第四百一話 誤解だからぁぁぁーーーっ!!!
小説更新ページが何故か重くて昨日更新できず今日になってしまいました(汗)
『よし、肉を食うぞ!』
『そうだ! 肉だ肉ニクにくっ!』
「ったくも~、分かってるって」
帰ってきた途端に肉肉と騒ぎ出すフェルとドラちゃん。
『お肉食べるのー? スイも食べるー!』
フェルとドラちゃんが騒ぎ出したせいでスイも起きてしまったのか鞄の中からポンッと飛び出してきた。
『お前にあのような小童ども押し付けられたのだから当然だ!』
『まったくだぜ。ありゃあ悪魔だ悪魔。あいつらを相手にするだけでゴリゴリ体力を削られたんだからな!』
「はいはい分かりました。たっぷりと肉を出せばいいんでしょ。とは言っても今からだとそんな凝ったもんは作れないからな。簡単なのだ」
『簡単というと何が作れるのだ?』
「うーん、炒め物かな。野菜炒めはどうだ? 肉と野菜が食えてバランスもいいだろ」
俺がそう言うと、フェルが鼻にしわを寄せて歯をむき出しにしながら怒った風に『肉と言っておろうがっ』と言う。
別にそんな怒んなくてもいいだろうに。
「それじゃあオークの肉かダンジョン豚の肉で生姜焼きとかは?」
これなら市販の生姜焼きのタレですぐできる。
『おお、生姜焼きか。それはいいな』
生姜焼きの味を思い浮かべているのか、フェルの口からは涎が。
汚いなぁ、もう。
『生姜焼き、美味いよなぁ。俺も好きだからそれでいいぞ!』
『スイも生姜焼き好きー!』
ドラちゃんもスイも既に生姜焼きモードだ。
「じゃあ生姜焼きにするか。肉は……、ダンジョン豚だな。在庫がまだまだハンパない量あるし。米も炊いたのがあるから生姜焼き丼だな」
肉肉と言っても生姜焼きだけじゃ味が濃すぎるしね。
やっぱり米と一緒がベストだよ。
『それはいいが、野菜はいらないからな。米のうえには肉だけを載せろ』
「野菜なしってキャベツがあった方がサッパリ食えるぞ」
『いいや、肉だけだ。肉だけを載せろ。たっぷりとな』
『俺も今日はガッツリ肉を食いたいからフェルと同じで頼む』
『スイもお肉いっぱいがいいー』
へいへい。
ったくしょうがないな。
市販の生姜焼きのタレを使ってパパッと作った生姜焼き。
それをフェルたちの希望通りに丼に盛った飯のうえにキャベツなしで直接載せていく。
『おい、もっとだ』
「もっとって、これでもたっぷり載せたんだぞ」
『それでは足りない。もっとだ』
フェルに催促されてさらに生姜焼きを盛っていく。
「こんなもんでいいだろ?」
『もっとだ!』
もっともっとと催促されて生姜焼きを積み上げていく。
「これでいいか? これ以上は無理だぞ。崩れるからな」
そして最終的に出来上がったのは、こんもりとそびえ立つ生姜焼きタワー。
『うむ、これでいい』
フェルは目の前にそびえ立つ生姜焼きタワーにご満悦だ。
当然ドラちゃんとスイの前にも同じものが。
『こりゃあ食いでがあるな』
『美味しそ~』
そして目の前の生姜焼きタワーを攻略すべくガツガツと食い始めるトリオ。
瞬く間に攻略されていく生姜焼きタワーに「早すぎだろ」と苦笑いの俺だった。
生姜焼きタワーをそれぞれいくつか制覇してようやく満足したフェルとドラちゃんとスイ。
フェルとドラちゃんは子ども相手が余程疲れたのか、そのまますぐにご就寝だ。
ドラちゃんに至っては大好きな風呂までキャンセルするくらいだから相当疲れたんだろう。
俺とスイで風呂に入ったあと主寝室に向かうと……。
グォー、グォー―――。
フシュー、フシュー―――。
規則正しく聞こえてくる音。
発生元はフェルとドラちゃんだ。
「ククッ、フェルもドラちゃんもいびきかいて寝てるよ」
『面白い音ー』
「だな」
いびきをかきながらグッスリと眠るフェルとドラちゃんをスイと一緒に眺めながらクスリと笑い、俺たちも眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝飯を食ったあと商人ギルドに向かい借りていた家の鍵を返却したら、その足でフェルたちを連れ冒険者ギルドへと向かった。
『この街を出たら一気にダンジョンへ向かうぞ』と宣言しているフェルたちは、冒険者ギルドへの道すがらも意気揚々だ。
冒険者ギルドへ入り窓口で声を掛けると、職員の人がすぐにイサクさんの下へと案内してくれた。
イサクさんはというと、ギルドマスターの部屋で朝も早くから書類仕事に精を出していた。
「いらっしゃいませ、ムコーダさん。すみません、ほんのちょっとだけお待ちください」
急ぎの書類仕事なのか何か猛烈に書き込んでいる。
「あ、待ってますんで急がなくっても大丈夫ですよ」
職員の人が淹れてくれたお茶を飲みながら、少しの間待つ。
