第三百八十九話 エルマン王国入国
「あそこが国境か。人が多いな」
レオンハルト王国とエルマン王国は交流が盛んって話だったから、人の行き来も多いようだ。
俺たちも早速国境を越えるための列に並んだ。
フェルたち(主にフェルのだけど)の姿を見て驚く者が多数出るが、大人しく俺を乗せている姿に「なんだ従魔か」とホッと一安心するまでがお約束。
見ていると、交流が盛んなだけあって国境を通り抜けるのもギルドカードがあれば比較的すんなりといくようだ。
これなら大丈夫かな。
そう思いながら、国境の兵士にギルドカードを見せた。
見せたのはいいんだけど、何で俺の番が来た途端に今までの兵士に代わってちょっと偉い感じの人が来たのかな?
「ム、ムコーダ様ですね。エルマン王国へようこそ。わ、我が国を楽しんで行ってください」
「はぁ」
他の人のときは無言のままギルドカードを確認するだけだったのになと思いながら兵士からギルドカードを返してもらった。
国境の門をくぐるとき、兵士たちのヒソヒソ話す声が聞こえてきた。
「あれがフェンリル連れの冒険者か」
「ちっこいドラゴンとスライムも連れてるそうだぞ」
「隊長、めっちゃ緊張してたな」
「そりゃあそうだろう。王宮から直で来たお達しなんだから。フェンリル連れのムコーダとかいう冒険者が現れた場合にはくれぐれも丁重に接するようにってさ」
「でも、貴族みたいな大袈裟な扱いはご法度だったっけ?」
「そうそう。あくまで自然にって話だった」
「あと、出来れば我が国のアピールもさりげなくするようにって無茶ぶりの指令だったからな」
「隊長、やり遂げてホッとしてるぜ」
「そりゃそうだろ。伝説の魔獣を目の前にして指令を完璧にこなしただけでもスゲーよ」
「だな」
……レベルアップして耳が良くなってるからバッチリ聞こえてるよ。
でも、俺たちのことが王宮から直で指令が来るって、レオンハルト王国からなんか通知がいったのかな?
よくわからんけど、ま、まぁ、無事にエルマン王国へと入国できたからよしとしよう。
『ダンジョンはこの国にあるのだろう? 早く行くぞ』
『早く潜ってみてーな!』
『ダンジョン、ダンジョン』
「みんな焦らないの。ブリクストのダンジョンまではまだまだ遠いからね」
『む、そうなのか?』
「ああ。今ちょうど半分くらいかな。それでも速いペースで来てるんだぞ。普通なら馬車を使っても2か月近くかかるらしいからな」
『なんだ、ダンジョンまではまだまだなのかよー』
『早く着くといいなぁダンジョン~』
ダンジョンまではまだかかると分かってちょっとガッカリするフェルとドラちゃんとスイ。
「ダンジョンは逃げないんだからさ、もうちょっと旅を楽しもうぜ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョンのあるブリクストに向けて街道を進む俺たち一行。
『おい、前方に魔物に襲われているやつらがいるぞ』
走るフェルから念話が入った。
『え?』
『襲ってる魔物は森サソリだな』
『森サソリ? サソリっていうと毒とかあるのか?』
『うむ。あるな。彼奴は小賢しいことに2種類の毒を使い分けるのだ。食えないものには即死系の毒を使い、餌になるものには麻痺系の毒を使うのだ』
『あわわわわわっ、早くそれを言えーっ! ドラちゃんっ、先行して助けてあげて!』
そうお願いすると、ドラちゃんが『了解だぜ!』とものすごいスピードで飛んでいった。
『俺たちも急ぐぞ』
『うむ。まぁ、ドラが行ったのだから心配はないだろうがな』
俺たちもドラちゃんの後を追った。
「おーい、大丈夫ですかー?」
見えてきたのは簡素な馬車とその周りにへたり込む人たち。
未だ恐怖に呆然としていた。
『ドラちゃん、森サソリってのは?』
『もちろん倒したぜ。ほら、あそこに』
「うおっ、デカいな……」
ドラちゃんが指差す馬車の前方を見ると、尾まで含めると3メートル以上はありそうなデッカいサソリが死んでいた。
