第三百九十一話 なんちゃって油淋鶏
日が傾いてきたころ、街道の先に街が見えてきた。
事前に調べていた行程によると……。
「あれは多分ヒルシュフェルトって街だな。ちょうどいいし、街に入ろう」
『む、入るのか?』
「うん、その方がありがたいかな。もうそろそろ柔らかいベッドでゆっくり寝たいし」
『街なんか寄ってたら、ダンジョン行きが遅れそうじゃねえか?』
『ドラの言うとおりだ。ここはこのまま進むべきだろう』
街に入ろうと言ったら、フェルとドラちゃんが難色を示した。
「いやいや入ろうよ。ここまで来る途中、どこの街にもよってないしさ。ほら、冒険者ギルドからも言われてるじゃないか。途中の街ではできるだけ依頼をこなしてほしいってさ」
『しかしなぁ……』
「それにな、街に寄った方がちゃんと料理できるから美味い飯が食えるよー。いつもみたいに家を借りれば、広い風呂にも入れるし」
渋るフェルとドラちゃんに街行きをアピールする。
『美味い飯か』
『広い風呂……』
「そうそう。ダンジョンは逃げないんだからさ、ちょっと街に寄っていこうぜ」
『むぅ、ちょっとだけだぞ』
『広い風呂の家を借りろよな』
フェルとドラちゃんになんとか同意を得ると、俺たちはヒルシュフェルトの街へと入っていった。
ちなみにだけど、この間スイはいつもどおりに鞄の中でスヤスヤと眠っていたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リビングにある猫足の豪華な椅子に座り、腕を上げてグッと背中を伸ばす。
「ふ~、これで久しぶりにベッドでゆっくり眠れるな」
街に入った俺たちは、まず商人ギルドへと足を運びいつものように一軒家を借りることにした。
そして借りたのがこの家だ。
12LDKといつもよりちょっと大きいが、風呂が大きくて俺もドラちゃんも気に入ったことと、翌日行くことになっていた冒険者ギルドにも近かったのが決め手だ。
家が大きいのと立地条件が良かったことで、家賃は少々高めだったけど、フェルたちのおかげで金にも困ってないしということで、一軒目の紹介ではあったけど即契約した。
『ねぇねぇあるじー、ご飯はー?』
『うむ、我も腹が減ったぞ』
『俺も腹減ったな』
さっき座ったばっかりなのにすぐにそれかよ~。
「分かったけどさ、ちょっと休ませてよ」
ちょっと一息つかせてほしいぞ。
『街の方が美味い飯が食えると言ったのはお主なのだからな、期待してるぞ』
うっ……、変なプレッシャーかけないでほしいんだけどな、フェルさんや。
確かに言ったけどさぁ、今から一から作るのはちょっと面倒だぞ。
とは言っても、アイテムボックスに入ってる作り置きを出したらブーブー文句言われそうだしなぁ……。
となると、作り置きをアレンジして何か作るのがいいか。
そうなると……、よし、あれにしよう。
作るのは、作り置きのから揚げを使ったなんちゃってユーリンチーだ。
から揚げはみんなの好物ってことで、しこたま揚げてあるからまだまだたくさんあるからね。
冷凍のから揚げとか残り物のから揚げがあるときなんかに、ちょっと一味違った感じで食いたいときにはもってこいなんだよね、これ。
作るものも決まったし、キッチンへと移動だ。
うん、キッチンも豪華な造りだね。
ユーリンチーの香味ソースを作るだけなのが申し訳ないくらいだけど、今日のところはひとまずそれだけで。
ネットスーパーで香味ソースに使う白ネギとニンニクとショウガ、それからから揚げの下に敷くレタスを購入したらササッとつくっちゃいますか。
まずはユーリンチーの香味ソースだ。
白ネギはみじん切り、ニンニクとショウガはすりおろして、醤油・酢・水・ゴマ油・ハチミツと混ぜ合わせればユーリンチーの香味ソースの出来上がり。
超簡単。
