第三百九十六話 社会奉仕
本日、書籍5巻&コミック2巻が発売日となっております!
5巻発売記念企画3日連続更新最終日です。
そして本日はコミックガルド(http://over-lap.co.jp/gardo/)にて12話が公開になりました!
よろしかったらご覧ください。
翌日、俺はイサクさんから聞き出した情報を基に動き出した。
フェルたちには、今日は街の外には行かないと伝えたんだけど暇だからと俺の後にくっついてきていた。
いつものごとくスイは鞄の中で寝ている。
寝てるなら家で寝ていてもいいんじゃと思わなくもないけど、スイを1人で置いていくのも心配だし。
それならということで、いつもどおりみんなで行動している。
『で、どこに行くのだ? いつものように屋台で買い食いか?』
『お、いいなそれ。屋台の肉は味が薄いのもあるけどよ、こいつの持ってる調味料をつければ途端に美味くなるし』
いやいや違うからね。
買い食いなんかしないよ。
というか、俺の手持ちの調味料を付けてなんてドラちゃんは変なこと覚えなくていいからね。
そんなことじゃなく、俺が今から行こうとしているのは……。
「この街の孤児院だよ」
『孤児院?』
『何でそんなとこ行くんだ?』
「いやさぁ……」
俺が最初にこの世界に来たときはどうなることやらとハラハラしたけど、フェルたちと出会って経済的には何の心配もなくなった。
それどころか、フェルたちがいろいろとやらかしてくれるおかげで金は貯まる一方だ。
何せ肉好きのみんなが日々食べる獲物を狩るだけで、その肉以外の素材が大金に変わるんだからな。
正直なところ、今じゃ手持ちの金が多過ぎて俺自身一体いくら持ってるのか正確な金額はわからなくなってきているくらいだし。
それだけ金があるのに、使いどころがないというか。
俺の身の回り品を買ったり、ネットスーパーで使う分くらいがせいぜいだ。
そんなのはいくら贅沢したってたかが知れている。
そりゃあ魔道コンロとかカレーリナの家とか家にいる奴隷のみんな(俺の認識としては誠心誠意働いてくれる従業員みたいな感じではあるんだけど)とかは、1度買ったらそう何度も買いなおすものでもないし。
とにかくだ、収入と支出のバランスが大きく違うからどんどんどんどん金は貯まっていっているのだ。
「フェルたちのおかげで懐の心配をする必要はまったくなくなったからすごく感謝してるけど、今はちょっと金があり過ぎなんだよ」
『む、そんなにか?』
「うん。10万枚になったところで数えるのをやめた。今は正直俺もどれだけあるのかわからなくなってきてる」
『言われてみると、確かにいろいろ狩ったからなぁ』
ドラちゃんが短い腕を組みながらそう言った。
「ああ。ドラゴンとかな。あれはすごい金額になった……」
地竜と赤竜ともにね。
冒険者ギルドで買取し切れなかった素材がアイテムボックスの中にもあるし。
そうだよ、思い出したけどドラゴンの素材だけじゃなくて、他の素材もいくつもアイテムボックスに入ったままだし、買取りにさえ出してない魔物だってまだまだいくつもあるんだった。
まぁ、その辺は薮蛇になるから今は置いておくことにしよう。
「とにかくだ、手持ちの金が増えることはあってもなかなか減っていかないんだよ」
『そう言われてもな……。我らでは金の使い道などないぞ。それこそ屋台での買い食いで使うくらいがせいぜいだ』
『だよなぁ』
「それは一緒にいれば分かるよ。でもさ、このままじゃ貯まっていく一方だっていうのは分かっただろ?」
『それは分かったが、どうしろというのだ? まさか狩りを止めろというのか? それはできん話だぞ。お前は自重しろと言ったが、ドラゴンだって相まみえることがあれば狩る』
『俺だって止められないぞ。狩りは俺たちの本能みたいなもんだからな』
「止めはしないよ。みんなよく食うし、自分たちで食う肉くらいは確保してほしいしさ。それに、ぶっちゃけフェルたちが獲ってきた魔物の肉の方が肉屋で売ってる肉よりはるかに美味いのわかってるからな」
『うむ、そうだろうそうだろう』
「まぁ、ドラゴンだけは狩るの止めてほしいけどね」
『む、積極的に探して狩りはしないが、相対すれば当然狩るぞ』
『そうだよな! この前の赤竜みたいに俺らの前を横切れば当然狩るよな』
「いやいや、狩らなくていいから。って話が逸れたけど、とにかくだ、貯まっていく一方の金を有効活用しようって考えてるんだ」
『『有効活用?』』
「うん。社会奉仕としてね」
社会奉仕のことは、肉ダンジョンの街ローセンダールから戻ってきたあとから考えるようになった。
あの街の孤児院に寄付(パンの代金という名目はあったけど実質はそうだろう)したのがきっかけだ。
ボロボロの建物にカツカツの運営状況だったようだけど、それでもあそこの孤児たちはまだマシな方だったらしい。
耳に入るこの世界の孤児の生活はなかなかに厳しいもののようだ。
大人になれば嫌でも酸いも甘いも経験することになる。
ならば子どものうちくらい笑って楽しく過ごしてほしいじゃないか。
偽善と思われるかもしれないけど、それだけの資金が手元にあるんだからやらないよりはマシだと思う。
そう考えると寄付っていう手もありだなとずっと頭にあったのだ。
そのうちフェルたちにも相談してみようと思っていたそんな最中、この街でタイラントフォレストパイソンの討伐の依頼を受けてまた大金が入ってくることとなったわけだ。
「要は孤児院に寄付しようかなって。もう向かってるし、なんだか事後承諾のような形になっちゃって悪いんだけどさ。フェル、ドラちゃん、どうだろう?」
『お主の好きにしたらいいぞ。我は美味い飯が食えるのなら文句は言わん』
『俺も同じく。美味い飯が食えて、人の街のダンジョンにも行けるしな。今の生活はかなり気に入ってる。美味い飯さえちゃんと食わせてくれればあとのことはお前に任せる』
「そうか、ありがとな」
フェルとドラちゃんにはあっさり承諾をもらえた。
となるとあとはスイだな。
幼いとは言え、フェルやドラちゃんとともに魔物を狩ってくれているのだから一応話はしておこう。
スイを起こして、スイにも分かりやすいように一通り話をした。
「スイ、どうかな?」
『うんとね、よくわかんないけど、スイはあるじの美味しいご飯が食べられればいいの~。あとね、ビュッビュッてして戦えると楽しいよー!』
ス、スイにはちょっと難しかったかな?
『スイも問題なかろう。スイにしても人間の使う金の使い道などない』
『だな。スライムが人間の金持って買い物とかしてたら俺でも驚くわ』
いや、ドラちゃん、それは俺だって驚くよ。
「それなら、孤児院へ寄付させてもらうよ。ああ、もちろん自分の目で見てしっかり確認してから寄付するよ。運営者が私利私欲まみれの人だったりしたら寄付しても横領されるだけだろうしね。ああ、それから女神様たちの教会にもお布施しようかって考えてる」
『うむ、それはいい考えだ。ニンリル様もお喜びになるだろう』
「いや、ニンリル様のとこだけじゃないからね」
『よし、早速行くぞ』
「ちょちょちょ、フェル、そっちじゃないからっ。先に孤児院に向かうんだからね!」
次回更新は月曜。その後はここ最近の更新と同じく1週間ごとになる予定です。




