第四百三話 ダンジョン豚のレバニラ炒め
精の付くもの、要はスタミナ料理だな。
スタミナ料理っていうと、思い浮かべる人も多いコレだ。
ズバリ、レバニラ炒め。
肉ダンジョンでダンジョン豚の新鮮なレバーも手に入ったことだし、簡単手軽なスタミナ料理ってことでいいんじゃないかと思うんだ。
何より俺も久しぶりに食いたいっていうのもあるし。
レバニラってしょっちゅう食いたくなるもんじゃないんだけど、時々無性に食いたくなるんだよな。
そんなわけでレバニラ炒めを作っていこうと思う。
今までに借りてきたお屋敷の中でも、とびきり豪華なキッチンで作るのが超庶民的なレバニラだっていうのがちょっと笑えるけどな。
ともかく、ネットスーパーで材料の調達だ。
ニラ、モヤシ、それからチューブ入りのおろしショウガとおろしニンニク(今回は手間を省くためにチューブ入りを使うことにした)にオイスターソース、顆粒の鶏がらスープの素。
あとはレバーの臭み取りに使う牛乳だ。
こんなもんで、あとの調味料類は手持ちのものがあるから大丈夫だな。
材料が揃ったら早速調理開始だ。
「まずは、レバーの下処理からだ」
ダンジョン豚のレバーの筋を取り除いて血を水で洗って一口大のそぎ切りにする。
それからレバーの血の塊を洗い流して臭みを抜くために、牛乳に15分から20分程度浸けておく。
その間にニラを5センチくらいの長さに切って、レバーの下味に使う合わせ調味料と炒めるときに使う合わせ調味料を作っておく。
下味に使う合わせ調味料は、酒と醤油とおろしショウガとおろしニンニク。炒めるときに使う合わせ調味料は、オイスターソース、醤油、砂糖、鶏がらスープの素を混ぜ合わせたものだ。
炒めるときには味が絡むように水溶き片栗粉も使うのが俺流だから、それも用意しておく。
牛乳に浸けたレバーの臭み抜きが終わったら、さっと水洗いしてキッチンペーパーでレバーの水気を拭きとって、下味用の合わせ調味料をかけて軽く揉み込んで5分ほど漬け込む。
レバーに下味が付いたところで片栗粉をまぶして、フライパンに多めのゴマ油を熱したところに投入し、両面こんがり焼いていく。
レバーをいったんフライパンから取り出したら、キッチンペーパーで軽く油を拭いて再びゴマ油をひいてニラともやしを炒めてある程度火が通ったところでレバーを戻し入れて、炒め用の合わせ調味料を入れて全体を炒め合わせたら最後に水溶き片栗粉を入れて軽くトロミが出たら完成だ。
「よし、出来た。何とも食欲をそそる香りだな。これには白飯がよく合うから、フェルたちには白飯の上にレバニラ炒めを載せて丼にして出してやるか」
『よし、早くよこせ』
『そうそう、早く早く!』
『ごはん、ごはん~』
みんな待ちきれなくてキッチンまで出張って来てました。
「あーもう、もう出来上がったからリビングで待っててよ。すぐに持っていくから」
そう言うと渋々ながらリビングに引き返していくフェルとドラちゃんとスイ。
急いで飯の用意をしてフェルたちの下へと持っていった。
「スタミナのつくレバニラ炒めだ。これは白飯によく合うからな、白飯の上に盛って丼にしてみたぞ」
『レバニラ? 美味そうな匂いの正体がこれか?』
ちょっとちょっと、レバニラを見て何不服そうにしてんのフェルは。
『匂いはいいけどよ、これ肉なのか?』
ドラちゃんも胡乱げな目で見ないの。
スイはというと、ちょっとだけ味見ってな感じでレバニラを少しだけ取り込んでいた。
『美味しい! これ、美味しいよー!』
うんうん、そうだろう。
食ったスイは分かってくれたようで、どんどん食っている。
「ほら、スイが美味いって言ってるじゃん。ドラちゃんが肉か?って聞いたけど、肉だぞ。ダンジョン豚の内臓肉だ。レバー、肝臓の部分だな。栄養満点のスタミナ料理なんだぞ」
『内臓か。内臓肉の美味さはお主の料理で分かっているからいいが、これは野菜が多く入っているようだが?』
「レバニラだからね。レバニラにはニラとモヤシは欠かせないもんなの」
『しかしな……』
野菜が多いことに不満顔のフェル。
野菜嫌いなのは分かるけど、食えないわけじゃないんだから食いなさいって。
『フェル、これ案外イケるぜ。この味付けがいいわ。こいつの言うとおり、米に合うぞ』
