができた。
オーガがドロップするものが皮と魔石だけだったのがちょっと辟易したけど(オーガの皮ってなんかグロいし)、途中の部屋では宝箱も見つけることができたので、なかなかの収穫だった。
ちなみに宝箱には当然罠があったけど(開けると毒矢が飛び出す仕組みだった)、鑑定さんのおかげで余裕を持って対応できた。
中身は、宝石や貴金属類が多く出るこのダンジョンらしく中粒のダイヤモンドのペンダントヘッドとイヤリング、中粒ルビーの指輪と、小粒だけど様々な宝石が散りばめられたブレスレットが入っていた。
ボス部屋にはレッドオーガやブルーオーガ、それからグリーンオーガなんていう特殊固体もいたけど、スイの酸弾によって瞬く間に倒されていたから、結局どれくらい強いのかも分からず仕舞いだった。
そして、35階層。
ペンタグラムの面々から聞いていたとおり、オーガが出るわ出るわ。
どっから湧いてくるのか35階層の探索を始めた途端に俺たちの行く手を阻むように次々にわらわらと出てきた。
もっとも、フェルとドラちゃんとスイのトリオにかかればその多数のオーガもすべて瞬殺ではあったけど。
みんな目視した瞬間サクッと瞬殺していたからね。
それでも、数が多い分進行速度はグッと落ちていた。
「しかし、数が多いな」
『フン、数が多くともオーガ程度どうということはない。オーガキングなら遊び相手程度にはなるかと思ったが、まだ出てこんしな』
「まぁまぁ、とにかくこの大量のオーガを何とかしなきゃ下に進めないんだしさ」
オーガキングがなかなか出て来ないことに不満をこぼすフェルを宥めていると、ドラちゃんの念話が。
『おい、また来たぞ!』
『スイがやっつけるー!』
『ほぉ、今度はまた大量だな』
「ちょ、ちょっと、のん気に大量だななんて言ってる場合じゃないよ! 前も後ろもオーガだらけじゃないか!」
前方からも後方からも「グォォォッ」と雄叫びを上げながら多数のオーガが押し寄せてきていた。
『落ちつけ。我らがオーガ程度にどうにかされるわけがあるまい。ドラとスイは前方のオーガをやれ、我は後方のオーガを蹴散らす』
『おうっ』
『はーい』
通路の前方から来るオーガに対峙するドラちゃんとスイ、そして後方のオーガにはフェルが対峙する。
俺はその真ん中でオロオロしていると……。
ザシュッ―――。
フェルが前足を振り下ろすと同時に爪斬撃が繰り出され、前列にいたオーガたちが細切れになっていく。
それでも後方に控えていたオーガがこちらに向かってくる。
2回、3回と爪斬撃を繰り出すフェル。
3回目でようやくすべてのオーガを倒しきった。
ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ―――。
ドラちゃんは氷魔法を撃ちまくって次々とオーガを撃破していく。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの方も酸弾を連射して次々とオーガを仕留めていった。
オーガが一掃されたあとには、オーガの皮皮皮。
そして魔石が少々。
うへぇっとはなったけど、ここの階では他に拾ってくれそうな冒険者もいないのでとりあえずは拾ってアイテムボックスにしまっていったよ。
それからも数多現れるオーガをトリオで確実に仕留めていった。
そして、ようやくボス部屋。
中を覗くと、普通のオーガに色付きの特殊個体、そして……。
「何だアレ……」
普通のオーガの倍はありそうな獰猛な顔をしたオーガが中央に仁王立ちしていた。
『ようやくオーガキングのお出ましか。あれは我が仕留めるぞ』
『ったくしゃあねぇな。んじゃ他のは俺とスイでな』
『分かったー! いっぱいいるね~。スイ、いっぱいやっつけるー!』
割り振りも決まっていざボス部屋へ。
しかし、入る1歩手前で急にフェルが止まった。
