第三百八十六話 ちょっとほっこり&え、そゆこと?
今日もみんなには朝から詰め替え作業に従事してもらっていた。
午前中は俺も作業を手伝った。
昨日と今日の午前中で、【神薬 毛髪パワー】もシャンプーやらもある程度の量は確保できたのでホッとしたところだ。
これならば午後はそこまで根を詰めて作業しなくても大丈夫だろう。
作業のキリのいいところでみんなに声を掛けて昼飯にすることにした。
メニューは、昨日作ったビーフカツを使ったビーフカツサンドだ。
軽く焼いた食パンにバターと和がらし(スイと子どもたちがいるので少なめだ)を塗って、その上にとんかつソースを絡めたダンジョン牛のビーフカツを載せてパンで挟んだら、ギュッと押さえて馴染ませる。
ただそれだけの実にシンプルなビーフカツサンドだ。
しかしながらこれが美味い。
ちょっといい肉を使ったビーフカツで作るならキャベツやらレタスやらはなしのこの作り方が個人的には一番だと思っていたりする。
ロッテちゃんがニコニコ顔でビーフカツサンドにかぶりついていた。
「美味しいね!」
オリバー君とエーリク君、コスティ君にセリヤちゃんも笑顔でパクついている。
やっぱり子どもたちにはこれくらいガッツリ食えるものが人気なんだろう。
とは言え、大人たちも実に美味そうに食っているけど。
まぁ、自分で作っておいて何だけど、このビーフカツサンドは美味いからね。
フェルとドラちゃんスイも夢中でパクついている。
『おい、おかわりだ』
『俺にもくれ!』
『スイもおかわり~』
早っ。
気に入ったのは分かるけど、みんな食うの早いって。
ここは多めに出しておくか。
皿の上に出来上がったビーフカツサンドの山。
それを出してやると、嬉々としてガッツき始めるフェルとドラちゃんとスイ。
「はぁ~、しかし昼間っからこんな美味いもんが食えるとは最高だよなぁ」
アーヴィンがしみじみとそう言うと、特に元冒険者組が同意するように頷いていた。
「冒険者稼業やってたら、昼飯食える方が少ないからなぁ」
続くルークのその言葉に元冒険者たちは「そうだよな」と言い合っている。
え?
俺も一応冒険者だけど、毎日三度三度しっかり食ってるぞ。
忙しくって時々は昼飯なしのときもあるけど、そういう時はフェルたちから非難轟々だからな。
それを避けるためにも飯抜きは極力避けて、しっかりと飯の時間は確保するようにしてるし。
「依頼中はほぼ携帯食で済ませることになるしのう。護衛なんかの長期の依頼中は最悪じゃった……」
顔を顰めながらバルテルがそう言った。
「携帯食ってものすごく不味いよね……」
ペーターが静かにそう言うと、元冒険者たちが深く頷いている。
俺も携帯食の存在は知っていた。
ネットスーパーという便利スキルがある俺には無縁のものだったけどね。
小麦を練って焼いたものだとは聞いているけど、とにかく激マズだそうだ。
それでも簡単にエネルギーを補給できるものとして、旅をする者や冒険者たちには欠かせないものだというけど。
「あれって食うと口の中の水分全部持ってかれるよなぁ。ボソボソしたのが口に残って不味いのなんのって」
「アーヴィンの馬鹿垂れ、最高に美味しいもの食べてるってのにどうしようもなく不味い携帯食の味思い出させるんじゃないよっ」
余計なことを言ったアーヴィンがタバサにバチコンッと頭を叩かれる。
「痛っ、あにすんだよ! ってか、ムコーダさんも冒険者ならあの携帯食の不味さは分かるだろ?」
アーヴィンよ、何故そこで俺に振る?
