第三百八十八話 まぁ、考慮はする
その日の夜、昼間のうちに用意した神様たちのお供え物の受け渡しをする。
「まずはニンリル様ですね」
ニンリル様の段ボールをアイテムボックスから取り出してテーブルの上に置くと同時に淡い光と共に消えていった。
ちょっとちょっと、消えるの早すぎやしないか?
『ケーキィィィィィッ、やっとやっとなのじゃーっ』
その声とともにビリリッと段ボールを開ける音。
『ハァ……。ニンリルちゃん、あなた前回と同じじゃない』
『だなぁ。ってか分かってるなら一気食いしないで次まで保たせりゃいいのにな』
『……おバカ過ぎる』
『彼奴、学習能力がないのう』
『まったくだ』
神様たちの呆れた声が聞こえてくる。
ニンリル様ェ……。
『あら、学習能力がないって、あなたたちにも言えることじゃないかしら?』
『そうだな。ウイスキーはまだかって言ってるのよく聞くしよ』
『……ハァ』
酒好きコンビへ女神様たちからの突っ込みが入る。
『うっ』
『ギクッ』
『た、確かに最後の方にはウイスキーを切らしちまうけどな、彼奴よりはマシだと思うぞ』
『そ、そうだっ。あいつほどひどくはない』
ヘファイストス様、ヴァハグン様、それ同じ穴の狢だと思うんだ……。
『お、おいっ、次だ次。ムコーダよ、次へ行け』
あ、逃げた。
まぁいいか。
はいはい、次ですね。
「次はキシャール様ですね」
キシャール様用の美容製品の詰まった段ボールをテーブルに置いた。
『うふふ、待ってたわよ~。ありがとうね~』
「あ、最近少しお肌のくすみが気になるということだったので、泥パックを新たに入れておきました」
『泥パック?』
「はい。何でも美容にいい泥を使ったパックで、くすみの原因の毛穴の奥にたまった汚れを取り去ってくれるとのことです。目の周りを避けて塗って15分くらい置いてから洗い流してください。そうそう、入浴中にするのがおすすめだそうですよ」
『へ~、ちょうどこれからお風呂だし早速やってみるわ』
ビリビリって音がするから、キシャール様もその場で中身チェックしてるみたいだね。
泥パックは初めてだから気になったんだろうな。
「それでは次はアグニ様です」
ビールの詰まった重量のある段ボールを置いた。
『待ってたぜー。ビール、ビール~。あんがとな! さぁて、帰って早速ビール飲むぜ!』
ドタドタと足音が聞こえた。
あらら、アグニ様はさっさと行ってしまったようだ。
まったく自由な神様たちだな。
『次は私』
「はい、ルカ様ですね」
アイスとケーキの入った段ボール。
その上にネットスーパーで買った土鍋に用意した鍋だ。
フタをかぶせてあるからあとは火にかけて煮てもらうだけになっている。
『アイスとケーキ。お鍋は明日食べる。ありがと』
タタタタタと足音が聞こえたからルカ様も行ってしまったようだ。
『次は儂たちじゃな!』
『ウイスキー、ウイスキー』
酒好きコンビのウキウキとした野太い声。
ホント、好きだねぇ。
「今回はスコッチウイスキーを中心に選んでみました」
『いつものは入ってるのか?』
「もちろんお二人がお気に入りの世界一のウイスキーも入ってますよ」
『さすが分かっとるのう』
『うんうん』
「それじゃどうぞ」
『感謝するぞい、ムコーダ!』
『ありがとよ!』
『よしっ、今夜は飲むぞ~戦神の!』
『あたぼうよ! 鍛冶神の!』
ドッタンドッタンという足音とガハハと酒好きコンビの上機嫌な笑い声が遠ざかっていく。
ふぅ、終わったな。
『ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけど』
ん?
この声はキシャール様か?
