第四百六話 スイの大活躍?
「とんでもスキルで異世界放浪メシ」コミックス1巻&2巻がまたまた重版です!
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一瞬のうちに積みあがった石壁で囲まれた薄暗い部屋の中にある魔法陣の上に立っていた。
明る過ぎず暗すぎずでダンジョン特有だろう淡く発光する苔生した石壁の部屋は、RPGにあるようないかにもダンジョンという雰囲気をかもしだしている。
この雰囲気は、エイヴリングのダンジョンに似ているかもしれない。
聞いた話によると各階層の広さは、エイヴリングの倍近い広さがあるらしいけれど。
『お主、乗れ。さっさとこの階を探して下に向かうぞ』
『だな。この階にいんのってガーゴイルだったよな。雑魚でも肉くらい落としゃいいけど、ありゃあなんの価値もないもんな』
「なんの価値もないって……。ガーゴイル倒すとそれなりに宝石を落とすらしいぞ」
聞いた話では、5分の1くらいの確率でドロップ品を落とすようだ。
動く石像のような魔物だからか、動作は素早くはないが物理攻撃も魔法攻撃も効きにくくて、中堅冒険者あたりだと倒すのにも苦労するみたいだけど。
『宝石つっても、どうせしょうもないちっさいのだろ?』
「まぁそりゃあね。確かに小さいは小さいみたいだけど、宝石は宝石だろ。それなりの金にはなるみたいだぞ。とは言っても、俺たちは無理して拾う必要はないかもしれないけどね」
ありがたいことにみんなのおかげで資産は潤沢だからさ。
「ところで、さっきのフェルに乗れって話だけど、そうなるとダンジョンの中を駆け巡るってことだよな? そんなんで何が隠されてるのかとかわかるのか?」
当然フェルが走ったらものすごいスピードになる。
それで、ダンジョン内の異変に気付けるのか気になった。
『フッ、当然だ。我くらいになると、その辺のことも敏感に分かるものだ。任せておけ』
ドヤ顔で自信満々にこう言ってるんだから、フェルに任せておけばこの階はなんとかなるか。
『ねぇねぇあるじー、早く行こう! スイね、いーっぱいいーっぱい倒すんだー!』
ヤル気満々のスイが興奮してバインバインと俺の胸の高さ辺りまで飛び跳ねていた。
『フム、それならスイも我に乗れ。ここの魔物の始末はお主に任せたぞ』
『分かったよー、フェルおじちゃん! スイ、がんばる!』
『そうそ、お前に任せるからがんばれよ』
『うんっ!』
……フェルもドラちゃんもガーゴイルを相手にするのが面倒だからってスイに丸投げしたな。
まぁスイはスイで『いっぱいやっつけるよー!』なんて言ってヤル気を漲らせているから黙ってるけど。
『よし、それでは出発だ。乗れ』
俺は、よっこらしょとフェルの背によじ登る。
スイはポーンと飛び跳ねてフェルの頭の上に陣取った。
「あっ、スイ! 攻撃するのはガーゴイルっていう石の魔物だけな。絶対の絶対に冒険者さんに攻撃したらダメだぞ」
『分かったー!』
『よっしゃ、いよいよ探索開始だ!』
ドラちゃんの掛け声とともに、俺たちはブリクストのダンジョンに一歩を踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの酸弾をその醜悪な顔に食らい大きく穴を開けたガーゴイルが後ろ向きに倒れていく。
「わわわっ、すんませんすんませんっ! スイッ、ダメだって言ったろぉぉぉ!」
ガーゴイルに対峙していた冒険者たちが呆然とした顔をして、猛スピードで駆け抜ける俺たちを見ていた。
ここ20階層は、それなりに多くの冒険者が探索中だった。
ブリクストのダンジョンの通路が思っていたよりも広かったことをいいことに、俺たち一行は冒険者とガーゴイルが戦闘中の場面でも止まることなく間をすり抜けていくか、その頭上を飛び越えるかして進んでいた。
フェルの『いちいち止まっていられるか』という主張からなのだが、これだけなら冒険者を妨害したとか手柄を横取りしたとかではないから、まぁギリギリセーフだろうと思う。
しかしだ、ヤル気満々のスイはというと……。
『スイ、冒険者さんが魔物と戦っているときは手を出しちゃダメだよって言ったじゃないかぁ』
念話でスイを嗜める。
『どうしてなの、あるじー。悪い魔物をやっつけちゃダメなのー?』
