第三百八十二話 はて、あの中にそんなものあったかのう?
短めです。
楽しい宴も終わり、ドラちゃんとスイとともにゆっくりと風呂に入って疲れを癒した。
あとは寝るだけだ。
フェルとドラちゃんとスイは早くも夢の中。
でも、俺にはもう1つだけやらないといけないことが。
デミウルゴス様へのお供えだ。
1週間に1度と決めていたけど、今回は旅の途中だったということもあって少し遅れてしまった。
物欲まみれの某神様たちと違って遅れたからといってデミウルゴス様が怒るようなことはないと思うけど、お詫びにいつものお供えの日本酒とプレミアムな缶つまを少し多めに取り寄せた。
それからリカーショップタナカで、梅酒の特集が組まれていたから梅酒も一緒に購入してみた。
何でもフルーティーな味わいと飲みやすさから、最近は女性だけでなく男性にも梅酒の愛飲者が増えつつあるということで特集が組まれたようだ。
その中におすすめランキングがあったので、今回もランキングの中から選ばせてもらった。
ここは素直にベスト3までの3本を。
ランキング3位のスパークリングタイプのまるでシャンパンのような梅酒。
自社生産のバラの香りも添加しているらしく、ほんのりとバラの香りも漂う高級感あふれる梅酒でボトルも梅酒というよりはシャンパンのようなオシャレな感じで贈り物としても喜ばれるとのこと。
ランキング2位はコロンとしたボトルが特徴的なブランデーベースの梅酒だ。
ブランデーをベースに手間と時間をかけて造ったこの梅酒は、とろりとした喉越しで是非ともじっくり味わってほしい梅酒とのことだ。
そしてランキング1位は日本一の梅の産地である和歌山県でしかできない貴重な完熟梅を原料にした梅酒。
梅の本場和歌山産ということもあり梅酒のコンテストでも優勝したことがあるそうで、梅の香りと酸味と甘みを最大限に引き出した濃厚かつ上品な味わいの梅酒とのことだ。
俺は梅酒と言えばここという有名なメーカーの梅酒しか飲んだことがなかったから、こんなにいろいろあるのかとびっくりした。
梅酒と言えばホワイトリカーなんかの焼酎や日本酒に漬けるもんだとばっかり思ってたら、ブランデーやウイスキーをベースにしているものまであるし、実に興味深く見せてもらった。
いろいろと見ているうちに自分でも飲んでみたくなって、ついついランキングベスト3を自分の分も買っちゃったよ。
飲むのが楽しみだ。
って、自分のことは置いておいてお供えが揃ったんだからお供えしないと。
中身がきちんと揃っていることはチェック済なので、段ボールごと置いてと……。
あとは今日みんなで食った白菜とダンジョン豚の重ね鍋2種もポン酢とゴマダレをつけて一緒に。
「デミウルゴス様、少し遅くなってしまいましたがどうぞお納めください。白菜とダンジョン豚の重ね鍋も作ったので食べてみてください」
『おお~、気にするでない気にするでない。こうしてお供えしてくれるだけで、儂は嬉しいわい。鍋も一緒とはすまんのう。それじゃいただくぞい』
その言葉とともに淡い光を伴ってお供え物が消えていく。
「澄んだスープの方の鍋は一緒にお送りした瓶に入ったポン酢かゴマダレをつけて食べてください。もう1つの方は味噌味のスープで煮てありますので、そのままどうぞ」
『ほうほう、いい匂いじゃなぁ。食べるのが楽しみじゃわい』
「それからいつもの日本酒のほかに、梅という果実を漬け込んだ梅酒という酒もお送りしましたので試してみてくださいね」
『果実酒か。嫌いではないのう。これも飲むのが楽しみじゃな、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ』
デミウルゴス様のおおらかな笑い声が聞こえてきた。
「それでですね、この前デミウルゴス様から教えていただいた山に行ってみたのですが……」
俺は、山に盗賊王の宝があったことや、その中に同郷の賢者カズの作製した転移の魔道具を見つけたことを話していった。
「デミウルゴス様は、俺にこの転移の魔道具を見つけさせるために山へ行けとおっしゃったんですよね」
こんな物騒なものなかったことにしようと思ったんだけど、よくよく考えてみたら山へ行けと言ったのはデミウルゴス様だし、そうなるとこれを俺に見つけさせるためだったんじゃないかと思ったんだ。
そう考えると、なかったことにというわけにもいかない。
デミウルゴス様の意図としては俺にというか、俺たちに魔族の大陸へ行くようにということかもしれないし。
『う、うむ。それもある』
(転移の魔道具じゃと? はて、あの中にそんなものあったかのう?)
「やはり……。では、俺たちに魔族の大陸へ行けということなのですか?」
(魔族の大陸じゃと? 転移の魔道具なんぞがあったこともすっかり忘れておったのに、行けと言うわけがなかろうが。しかし、そんなものがあったら、確かに勘ぐってしまうわのう。何と答えたら良いものか……。うむ、ここは適当にもっともらしいことを言って何とか切り抜けるぞい)
『そ、そんなことはないぞ。行くも行かずも、お主の思うまましたらいい。あれをお主に授けたのはな、えーとじゃな……、ど、同郷であるお主が引き継ぐのが1番じゃと考えたからじゃ、うむ』
「そうなのですか? では、行かないという選択でもかまわないと」
『もちろんじゃ』
(儂や彼奴らに律儀に供え物をしてくれるお主へのちょっとした礼のつもりじゃったんじゃがのう)
「良かったー。安心しました」
『まぁ、お主は自由に生きるといいぞい。儂らはいつでも見守っているからのう。それじゃあまたのう』
その言葉とともに神様通信がプツリと切れた。
「ふぅ、良かった」
デミウルゴス様が言うには俺の自由ってことだから、無理に行く必要はないみたいだし、あれはなかったことにしてこのままフェルたちには内緒だな。
今晩はぐっすり眠れそうだ。
布団に潜り込むと、すぐに意識が遠のいていった。




