第三百九十七話 ヒルシュフェルトの孤児院
『とんでもスキルで異世界放浪メシ』がなんとゲームになります!
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イサクさんから聞いたこの街の孤児院を建物の陰からそっと覗いた。
子どもたちの元気な声が聞こえてくる。
その元気な声を耳にして、貧し過ぎて食うものも食えず子どもたちが弱っているというようなことはなさそうなので少し安心した。
しかし、やっぱりというか、ここの孤児院もローセンダールの孤児院と同じく施設にまでは目が届かないのか老朽化が進みボロ屋のようだ。
「少し聞き込みしてみるか……」
聞き込みを開始するが、俺の後ろに控えたフェルとドラちゃんを見ると驚かれて逃げられてしまうことが何度か続いた。
あらかじめ「後ろにいるのは従魔なんで気にしないでください」と伝えたけど、今度は萎縮してしまってなかなか話してくれない。
困った末に試しに銀貨1枚そっと渡したら、そりゃあもうなめらかにしゃべってくれました。
みんな聞いてないことまでペラペラペラペラ。
いろいろと知ることができたから、結果オーライだけどね。
金の力は偉大なり。
で、集めた情報によると、ここの孤児院は一応は水の女神様の教会が運営しているという。
信徒である元冒険者の爺さんが院長となって、主に子供たちの世話をしているらしい。
しかしながら、爺さん一人では当然目が行き届かないところも出てくるため、補助として教会から見習いシスターが数人交代で派遣されてくるそうだ。
それで何とか孤児院を運営しているとのことだ。
院長である元冒険者の爺さんは悪いことをすれば拳骨が飛ぶおっかない爺さんらしいが、子供たちの面倒見は良くて子どもたちからも歳のいった父親のように慕われているという話だ。
しかしながら、外観を見ても分かる通り経済的にはカツカツらしい。
孤児院の運営費は基本的にそこの領主からの援助金と所属している教会からの援助金、そして直接の寄付金によって賄われていると聞いた。
とは言ってもどれも現実は雀の涙程度のものらしいけど。
考えてみると、領主からの援助金だって優先順位を考えると孤児院が上位ってことはあり得ないだろうからそんなに多くはないだろう。
教会からの援助金だって、教会自体がお布施で運営されてるようなもんだから、きっとそんなに多くは援助できないよな。
寄付金なんていうのも少なそうだ。
だってこの世界、セーフティーネットなんてものはないから自分の日々の生活でいっぱいいっぱいだって人ばかりだし。
孤児院はどこも厳しいのが現状なのだということをローセンダールの孤児院の院長先生から聞いていたけど、目の当たりにするとその話を実感するな。
ここから見える孤児院の建物に目をやると、なんとも言えない気持ちになった。
あの建物はボロすぎるだろ……。
雨漏りもしてるんじゃないかな、あれは。
聞き込みした範囲では寄付しても問題なさそうだけど、やっぱり実際に見て接してみないとわからない。
ということで見学させてもらうことにする。
まぁ、そうなるとただというわけにはいかないだろうけど、寄付に値しないと判断するならば額を減らしてそれこそ金貨ほんの数枚程度渡して帰ってきてしまえばいいだけだしね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すみませ~ん」
孤児院の門扉を少し開けて声をかけた。
すると出てきたのは……。
「おじちゃん、だぁれ?」
うさ耳の5歳くらいの幼女。
この世界でおじちゃん呼ばわりされることが少なくないとはいえ、やっぱりグサッとくるものがある。
「ええと、お嬢ちゃんおじちゃんじゃなくてお兄ちゃんって呼んでくれるかな。それから、院長先生を呼んできてくれるかな?」
「わかったー」
幼女がタタタッと走り去った。
そして少しすると、厳つい爺さんの手を握った幼女がやってきた。
「このおじちゃんがねぇ、いんちょうせんせーよんできてっていったの~」
うさ耳幼女よ、おじちゃんじゃなくてお兄ちゃんって呼びなさいって言ったでしょ。
「お、あんた……。まぁ、いいや入ってくれや」
院長である爺さんに招き入れられてフェルたちとともに孤児院の敷地へと入った。
入ったとたんにわらわらと子どもたちが集まってくる。
怖いもの知らずの子どもたちのキラキラした目線の先にはフェルとドラちゃん。
『お、おい』
「おおかみさんとドラゴンさーん!」
「「「「「わぁ~い」」」」」
『お、俺もか?!』