あれ、まだ撤収してなかったんだな。
『ちょーっと聞きたいことがあったから待ってたのよ』
「聞きたいことって何ですか?」
『今のあなたのレベルよレ・ベ・ル。急かすわけじゃないんだけど、次のテナントもうそろそろじゃないのかしら~って。ほら、他のみんなは希望のテナントが入ってるから万々歳なわけじゃない。でも私の場合はねー……』
ああ、そうかテナントか。
そういや最近ステータス確認してなかったな。
言われてみりゃ、確かにキシャール様の希望のテナントだけが入ってないもんな。
気にもなるか。
「しばらく確認してないんで確認してみますね。でも、そんなに戦闘はしてないからたいして上がってないと思いますけど……。ステータスオープン」
【 名 前 】 ムコーダ(ツヨシ・ムコウダ)
【 年 齢 】 27
【 種 族 】 一応人
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人 冒険者 料理人
【 レベル 】 78
【 体 力 】 467
【 魔 力 】 460
【 攻撃力 】 449
【 防御力 】 441
【 俊敏性 】 365
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 火魔法 土魔法
従魔 完全防御 獲得経験値倍化
《契約魔獣》 フェンリル ヒュージスライム ピクシードラゴン
【固有スキル】 ネットスーパー
《テナント》 不三家 リカーショップタナカ
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(小) 火の女神アグニの加護(小)
土の女神キシャールの加護(小) 創造神デミウルゴスの加護(小)
確か前に確認したときはレベルが77だったから1つ上がったのか。
「レベル78になってますね。1つだけ上がってました」
『そのようね。確か次はダンジョンに行くんだったわよね?』
「ええ。不本意ながら……」
『不本意かどうかは知らないけれど、次のテナント解放のレベル80になる可能性は高いわよね』
「ダンジョン潜ったあとはレベル上がりますからね。その可能性は高いかと思います」
『もし、もしよ、ドラッグストアが出たら、そのときはお願いっ』
美容製品命のキシャール様なら、そりゃあそうだよなぁ。
まぁ、ドラッグストアならいろいろ売ってて便利だし、選択肢にあった場合は選ぶのもやぶさかではない。
入浴剤なんかもネットスーパーよりも種類も豊富になるだろうから、風呂好きの俺としては嬉しいところだし。
ドラちゃんとスイも風呂が大好きだから喜びそうだな。
「選択肢にあった場合はですからね」
『もちろんその辺は分かっているわよ~。あとは選択肢にドラッグストアがあるのを祈るばかりね』
ハハ、女神様なのに祈るんだね。
『それじゃ、そのときはお願いね』
「分かりました」
3つ目のテナントか。
さて、何が選択肢に出るのやら……。
「みなさん散ったかな? 最後はデミウルゴス様に……」
『ホッホッホ、お呼びかな?』
「うおっ……」
早いよ、デミウルゴス様。
「ええと、いつもの日本酒とおつまみです。お納めください。それから、今回は芋を原料とした芋焼酎も入れてみましたのでそれもどうぞ」
『芋の酒とな。それは楽しみじゃ。彼奴らのも含めて、いつもすまんのう』
「いえいえ、みなさまの恩恵にあずかっていますのでこれくらいは」
『そうか。今度、ダンジョンに行くそうだな?』
「はい」
『20階辺りをよーくと探してみるとええことがあるかもしれんのう。フォッ、フォッ、フォッ』
え、20階?
ええこと、か。
デミウルゴス様の話だから頭に置いておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、いよいよ隣国のダンジョンに向けて出発だ。
みんなに見送られて家を後にした。
そして、冒険者ギルドに寄って魔道具の買取代金を回収。
押しなべて旧型ということもあって、高額買取とはいかなかった。
何せ貯め込んだ盗賊王自体ウン百年前の人なんだから。
ま、しょうがないね。
冒険者ギルドに寄った後は、まっすぐ門へと向かう。
すぐにでも向かいたいフェルたちの手前寄り道は厳禁だ。
そして……。
『いよいよ難関ダンジョンか。早く潜りたいものだ』
『ああ。どんな魔物が出るのか楽しみだな!』
『スイもダンジョン楽しみ~』
「いやいや、まだだからな。その隣国のダンジョンまでの行程を調べたら、けっこうな距離あるんだから。ローセンダール、この間の肉ダンジョンがある街だな、あそこよりも遠いみたいだぞ」
『フ、そんなもの我の足にかかれば造作もない。すぐにたどり着いてみせるわ』
「え? すぐにって、待て待て。俺はいつものようにフェルの背中に乗せてもらえるんだよな?」
『む、お主がいたか。まぁ、考慮はする』
「お、おい、考慮はするってどういう……」
『スイはいつものとこにいるな』
『うん、いるよ~』
『ドラは我の速さにも付いてこれるから問題ないな』
『もちろんだぜ』
『よし。では、隣国ダンジョンに向けて出発だ』
俺を乗せてグングンとスピードを増すフェル。
「エ……、ちょっ、ちょっ、考慮はっ?!」
『考慮したうえでこの速さだ』
「全然考慮してないだろうがぁぁぁぁぁぁっ! おわぁぁぁぁぁぁっ」




