第三百九十三話 華麗に登場したのに……
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とりあえず【神薬 毛髪パワー】の件は置いておいてだ、まずやらねばならない案件はやはりタイラントフォレストパイソンの討伐の方だ。
この街に来る途中に街道に森サソリが出たことをイサクさんに話したら、顔を青くしながら相当焦っていたよ。
これもタイラントフォレストパイソンの影響で、早めに危険を察知して森から逃げ出した魔物の一部ということらしい。
人の通りもそれなりにある街道沿いということで緊急に対処しなければならないということで、イサクさんは急遽Cランク以上の冒険者に依頼を出して街道沿いに派遣した。
とは言っても、やはり一番の対策はタイラントフォレストパイソンを討伐してしまうことだ。
「ムコーダさん、申し訳ありませんが今すぐ南の森へむかっていただけると……」
依頼を受ける話になってはいるし、祈るような面持ちでイサクさんにそうお願いされてはさすがに断り難い。
俺としては南の森には明日にでもと考えていたんだけどね。
フェルとドラちゃんに聞いてみると、『嫌なことはさっさと終わらせた方がいい』とのことであっさり了解も得られたので(スイはぐっすり寝ているから事後承諾になっちゃうけどね)、俺たち一行はすぐさま南の森へと向かうこととなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たち一行は、南の森の中へと入って大分奥まで来ていた。
「鳥の鳴き声一つ聞こえないな……」
森の中を不気味な静けさが覆っていた。
『大方アホのヘビ公が食っちまったんだろうよ』
アホのヘビ公って、ドラちゃん……。
もっとマシな呼び方あると思うぞ。
『おい、あれを見ろ』
フェルの呼びかけに背中から降りる。
そしてフェルの目線の先を見ると、低木をなぎ倒しながら何かが這っていったような痕跡が。
相当な重量があるのか、地面が少し凹んでいるのも見て取れた。
「これ、タイラントフォレストパイソンが這って行った跡か?」
『うむ。この先にあれの気配もあるから間違いないな』
「この先からか。しかし、デカそうだな……」
これ凹みの幅が1メートル半くらいあるぞ。
『通常の個体より大きそうではあるな』
『大きい魔物、スイがビュッビュッてしてやっつけるんだー!』
森の中に入ってから起き出してきたスイはタイラントフォレストパイソンを倒すと張り切っている。
『おいおい、手柄の独り占めはダメだぜ。最初は乗り気じゃなかったけど、せっかくここまで来たんだから俺もヘビ公狩りには参加するからな』
『ドラの言うとおりだ。我だって来たからには狩りに加わるぞ』
『むー、スイは一人でも倒せるのにー』
「まぁまぁ、スイは拗ねないの。フェルとドラちゃんもいるんだから、みんな仲良く狩りをするんだぞ」
『しょうがないなぁ。分かったよー、あるじー』
そんな会話のあと、タイラントフォレストパイソンの痕跡をたどっていくと……。
『止まれ』
フェルの念話で歩みを止めた。
『いたぞ、あそこだ』
フェルが鼻先で指す方を見ると、木々の間をニシキヘビのような斑模様のバカデカいヘビがゆっくりと這いずっていくのが見えた。
「デ、デカいな……」
細長い胴体の高さがどう見ても俺の身長を超えてんだけど、どんだけの太さあるんだよ。
以前ドランのダンジョンで見た階層主のヘビの魔物ヴァースキやエイヴリングの最終階層にいたダンジョンボスのヒュドラに匹敵する大きさだ。
いや、もしかしたら大きさだけなら目の前にいるタイラントフォレストパイソンの方が大きいかもしれないぞ。
極度の緊張に思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
『おいっ、気付かれたぞ!』
飛んでいたドラちゃんが逸早く気付いた。