『魔物をやっつけるのはいいんだよ。ただね、冒険者さんと魔物が戦ってるときは、助けてって言われない限りは手を出しちゃダメなの。何も言われないのに勝手に手を出したら、それは横取りしたことになっちゃうでしょ』
『ムゥー』
何度目かの説明をするが、やっぱりスイは納得していない感じだ。
ドランのダンジョンでもエイヴリングのダンジョンでも肉ダンジョンでもそうだけど、比較的人が少ない階層から本格的に探索をはじめたこともあって、こうガッツリかち合うこともなくてわりと自由に攻撃させてたからなぁ。
スイの気持ちを代弁すると、『悪い魔物を見つけたらやっつけるのは当然なのに、なんでダメなの?』ということなのだろうと思う。
それはそうなんだけど、他の冒険者がいた場合はそこにはドロップ品の所有権やらのいろいろな利害が絡んでくるわけで……。
特にダンジョンの中ではそういう揉め事が増えると聞いているし。
トラブルを避けるためにも、冒険者が戦闘中はケガ人が出ていて余程形勢不利な状況だとか直接救助の要請があったとかじゃない限りは手出しをしないのが原則だ。
でも、そんな大人の事情はスイには理解できるはずもなく……。
『あっ! 石の魔物がいるー。エイッ!』
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
『あわわわわっ、ぼ、冒険者っ、冒険者はっ?!』
『落ちつけよ。相手してる冒険者はいねーって』
ドラちゃんに念話でそう言われてちょっとホッとする。
『しっかし、スイの攻撃もえげつねぇな。顔面を酸弾でズドンだもんな』
そう、それは俺も思っていた。
最初は偶然かと思ってたけど、違うよね。
今までのガーゴイルが全て顔面を撃ち抜かれてるんだから、狙って撃ってるよね、これ。
『んとねー、フェルおじちゃんに急所が分からないときは、とりあえず頭を狙って潰せって前に教わったのー。頭を潰せばだいたいの魔物は倒せるんだってー』
『ほ~、考えてみりゃ確かにそうだな。フェルもたまにはいいこと教えるじゃねぇか』
『ドラよ、たまにはというのは余計だ。我はいつだって有意義なことしか教えんぞ』
『……フェルゥゥゥッ、スイに変なこと教えるなよー!』
『変なこととはなんだ、変なこととは。大事なことだぞ』
『それには俺も同意だな。敵を確実に葬るための教えは大事だぞ』
戦闘狂とも言えるフェルとドラちゃんには俺の主張は通じない。
うぅぅぅ、俺のかわいいスイちゃんがどんどん凶悪になっていく気がするんだけど……。
『あっ、またいたー!』
『冒険者はっ?!』
『いるみたいだな。でも、ちょっと様子が違うぞ』
『うむ。囲まれているようだな』
ドラちゃんとフェルの言葉から前方を良く見てみると、通路の前後からガーゴイルに挟み撃ちにされている冒険者数人が確認できた。
前後5体ずつのガーゴイルが間にいる冒険者たちを逃すまいと、その距離をじわじわと縮めていた。
「頼む! 助けてくれっ!」
近付く俺たちの姿を確認した冒険者が叫んだ。
「スイ、やっちゃって!」
『ハーイ!』
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
まさに一撃必中。
フェルの頭上からスイが撃った酸弾は、ガーゴイルの顔面を正確に貫いていった。
あっという間に倒されたガーゴイルに呆気にとられる冒険者。
しかし、すぐ気を取り直した冒険者のうちの1人が「すまん、助かった!」と声を掛けてきた。
それに俺が「間に合ってよかったです」と返すものの、冒険者の脇を止まることなく通り過ぎていく。
「え? フェル?」
『まだこの階を回り終えてないのに面倒だ。止まらんぞ』
止まらない俺たち一行を見て、声を掛けてきた冒険者が焦りだした。
「お、おいっ! ドロップ品はどうするっ?!」
「そちらにお譲りしますーっ!」
振り向いてそう叫んだ。
復活した冒険者たちも含めて何か叫んでたけど、助けた上にドロップ品も譲ったし、止まりもしない態度はあれだけども(フェルが止まってくれなかったんだからしょうがないし)文句はないだろう。
と思いたい。
その後も、スイ絡みで同じような騒動を起こしつつも俺たち一行は20階層を回り探索を続けた。
冒険者さんがいるときは、割って入って攻撃しちゃダメだってスイには何度も注意したんだけどねぇ……。




