第三百九十話 スイ特製中級ポーション
先日、活動報告でお知らせしましたが『コミックガルド』にてコミック11話目更新してます!
よろしかったらご覧ください。
ニコニコ静画の方では第6話が更新されているので、見逃した方はそちらでどうぞ。
4月25日には、とんでもスキルで異世界放浪メシ 5 ドラマCD付き特装版(もちろん通常版もありますよ)&コミック2巻が発売となりますので是非是非よろしくお願いいたします!
以前、ワイバーンに襲われた冒険者にスイ特製上級ポーションを使ったら毒も消えたのを思い出した。
もしかしたら、スイが作る特製ポーションには毒消しの効果もあるのかもしれない。
『フェル、ワイバーンの毒って致死毒なのか?』
念話でフェルに聞くと『そうだ』という答えが返ってきた。
『この森サソリと比べてはどうなんだ?』
『どちらも致死毒ではあるが、ワイバーンの方が若干強い毒かもしれん』
なるほど。
となると、森サソリの麻痺毒だとワイバーンの毒を消した上級ポーションまでは必要ないかもしれない。
とりあえずスイ特製中級ポーションで様子を見て、効かなそうだったら上級ポーションで対応しよう。
「あの、毒消しではないんですが、このポーションなら毒にも効果があると思います。そういう話で買ったものなので」
ちょっとボカしてそう伝えてみた。
「本当か?! そんなものがあるとは。おい……」
「ああ。パーティーの評判にも関わる。ランクが上がってようやく得意先が増えてきたところだし、できるなら評判を落としたくはない。是非使わせてほしい」
2人の決断は早かった。
俺は、手持ちのスイ特製中級ポーションを渡した。
ローブ姿の男が、すぐさま横たわるメンバーの麻痺毒を受けた腕の傷口にスイ特製中級ポーションをかける。
赤黒く変色していた腕の傷口がみるみるうちにふさがり、肌の色も通常の肌色に戻っていった。
「うぅ……」
薄っすらと目を開ける毒を受けたメンバー。
「おおっ、気が付いたか!」
心配そうに様子を見ていた革鎧の男が声をあげた。
「これを飲め」
ローブ姿の男が毒を受けたメンバーの頭を持ち上げて、残っていた中級ポーションを飲ませていった。
少しすると、毒を受けたメンバーの意識もはっきりとして自力で起き上がるまでに回復した。
「毒が消えるのが早いな」
「傷の治りもすこぶるいいぞ」
スイ特製中級ポーションの効果に、ローブ姿の男も革鎧の男も驚く。
俺としてもちょっぴり鼻高々だ。
スイが作りましたとは言えないけどね。
「これでなんとかなりそうだ。本当に助かった。ありがとう。それで、値段なんだが……」
効果の高さに上級の相当いいポーションだと思ったらしく、手持ちの金で足りるか気にしていた。
普通の中級ポーションが確か金貨1枚だったから、その値段を言うと仰天していた。
その効きめで本当にそれでいいのかって何度も聞かれたけど、スイ特製ではあるけど中級ポーションには間違いないからね。
というか、スイに頼んで作ってもらったものだから元手はゼロだし。
だから金貨1枚でいいって言ったんだけど、あの効果でそれでは少な過ぎるって倍の金貨2枚渡されたからありがたくもらうことにしたよ。
その代わりといっては何だけど、中級ポーションが余っていたら買い取りさせて欲しいって話が出たから、喜んで売ってあげたよ。
スイ特製中級ポーションはけっこう在庫があったからね。
「助かるよ。この先のことも考えたら、ここで毒に効くポーションを手に入れられたのはありがたい。っと、バタバタしていて自己紹介がまだだったね」
この3人は最近Cランクにあがったばかりの“トリックスター”という冒険者パーティーだという。
リーダーがローブ姿の魔法使いジェレミア、革鎧の剣士ルミール、毒を受けてしまったのが斥候のリュック。
3人で王都行きの乗合馬車の護衛を請け負い、王都に向かう途中なのだそうだ。
俺も名乗って、一応Sランクだと伝えるとものすごいびっくりしていた。
まぁ自分で言うのも何だけど、とてもSランク冒険者には見えないからね、ハハハ。
「さすがSランクだ。いい薬持ってるよ。そのおかげで助かったんだから、俺たちは運が良かったな」
ルミールがそう言うと、ジェレミアもリュックも「ああ」と頷く。
そして、リュックはポーションの出所が俺だと知って何度も礼を言ってきた。
「まさかこの辺りにジャイアントフォレストスコルピオンが出てくるとは思いもしなかったぜ……」
リュックのその言葉に他の2人も神妙な顔をしながら頷いている。
話では、どうやら森サソリは普段はこの辺では見かけない魔物のようだ。
そもそもこの辺で毒持ちの魔物が出るという話はなかったようだから、毒消しを持っていなかったのも納得だ。
ここでジャイアントフォレストスコルピオンが現れたということは、この先ももしやということがある。
そのことを考えると、ここで俺から毒に効くスイ特製中級ポーションを手に入れられて良かったという話だった。
そんな感じで少しの間3人と話した後……。
「乗客の方も落ちついてきたようだし、リュックも大丈夫そうだから、俺たちもうそろそろ行きます」
さっきからフェルたちが念話で『行こう、行こう』うるさいからね。
こんなところで止まってないで、早くダンジョンに向かって進みたいということらしい。
「本当に助かった。ありがとな!」
「俺たちは普段は王都にいますんで、王都に来たときは声掛けてください。案内しますよ」
「ありがとうございました!」
「それじゃ、お先に」
乗合馬車と“トリックスター”の3人を残して、俺たちは街道を進んだ。
森サソリことジャイアントフォレストスコルピオンは、毒や殻などが素材になるらしく、けっこういい値で買取してもらえるとのことで、もちろん俺の方で回収させてもらったよ。
しかし、普段はこの辺では見かけることのない森サソリが出たってのは気になるな……。
何かに追われて来たとか?
いやいや、まさかね。
偶然だよな、偶然。
…………だよな?
『おい、何をボーっとしている? しっかりつかまっていろ』
急に頭の中に響くフェルの声。
「おわっとと」
バランスを崩しそうになる寸前に、しっかりとフェルの首につかまった。
『わ、分かってるよ!』
『ハハハッ、落ちんなよーお前ー』
今度はドラちゃんから念話で茶々が入った。
ドラちゃんは飛べるからって笑うなよなー、まったくもう。
『あるじー、お腹すいた~』
鞄の中のスイからは腹が減ったと念話が。
『もうちょっとしたらねー』
『うむ。我も腹が減ったが進めるだけ進むぞ。そうすればよりダンジョンに近づくのだからな』
『ああ、ダンジョンに早く行きたいもんな!』
『分かった~。スイもダンジョン早く行きたいから我慢するー』
フェルたちの食欲に打ち勝つとは、ダンジョン恐るべし。




