第三百七十七話 賢者の自叙伝(前編)
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目を凝らして本を読みすすめていくと、中身は自叙伝のようなものだった。
この本を書いた人物は、松本和希という日本人男性だ。
俺と同じく勇者召喚の儀式によってこの世界へと召喚されたという。
2014年、大学生だった和希はバイトに向かう途中に当時のアスタフィエフ王国に召喚されたそう。
召喚された者は和希の他にも2人いて、そのときの状況も書かれていたけど、アスタフィエフ王国側への第一印象はよくなかったようだ。
成金染みた派手な衣装に身を包んだ王と后にキツイ印象の姫様、身なりはいいが人を見下したような目つきの中年男性数人がいて、鎧姿の兵士が和希たちを取り囲んでいたらしいからな。
一瞬にして居場所が変わったその状況を無類のラノベ好きだった和希はすぐに理解したようで、そのときの気持ちが
“異世界召喚キタ━━━━━━━━m9( ゜∀゜)━━━━━━━━!!”
と書いてあった。
しかし、その直後の王族はじめ国の中枢の立場にあるはずの者たちの言動からピンときたようだ。
曰く、非道な隣国がこの国に攻めてきたことで民たちは飢えに苦しみ疲弊し、この国は滅亡寸前となっている云々……、で「勇者様どうかお助けください!」ということだったらしいのだが、これが説得力がまったくと言っていいほどなかったみたいだ。
そのときの和希の気持ちとして、“国が滅亡寸前とか言ってる割に全然悲壮感がないんだよね。しかもだよ、そういう状況なのに無駄に豪華な衣装着てるってどういうこと? あり得ないでしょ。こいつ等バカなの? 異世界はワクテカだけど、ラノベにもありがちな展開の使い潰される哀れな勇者になるのはゴメン被るよ”と書いてあった。
攻め手が隣国か魔族かの違いだけで、ほぼ俺のときと同じだ。
本当に国民のことを思いやっている王ならば、国民が苦しんでいるときに無駄に豪華な衣装なんて着ないよな、普通。
ボロを着ろとは言わないけど、時と場合ってものを考えると思うんだよ。
そういうところに傲慢なところが透けて見えるんだよね。
俺のときもそうだったけど、昔からこういうことをするのはろくでもない国だと相場が決まっているらしい。
とにかく和希は使い潰されてはたまらないと、ラノベの知識を総動員してことに当たったようだ。
まずは、国側に自分のステータスを確認される前に自分のステータスを確認。
職業はなんと賢者。
スキルは火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・氷魔法・雷魔法・回復魔法・聖魔法・神聖魔法と全魔法の適正があって、固有スキルに魔法の深遠というのがあったよう。
この魔法の深遠というのは、魔法に関係することへの理解力が高まるスキルらしい。
普通の人なら何年も修行しないと使えない高度な魔法や魔道具の作製とか魔法陣とかの本来師匠の下で長い期間をかけて勉強するようなことでも、ちょろっと勉強するだけで使えるようになるのだという。
そして魔力も最初から相当にあったみたいだ。
和希の職業は勇者ではないが賢者であり、スキルや魔力量からみてもかなりの魔法が使えることは間違いなかった。
これを知られれば、勇者と同じように使い潰されるのは明白だった。
とにかく自分のステータスを隠蔽して書き換えできないかと試してみたところ、あっさりできてしまったそうだ。
職業欄は異世界の学生にし、スキルはなしにして魔力も96だった体力より少し下の88とした。
一緒に召喚された2人は勇者ということで、その場も大いに沸いていたその隙にそれをやってのけた和希。
その後に王国側にステータスを調べられた和希だったが、ステータスを見た王国側の人間はゴミを見るような目で和希を眺めていたそうだ。
自分が特別だと言われることは思考を麻痺させるようで、一緒に召喚された2人は最初は混乱していたけどチヤホヤされることに満更でもない様子だったという。