「い、いや、あのな……」
しどろもどろになっていると、元冒険者組はもちろんアルバン一家やトニ一家からも注目されていた。
「えーっと、携帯食があるのは知ってたんだけどな、買う必要もなかったというかさ……。ほら、俺の場合は不味いって分かってるものを買うわけにはいかないじゃん」
俺はそう言ってフェルとドラちゃんとスイを見た。
不味いものなんて出そうもんなら……。
もしかしたらフェルなんて暴れ出すかもしれないよ。
伝説の魔獣と言われているフェルが暴れたりしたらさ……。
ブルッ。
考えたくもないね。
『不味いものだと? そんなものを出したら……、お主、分かっておろうな?』
耳ざとく聞いていたフェルが胡乱げな目をしてそう俺に言った。
「も、もちろんだよ。今まで不味いものなんて出したことないだろ?」
『フン、分かっているならいい』
俺とフェルとのやり取りを聞いていたみんなが「ああ~」というような納得顔をしていた。
「ムコーダさんも案外苦労してるんだなぁ」
みんなを代表するかのようにルークがそう言った。
まぁフェルとドラちゃんとスイがいてくれてすごく助かっているけど、飯に関しては多少ね。
ほら、うちのみんなはこう見えてみんなグルメだからさ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェルから『魔道冷蔵庫を使った料理はどうした?』と急かされて、から揚げにすべく醤油ベースのタレと塩ベースのタレにコカトリスの肉を大量に漬け込んで魔道冷蔵庫に仕込んだところで、アイヤから声がかかった。
「ムコーダさん、頼まれていたものが全部終わりました」
「おお、もう終わったのか。ご苦労さん」
地下室に行って確認すると、きれいに瓶詰めされて木箱に並べられた【神薬 毛髪パワー】とシャンプーやらがたっぷりと入った壺やら石鹸が隙間なく入った木箱やらが大量にあった。
【神薬 毛髪パワー】は別として、シャンプーやら石鹸やらは少なめにみても数回の納品分はあるんじゃないかな。
とりあえず明日ランベルトさんに納品する分として十分だろう。
みんなにリビングに集まってもらって、約束だった欲しいもののリクエストを聞いていくことにした。
「みんなご苦労様。約束だった1つだけ欲しいものをっての聞いていくぞ。何がいい?」
俺がそう言って最初に手を挙げたのは、やはりというか物怖じしないロッテちゃんだった。
「ハイハイハイッ、ロッテ甘いものがいい!」
両親であるアルバンとテレーザは苦笑いしてるけど、約束は約束だからね。
「甘いものか、ちょっと待っててね」
ネットスーパーを開く。
甘いものというと菓子だな……、お、飴なんていいかも。
これなら長く楽しめるしもってこいだな。
へ~、昔懐かしいこんなのも売ってるんだ。
見つけたのは昔懐かしい缶入りドロップだった。
よくある個包装よりこっちの方が何が出てくるのか楽しみもあるしいいかも。
よし、これにしよう。
「はい、これね。えーと、これはここのフタを開けて……」
缶のフタをパカンと開けた。
「ロッテちゃん、手を出して」
ロッテちゃんのちっちゃな手のひらにドロップを1つ出した。
「うわぁ、キレイ~」
「口の中に入れて舐めてごらん」
俺がそう言うとロッテちゃんがポイっとドロップを口の中へ。
「甘くておいひぃ!」
「だろ。この缶の中にいろんな味のが入ってるんだよ。美味しいからって、食べ過ぎないようにな」
そう言ってロッテちゃんにドロップの缶を渡すと大喜びしている。
「次は誰かな?」
そう言いながらみんなを見渡すと、何か言いたげにもじもじしているセリヤちゃんが目に入った。
「セリヤちゃん、何が欲しい?」
「えっと、あのっ、ちょっと待っててください」
そう言ってセリヤちゃんが部屋を飛び出していった。
そして少しして戻ってきたセリヤちゃんの手には、俺がローセンダールに行く前に渡したノートがあった。
「これが欲しいですっ」
「あれ、もう使い切っちゃったの?」
セリヤちゃんからノートを見せてもらうと、字の練習に使ったのかびっしりと文字が書きつけてあった。
それこそ余白部分まで余すことなくすべて使い切ったノートを見てちょっとほっこりした。
「こんなに隅の方まで使うなんて、勉強がんばったんだなぁ」
俺がそう言うと、セリヤちゃんが少し恥ずかしそうにしていた。
「あ、あのっ、僕も同じものがいいです!」
「ぼ、僕も!」
そう言ったのはロッテちゃんのお兄ちゃんのオリバー君とエーリク君だ。
2人も勉強がんばっているみたいだな。
ふむ、それならば……。
「はい。筆記用具一式ね」
3人に渡したのは、ノート10冊組と鉛筆1ダース、それから消しゴム3個組の筆記用具一式だ。
ノートをあれだけ使っているなら鉛筆も消しゴムも相当使っているはずだからね。
1つとは言ったけど、筆記用具一式とまとめてしまえば1つだ。