凶悪なその姿に思わず顔を顰める。
『フフン、氷魔法で串刺しにしてやったぜ』
そう言って得意げなドラちゃん。
「お手柄だ、ドラちゃん」
『なら、今日のデザートのプリン倍にしてくれよ』
「あー、はいはい分かった分かった」
『む、それを言うなら森サソリに襲われている此奴らのことを教えた我にも手柄はあるだろう』
「分かった、分かった」
『プリンー? 甘いおやつ食べるのー?』
ああ、プリンの話が出たからスイも起き出して鞄から出てきちゃったよ。
「甘いのは夕飯のあとな」
『今じゃないのか~……。あっ、見たことないのがいるー!』
森サソリを見て興味を持ったのか、スイがポンポンと飛び跳ねている。
『へっへー、俺が倒したんだぜ!』
『ドラちゃんがー? いいなぁ~スイが倒したかったー』
あの凶悪そうなデカいサソリを見てもうちのトリオは誰も物怖じしないんだね、ハハハ……。
俺なんて死んでるって分かっててもあんまり近付きたくないのに。
「ジャイアントフォレストスコルピオンを倒した小さいドラゴンは、あんたの従魔か?」
革鎧を着た20代半ばの冒険者らしき男から声がかかった。
「ええ」
「助かった。ありがとう」
「あの、あの魔物は森サソリというんじゃ……」
「通称でそう言われてるところもあるようだな」
フェルが森サソリと言ったこの魔物の正式名称はジャイアントフォレストスコルピオンというらしい。
「馬車の周りにいる人は大丈夫そうですけど、けが人はいませんか?」
「それが、俺のパーティーメンバーの1人が麻痺毒を受けてしまってな……。助けてもらったうえにこんなことを聞くのは厚かましいが、毒消しポーションを持っていないか? 持っているのなら買わせてほしい」
うーむ、さすがに毒消しポーションは持ってないなぁ。
正直に持ってないと言うと、期待はしていなかったのか「やっぱりそうだよな……」と言ってガックリと項垂れた。
麻痺毒なら命に別状はないんじゃないのか?
そう思っていると、革鎧の男と同じパーティーメンバーなのだろう、同年代のローブ姿で細身の男がやってきた。
「毒消しはさすがに持ってなかった?」
「ああ」
「もうこれはしょうがないよ。あいつが死ななかっただけでも御の字だと思って諦めよう」
「それしかないな」
2人ともかなり渋い顔をしてるけど、大丈夫かな。
「あの、どうかしましたか?」
「ああ、すまん。あんたに言っても仕方がない話だが……」
話を聞いてみると、これは乗合馬車の護衛の依頼だったらしいのだが、このままだと依頼の失敗とまではいかないが、パーティーの信用問題になってきそうだということだった。
この森サソリことジャイアントフォレストスコルピオンの麻痺毒は、もう1つの即死系の毒とは違い死ぬことはないのだが効果が強く毒が抜けるまで丸1日くらいかかってしまうそうなのだ。
「俺たちは、俺とこいつと毒を受けたやつの3人組のパーティーだからな。そのうち1人が丸1日動けないうえに、狭い馬車に寝かせてもらうことになるんじゃあな……」
護衛として依頼しているわけだから、そのうち1人がその仕事を果たせないっていうのは確かに問題があるかもしれないな。
「毒消しポーションがあれば挽回の余地はあったのですが、ないものは仕方ないです」
幸いにして、乗合馬車も無事だし御者の人もお客さんにもけが人はいない。
毒消しポーションでメンバーが回復していれば、何とかそこまでの問題に発展することなく納められたのにということだった。
俺の場合はフェルたちがいるおかげで、ありがたいことにこういうこととは無縁だけど、普通の冒険者にとって信用ってけっこう大事なのかもしれない。
指名依頼の数にもかかわってくることだし。
まぁ、信用っていうのはどんな仕事でも大事なものではあるけどさ。
しかし、毒消しポーションまではさすがに持ち合わせてないもんなぁ。
普通のというかスイ特製ポーションならあるんだけど。
…………待てよ、毒消し?
あっ!
いけるかもしれない。




