第四百五話 最下層がどうにも不安だ……
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返信はできませんが、メールありがたく読ませていただいております。
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ここでお知らせが一つ。
「次にくるマンガ大賞 2018」 ウェブマンガ部門に「とんでもスキルで異世界放浪メシ」がノミネートされました!
6/22~7/6までが投票期間ですので是非是非よろしくお願いいたします。
それからコミックガルドで第13話が公開されましたので、こちらもよろしかったら読んでみてください。
俺は、昨夜、デミウルゴス様から聞いた話が頭から離れずに不安を抱えたまま冒険者ギルドへと向かっていた。
「うう、本当に行くのかよ……」
『何をいまさらゴチャゴチャ言っているのだ』
『そうだぞ、行くに決まってるだろ。そのためにこの街に来たんだからよ』
俺の隣を歩くフェル、そしてパタパタとゆっくり飛んでいるドラちゃんは、俺の不安をよそにやる気満々だ。
いつもなら俺が肩から掛けている革鞄で寝ているスイも、楽しみにしていたダンジョンに行けるとあってフェルの背に乗って『ダンジョン、ダンジョン♪』とプルプル震えてご機嫌だ。
「そうは言うけど、神様から聞いた話をしただろう」
今朝、朝飯を食っているときにデミウルゴス様から聞いた話は一通りフェルたちにも話していた。
『いいじゃねぇか。腕が鳴るってもんだぜ』
『ドラの言うとおりだ。神がどうにもならなかった場合には自分を呼べとまでいうのだからな。相手にとって不足はない』
なんでその話を聞いてヤル気を出すのかな?
意味がわからないんだけど。
「いやいや、そうじゃないでしょ。神様がそこまで言うんだから絶対にヤバいのがいるってことじゃないか。みんながダンジョンを楽しみにしてたの分かってるし、ダンジョンに入るのはしょうがないって諦める。でもさ、最下層まで行く必要はないだろ? 最下層までは行かないで、手前の階層まで行って引き返すことにしようよ。な」
『なぜそんなことをせねばならん。当然最下層まで行くぞ。そうしないとダンジョンを踏破したとは言えぬだろう。それに好敵手がいるのだぞ、行かぬ道理はない。我が久しぶりに全力で戦えそうな相手がいるのだからな。これほど楽しみなことはない。フハハハハハ』
テンションアゲアゲで獰猛に笑うフェル。
『まぁまぁ、そう心配するなって。フェルと俺とスイがいるんだぜ。俺たちが敵わない相手なんているわきゃないって。だろ?』
ドラちゃんはドヤ顔でそう言うけど、世の中には自分たちの想像だにしないことがいっぱいあると思うんだ。
ましてや、創造神たるデミウルゴス様が『ダメなときは儂に一声』なんていう相手ならなおさらだ。
『おい、そんなことより早く冒険者ギルドに行くぞ。ダンジョンに入るのはギルドに顔を出してからなのだろう?』
「ああ。ダンジョンに入る前に1度は顔出ししないとマズいだろうからな。それにチラッと聞いた話だと、30階層までの地図があるらしいから、それも手に入れておきたいし」
転移石もあるから、それを見たうえでみんなと相談して何階から始めるか決めるようになると思うけど、デミウルゴス様のお告げもあるから20階には必ず行かなきゃいけないから無駄にはならないだろう。
しかし、本当に大丈夫なのかな?
非常に不安なんだが……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、デカいな……」
ブリクストの冒険者ギルドを見上げて、思わずそうつぶやいた。
同じくダンジョン都市のドランとエイヴリングの冒険者ギルドよりも大きい。
ブリクストの冒険者ギルドは朝から大いに賑わっていた。
俺たち一行が中へと入ると、その賑わいが一瞬だけシーンとする。
少しだけ居心地の悪さを感じながら奥へと進み、空いている窓口へと並んだ。
列はちょっとずつ進んで行くものの、まだ時間はかかりそうな様子。
『おい、まだかかるのか?』
少しイラついた感じのフェルからの念話。
『これだけ混んでるんだからしょうがないよ』
『そうは言うが、まだダンジョンにも入っていないというのにスイが眠りこけているぞ』
そう言われてフェルの背中を見ると、興奮し過ぎて疲れたのか『ダンジョン……ムニャムニャ……』と寝言を言いながら寝ているスイがいた。
『スイちゃん……。ま、まぁ、スイはダンジョンに入るとき起こせばいいよ』
『ったく、スイはのん気だなぁ。しかしよ、これみんなダンジョン目当てなのか?』
ドラちゃんがごった返すギルドを見渡してそう言った。
『だろうね。ここは難関ではあるけど、魔物からのドロップ品以外にも宝箱から値打ちのあるお宝が出る確率が割と高いみたいで大人気らしいぞ』
ヒルシュフェルトの冒険者ギルドのギルドマスターであるイサクさんからの情報だ。
『ほぅ、値打ちのあるお宝というと魔道具の類か?』
少し興味を持ったのかフェルがそう聞いてくる。
『魔道具が出ることもあるらしいけど、聞いた話では宝石や貴金属が多いらしいぞ。宝石や貴金属類はどこも不足気味らしくてな、換金率がいいって話だ。だからある程度のランクがあってとにかく稼ぎたいって冒険者は、ここのダンジョンに潜るらしい』
『なんだ、そんなものか』
『そんなものって、金にはなるんだからいいだろ。金になればネットスーパーでいろいろと買えるし、ニンリル様の教会にももっと寄付できるようになるぞ』
『ふむ、それもそうか。それならばダンジョンを踏破した暁には異世界の肉をたらふく食わせてもらうことにしよう。もちろんニンリル様の教会にも寄付をするのだぞ』