『そういえばお主、このダンジョンではまだ戦っていなかったな?』
「え? まぁ、まだだね」
『では、ここら辺で少しは腕慣らしをしておけ』
「は?」
『ドラ、スイ、此奴用にオーガを1匹だけまわせ。色付きのではなく普通のだぞ』
『おう、分かった。スイ、こっちでやるからお前はどんどん倒せよ』
『ん? よくわかんないけど分かったー』
『それでは行くぞ』
「え? ちょっと、1匹まわすって、勝手に決めるなよー!」
大声で抗議したけどフェルたちはそのままボス部屋へと突入してしまった。
俺も結局一緒に入る羽目に。
前方には凶悪な顔をしたオーガがずらり。
「グォォォ」とか「グガァァァ」とか威嚇するように雄叫びをあげまくっている。
そのオーガ相手に、なぜか強制的に俺も戦闘しなければならなくなってしまった。
人食いで、俺を見たら涎を垂らす連中だぞ。
不安しかない。
っとと、武、武器武器っ。
武器を出さないとっ。
無手であることに気が付いて、急いでスイ特製のミスリルの槍を取り出した。
腰が引けたへっぴり腰ながら槍を構えた。
そうこうしているうちにオーガとフェルたちトリオとの戦闘が始まった。
戦闘とは言ったけど、ほぼ一方的だった。
オーガキングの相手をすると言っていたフェルだけど、仁王立ちしたオーガキングに雷魔法をドカンと一発ぶちかましただけで勝負はついていた。
雷魔法を食らったオーガキング、そのまま数秒微動だにしなかったけどその後ゆっくりと後ろに倒れていったよ。
他のその他大勢のオーガはドラちゃんとスイがそれぞれ氷魔法と酸弾で的確に素早く仕留めている。
これなら俺は戦闘しなくていいんじゃないの?
必要ないよね?
そう思ってもそうは問屋が卸さなかった。
『おい! そっちに1匹行ったからな!』
頭に響くドラちゃんの念話。
「グォォォォッ」
地の底から響くような叫び声とともに、凶悪な顔をしたオーガが涎を垂らしながら一直線に俺へと向かってきた。
「ギャーッ!」
迫りくるオーガに思わず叫び声をあげる。
逃げようとするのだが、足がすくんで思うように動けない。
「グォォォォッ」
雄叫びをあげながらエサであろう俺をつかもうとするオーガ。
「ヒィッ……」
俺は恐怖から腰が抜けて尻もちをついた。
それが功を奏して、オーガの手から逃れた。
その隙に、俺は夢中でミスリルの槍を突き出した。
「こっ、コノヤロー!」
「グッ、グァッ……」
オーガの動きが止まる。
恐る恐る見ると、槍の先がサックリと心臓の辺りを突き刺していた。
今しかないと思った俺は、立ち上がって無我夢中でさらにグリグリっと槍を押し込んだ。
「グ……ァ…………」
完全にオーガの力が抜けたのを見計らって槍を抜くと、その勢いでドサッと倒れるオーガ。
少しすると、そのオーガも消えていった。
「フゥゥゥ~」
一気に気の抜けた俺はその場に膝をついて息を吐いた。
『オーガ1匹にずいぶんと無様な戦い方だったぞ。前のダンジョンでは、もう少しマシだったのではないか?』
ちょっとばかり呆れた顔でそう言ってくるフェル。
ぐぬっ、そんなこと言われたって。
ドランからもエイヴリングからもしばらく経ってるし、その間はあんまり戦闘なんてしてなかったんだからしょうがないじゃないか。
というか、元々戦闘なんかとは無縁のド素人なんだから、そんなのすぐには身につかないってば。
それに、ここのオーガはマジ怖いんだって。
涎垂らしたあの形相は夢に出てくるくらいだぞ。
『まぁまぁまぁまぁ、こいつの戦闘力に期待したってしゃーないの分かるだろ』
『あるじが弱くっても大丈夫だよー! だってスイが守るもん!』
ちょっとドラちゃんその言いようはひどいからね。
それにスイちゃん、弱いって言わないの。
本当のことではあるけど、俺、泣いちゃうからね。
ハァ、やっぱり俺は戦闘には向いてないわ……。