ニンニクとショウガは面倒なときはチューブ入りを使っても十分美味い。
それに今日は手持ちにハチミツがあったから使ったけど、砂糖でももちろんOKだ。
味見をしてみると……、もうちょい酢を足してもいいかな。
ちょっとだけ酢を足して香味ソースの準備OK。
あとは下に敷くレタスの準備だな。
レタスは1センチ幅に切って冷水につけてパリッとさせる。
水気を切ったレタスを皿に敷いたら、アイテムボックスにある未だ揚げたての熱々のから揚げを載せていく。
そうしたら、その上から香味ソースをかければなんちゃってユーリンチーの出来上がりだ。
味見をしてみたけど、酢が入ったさっぱりな香味ソースがから揚げに絡んでたまらない美味さだね。
ユーリンチーの香味ソースは多めに作ってあるから、フェルたちのおかわり対策もばっちりだ。
ということで、早速リビングで待っているフェルたちの下へと運ぶ。
「出来たぞー」
『これはから揚げか? から揚げならつい先日も食ったばかりではないか……。まぁ、美味いからいいが』
「から揚げはから揚げだけど、その上にさっぱりした香味ソースをかけてあるんだ。また違った味わいで美味いからとにかく食ってみなよ」
そう言うと鼻をヒクヒクさせたフェルがなんちゃってユーリンチーを頬張った。
それをゴクリと飲み込んだあとはガッフガッフと勢いよく食っていく。
ひとまずフェルは気に入ってくれたみたいだ。
『そのままのから揚げもいいけど、こういうさっぱりしたソースをかけて食うのもまた美味いな!』
ドラちゃんもそう言いながらなんちゃってユーリンチーにかぶりついている。
『このちょっと酸っぱいタレがから揚げととっても合ってるのー。スイ、これ大好きだなー!』
そう言うスイの皿からなんちゃってユーリンチーが瞬く間に消えていく。
『おい、おかわりだ』
『俺もおかわり!』
『スイもおかわりー!』
みんなが満足するまでなんちゃってユーリンチーを出してやったよ。
俺もその間になんちゃってユーリンチーを堪能させていただきました。
白飯との相性抜群で、ちょい食いすぎたけどね。
そして、食後は約束でもあったデザートを。
フェルは例のごとくイチゴのショートケーキを口回りを白くしながら美味そうに食っている。
ドラちゃんはプリンを大事そうに抱えながら美味そうに食ってるな。
スイは大好きなチョコレートケーキを嬉しそうにプルプルしながら取り込んでいた。
俺はちょっと食い過ぎたので、デザートはなしで最近嗜むようになった紅茶を。
「明日は朝飯食ったら冒険者ギルドに顔出すからな」
『依頼か。むぅ、早くダンジョンへ行きたいのだがな』
「まぁまぁそう言うなって。フェルたちが面白そうって思う依頼があるかもしれないだろ」
『そうだといいけどな』
「ドラちゃんもそう言うなって。行ってみなきゃわかんないんだしさ」
『あるじー、大丈夫だよー。スイがみんなやっつけちゃうもん』
「そっかそっか、頼りにしてるぞ。それじゃみんな食い終わったみたいだし、風呂入るか」
俺は、カップに残っていた紅茶を飲み干して椅子から立ち上がった。
『おうっ、風呂だ風呂!』
『お風呂~』
風呂好きのドラちゃんとスイは久々の広い風呂に喜んでいる。
「フェルも入るか?」
『入るわけなかろう。我は先に寝る。布団を用意しておけ』
「はいはい、フェル用の布団ね」
主寝室にフェル専用の布団を敷くと、フェルがゴロンと横になる。
「じゃ、風呂入ってくるからな」
『うむ』
あぁ、いつもの通り当たり前みたいに主寝室にフェルの布団敷いちゃったけど、12LDKもあるんだから1人一部屋でもよかったかも。
今更他の部屋になんて言えないし、まぁいいか。
そんなことを考えながら、ドラちゃんとスイの待つ風呂場へと向かった。
そして、先に風呂に入っていたドラちゃんとスイとともに久々の広い風呂を堪能した俺だった。