『ま、踏破したらな』
踏破できるかどうかが今1番の不安要素なんだけどね……。
ドラちゃんは異世界の肉に反応して『稼ぎまくるぞ!』と俄然やる気を出していた。
待ち時間の暇をつぶすようにフェルとドラちゃんと念話で話していると、「ちょっとどいて、ほら、どきなさい!」と大声を出しながらごった返すギルドの中を突っ切るようにこちらへと向かってくる者がいた。
そして俺たちの目の前に現れたのは、太鼓腹をしたメタボな50手前くらいのおっさんだ。
「ムコーダ様と従魔様たちですね。ブリクストの街へようこそ! カレーリナのギルドマスターから連絡を受け、いらっしゃるのを心待ちにしておりました。私、ここブリクストの冒険者ギルドのギルドマスターをしておりますトリスタンと申します。以後お見知りおきください。ささ、こちらへどうぞ」
メタボおっさんことブリクストの冒険者ギルドのギルドマスターであるトリスタンさんは、にこやかに笑顔を浮かべて俺たち一行を2階のギルドマスターの部屋へと案内してくれた。
これほど大きな冒険者ギルドのギルドマスターとは思えない腰の低さは、商人ギルドのギルドマスターと言った方がしっくりくるくらいだった。
ギルドマスターの部屋に入ると、促されてテーブルを挟みトリスタンさんと向かい合って座った。
フェルとドラちゃんとスイは、俺が座るイスの背後に楽な姿勢で待機だ。
いつもと位置関係は変わらないけど、デカいギルドなだけあって部屋も広々としておりフェルが入ってもまだまだ余裕があった。
フェルから頻りに『早くしろ』と念話が入ってきていたため、早速ではあるがこれからダンジョンに行く旨を伝えた。
ついでに地図も購入しておきたいことも伝えると、トリスタンさんは満面の笑みを浮かべて揉み手までしだした。
「いやぁ、それは喜ばしい話です。是非ともブリクストのダンジョンも踏破してください! もちろんダンジョンから出たドロップ品やらはできるだけ買い取らせていただきますので! カレーリナのギルドマスターから連絡を受けてから、資金の方も十分に準備させていただいた次第です。特にこのダンジョンの特産と言っても過言ではない宝石や貴金属は重点的に買取させていただきますよ。これらの品はいつでも品薄ですからな」
トリスタンさんの話では、宝石や貴金属の類はお貴族様方に大人気らしくいつでも品薄状態なのだそうだ。
宝石や貴金属は重点的に買い取ってくれるとのことなので、アイテムボックスの肥やしになってたドランとエイヴリングから出た宝石やらの売れ残りもここで買い取ってもらえそうだな。
しかし、資金も準備万端に用意して待っていたとは、やるなトリスタンさん。
その後はフェルとドラちゃん、ついにはスイからも念話で急かされて早々に話を切り上げてダンジョンへと向かうことになった。
ダンジョンまではトリスタンさんが直々に案内してくれて、景気付けとしてダンジョンの地図も無料で譲ってくれた。
ブリクストの冒険者ギルドから街の城壁の外にあるダンジョンまでは徒歩で約15分程度。
その間にブリクストのダンジョンについて、いろいろと聞くことができた。
最下層の話とは別にデミウルゴス様から20階層辺りをよく探してみるといいと言われた話も伝えたうえで、トリスタンさんから聞いた話や貰った地図を参考にしながらフェルたちと念話で話し合い、転移石を使ってとりあえず20階を探索することにした。
トリスタンさんの話では、現在の30階層までの地図の中で22階層までは出現する魔物や地図についてはほぼ網羅されているということだったけど(23階層以降は探索し切れてない部分が多いらしく穴あき状態の地図で、魔物も分かっているだけのものが書かれているとのこと)、デミウルゴス様の話が間違いのはずがないから、まだ判明していない何かがあるのだろう。
俺としては、20階層に隠し部屋か何かがあるのではないかと予想している。
21階層以降は地図を見て出てくる魔物を知ると、フェルが渋い顔をして『雑魚ばかりでつまらん』とか言うしドラちゃんもそれに『同意だな』とか言うしでスルーすることに。
20階層を探索したあとは、転移石で1度入り口に戻って、そこからまた30階へと転移しようということになった。
何度も使える転移石を持っているからこそ出来ることだな。
これを譲ってくれたアークのみんなには感謝だよ。
『出る魔物がガーゴイルというのは不満だが、神からの話だからな。20階層、とくと探してやろうではないか』
『その地図にはない何かがあるってことだろうな。面白そうじゃねぇか』
『スイも探す~!』
『ここのダンジョンはドランやエイヴリングと比べても広いみたいだから、少し時間はかかるかもしれないけどな』
『フフ、なおさら面白い』
『だな。早々に見つけてやらぁ』
『スイが見つけるもんねー』
『まぁ、とりあえず地図はあるわけだから、それに沿って1周してみよう。それで見つかるかもしれないしさ』
そうこうするうちにダンジョンに到着して、トリスタンさんの権限でダンジョンの入り口近くにある転移石持ち専用の転移部屋へと優先的に案内されて並ぶことなくダンジョンへと入ることができた。
部屋の中には直径5メートルくらいの魔法陣が描かれていて、その中央に円柱が立っていた。
その円柱に手持ちの転移石を近づけて「○○階」と唱えると、その階に転移できるとのことだった。
20階層へ転移する直前、満面の笑みを俺たちに向けたトリスタンさん。
「たくさんの成果を期待しております!」
だって。
そうなればいいけど、最下層がどうにも不安だ……。
まぁ、まずは20階層からだけど。