いつの間にかガツガツ食い始めていたドラちゃんから援護射撃が。
『あるじー、おかわりー! あのね、フェルおじちゃんこれ美味しいよ~』
スイからもおかわりのついでとばかりの援護射撃。
『むぅ』
「むぅ、じゃなくて。とにかく食ってみろって。野菜入りの料理だって、今までマズくて食えないなんてもの出してないんだから、当然これだってマズくないぞ」
そう言うと渋々という感じで口をつけた。
最初はモソモソとちょっとずつだったのが、だんだんガツガツと頬張るフェル。
そして『ま、まぁ、悪くはないな。内臓肉がもっと入っていた方が我の好みだがな』なんてシレッと言ってるし。
そんなフェルに苦笑いしつつ、俺もレバニラ炒めを味わうことに。
「やっぱレバニラには白飯が合うわぁ」
レバニラ炒めと白飯を交互にかっ込みながらしみじみそう思う。
こうなるとビールが飲みたくなるな。
昔からレバニラにはビールでしょと思っている俺。
そう思いながらレバニラをパクリ。
「少しトロミが付いてるから味が絡んで美味い。いつもの味ではあるんだけど、これが美味いんだよねぇ。あー、やっぱこれにはビールだよ、ビール!」
明日からダンジョンだけど、1本くらいならいいでしょ。
そう思いつつアイテムボックスにストックしてあった冷えた缶ビールを取り出した。
プシュッ、ゴクゴクゴク―――。
「はぁ~、美味い! やっぱレバニラにはビールだな!」
『おい、それは酒か? 明日からダンジョンなのに大丈夫なのだろうな?』
目ざとく見つけたフェルにそんなことを言われる。
「1本だけだから大丈夫大丈夫」
『そう言うのならうるさくは言わんが、明日はダンジョンだからな。そこを忘れるなよ』
「分かってるって」
『ならいい。それよりも、おかわりだ』
『俺も! これは何かクセになる味だな』
『スイもおかわり~』
「ほらな、レバニラは美味いだろ。いっぱい作ったからどんどん食えよ」
そんな感じでレバニラ炒めを腹いっぱい堪能した俺たちだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風呂から上がり、リビングでちょっと一休み。
フェルは既に就寝中で、ドラちゃんとスイも風呂上りにフルーツ牛乳を飲んだあとは明日のダンジョンに備えてすぐに寝てしまった。
「ふぅ、明日からダンジョンか……。まぁ、フェルとドラちゃんとスイもいるし、完全防御のスキルもあるから大丈夫だとは思うけど、やっぱ苦手だよなぁ。魔物を目の前にすると、やっぱ足がすくむし。でもま、みんな楽しみにしてたことだしがんばるしかないな」
飲みかけの缶コーヒーを空にして、さて寝ようかと立ち上がったところで思い出した。
「そういやお供えがあったんだ。まだ1か月は経ってないけど、期限まで1週間もないしな。ダンジョンに入ってるうちに期限過ぎそう……というか、これは過ぎるよな。さすがに1週間以内で地上に戻ってこれるってことはなさそうだし……」
そうは言っても明日にはダンジョンに行くことが決まっている。
さすがに神様たちの1か月分の細かいリクエストに応える時間まではなさそうだ。
考えてとりあえずの緊急措置として、2週間分のお供えをということでお願いすることにした。
ドランやエイヴリングのダンジョンでのことも考えると、ここが難関だったとしても2週間以上かかることはまずないだろうという計算だ。
“アーク”の面々からいただいた転移石もあるから、ダメそうなら30階層までからなら地上に戻ることもできるし。
そもそもこの家も2週間しか借りてないから、その期限で帰ってこなきゃならないってのもあるしね。
でだ、2週間分のお供えをするにして、俺の提案としてはこうだ。
2週間以内にダンジョンから戻ってくることができたとしても、そのお供えはそのままにして、戻ってきたときに改めて通常の1か月分のお供えするということ。
これなら神様たちが損することもないし、文句も出ないだろう。
神様たちにとっては割りのいい条件になっちゃうけど、今回はしょうがないかな。
さてと、そうと決まればお声掛けするとしますか。
だんだん長くなってきてしまったので神様回は次回に持ち越しです(汗)