ノートや鉛筆、消しゴムはちゃんとまとめてパッケージされているし、何の問題もない。
俺が問題なしと言えば問題ないのだ。
「あの、僕にも同じものを下さい」
先生役であるはずのコスティ君も筆記用具一式を所望した。
何でもみんなに教えていて、自分もまだまだだと感じて勉強しなおしてるんだってさ。
偉いね~。
俺の学生時代なんて勉強はテストの前に仕方なくするくらいだったっていうのに。
みんないい子たちだよ、うん。
「あのっ、俺も同じものもらってもいいですか?」
「ん? ペーターもそれでいいのか?」
そう聞くとコクンと頷くペーター。
「勉強、楽しい。知らないことを知れるのは嬉しいし」
そういやペーターは勉強がんばってるって話だったな。
うんうん、いいことだ。
ペーターにも筆記用具一式を渡した。
「次は……、トニ、アイヤ、アルバン、テレーザ、何がいい?」
最初はトニもアイヤもアルバンもテレーザも遠慮していたけど、そうもいかない。
約束だし、もらった人ともらわない人が出てくるというのも不公平だしな。
何でもいいからと言ってようやく聞き出したところ、トニはちょっと太い枝を切るときに使える鉈を、アイヤは大きめのフライパン、アルバンは畑を耕すクワ、テレーザは大きめの鍋ということだった。
アルバンにクワと言われて、はてあったのではと思ったら、あるにはあるがどうも1本根元からポッキリと折れてしまっているそうなのだ。
他のものも使えなくはないが、どうもあまり状態が良くなくガタがきているという。
なのでできるなら丈夫なクワが欲しいとのことだった。
うーん、こりゃ買ったときのもの自体が良くなかったのかもしれないな。
フライパンと鍋はキッチン用品としてあるだろうけど、鉈とクワはネットスーパーに置いてあるか心配だったけど、問題なかった。
園芸用品のコーナーにちゃんとあったよ。
ネットスーパーの品揃えも馬鹿にできないなと改めて思ったね。
アイヤのフライパンはフッ素加工された焦げ付きにくく手入れも簡単な大きくて深めのフライパン、テレーザにはステンレス製の丈夫そうな大きめの鍋を購入。
トニの鉈とアルバンのクワは1種類ずつしかなかったから選べなかったものの、物は悪くないと思う。
みんなそれぞれの物を手にして嬉しそうだしね。
さて、最後はタバサと双子とバルテルだな。
何となく何が欲しいのか想像がつくけど。
聞いてみると……。
「儂は当然酒じゃな! 前にもらったあの強い酒がいいぞい」
「俺も酒がいいな! ビールってやつがいい」
「俺も同じ。ビールって酒、最初は苦いって思ったけど、不思議とだんだんあれが美味く感じてくるんだよなぁ」
バルテルと双子は思ったとおり酒だな。
「タバサは?」
「えっと、あの、アタシは……、ランベルトさんとこで売ってるシャンプーとトリートメントってのがほしいです」
あら?
タバサも酒だと思ってたけど違ったわ。
俺が支給してるのはリンスインシャンプーだし、もっと髪をいたわってサラサラ艶々にしたいならシャンプーとトリートメントが欲しいっていうのも分かるな。
「分かった。バルテルとアーヴィンとルークは酒で、タバサはシャンプーとトリートメントだな」
ネットスーパーを開いて目的の物を購入していく。
タバサのシャンプーとトリートメントはランベルトさんのところと同じものっていうのも特別感がない気がしたから、同じくらいの値段で違うメーカーのものを選んでみた。
ランベルトさんのところに卸しているものと同じく昔からあるブランドだけど、こっちはより髪のまとまりに重点をおいたものだから、毛量が多そうなタバサにもいいんじゃないかな。
香りもフルーティーフローラルないい香りだし。
「プッ、姉貴ってば色気づいて。見てたら気付いたけどペー「あっ、バカッ!」」
タバサをからかうようなことを口にしたアーヴィンの口をルークが塞ぐ。
バカだね~、タバサが般若みたいな顔になってるぞ。
「アーヴィン、ルーク、あとで話があるからね」
「ちょっ、何でっ?! 俺何も言ってないよね?」
「お黙りっ! 連帯責任だよっ」
「何だよそれ~。テメーが余計なこというからだぞっ」
ルークが不貞腐れてアーヴィンの頭を叩いた。
「いやぁ~悪い悪い。でもよ、ついな。姉貴のあんな姿見んの初めてじゃね? 初恋した乙女かっての、ハハハハハッ」
「ククッ、いや気持ちは分かるけどな、そこは黙っててやるのが弟ってもんだろ」
「アーヴィーン、ルーーーク、ちょっと黙ってようか……」
「タ、タバサ?」
気持ちは分かるけど落ち着け。
ってか、初恋って、え、君、恋してるの?
誰に?と思っていると、タバサが頬を赤らめてチラチラとペーターを見ていた。
え、そゆこと?
ま、まぁ、うちは恋愛は自由だから。
それに、俺は人の恋路を邪魔するような野暮な男でもないからね。
まぁ、どっちもいろいろとガンバレ……。