方向転換したタイラントフォレストパイソンの頭がこちらに向かって来ていた。
「えっ、ちょっ、動き早くないか?」
スルスルと軽やかな動きで迫ってくるタイラントフォレストパイソン。
それを見て思わず後ずさる俺。
『目の前に食いものがあるのだから当然だ』
「というか、こいつ俺に向かってきてないか?」
『ヘビ公にとっちゃこの中じゃお前が1番のご馳走だろうからな。ってかとっとと逃げろ! 俺たちの攻撃の巻き添え食うぞ!』
ドラちゃんからの指摘に走り出すが、獲物である俺を逃すまいとするタイラントフォレストパイソンの動きも素早かった。
クワッと大口を開いたタイラントフォレストパイソンがいつの間にか俺の目前にまで迫っていた。
「うわわわわっ」
思わず尻餅をついてしまった。
急いで立とうとすればするほど足がもつれる。
『何をやっておる。早くしろ』
俺と迫るタイラントフォレストパイソンとの間に悠然と立ったのはフェルだった。
「あ、ああ」
急いで立ち上がって、後方へ下がろうとした瞬間……。
ドンッ―――。
丸い何かがタイラントフォレストパイソンの横っ面にぶち当たり吹っ飛んだ。
『スイがあるじを守るよー!』
あ……。
今、フェルのいいところだったかも。
チラリとフェルを見ると口元がヒクついていた。
そういや前にもこんなことあったような気がしないでもないんだけど……。
『アーッハッハッハッ、フェ、フェル、お前っ、華麗に登場したいいとこで、アハハハハハッ』
「こ、こらっ、ドラちゃん笑いすぎだぞっ」
飛びながら腹を抱えて爆笑しているドラちゃんに注意する。
『だってよー、プププッ』
「フェ、フェル、ほら、スイはまだお子様だからさ、場の空気を読むとかは無理だし、な」
宥めるものの口元をヒクつらせ鼻息も荒いフェル。
「お、落ち着いて、な」
『すべてお前のせいだ。死ねい』
「えっ?!」
『フェルッ、独り占めはすんなって!』
ドラちゃんのその言葉と同時に、いつの間にか再び大口を開けて俺たちに迫っていたタイラントフォレストパイソンの目と鼻の中間辺りに先の尖った極太の氷の柱が撃ち込まれた。
その氷の柱に頭を地面に縫い付けられたタイラントフォレストパイソンは、そこから逃れようと細長く巨大な体をうねらせて後打ちまわる。
バキッ、ミシミシミシミィィィッ―――。
巨体を打ち付けられた木々が音を立てて次々と倒れていく。
「げっ、うおぉぉぉぉっ」
倒れる木々に巻き込まれないよう必死によけた。
『ぐぬぬぬぬ、最後にとどめを刺すのは我だっ! 死ねい!』
憎々しげにそう言ってフェルが前足を振り下ろす。
それと同時にタイラントフォレストパイソンの頭が胴体からスパンッと切り離された。
のはいいんだけど……。
「な、なぁ、これ、死んでるんだよな?」
頭を切り離されてなお、その下の部分はうねうねとうねっていた。
『頭を切り離されたのだから当然だ。心配いらん。これはいつもそうなのだ。しぶとく動いているが、しばらくすると沈黙する』
ちょっぴり不貞腐れた感じでフェルがそう言った。
『さてと、これで終わりだな』
飛んでいたドラちゃんが俺たちの前に着地した。
『えー、もう終わりなの~? スイ、ビュッビュッて出来なかったー』
体当たりの攻撃しかできなかったスイはちょっと不満気だ。
『フン、何を言うか。我のいいところを邪魔しておいて』
小声でそう口にして少し拗ねるフェル。
「まぁまぁ」
俺は苦笑いしながらフェルの肩をポンポンと叩いた。
『拗ねるなって。こんなのは余興に過ぎないだろ。本番はダンジョンだぜ!』
『まぁ、ドラの言うとおりか。この鬱憤はダンジョンで晴らすとしよう』
『そうそう。ってことで、さっさと帰ってドラゴンの肉食おうぜ!』
『おお、そうだったな。うむ、今日は腹いっぱいドラゴンの肉を食うぞ』
『ドラゴンのお肉~』
フェルとドラちゃんとスイに急かされるようにタイラントフォレストパイソンを回収し、俺たち一行はヒルシュフェルトの街へと戻った。