「お待たせしました。よいしょっと」
イサクさんがそう言いながら重たそうな麻袋を4つテーブルの上に置いた。
「タイラントフォレストパイソンの討伐報酬の金貨230枚と素材の買取代金が金貨180枚で、〆て金貨410枚です」
それからと、壁に立て掛けてあったグルグルに巻かれた絨毯みたいなものをドスンと俺の横に置いた。
それさっきから気になってたんだけど、その模様からすると、タイラントフォレストパイソンの皮だよね……。
「これがご希望の皮の3分の1です」
やっぱり。
ってか3分の1でこの重量感か。
ちょっと失敗したかも。
5分の1、いや6分の1くらいでもよかったかもしれないな。
大き過ぎるかもしれないけど、ランベルトさんへのお土産ってことでいいか。
ランベルトさんが気を使うようだったら、その皮でいくつかバッグや小物の製作を頼んでもいいし。
あ、この皮でうちのみんなへの小物を作ってもらって渡すってのもありだな。
まぁその辺はランベルトさんに要相談だな。
そう考えながら、金貨の入った麻袋とタイラントフォレストパイソンの皮をマジックバッグに収納していった。
「それではこれで」
「残念ですね。もう少しこの街にいていただいてもいいんですけど」
ダンジョンを心待ちにしているフェルたちがいるから、それは無理な話かな。
それに、長居するといろいろな仕事を押し付けられそうな予感がする。
苦笑いしながらこの後すぐに街を発つ旨伝えると、イサクさんが下の階の出口まで見送りに来てくれた。
「それではお世話になりました」
「いえいえこちらこそ。緊急依頼を受けていただいて本当に助かりました。ありがとうございました。またこの街にもお寄りください。まぁそのとき僕はまた別の街に飛ばされているかもしれないですけどね、ハハハ……」
イサクさん、哀愁漂いまくりだよ……。
あっ、そうだアレアレ。
アレを渡せば少しは元気出るだろう。
イサクさんに気づかれないようにアイテムボックスの中からそっと【神薬 毛髪パワー】を取り出した。
「イサクさん、お世話になったのでお礼にこれをどうぞ」
不憫過ぎるイサクさんの頭髪を思い、【神薬 毛髪パワー】のほか育毛シャンプーもおまけで付けてあげた。
「これは?」
「ええと、髪に効く薬というか……。こちらのシャンプーで頭髪を洗ったあとは水気をよく拭いて、こちらの育毛剤を少量ずつ手にとって頭皮全体に揉み込むようにマッサージしながらつけてみてください」
そう言うと、俺が手にした【神薬 毛髪パワー】と育毛シャンプーを目を真ん丸に見開いて凝視するイサクさん。
「こ、これはもしや、レオンハルト王国の貴族の間で話題沸騰のっ……」
およ、知ってました?
「こちらの国まで噂になってますか。実はこれを販売している商人の方と懇意にしていて、いくつか譲ってもらっているんです」
「ム、ムコーダさぁぁぁんっ! あ、あなたは僕の心の友ですーっ! ウォォォォン、ウォンウォンウォン」
「え、ご、号泣? というか、抱き着かないでくださいよっ」
「ムコーダさぁぁぁん」
「いやっ、ちょっと、離れてくださいよっイサクさんっ!」
禿散らかしたおっさんに抱き着かれてもキモイだけですからーーーっ。
「フェ、フェル助けて!」
フェルに助けを求めるも『知らん』とそっぽを向かれた。
お前、昨日のこと根に持ってるのかよーっ。
「ド、ドラちゃんっ」
ドラちゃんもツーンとそっぽを向いた。
ドラちゃんもかーっ。
ス、スイは?
鞄の中で熟睡中でダメだー。
一生懸命イサクさんを離そうと試みるが、この禿散らかしたおっさん案外力が強くてなかなか離れやしない。
「ありがとー、ありがどうございまずーーーっ」
「わ、分かりましたからっ、とにかく離れてくださいってば!」
悲しいかなここは朝の冒険者ギルド。
当然というか、たくさんの冒険者たちが集まっていた。
興味津々という目で注目を浴びる俺たち。
その中から「ギルドマスター、痴話喧嘩かぁ?」などというヤジも聞こえてきた。
違うからねっ!
しかもこんな禿散らかしたおっさんとなんてあり得ないからっ!
「誤解だからぁぁぁーーーっ!!!」
………………
…………
……
「はぁ~、ひどい目にあった……」
なんとかかんとか不名誉な痴話喧嘩という誤解を解いたあと、足早にヒルシュフェルトの街を発った。
『フハハハハ、これであいこだ』
『だよな。昨日は俺たち助けてくれなかったもんな』
ぐぬぬぬぬぬ。
『よし、ダンジョンに向けて出発だ』
「クソー、同意するのは癪だけど、さっさとこの街から遠ざかるぞ!」
俺たち一行は、再びダンジョンのあるブリクストの街へと向けて出発した。