和希もこの2人に申し訳ないと思いつつも、全く知らない2人と自分を天秤にかけたら答えはやっぱり自分が大事ってことになり、王に「自分では力になれないから市井で静かに暮らします」と申し出たところあっさり認められたそう。
和希としては、その場で斬り殺されることもあり得るかもと警戒していたが、何とか事なきを得た。
後で知った話として書いてあったが、既に勇者召喚の儀式が執り行われることはある程度国内外に知られてしまっていたことも影響していたのではないかと書いてあった。
召喚した勇者をすぐに殺したとなれば、さすがに王国側としても外聞が悪いということで見逃されたのだろうと。
しかしながら、そのまま城外へ解放というわけにはいかず、「我らのためにこの世界へと来ていただいたことに変わりはない。いまだ戦渦の少ない辺境の地でゆっくりと過ごすがいい」との王の言葉もあって和希は辺境の地へ行くことになった。
王国の兵のお供(要は見張りだな)つきでね。
お供の王国兵が操る馬車に乗って王都を出て5日、どんどんと辺鄙なところへと進み、ついには馬車1台がようやく通れるほどの一本道が続く森の中へ。
その森の中をしばらく進んだところで、兵士の「どこへでもいくがいい。ま、生きて出られたらだがな」という捨て台詞とともに和希は馬車を降ろされたそうだ。
殺しはしないが、森の中へ置き去りにしてあとは魔物に襲わせるってパターンだな。
この行為は死ねと言っているようなものだったが、和希にとっては渡りに船だった。
王国側は知らないけど、和希は賢者で魔法の深遠という固有スキルもある。
その森に着くまでの間に、ある程度の魔法も習得していた。
和希は、自分を食おうと襲い掛かってきた魔物どもに習得したばかりの魔法を練習がてらに撃ちながら悠々と森から出たそうだ。
それからは、目立たないように日銭を稼ぎながらアスタフィエフ王国を脱出し、隣国のスレザーク王国でカズという名で冒険者登録。
冒険者となった和希ことカズは自由気ままにこの世界を旅して回った。
その旅のついでにいろいろな魔法の書物も手に入れて、魔法への理解を深め、魔道具作製や魔法陣についても習得していったそうだ。
「フ~……」
3分の1程度を読んだところで一旦休憩にした。
ショボショボする目を何度もこする。
眠気を覚ますため、ネットスーパーでブラックの缶コーヒーを購入した。
極力音が鳴らないようにプルタブを開けてブラックコーヒーを一口。
しかし、俺のときと召喚された経緯が同じだな。
このアスタフィエフ王国ってのは今はない国みたいだけど、和希がこっちに召喚されたのは2014年だったっていうし……。
どうなってんだ?
手に持った古びた本をしげしげと見回す。
これ、鑑定したらいつごろ書かれたものかどうかわかんないかな?
そんな思いが頭をよぎり、本を鑑定してみた。
【 賢者カズの自叙伝 】
約600年前に異世界の言語で書かれた賢者カズの自叙伝。
「うぉっ」
思わず出た声にハッとなって口を手で押さえた。
そろりと布団をめくりフェルたちの様子を伺う。
フェルもドラちゃんもフスー、フスーと寝息を立てて寝ているし、スイも熟睡しているのかピクリとも動かない。
その様子にホッとしながら布団を戻した。
しかし、600年前とはずいぶんと前だな……。
でも和希がこっちにきたのは2014年だって書いてあるんだよな。
俺がこちらの世界に召喚されたのは2016年。
たった2年違いなのに、こっちでは600年違うってどういうことなんだ?
こっちの時間軸とあっちの時間軸が違うってことなのか?
うーん、よくわからん。
まぁ、あっちとこっちじゃそもそも世界が違うんだし考えても仕方ないのかもしれない。
どうにかできるもんでもないし。
それよりも続きだ、続き。
俺は、ブラックの缶コーヒーをゴクリと飲み喉を潤したあと、再び本に目を落とした。
説明回ですが、長くなりそうなので2回に分けました。
金曜か土曜には更新する予定です。