もふもふのフェルは当然だけど、ちっこいドラゴンも子どもたちにとっちゃ物珍しいもんに決まってるじゃないの。
子どもたちに囲まれてもみくちゃにされるフェルとドラちゃん。
『これっ、引っ張るでないっ!』
『ちょっ、ペタペタ触りまくるなって!』
フェルの声は聞こえてるけど、ドラちゃんの念話は俺にしか聞こえてないからね。
まぁ、声が聞こえたとしても子どもたちがそれで止めるとは限らないけど。
「ありゃあフェンリルか」
「まぁ、一応」
時々フェンリルの威厳もへったくれもないときがありますけどね。
しかし、よくすぐに分かったな。
ある程度のランクの冒険者じゃないと見当つかないはずなのに。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、爺さんが笑いながら「俺も元はAランクの冒険者だからな」と教えてくれた。
「しかし、フェンリルを従魔にした冒険者がいるって話は聞いていたが、本当だったとはな。実際に見るまでは眉唾もんだと思ってたぜ」
ですよね、普通は。
「で、もう1匹の従魔はドラゴンの子どもか?」
「いえ、ピクシードラゴンっていう珍しい種類のドラゴンです。あれで成体なんですよ」
「ほぅ、フェンリルだけでなく珍しい種類のドラゴンまで従魔にしてるとはずいぶんと優秀なテイマーなんだな」
「どうも。それから……、この特殊個体のスライムも仲間です」
いつもの革鞄の中で眠っていたスイを抱き上げて爺さんに見せた。
「ガハハハッ、スライムを従魔にしているテイマーは初めて見たな」
世間一般ではスライムは雑魚魔物ですからねぇ。
「あーっ、狼とドラゴンがいる! スゲェ!」
孤児院の建物から出てきた10歳くらいの男の子が、フェルとドラちゃんを見て満面の笑みを浮かべながらそう言った。
そして、一目散に駆けよろうとすると……。
「ちょーっと待て! コルネ、お前、当番の仕事はやったのか?」
コルネという少年の首根っこをつかむ院長の爺さん。
「ゲッ、ジジィ」
「ジジィじゃねぇよ。院長先生と言えっていつも言ってるだろが。で、当番の仕事は?」
「えーっと、その……」
「やってねぇんだな?」
「うん……」
「遊ぶ前にやることはやれ。いいな」
「エー、みんなのところ行きたい。俺だって狼とドラゴン触りたいよー」
「俺は遊ぶなとは言ってねぇぞ。遊ぶならやることやってからだ」
「でもー」
「やらなきゃいけないことやらねぇで遊び惚けてるようなら、お前は今日の晩飯は抜きだからな」
「何だよ、晩飯って言ったって味の薄いイモのスープにカチカチに固いパンじゃんかよ」
「ほー、コルネは晩飯いらねーってことか」
「いるよ、いる! わーったよ、ちゃんと当番の仕事してくればいいんだろ」
コルネ少年が渋々ながら踵を返して孤児院の建物の中へと戻っていった。
「ハァ、言うことを聞かねぇ奴が多くて参るぜ」
なんか見るからにやんちゃっぽい子が多そうだもんね。
お疲れ様です。
「それでだ、優秀なテイマーの冒険者がこんな孤児院なんかに何の用なんだ?」
「えーっと、まぁ、その、少しばかりですが寄付をさせていただこうかと……」
俺がそう言うと、ニカッと笑った爺さんががっちりと肩を組んできた。
「あんたいい奴だな。見ての通り貧乏孤児院だ。寄付は年中いつでも受け付けてるぜ。ささ、中へ行こう」
ちょ、爺さん厳つすぎて笑顔が怖いから。
それに何で肩を組むの?
逃がさないってこと?
ズルズルと孤児院の建物の中へと引きずり込まれる俺。
『お、おいっ、お前何処へ行く?!』
「あ、ああ、院長さんとちょっと話してくるから、フェルとドラちゃんは子どもたちと遊んでてよ」
『はっ? 行くな! こ、この小童どもは我の手に負えんっ。……こらっ、そこのお主、毛を引っ張るでないっ』
『そうだぞ! こいつら悪魔だ! やめろって、翼を引っ張るな!』
さすがのフェルとドラちゃんも元気いっぱいの子どもたちには手こずっている様子だ。
「子どもたちにとってはフェルもドラちゃんも珍しいんだよ。ちょっとの間だけ相手にしてあげてよ」
『『ふざけるなー!!』』
フェルの声とドラちゃんの念話の声がシンクロした。
フェル、ドラちゃん、健闘を祈る。
『ねぇねぇあるじー、スイは寝てるねー』
お眠のスイはそう言ってスルリと革鞄の中に入ってしまう。
「よし、子どもらはいい遊び相手がいるから少しの時間は大丈夫だな。その間に俺たちもしっかり話しようじゃないか。な!」
な!って爺さん……。
ほんとこの人なんで孤児院の院長なんてしてるんだろうね。